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米国甲状腺協会及び米国甲状腺学会から出版されている患者向けパンフレット

01:バセドウ病
バセドウ病は、甲状腺全体の働きすぎによって起こる甲状腺機能亢進症の状態です。それは、“びまん性中毒性甲状腺腫”と言われています。甲状腺全体が働きすぎるので“びまん性”と言います。そして、あたかも伝染性の熱病の様に熱く感じたり顔が赤らむので“中毒性”と言われ、甲状腺が大きくなるので甲状腺腫と言います。西洋ではこの甲状腺機能亢進症を初めて発表したアイルランドの内科医ロバート・グレイブス博士の名にちなんでグレイブス病と呼ばれていることが多いようです。

自己免疫疾患
ガン細胞をやっけたり、細菌やウイルスなどの侵入を防ぐ働きを免疫システムといいます。現在の研究では、バセドウ病は、この免疫システムによって引き起こされるものと考えられています。この免疫システムは、まず自分以外の外敵の侵入や異常な細胞を認識し、そしてリンパ球から作られる抗体によりそれらの外敵や異常細胞は破壊されます。このような異常な免疫システムは、10〜15%の人で遺伝するようです。その人達のリンパ球は自分の体の組織に対して抗体を作り自分の細胞に対して刺激したり破壊したりします。バセドウ病では、抗体は甲状腺細胞の表面のタンパク質を刺激してたくさんの甲状腺ホルモンを作り出します。その結果、甲状腺は働きすぎになります。バセドウ病になる免疫異常をもっている人は、人口の10%も居ると言われているにもかかわらず、実際には、甲状腺機能亢進症になる人はその中のたった10分の1くらいです。
残り9割の人は、バセドウ病を引き起こすような環境要因にただ曝されなかっただけかもしれません。

どの様な環境がバセドウ病を引き起こす誘因になるのでしょう?
医師は長い間、ひどいストレス、例えば愛する人の死などがバセドウ病発症のきっかけになるのではと考えてきました。グレイブス博士自身、彼の論文のなかで甲状腺機能亢進症の症状の出現する数カ月前に生活上でのストレスがあったことを述べています。確かに研究ではストレスの時に増すといわれている血中コルチゾンやアドレナリンが増すということが分かってきました。それらのホルモンは(コルチゾン・アドレナリン)、免疫機構における抗体産生に影響を与えるかもしれない。しかしながら、多くのバセドウ病患者では、はっきりしたストレスは経験していません。

バセドウ病の症状とはどのようなものでしょう?
もし、あなたがバセドウ病になったとしても、症状として気付くのに、数週間か数ヶ月かかるかもしれません。発症は緩やかであり、また、症状は生活上のストレスによる、単なる神経症と間違われることもあります。もしあなたが、ダイエットによって減量を試みているのならダイエットは当初、満足のいくものでしょう。しかし、甲状腺ホルモンがたくさん出すぎてもっと体重が減るとか手のふるえや、腕と太ももの筋力低下や不眠症のような他の症状がでる頃にはおかしいと感じ始めます。甲状腺の働きがだんだん活発になるにつれて、脈が速くなり、動悸(ドキドキ)を感じるようになったり、汗をかきやすくなり、暑さに弱くなります。肌はしっとりとして、髪が痛み易くなるので枝毛に気付くようになります。多くの場合、腸の働きがよくなりますが、下痢はあまり見られません。もし、あなたが女性ならば(バセドウ病は4倍から8倍女性に多い)、月経量は少なくなり、月経周期は長くなることもあります。

眼や肌についてはどうなのでしょう?
バセドウ病は、眼の炎症や眼周囲の組織の腫れ、そして眼の突出と関連する唯一の甲状腺機能亢進症です。これらの症状の原因は不明です。多くのバセドウ病の患者は、病気の過程で目の充血と炎症を経験します。永続するひどい眼症状を引き起こす人は1%未満程です。眼の症状の重症度は、甲状腺ホルモン値の高さとは関係ありません。最初の症状としては、眼球の後部組織の炎症による眼球突出、復視、眼の充血、視力低下などです。眼症状は一般にバセドウ病と診断される前後6ヶ月以内に現れます。たまに、バセドウ病患者はむこうずねの前部の皮膚がこぶの様に発赤して厚くなります、これは前脛骨粘液水腫として知られています。この皮膚症状は通常痛みもなくあまり問題になりません。そして、バセドウ病の眼症状のように、甲状腺機能亢進症になった時同時に症状がでるわけではありません。症状の重症度は甲状腺ホルモンのレベルとは関連していません。何故この症状が通常下肢に限られているのか、この症状の原因も不明です。

