“亜急性甲状腺炎”は甲状腺の炎症で、痛みがあるのが特徴で、時に発熱や寒気、甲状腺機能亢進症と機能低下症の両方の症状が出ることがあります。経過は普通何ヶ月かにおよび、大体決まった経過を取る傾向があります【表1】。 |
【表1】亜急性甲状腺炎の病期 |
病 期 |
期 間 |
首の痛み |
甲状腺ホルモンレベル |
早期 |
1〜2ヶ月 |
あり |
高い |
中期 |
〜1ヶ月 |
寛解 |
高度から正常へ移行 |
後期 |
1〜2ヶ月 |
なし |
低い |
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亜急性甲状腺炎の原因はまだよくわかっていません。おそらく、40%から50%の患者が亜急性甲状腺炎の症状が出る1ヶ月以上前に上気道疾患に罹ったと報告していると思われます。このことから、ウィルスのような感染物質に曝された後に通常起こる免疫反応のエラーによって亜急性甲状腺炎が起こるのではないかという疑いが持たれています。ウィルスに反応して生じる適切な抗体セットに加え、第2の抗体集団が一部の患者で作り出されるのではないかと思われます。これらの抗体が正常な甲状腺と互いに不適切な反応をして、腫れや痛み、発熱、そして甲状腺の損傷などを起こすのかもしれません。理由はよく分からないのですが、女性は男性より2〜3倍亜急性甲状腺炎に多く罹ります。
“亜急性”という言葉は、このタイプの甲状腺の損傷と、非常に希なタイプの甲状腺の細菌感染と区別するために使われてきたものです。後者は突然発病し、ひどい痛みと高熱を伴います。 |
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亜急性甲状腺炎は普通、何時間か、あるいは何日かの内に首の下の方のどちらか片方に痛みが出てくることではっきりします。患者はこの痛みを“咽頭痛”として認識することがしばしばありますが、口や扁桃腺の診査では感染を確認することができません。痛みのある場所を指差すように頼むと、患者は普通、首の前下方を指します。この部位を触るとひどく痛むので、多くの患者は診察を続けることができません。
もう一つの初期の訴え、あるいはそれが、患者が医師の元を訪れる主な症状であることが時たまありますが、耳の痛みです。ここでも耳の診察では何の病気も見つかりません。この特異な症状が起こる理由は、甲状腺に行く神経が耳と甲状腺の両方に分布しているからです。甲状腺に生じた痛みはこの経路に沿って広がり、その痛みの元である首の下より、むしろ耳の方に感じられることがあります。
甲状腺内の痛みは普通、1週間から2週間にわたって増していき、その後2〜3週間かけて引いていく傾向があります。それから、もう片方の甲状腺に同じパターンで不快な症状が起きることもあります。その結果、具合の悪い時期が1ヶ月以上伸びることがあります。痛みの程度は治療を求めるに足るほどひどいのが普通です(以下参照)。
痛みが進行している間に、一部の患者は寒気がする時期と急激な発熱を伴う発汗期を経験することもあります。 |
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正常な甲状腺には、体の必要によって厳格に決められた通りに放出される大量のホルモンのストックがあります。亜急性甲状腺炎に冒されたために甲状腺が傷付くと、甲状腺ホルモンが制御できない状態で血液中に漏れ出します。血液中の甲状腺ホルモンレベルは何週間、あるいは1ヶ月以上、上がったままになります。このため、甲状腺機能亢進症に関連した症状が起こります。これには震えや説明できないような不安だけでなく、異常に暖かく感じることや頻脈、筋力の低下、持久力の低下を伴う疲労が含まれます。
これらの症状が、この病気の特徴であるひどい首の痛みや一部の患者に起こる発熱に加わると、重大な病像を呈する場合があります。
炎症の活動期の後に、首の痛みが和らいでくる中休みの時期が来ます。この時点で、甲状腺ホルモンの貯えが尽きてしまいます。その結果、血液中の甲状腺ホルモンレベルが徐々に下がって正常になってきます。2〜3週間から1ヶ月ほど、患者は目にみえて気分がよくなります。
