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米国甲状腺協会及び米国甲状腺学会から出版されている患者向けパンフレット

05:甲状腺ホルモン剤治療
このパンフレットは、甲状腺ホルモンを使った治療を受けている人のために書かれたものです。あなたは甲状腺の機能が落ちているため(甲状腺機能低下症)に甲状腺ホルモンで治療を受けているかもしれません。そして主治医はあなたの体内の甲状腺ホルモンの量を正常になるまで増やそうとしているのです。また、肥大した甲状腺(甲状腺腫)または腫瘤(かたまり)のある甲状腺が大きくなるのをコントロールするために、甲状腺ホルモンを飲んでいる人もたくさんいます。
このパンフレットは、甲状腺癌の病歴があり、そのために甲状腺ホルモンを飲んでいる人のために書かれたものでもあります。あなたがもしそうであるなら、あなたの主治医は手術により不活発になった甲状腺の治療だけでなく、腫瘍が再発する危険性を減らすために甲状腺ホルモンを投与しているのです。
あなたが治療を受けている状況がどちらにあてはまるにせよ、あなたはなぜ治療を受けているのか、また治療がどれくらい続くのか納得できるよう主治医と話をするべきです。このパンフレットが甲状腺ホルモン療法についての一般的情報源としてお役に立てれば幸いです。あなたの主治医と同じように、私共もあなたが治療を受けている理由やきちんと薬を飲むことの重要性、また薬を飲むことによりどうなるかということを知っていただきたいのです。

主治医はどのようにして甲状腺ホルモンの適量を選ぶのでしょうか?
過去には、甲状腺ホルモンの適量を選択するために医師が利用できる精密な検査がありませんでした。それよりも、医師は患者が気分が良いとか“正常”だと感じると医師に告げるかどうかに頼っていたのです。患者の髪や皮膚、脈、および反射の状態の改善、また甲状腺腫や甲状腺の腫瘤が消失したかどうかも参考になりました。しかし、残念ながら治療に対するそのようなガイドラインは、適切な量の甲状腺ホルモンの量を確実に選択するためには、その精度が必ずしも十分とはいえませんでした。
今日では、血液中の重要なホルモンのレベルを測定する正確で、感度の高いテストにより、そのような甲状腺治療における不確実性はほとんどなくなりました。

