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臆病ネズミの外来アイソトープ体験記(アップグレードバージョン)
. Dr.Tajiri's comment . .
. このレポートを書いてくれたのは、ニックネーム「トムトム」さんです。
以前、レポを書いていただいたのですが、加筆してアップグレードしたものをここに公開します。
バセドウ病のアイソトープ治療を外来で受けました。
治療を受けたのは東京都の某私立女子医大病院の核医学科です。
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. . .
私がバセドウ病の外来アイソトープ治療を終えて、今日で約2週間経ちました。

そもそも、私がアイソトープ治療を受けることになったのは、バセドウ病の診断を受けてから1ヶ月の間に、2種類の抗甲状腺剤にアレルギーを起こしてしまったのと、甲状腺が小さいため、手術よりアイソトープによる治療のほうが適していたためです。
以下、参考までにこれまでの治療経過をご説明致します。
4月5日水曜日  
アイソトープ後の感想 一卵性双生児の姉より自分がバセドウ病との診断を受けたので、念の為検査を受けるようにと勧められ、近所の某大学病院を受診。
普段から疲れやすく微熱が続いてはいたが、特に病気の自覚はなかった。
4月28日金曜日  
アイソトープ後の感想 前回の検査の結果(F-T4=8.0ng/dl以上)により、バセドウ病との診断を受け、これ以降、抗甲状腺剤(メルカゾール:3錠/日)による治療が開始された。
初めてこのBBSに来たのもこの頃。
5月17日水曜日  
アイソトープ後の感想 5月14日より全身にひどいかゆみが発生。
旅行先でのことだったので我慢し、帰宅後に受診。
メルカゾールの副作用とのことでプロパジール(6錠/日)に変更になる。
5月30日火曜日  
アイソトープ後の感想 前夜より胴体全体に蕁麻疹発生、39度の発熱のため受診。
検査の結果、白血球数も低下しており、今後、抗甲状腺剤による治療は無理との診断をうける。
とりあえず薬をルゴール液に変更し、アイソトープか手術による治療を受けるためにT女子医大への転院を勧められる。
6月1日木曜日  
アイソトープ後の感想

T女子医大内分泌外科受診。
触診で診たところ甲状腺の大きさが小さいため、アイソトープの方が適しているとのこと。

同日午後、同病院の放射線科核医学部受診。
相談の結果、服用しているルゴール液を中止し、薬の影響がなくなる2週間後の6月15日にアイソトープの外来治療を予約。その後、アイソトープを受ける上での注意事項の説明をうける(尚、同医大ではバセドウ病のアイソトープ治療は外来でのみ行なわれている)。

注意事項
  1. 治療の前後2週間はヨウ素(主に海草類)禁食
  2. 治療後1週間は自宅安静療養
  3. 治療後1週間は排便、排尿後のトイレの充分な水洗と手洗いの徹底
  4. 治療後1週間は家族と布団を別にする
  5. 治療後最低3〜4日は乳幼児との接触を避ける
  6. 治療後最低3ヶ月間(できれば半年間)は避妊
  7. 2週間後の6月末くらいから体調が悪くなるので、要注意

抗甲状腺剤にアレルギーがない方は、薬による治療以外の方法を選択するまでの間に、ある程度の期間があると思いますが、私の場合は1ヶ月とホントに短く、病気の認識もあまりナイうちにコトが進んでいった感じで、自分の気持ちの整理がなかなかつきませんでした。

思えば、アイソトープ治療を選択することになってから実際に治療を受けるまでの数日間、大家さんを始めとして、久松さん、なおさんなどのBBSの皆さんにさんざん泣き言を言っては励まして頂き、ホントにご迷惑をおかけしました。
でも、終わってみれば皆さんが言われていた通り、「何、コレ(。_。)q」「コレだけ?」でした。今となっては、ジタバタしていた自分の醜態がお恥ずかしい限り…

外来アイソトープ体験記を書くなんて治療前は意気込んでいましたが、書くことがナイ、というのが正直な今の気持ちです。
でも、さんざんゴメーワクをおかけした大家さんへのご恩返しのつもり(?)と、これからバセドー病の治療でアイソトープを受ける方に少しでもお役に立てればと思い、恥ずかしながらささやかながら体験記を書くことにしました。