しかし、甲状腺自体が完全に修復され、正常に戻るには、後1ヶ月から3ヶ月必要です。この期間中、血液中の甲状腺ホルモンレベルは正常以下に下がることがあり、患者が甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンの欠乏)の症状を経験することがあります。ここでも非常な疲労の再発が主訴となります。また、寒く感じたり、便秘がひどくなる傾向があり、また一部の人では筋肉がつるようになることもあります。この一連の症状は、甲状腺の傷害の程度や甲状腺が自分で治る速度にもよりますが、1〜2週間から1ヶ月以上続くことがあります。 |
亜急性甲状腺炎はどのようにして診断されるのですか? |
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亜急性甲状腺炎の診断は、発熱や寒気、時に耳の痛みを伴う首の下部の痛みなどの典型的病像に甲状腺機能亢進症の症状が組み合わさることから、それだとうかがわれます。臨床検査を診断の確認に使います【表2】。この検査には非特異的な炎症指標の測定や血沈も含まれます。通常、これは非常に上がっていて、活動性の強い炎症が存在することが確かめられます。白血球数は正常です。血液中の甲状腺ホルモンレベルは上がり、普通、正常値を超えています。甲状腺の放射性ヨード集積の測定は、甲状腺が傷付いているために非常に低いか、全くないのが特徴です。この検査は“放射性ヨード取り込み”試験と呼ばれます。 |
【表2】亜急性甲状腺炎の診断に使われる臨床検査 |
検 査 |
結 果 |
血沈 |
上昇 |
血液中の甲状腺ホルモンレベル |
上昇 |
甲状腺による放射性ヨード取り込み試験 |
非常に低いか、なし |
白血球数 |
正常 |
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亜急性甲状腺炎の治療は何ヶ月かにわたって病気が進んでいくにつれ変ります【表3】。第1期では、治療のねらいは2つあります。まず、痛みを取る必要があります。ほとんどのケースでは、24時間の抗炎症療法を行うため、食後と寝る前に2錠のアスピリンを飲むことで痛みが取れます。これは熱のある患者にも効果があります。 |
【表3】亜急性甲状腺炎の治療 |
病 期 |
対 象 |
治 療 |
早期 |
炎症と痛み |
アスピリン、非ステロイド系抗炎症剤、痛み止め、ステロイド |
甲状腺機能亢進症 |
ベータ・ブロッカー |
移行期 |
鎮痛と甲状腺機能亢進症 |
すべての薬剤を徐々に減らしていくか、中止する。 |
後期 |
甲状腺機能低下症 |
L-サイロキシン(甲状腺ホルモン補充) |
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この治療は何週間あるいは何ヶ月も必要なことがあります。この用量のアスピリンを使い続けることで、副作用がでることがあります(主に胃の刺激による腹痛)。アスピリンを飲んでいる間に生じる問題を最小限にするため、あらかじめ注意を払うべきです。緩衝タイプのアスピリンを使うか、同時に制酸剤を投与する(特に寝る前)かのどちらかを行うと効果があるように、アスピリンは空腹時ではなく、食後に飲むようにするのも胃の不快症状を抑えるのに効果的です。
今日では、アスピリンと同じようなたくさんの種類の抗炎症剤があり、医師の処方あるいは処方なしで入手できます。これらの薬の多くは、臨床的にアスピリンと同じくらいの鎮痛効果があります。ただ、すべてアスピリンと同じ副作用を起こす力があり、アスピリンと同じ注意を払う必要があります。ほとんどはアスピリンより効き目が強く、亜急性甲状腺炎の管理にアスピリンより効果が高いと証明されたものはありません。
この抗炎症剤グループ全体は一般に、“非ステロイド系抗炎症剤”と呼ばれ、ある程度正常な血液凝固を妨げ、出血しやすくなることがあるを頭に入れておくべきです。その結果、出血性病気あるいは胃潰瘍の病歴がある人への使用にあたっては、医師の綿密な監督のもとで、十分な注意を払わなければなりません。中には使えない患者もいるかと思われます。
グルココルチコイド(プレドニゾン、デキサメサゾン)を亜急性甲状腺炎の痛みの強い時期の治療に使うことに関しては、いくぶんまだ議論の余地があります。この薬の仲間は、コーチゾン誘導体から出来ており、一般に“ステロイド”と呼ばれます。非常に高い炎症抑制効果があり、十分な量が投与されれば、ほとんどすべての患者でほんの2〜3時間から1日の内に痛みが取れます。この薬の使用に関する主な懸念は、たくさんの重篤な副作用がこの薬に関連して起こる可能性があることです。用量が高ければ高いほど、また使用期間が長ければ長いほど、副作用の数も多くなり、程度もひどくなります。
