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甲状腺に対する抗体は少数の人の血液中に存在しています(女性でこの抗体を持っている人は男性の約4倍)。そして、この抗体は高齢者ではもっとたくさんの人に見られるようになります。10代の人の約1〜2%はこの抗体を持っています。この割合は、60歳以上の女性では20%にまで増加します。この抗体を持つ若い女性では、甲状腺ホルモンのレベルが正常であることが多いのですが、何年も慢性の甲状腺炎が続いた結果、後になって甲状腺の活動が落ちてくることもあるのです。
妊娠により、甲状腺炎の経過の自然な進行に一時的な変化が起きると考えられます。長年の経験で、医師は様々な自己免疫抗体が関係して起こる病気(甲状腺炎だけではありません)が妊娠中に軽くなることを知っています。考えられる説明としては、胎内にいる赤ちゃんを“拒絶”しないよう、母親の免疫系の活動が穏やかになってくるというものです。しかし、出産後に免疫系の活動は一挙にもとに戻ります。抗甲状腺抗体の量が増え、出産後5ヶ月から7ヶ月で最大の濃度に達し、出産後約1年で妊娠前のレベルに戻ると考えられます。
甲状腺は大量の甲状腺ホルモンを溜めている貯蔵庫のようなものです。正常な状態では、体の代謝のバランスが保てるように、甲状腺ホルモンの血液中への放出はうまく制御されています。甲状腺の炎症が起きると、甲状腺が傷害をうけ、大量のホルモンが血液中に放出されることがあります。このため、数週間から1〜2ヶ月の間、体内を循環する甲状腺ホルモンのレベルが上がります。ほとんどの女性は、このホルモンのレベルが上がっても期間が短く、上がりかたの程度も軽いので、どこも悪いとは感じません。しかし、時に甲状腺中毒症(甲状腺の活動が強すぎる状態)が出ることがあります【表】。 |
【表】甲状腺機能障害に伴う一般的な病状 |
機能亢進 〜活動が強すぎる〜 |
機能低下 〜活動が弱すぎる〜 |
- 不安
- 震え
- 動悸が速くなる
- 温かく感じる
- 集中力が落ちる
- 筋力低下
- 体力減少
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- 疲労
- 脱力感
- 体重が増える
- 便秘
- 記憶障害
- 寒さに弱くなる
- 筋肉がつる
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この時期を過ぎてから、次の2つの内どちらかが起こります。一部の女性では、甲状腺ホルモンのレベルが正常になり、何事もなく治ってしまいます。それ以外の人は、甲状腺の傷害の程度がもっとひどいのです。貯えられた甲状腺ホルモンが一度なくなってしまうと、甲状腺がひとりでに治る時期がくるまで、甲状腺機能低下症(甲状腺の活動が不活発になる)になります。【図】に示したように、この段階は普通、出産後3ヶ月から8ヶ月目の間のどの時期にも始まります。 |
【図】出産後の甲状腺機能異常状 |
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