以下、「臆病ネズミの外来アイソトープ体験記」です。よろしく〜。
6月15日木曜日 AM10:00
アイソトープ後の感想 T女子医大、放射線科核医学科をアイソトープ治療の為に受診。
血液検査、血圧・体温測定後、待合室へ。
#
AM11:00
担当の教授に呼ばれ、診察室へ。
診察室には担当の教授先生(女性)の他に看護婦さんと助手のような若い先生がおり、教授先生が助手の先生に私の治療に関して簡単な説明をされました。
「…トムトムさんは小さいお子さんがいて、これから妊娠希望なので、最初から思いきって低下症にするつもりで薬を投与します」

このことは以前に、胎児に抗体を移行させないために、わざと低下症になるようにおおまかな計算でアイソトープを投与し、抗体値を(-)にする、との説明を受けていました。
でも後日、大家さんに相談すると、わたしのTSHレセプター抗体は12.1〜12.9%と低く、胎児に移行する心配はないとのことでしたし、すでに充分高齢出産の年齢の為、次の子供を作る決心もまだついてなかったので、思いきって口をはさむことに。
「あの、あの、そのことなんですが、主人と相談して、やっぱりトシもトシなんで子供はあきらめようと思っているんですが…」
「あら、どうして?、まだお若いのに。それに、お子さん一人じゃかわいそーヨォ。どちらにしても低下症になるんだし、早いか遅いかの問題ですからね。じゃ、そういうことで、うーんと…・」

Dr.はわたしのささやかな抵抗を明るい笑顔であっさり退けて、カルテと看護婦さんが持ってきた血液検査の結果みたいなものに目を通して、
「…○○mgでいいわね、○○mgでいきましょう。じゃ、薬を用意して、後、お願いします」
と、助手のDr.に言い残して立ち去ってしまいました。

ちょっと、待って〜。そんなに簡単に決めちゃうの?。アイソトープ前の摂取率検査はしないんスかあ?。あれは確か3〜4時間かかるはずだゾ。もっと細かく、厳密に計算してくれ〜。という、わたしの心の叫びは誰にも届かず、部屋にはどこかオドオドした感じの助手のDr.が薬のビンらしきものを手に戻ってきました。
仕方なく、最後の望みを託して助手のDr.に質問。

「あの〜、質問なんですが…・」
「はいっ?」(心なしかビクついているように感じる)
「初めから低下症にしちゃうってコトなんですけど、アイソトープを多めに投与するとその分ひどい低下症になってしまう、なんてことはないんですか」
「え?。いやあ、どーかなあ…、聞いたことないですね…。えーと…」
助手のDr.は助けを求めるかの様に看護婦さんの方に目をやるが、そっけなく無視される。
「いや、そんなことないと思いますよ。聞いたことありませんから。…じゃ、いいですか?、薬飲んでもらって」
そんな説明で納得できるハズがないんだけど、教授先生はもういないし、このDr.もなんだか可哀想だし、もう今更仕方ないかなあ、という気持ちで承諾。薬を飲むことに。

机の上にはプラスチック製の白い薬のビンが2つ、水の入った紙コップと空の紙コップが1個ずつ。
Dr.が白いビンの中を空けると中にはもう一つガラス製の小ピンがあり、ゴムの蓋がしてある。
ゴムの蓋を空け、Dr.は三十センチくらいの長さのピンセットで半透明の毒々しい緑色のカプセルを1つ取りだし、空の紙コップの中にポトンと落としました。
「はい、じゃ、そこの水で飲んでください。薬に触らないで、紙コップごと持って飲んでくださいね。」

手で触ってはいけないモノを飲め、と言われるなんて矛盾してる気がする…。日常生活の常識では、食べてもいいけど触ってはダメなんてモノはないぞ。それに、カプセルもこんな毒々しい緑色じゃなくて、風邪薬みたいなかわいい色にしてくれたらいいのにさ…なんてことを思いながらゴクリと飲む。
そのあと同じような手続きを踏んで、半透明の黄色のカプセルをもう1つ飲んでアイソトープはどうやら終わりでした。

