分化度の高い甲状腺がんとはどのようなものでしょうか? |
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乳頭とは、皺状の突起のことです。乳頭がんは、たくさんの突起があり、顕微鏡で見るとシダやシュロの葉のように見えます。顕微鏡で組織を丁寧に調べると、“正常”な甲状腺の10%程に小さな乳頭がんが見つかることがあります。病理学者がもっと丁寧にそのようなごく小さながんを探すようにすれば、もっとたくさん見つかるはずです。これらの顕微鏡で見つかるような微小がんは、臨床的には重要性がなく、病気そのものより好奇心の対象のようです。言い換えれば、これらの小さながんに似た腫瘍が大きくなったり、もっと重篤な悪性腫瘍になる傾向はないようだということです。
一方で、乳頭がんが甲状腺の中にかたまりを作るほど大きく成長した場合は、そのまま大きくなり続け、体のあちこちに広がる可能性があるため、臨床的に重要であると考えます。乳頭がんは甲状腺がん全体の約70から80%を占め、年齢を問わず発生します。毎年アメリカで新しく発生する乳頭がんのケースは、約12,000にしか過ぎません。しかし、これらの患者の平均余命の長さから、1,000人に1人はこの形のがんを持っているか、または持っていたと推測されます。乳頭がんはゆっくりと成長し、リンパ系を経由して首のリンパ腺に広がる傾向があります。実際に乳頭がんの手術を受けた患者の約3分の1で、腫瘍がすでに周辺のリンパ節に広がっていました(リンパ節転移)。幸いに、リンパ節転移があったとしても予後がいいことには変わりはありません。
乳頭がんが甲状腺の片方からもう一方にリンパ系を通じて広がることがありますが、やはり患者の予後には変わりはありません。甲状腺乳頭がんのある患者の予後を最終的に決めるものは、主に、見つかった時病気がどこまで広がっていたかによります。先に述べたように、リンパ節への転移のあるなしは、予後に影響しません。
初期乳頭がんのある患者の85%は、腫瘍が甲状腺内にとどまっており、予後は極めて良いものです。
この状況でのがんによる25年死亡率は約1%で、これは100人の患者の内1人が25年経つまでに甲状腺がんで死ぬことを意味しています。それまでには、大多数は完全に治ってしまい、再発することはありません。年齢が50歳以上の患者や腫瘍の大きさが4cm以上の患者では、予後はそれ程よくありません。
初期乳頭がんのある患者の予後は非常に良いため、治療自体が有害にならないようにすることが大事です。このような軽いタイプの乳頭がんには、根治手術が適用されることはまずありません。甲状腺内乳頭がんのある患者の10%以下で再発が見られますが、普通は、首のリンパ節内の腫瘍細胞の成長による再発であり、生命を脅かすことはありません。これは、手術で取り除かれるのが普通です。
がんが成長して、甲状腺から周囲の組織に広がっているような患者では、あまり予後は良くありません。これは、甲状腺を取り囲んでいる線維性の被膜を通って、首の組織の中にがんが広がっていることを意味し、先に述べたようなリンパ節の関与はありません。非常に割合は少ないのですが(約5%)、がんが血流に乗って離れた場所、特に肺や骨に広がる場合があります。このような離れた場所に移ったがん(転移)は、放射性ヨード(後述参照)でうまく治療ができることが多いのです。甲状腺乳頭がんのある若い患者では、一般的に予後が極めて良いのですが、20歳以下の患者では幾分肺に広がる危険性が高いようです。 |
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