バセドウ病の検査はどのようにして行うのでしょうか?
もし医師が、甲状腺機能亢進症を疑ったらその診断は簡単なものです。診察で甲状腺の腫れ、動悸、それに加えて皮膚のしっとり感、指先の振るえが明らかになます。腱反射(例えばアキレス腱など)が速くなり、前に述べた眼や皮膚の症状もみられます。家族歴を調べることも、しばしば甲状腺機能亢進症の診断の手助けになることがあります。
親類の中には甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症の人がいるかもしれないし、若白髪(特に20代の人で)の人がいるかもしれない。同様に家族内に若年性糖尿病、悪性貧血(ビタミンB12不足によるもの)、白斑などの自己免疫疾患をもっている人がいることがあります。
血液検査をすることで血中甲状腺ホルモンが高いということを証明すれば、甲状腺機能亢進症は簡単に診断できます。また、脳下垂体で作られるTSH(甲状腺刺激ホルモン)は低い値を示します。時折医師は血液中の甲状腺刺激抗体(TSAb)を測定したり、放射性ヨードによるシンチグラム検査で甲状腺全体が働きすぎているのをみることができます。放射性ヨードの甲状腺全体への取り込みはバセドウ病の特徴であり、甲状腺機能亢進症が甲状腺結節によるものではないということが分かります。特に甲状腺の炎症のために甲状腺ホルモンが高くなっている患者がいますが、この場合は甲状腺への放射性ヨードの取り込みは著しい低値を示します。

どのようにしてバセドウ病を治療するのでしょうか?
安静と鎮静のみが唯一の治療法であった1800年代の頃は、バセドウ病の死亡率は5割を越えていました。幸いにも、現在では3つのよい治療方法があります。
薬 物
プロピールチオウラシル(PTU)やメチマゾール(メルカゾールのこと)などの抗甲状腺剤はヨードを原料として甲状腺ホルモンを作るのを阻害する作用をもっています。結果として甲状腺ホルモンの生産は減少します。これらの薬は、甲状腺機能亢進症の症状をすばやく改善したいとき、甲状腺機能亢進症の症状の軽いとき、又は子供や若者などに使います。又、甲状腺機能亢進症がひどいとき、心臓の症状が悪化する可能性のある狭心症や不整脈をもつ年配患者では、抗甲状腺剤の一時的な治療は特に有用です。12ヶ月から18ヶ月間の抗甲状腺剤による治療で、20〜30%の患者で永続的な寛解がみられます。治療の初期に病気の程度が軽い人ほど、クスリで治りやすい。抗甲状腺剤を服用中患者の約5%で、アレルギー反応を起こします。普通みられる軽い副作用は、蕁麻疹、そして、時に発熱や関節痛です。最も重篤な副作用は、白血球の一種の好中球が減少することです。好中球が減ると抵抗力が低下し、細菌などに感染しやすくなることです。大変まれですが、白血球が完全に消失するかもしれません。もし重大な感染が起これば、極めて重篤で命に関わるような問題になります。この状態を無顆粒球症を言います。もし、あなたがそれらのクスリをのんでいて、喉が痛くなったら、直ちにクスリを止めなければいけません。そしてその日のうちに直ちに白血球の数を調べてもらいなさい。たとえ、クスリのために白血球が低下したとしても、直ちにクスリを止めれば白血球は正常に戻るでしょう。しかし、白血球の数が低いにもかかわらずそのクスリを飲み続けたら、より重篤な生命に危険を及ぼす感染症になる可能性があります。
放射線治療(アイソトープ)
ほとんどの患者では抗甲状腺剤では治りにくいので、今日では多くの患者は放射性ヨード治療を受けます。この治療法に使用される放射性ヨードは小さなカプセルの形としてや、水に混ぜて飲みます。数時間で、放射性ヨードは胃から血液中へと入り、甲状腺細胞を破壊するのに十分な時間、甲状腺のなかにとどまります。それから数日で、尿中に排出されますが、放射能の半減期により非放射性の状態へと変化し、体の中から出ていきます。多くの患者は3〜6ヶ月後には良くなりますが、アイソトープの投与量が少ないと甲状腺機能亢進症は治りません。甲状腺機能亢進症が治らない患者は2回から3回の放射性ヨード治療を受けることもあります。患者の大半は、放射線治療後甲状腺機能低下症に陥ります。甲状腺機能低下症に対しては、甲状腺ホルモン剤をのむことで容易に治療することができます。
放射性ヨードは、1940年以来甲状腺機能亢進症の患者を治療するのに使われています。放射性ヨードが身体の中で他の細胞に損傷を与え、腫瘍ができたり、長期間の望ましくない効果がでるのないかとの心配のために最初、放射線治療を行った内科医は注意深く成人のみ治療し、彼らのその後の人生を注意深くフォローしました。運良く約50年間、患者をフォローしても放射線治療から危険な合併症はでてきていません。結果として、アメリカでは成人の甲状腺機能亢進症も70%以上がこの方法で治療されています。さらに今では子供も放射線治療を受けることが多くなってきています。これらの患者でさえもほとんどが、合併症を起こしません。
手 術
バセドウ病は甲状腺の大部分を手術により切り取れば永久に治すことができます。バセドウ病をまず、以下に述べる如く抗甲状腺剤か、ベータ遮断剤でコントロールしないで手術することは危険です。プロピルチオウラジル(PTU:日本では商品名をチウラジールまたはプロパジールといいます)、タパゾール(日本ではメルカゾールといいます)で治療すると甲状腺ホルモン値は約6週間以内に正常へ低下し、手術前は、体調はほとんど正常な状態に戻ります。
通常、手術前に内科医は、ヨード剤(ルゴールといいます)を液として数滴投与するでしょう。この特別なヨードを与えることによって外科医は手術をより安全に行えます。
一旦、甲状腺を取り除くと、甲状腺ホルモンを作り出す量が減るために甲状腺の働きは正常になるでしょう。しかし、切除する量が多すぎると甲状腺機能低下症になることもあります。バセドウ病の放射性ヨード治療後と同じように、手術後も甲状腺機能低下症に陥ったとしても、甲状腺ホルモン剤をのんで健康状態を正常に取り戻すことができます。
ベータ遮断剤
上記に述べたバセドウ病治療のどれを選んだとしても、その治療に加えて内科医は、アテノール(テノーミン)、ナドロール、メトプロロールか、プロプラノール(インデラール)などのベータ遮断剤を処方することがあります。これらのベータ遮断剤は身体の組織に対する血中甲状腺ホルモンの働きを弱めて、脈拍をゆっくりにし、イライラも軽減させます。これらのクスリは、上記の3つの治療が効いてくるまでの間、自覚症状を軽減するのに非常に役立つかもしれません。喘息や心不全をもつ患者では、これらのクスリは喘息や心不全の症状を悪くするので使用してはいけません。また、インスリン使用中の糖尿病患者では、ベータ遮断剤使用中の場合、低血糖の自覚症状が分かりにくくなることがありますので注意を要します。