治療後1時間は食事はしてはいけない、など治療後の注意を色々受けて、もう帰っていいよ、といわれたのがAM:11:30でした。
多分半日かかると思われた治療が約1時間半で終わってしまい、なんか気が抜けてボーッと白けた気分…。もっとかまって欲しかったような寂しさを感じながら、気を取りなおして会計へ。
ちなみに治療代は、再診料210円、処置料4,725円、検査料3,408円の計8,340円でした。

会計を済ませてから、治療後の安静と子供との接触を避けるためにあらかじめ予約していたホテルにチェックインの予定時刻を早める電話を入れ、すぐにそちらに向かうことにしました。
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PM1:00
ホテルのある場所は新興住宅地で、駅前に2〜3のファッションビルが立ち並び、わたしの泊まるホテルの下もファッションビルになっていました。チェックインの時間まで少しあったので地下で食事を取り、それからホテルへ。部屋に入ってから身内の者にTELしたあと、なんだか疲れてしまい、夕方まで寝てしまいました。

途中、喉が乾いて来客用に備え付けてあったお茶セットの梅昆布茶を、何も考えずにポットのお湯で作って口に含み、慌ててトイレに吐き出すというハプニングがありました。「ヨウ素禁食」…忘れてはいないつもりでしたが、梅昆布茶もダメなんですよね、当然。
治療後は水分をしっかり摂るように言われていたので、うがいしたあと冷蔵庫のジュースで補いました。
#
夕方
主人が車で滞在用の衣類や日用品を持ってきてくれました。
でも、ヤツはドアから中に入ってきても私の側に来ずに、なんかソワソワしてる…。

「どうしたの?」
「いや、大丈夫かなあ、とか思って」
「何が?」
「いや、その、(放射能の)影響とかないのかなあ。俺はいいんだけど、ゆり(娘の名)に俺を通じて影響があっちゃヤだからさあ」だと。
「そんなの、大丈夫に決まってるでしょ!(怒)。ヒドイ、人を汚染物質みたいに〜。側に来ただけで影響があるんだったら、今ごろ私はこんなに普通にしてられないわよ!」
と、言っても気が治まらなかったので、わざわざ腕を組んで昼間物色しておいた店に連れて行き、この夏流行のサンダルを買ってもらってようやくゴキゲンに。

でも、その夜、彼と電話で話をしていると、「家に帰って来てからなんか体の調子が悪くなったんだけど、大丈夫かなあ」なんて言われて、怒りが再燃したのでした。
臆病者という点では、なんとも似たもの夫婦です。

とはいえ、その後トイレに行ったり、お風呂に入ったりするたびに、ちょっとドキドキしながら清掃に勤めました。

「掃除のおばさんを放射能で汚染させては気の毒だよね(当然、ゴム手袋はしているだろうけど)」とか、「はたしてこのベッドは汚染されているのだろうか。だとしたら、次にこの部屋に泊まる人は知らぬうちに微量の放射能で汚染されてしまうのね。」とか、「私が放射能カプセルを飲む治療を受けて、子供との接触を避けるためにこのホテルを予約したことをホテルの人が知ってたら、多分泊めてもらえなかったろうな。」とか、くっだらないことを、半分本気で半分は楽しみながら考えたりしてました。
6月16日金曜日  
〜6月18日日曜日
アイソトープ後の感想
ホテルには3泊4日の予定で、当初は2歳のカワイイ娘を主人とお姑さんに預けての一人きりの滞在は寂しいだろうなと思っていました。でも、これが大間違い。
実際に滞在してみると、正直、寂しい気持ち以上にありがたかったんです。
子供に対する愛情では誰にも負けない自負があったわたしなのに、我ながら信じられないくらい一人の時間を楽しんでしまった…。(^_^;)
電話で自宅の様子を時々確かめても、娘の方も割に平気だったみたいで、『いやぁ、お互い薄情なもんだねぇ…』と他人事のように考えてる自分がコワイ。
ま、これも安心して任せられるバーバとパパのおかげと、3〜4日という短い期間のせいなんですけどね。
な〜んにもしなくて遊んでていい、な〜んて、結婚してからこの10年間、味わったことのないシアワセな日々でした。

