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米国甲状腺協会及び米国甲状腺学会から出版されている患者向けパンフレット

03:甲状腺機能低下症

活動の低くなった甲状腺
甲状腺機能低下症とは、体内の甲状腺ホルモンの量が正常より少なくなった状態のことを言います。これは、甲状腺の機能の異常の中でいちばん多く見られるもので、活動が活発になり過ぎた甲状腺よりはるかに数は多いのです。大きな集団で調べたところ、65歳以上の女性の10人に1人は、ごく初期の甲状腺機能低下症があることがわかりました。普通、ごく軽い病気のある患者はまったく異常を感じていません。しかし、ごく軽い甲状腺機能低下症のある患者の中には、甲状腺ホルモンを使って治療した後に健康状態が前よりよくなったと感じる人もいます。追跡調査では、ごく軽い甲状腺機能不全のある人の多くは、後に重篤な甲状腺機能不全を起こしてくることがわかりました。したがって、そのような患者で、問題がごく軽く治療を行なわない場合や、患者が何ともないと感じている場合は、きちんと経過を見ていかなければなりません。
甲状腺機能低下症は突然発病することもあり、また甲状腺機能亢進症の治療後に起こることもあります。

症状はどのようなものでしょうか?
ごく軽い甲状腺機能低下症では、何の症状もないことがあります。もう少し甲状腺機能低下がひどくなると、衰弱や反応が遅くなる、抑鬱感、不活発、寒気、疲れなどを感じ始め、日常活動に興味を失うこともあります。他の症状としては、髪の毛の乾燥と縮れ、皮膚の乾燥とかゆみ、便秘、筋肉がつる、女性では月経の量が多くなるなどです。

どのようにして診断するのでしょうか?
今は、甲状腺機能低下症の正確で、適確な診断が可能となっています。甲状腺ホルモンやサイロキシン(T4)の血液中のレベルや下垂体の甲状腺刺激ホルモン(TSH)などの測定を行ないますが、これら全部の検査が必要な場合もあります。
T4のレベルが低いか、正常な範囲であるのに加え、TSHが高い場合は、間違いなく甲状腺機能不全です(体温を測れば甲状腺機能低下症がわかるというのは、まったく根拠のないことです)。

続発性甲状腺機能低下症
非常に希な例ですが、普通は腫瘍が存在するために、下垂体そのものが機能不全になることがあります。このような場合は、下垂体が甲状腺を刺激しなくなるために、“続発性”の甲状腺機能低下症となります。 この状態では、T4とTSHの両方のレベルが低くなります。

甲状腺機能低下症のいちばん良い治療法は何でしょうか?
甲状腺機能低下症に対する治療も直接的なものです。通常、純粋な合成イロキシン(T4)として甲状腺ホルモンが処方されます。かつては、動物の甲状腺を乾燥し、粉にしたものが甲状腺機能低下症の治療に非常によく使われていたのですが、今はほとんど処方されることはありません。これは、トリヨードサイロニン(T3)が混じっているためで、これは非常に作用の速い甲状腺ホルモンで、純粋なサイロキシン製剤に比べ、血液中のレベルが一定しません。
また、動物の甲状腺から採ったものであるため、甲状腺ホルモンの含有量が様々であり、製品毎に効き目が異なることがあります。このため、内分泌病専門医のほとんどは、動物の甲状腺の乾燥末から、純粋で、効き目のレベルが一定している合成サイロキシンに切り替えています。“生物学的”製剤である乾燥甲状腺が、合成サイロキシンより優れているという証拠はありません。血液中のT4とTSH両方のレベルが正常になるまで、徐々にサイロキシンの量を増やしていきます。患者が高齢である場合や、潜在的な心臓病がある場合は、体がより正常に近い甲状腺ホルモンの量に慣れるまで、ごく少ない量から始めることが非常に大切です。
以前は、サイロキシン製剤間でかなり効力にばらつきがあったため、主治医は甲状腺機能低下症の治療に特定のブランド名のサイロキシンを使うことが多いようです。甲状腺機能低下症の治療に、それ程多くのサイロキシンは必要ではないのですが、まれに1日150マイクログラム以上(チラージンSで3錠)必要な患者もいます。その一方で、甲状腺機能不全は進行していきます。その結果、患者にとって適量であったものが、1年後には足りなくなることがあります。
したがって、1年か2年に一度血液検査を行ない、サイロキシンの量を合わせる目安とするのです。妊娠中は、必要とするサイロキシンの量が増えるのが普通です。反対に、高齢者では、必要なサイロキシンの量は少なくなります。
そのため、患者が年を取るにつれて量を減らしていくことが必要な場合もあります。
適切な量の薬が投与されれば、甲状腺機能低下症の症状はなくなり、完全によくなったように感じるはずです。
非常に希な例ですが、下垂体に問題がある場合は、下垂体そのものの治療と別の形の薬物療法が必要となります。
これは、下垂体が甲状腺の機能をコントロールしているだけでなく、生殖器腺や副腎など、他にたくさんある体内の内分泌腺の機能もコントロールしているためです。

ホルモンが多すぎたり少なすぎる場合に起きる問題
甲状腺の活動が不活発になった状態で、十分な量の甲状腺ホルモンを飲んでいなければ、不活発さや知的活動が鈍る、寒気を感じる、または筋肉がつるなどの甲状腺機能低下症の症状の一部が残ることがあります。さらに、動脈が硬くなる(動脈硬化)危険性のあるコレステロール上昇を起こす可能性があります。もし、飲んでいる甲状腺の量が多すぎると、神経質や動悸、不眠、震えなど、甲状腺の機能が活発になり過ぎた時とそっくりの症状が出ることがあります。また、甲状腺ホルモンの量が多すぎると骨から余分にカルシウムが失われ、何年か経って骨折を起こす危険性が増してきます。

長期間の経過観察
何よりも、1年に1回主治医に診てもらい、甲状腺ホルモンとTSHレベルの再チェックをしてもらうことを忘れてはなりません。同様に、医者を変える場合は、新しい主治医に甲状腺に問題があることを告げ、年1回の検診時に必ず甲状腺の再診査を受けるようにしなければなりません。

他の家族も危ない!
いちばん多いタイプの甲状腺機能不全は遺伝性で、橋本甲状腺炎と呼ばれるものです。したがって、他の家族にも検査をすると甲状腺に問題が見つかることがあります。

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