主治医はどのようにして治療の効果を測るのでしょうか?
甲状腺ホルモン療法の検診で医師のもとを訪れた場合は、気分がどう変ったかについて尋ねられるはずです。医師は、甲状腺を調べ、治療の効果を診査します。また、血清TSHレベルだけでなく甲状腺ホルモンの濃度を測定するために血液検査を勧めるかもしれません。
甲状腺刺激ホルモン、またはTSHは、下垂体で作られる甲状腺の機能をコントロールするホルモンです。下垂体はあなたの部屋の壁にあるサーモスタットが暖房機を制御しているのと同じようなやり方で、甲状腺を制御しています。下垂体が血液中の甲状腺ホルモンの量が足りないと感じた場合は、TSHを放出します(TSHは甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンの産生を増し、甲状腺ホルモンを血液中に放出させます)。血液中の甲状腺ホルモンの量が十分であれば、下垂体はTSHの産生を減らします。もし、体の中の甲状腺ホルモンの量が多すぎる時、これは甲状腺が活発になり過ぎたり(甲状腺機能亢進症)、甲状腺ホルモン剤を飲み過ぎたりした時に起こりますが、下垂体はTSHの産生を完全にやめてしまい、血液中からTSHが消えてしまいます。
甲状腺ホルモンは普通純粋な合成サイロキシン(T4)として処方されます<注釈:日本では、チラージンSといいます>。かつては、動物の甲状腺を乾燥し、粉にしたものが甲状腺機能低下症の治療に非常によく使われていたのですが、今はほとんど処方されることはありません。これは、トリヨードサイロニン(T3)が混じっているためで、これは非常に作用の速い甲状腺ホルモンで、純粋なサイロキシン製剤に比べ、血液中のレベルが一定しません。また、動物の甲状腺から採ったものであるため、甲状腺ホルモンの含有量が様々であり、製品毎に効き目が異なることがあります。このため、内分泌病専門医のほとんどは、動物の甲状腺の乾燥末から、純粋で、効き目のレベルが一定している合成サイロキシンに切り替えています。“生物学的”製剤である乾燥甲状腺が、合成サイロキシンより優れているという証拠はありません。血液中のT4とTSH両方のレベルが正常になるまで、徐々にサイロキシンの量を増やしていきます。患者が高齢である場合や、潜在的な心臓病がある場合は、体がより正常に近い甲状腺ホルモンの量に慣れるまで、ごく少ない量から始めることが非常に大切です。以前は、サイロキシン製剤間でかなり効力にばらつきがあったため、主治医は甲状腺機能低下症の治療に特定のブランド名のサイロキシンを使うことが多いようです。
あなたが甲状腺機能低下症で治療を受けているのであれば、気分が良くなり、甲状腺ホルモンとTSHのレベルが正常範囲となるまで、甲状腺ホルモンの量を徐々に増していく治療が行なわれるでしょう。ほとんどの医師は、治療中に甲状腺ホルモンとTSHのレベルが正常であるかどうか確かめるため、年1回の検診が必要だと思っています。
患者の中には甲状腺機能不全が進行していく者があり、甲状腺の機能が落ちていくにしたがい、甲状腺ホルモンの投与量を少しずつ増していかなければならないことがあります。
ある種の患者、特に甲状腺癌の患者では、完全にTSHを血液中からなくすために必要な量の甲状腺ホルモンが投与されます。TSHは甲状腺癌が成長し、広がるのを刺激することがあります。ここでも、治療の目標が達成されたか確認するために定期的な血液検査が必要となります。

飲んでいるホルモンが多すぎたり、少なすぎると問題が起こりますか?
甲状腺の活動が不活発になった状態で、十分な量の甲状腺ホルモンを飲んでいなければ、不活発さや知的活動が鈍る、寒気を感じる、または筋肉がつるなどの甲状腺機能低下症の症状の一部が残ることがあります。さらに、動脈が硬くなる(動脈硬化)危険性のあるコレステロール増加を起こす可能性があります。もし、飲んでいる甲状腺の量が多すぎると、神経質や動悸、不眠、震えなど、甲状腺の機能が活発になり過ぎた時とそっくりの症状が出ることがあります。また、もともと心臓に問題があり、甲状腺ホルモンの量がわずかに多すぎる状態が何年も続くと、重篤な心拍上の問題や心臓発作を起こす危険性が高くなる可能性があります。甲状腺ホルモンの量が多すぎると骨から余分にカルシウムが失われ、何年か経って骨折を起こす危険性が増してきます。

あなたができること
  1. 定期的に医者にかかり、治療の目的を理解すること。
  2. 甲状腺ホルモンの錠剤を毎日飲むこと。毎日同じ時間に飲むようにすると、飲み忘れが起こりにくくなるでしょう。薬を飲み忘れがちの人は、甲状腺ホルモンの錠剤を歯ブラシの側に置いておき、毎朝歯を磨いたらすぐ飲むようにするとよいでしょう。飲み忘れに気付いたら、翌日2錠飲んでも大丈夫です。
  3. 主治医が甲状腺以外の病気の治療を新しく始める場合は、このことでサイロキシンの量が変わるのかどうか尋ねるようにします。妊娠した場合は、甲状腺ホルモン剤の量を変えなければならないことがあるため、必ず医師に告げるようにします。
  4. 新しい症状が出て疑問がある場合や、最後に診察を受けてから1年以上経っている場合は医師に電話をします。主治医を変える場合は、新しい主治医があなたの甲状腺の問題をよく知っているかどうか確かめるようにします。

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