滞在中、一番ツラかったのは食事でした。
当初の予定では「つかの間の贅沢」ということで、ホテルのレストランや下のファッション・ビル内の喫茶店等で食事するつもりでしたが、例のヨウ素禁食のおかげでメニューが洋食に限られてしまうのと、やっぱり一人で毎回外食するのは侘しいので、結構食品売り場のテイクアウトのお弁当で済ませたりすることも多かったです。

でも、テイクアウトと言っても海苔がダメなのでお鮨はダメだし、和食は昆布だしの煮物が大抵入っているし、中華にも海藻類がよく使われているので、随分と気を使いました。幸い、ホテルの近辺に、テイクアウトの和・洋・中華の店も数多く充実していたので、内容を吟味しながらなんとかしのぎました。
日本人にとってヨウ素禁食は、他の国の人よりもキツイような気がします。
アイソトープ後の感想  
  3泊4日のんびり過ごし、心を落ち着けて考えてみて、つくづくこれで良かったんだなあ、と思いました。
心配していたような副作用らしきものは全然なく、少し眠くてだるい(これもアイソトープのせいなのか、単に疲れがでただけなのか不明)のを除けぱ体調は以前と全く変わりなし。食欲も普通。
治療に一段落がついたことで気分もせいせいして、「これから又、気分一新、ガンバルゾ〜」って言う気持ちになれました。

いきなり低下症になるように治療する、と言われた時は少しひるんだけれど、考えてみれば、抗甲状腺剤のアレルギーがあるわたしは、もし薬の量が少なければもう一度アイソトープしなければならないので、1回で済ませられるのならそれに越したことはないんでした。

治療前のあの不安感は、たとえて言うなら、まだ写真を良く知らない時代の人々が「写真を撮られると、魂を抜かれるそうな…くわばら、くわばら…」と怖がっていた、という話に似ていたような気がします。
実際やってみてもちょっと不安で、でも日にちが経つにつれて「なあんだ、平気じゃないか」と思うところまでソックリ。

大体、日本は世界で唯一の戦争被爆国であるために、放射能に対する警戒心や拒否感が強く、そういうことが治療でそれを必要とするひとの不安感をよけいに煽っているような気がします。実際、他の先進国ではバセドウ病の治療=アイソトープとされているような国も結構あるようですし…。
国内にアイソトープ治療ができる施設が少ないのも、普及が進まない理由のひとつというふうに感じます。
ある程度の設備投資が必要なせいもあるかもしれませんが、唯一の戦争被爆国であることは、放射能に対する医学的知識も豊富なんだろうから、臆病がらずに治療の選択肢の一つとして、もっと積極的に広めて頂けたらいいのに、と思います。

もしこの体験記を読んで下さった方の中に、今後の治療法の選択をする上でアイソトープに不安を感じている方がいらしたら、わたしは声を大にして言います。
「アイソトープ、楽ですよ〜。痛くも痒くもないし、安いし、すぐ済むし。薬より確実に効くらしいし、終わるとすっきりいい気分。オススメです」
大きな問題になるような治療後のリスクも、過去50年間の実績の中で今のところはっきりと報告されてないようですし、多少のリスクを背負うという点では手術もアイソトープも同様だと言う気が私はしています(私はバセドウ病とは関係ない手術経験が、過去2回あります)。
アイソトープはなんだか怖いから手術にする、というのではなく、手術にせよ、アイソトープにせよ、自分にもっとも適している治療はどちらなのか、ということを専門医とよく相談した上で選択した方がやっぱりいいと思います。

あと、「外来治療の後はホテル滞在がオススメです(特に主婦の方は)。病気で疲れた体を休ませるには絶好の機会なので、状況さえ許せば、身内にちょっと大げさに安静の必要性を説いて、ホテルでゆっくり休みましょ〜」
ただし、くれぐれも予約はお早めに。
高級ホテルは関係ないのですが、私のようにビジネス関係の人も利用する比較的安価なシティホテル系は、平日はかなり混んでいて連泊の予約が取りにくいです。私は1週間前に宿泊先を探し始めたのですが、中々見つかりませんでした。
臆病ねずみのトムトムでさえできたアイソトープ、この体験談が少しでもどなたかのお役に立てたら嬉しいです。
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