これらの副作用には筋力の低下や顔が丸くなってくることなどが含まれます。さらに、血圧を上げる傾向があり、血糖レベルも上がることがあり、一部の患者では糖尿病の症状がはっきり現れてくることがあります。骨格内に含まれるカルシウムも減少してくることがあります。非ステロイド系抗炎症剤と同じように、ステロイドも空腹時に飲むと腹痛を起こすことがあります。患者の中にはうつや気分の浮き沈みが起こる人もいます。最後に、大量のステロイドを数週間以上投与すると、体自身のコーチゾン生産が止まってしまうことがあります。これは、体は毎日厳密に定められた量のコーチゾンを必要とするので、重大な懸念となります<注釈:この記載はあまりにもおおげさです。ステロイドは数週間なら、使い方さえ熟知していれば危険はありません。副作用についての説明さえ、ちゃんとすれば問題ありません。むやみに不安を植え付けるのは正しくありません>。
ステロイドは、患者の首の痛みがアスピリンや他の非ステロイド系の薬でコントロールできない時に亜急性甲状腺炎の治療に使われます。すべての患者にそれ程ひどい亜急性甲状腺炎の炎症反応が認められるわけではありません。患者の中でも痛みの許容度には大きなばらつきがあり、ステロイド系抗炎症剤だけでなく、非ステロイド系抗炎症剤から生じる副作用に対する感受性も患者によって大きく異なります。そして、非常に優秀で責任ある医師の間でも、ステロイド使用に伴うリスク対その有効性に関しては、きわめて異なる見解があり、いつステロイドを使うのが適切であるかを決める定まった基準がないのは驚くに値しません。
ステロイドがいちばん多く使われるのは、他の治療を1〜3週間続けても、痛みのため首を動かすことができなかったり、ものを飲み込むことが困難であるなど患者が首の痛みのため不自由になっている場合やアスピリンなどの鎮痛剤が副作用のため不適当または十分に使えない時です。高用量のステロイド治療が必要なのは、通常2〜3週間だけに限られますが、適切な注意と監督のもとであればリスクを許容できる最小限のものに留めることができます。
抗炎症剤に加え、多くの患者が鎮痛剤を補助的に必要とします。このタイプの鎮痛剤は、痛みの程度によって使用するかどうかを決め、医師の指示のもとで使うのが最良の方法です。
亜急性甲状腺炎管理の第2部は、甲状腺機能亢進症に向けて行われます。プロプラノロールのようなベータ・ブロッカーやその類の薬がこの治療の主流です。これらの薬剤は甲状腺ホルモンのレベルが高いことで起こる、心臓や他の器官への影響を鈍らせるものです。甲状腺機能亢進症による心悸亢進はこの薬でコントロールすることができます。また、不安や暑さに弱いこともある程度和らげることができます。
痛みと甲状腺機能亢進症の症状を管理するのに必要な薬は、甲状腺ホルモンが正常に向かって下がり始め、甲状腺の痛みが取れ始めるまで続けられます。
この時点で、患者は正常に感じ、よくなってきたようだと言うのですが、この時期が2〜3週間続いた後に甲状腺機能低下症の症状が始まることがあります。治癒の過程は何週間、あるいは何ヶ月もかかることがあり、甲状腺が再び甲状腺ホルモンを作れるようになるにはしばらく時間がかかります。症状の程度は様々に異なっていることがあります。治療を必要としない人もいれば、ひどい疲労感がある人もいます。
症状のある患者に対しては、甲状腺ホルモン補充(Lサイロキシン)により、正常な血液レベルにすることができます。治療は甲状腺のサイズが正常に戻り、触れても異常に硬く感じなくなるまで1ヶ月から3ヶ月間続けられます。それまでに、甲状腺は独りでに治り、正常に機能する能力を取り戻します。この時点で甲状腺ホルモン剤を中止できます。大多数の患者で甲状腺の正常な機能が保たれます。
患者1,000人の内、999人はこれがこの病気の苦しみが終わる時です。残念なことにごごく少数の人は、後で1回以上この病気が起きることがあります。どの患者がそうなるのか見分ける方法はありません。しかし、その後にまた同じ病気に襲われた場合、その過程に合わせて、速やかに治療を求める傾向があります<注釈:最近の日本人の研究では、100人中5人が一生のうちにまた亜急性甲状腺炎にかかることが分かりました。これは、ここでの記載の50倍の頻度になります>。 |