治療の結果はどうなのでしょうか?
たとえ、どのような治療法で甲状腺機能亢進症を治療したとしても、いつかは甲状腺機能低下症になる可能性があります。これらは多分、自然の経過として甲状腺の軽い炎症(慢性甲状腺炎)の為に甲状腺機能低下症になりやすいのでしょう。アイソトープ、又は手術による治療法では早い時期に甲状腺機能低下症になるでしょう。しかし、たとえ抗甲状腺剤薬だけで治療したとしても、甲状腺機能低下症になることがあります。バセドウ病の自然経過として、長期間経ってから甲状腺機能低下症になることがあるので、バセドウ病による甲状腺機能亢進症になったことのあるすべての患者は、年に一回甲状腺機能測定をすべきです。甲状腺ホルモン値が低くなると下垂体でのTSHの産生が増えます。それゆえに、血液中のTSH高値は甲状腺機能低下症の最も敏感な指標なので、毎年の甲状腺機能検査には血中TSHを測るべきです。
甲状腺機能低下症になっても、1日1回甲状腺ホルモン剤をのめば簡単で安全に治療ができます。昔使っていたブタやウシなどのような動物の甲状腺ホルモン剤は効きが一定していなかったために、現在では内科医は、甲状腺機能低下症を治療する際にはサイロキシン(T4)そのものを含む薬剤を処方するでしょう(日本ではチラーヂンSです)。

その他の考慮すべき点
一般に、バセドウ病による甲状腺機能亢進症は容易にコントロールされ、安全に治療できます。眼に関連した障害(甲状腺眼症)が合併すると、眼科の医師の意見は非常に参考になるかもしれません。しかしながら、たいていの場合は眼症の診断、治療は難しくありませんし、治療の結果は、満足のいくものです。

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