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米国甲状腺協会及び米国甲状腺学会から出版されている患者向けパンフレット

08:小児期の頸部放射線治療後の甲状腺疾患
1920年代の始めから1960年代半ばまでずっと、X線治療にはたくさんの特別な使い方が見出されてきました。抗生物質が使えるようになる前で、適確な治療がまだなかった頃は、X線は一般的に炎症を起こした扁桃腺やアデノイド、リンパ結節、または肥大した甲状腺の治療に効果があり、安全な方法であると考えられていました。また、その他の当たり障りのない病気、特に10代のにきびなども数多く治療されていました。
1950年代初期に、幼児期や小児期に行なった頭部と頚部の放射線の外部照射と後に起こってくる甲状腺の異常の間には関係があることに研究者が気付きはじめました。甲状腺癌の治療を受けているたくさんの成人患者が、子供の頃に頭部や頚部のX線治療を受けていたという報告がなされた時、初めてこのことに疑いが持たれたのです。始めは、この関連性はただの偶然だと思われていました。しかし、頚部の放射線照射を受けたことがわかっている患者の研究が始まり、またもっと念入りな甲状腺の診査を行なうべく、そのような患者を捜すことも行われました。
これらの研究によって、その関係が間違いないことが明らかになった時、当たり障りのない病気に対するX線治療は中止されました。もっと新しい研究では、悪性疾患(ホジキン病、咽頭癌など)に対する小児期のX線治療が、かなりの患者に甲状腺機能低下症を起こす原因となるだけでなく、甲状腺結節にも関わりがあるということが指摘されています。
小児期にX線治療を受けた患者では、時に甲状腺の異常が見られ、また結節と呼ばれる小さな、限局性の肥大した部分が見られることもあります。甲状腺結節自体は希なものではないのですが、非常に小さいもの(普通はサイズが1cm以下)がこの集団では最高40%にまで存在します。この触知可能な甲状腺結節の大多数は、その結節を持つ人に対して脅威となることはありません。しかし、ごく少数の患者に甲状腺癌が見つかることがあるため、必ずその存在を知り、調べるようにするべきです。治療用X線の被爆を受けた人が甲状腺結節を生じる確率は、一般集団に比べ高くなっています。さらに、被爆を受けた人では悪性である確率がそうでない人に比べて高くなっています。
甲状腺癌のほとんどは、成長が遅く、長い間症状を現さないことがあります。非常に成長の速度が遅いため、患者は慌てて治療を受ける必要はありません。つまり、患者にはいろいろな治療法を考慮する時間の余裕があるわけです。さらに、甲状腺癌と診断された患者のほとんどは、適切な医療管理によって完治し、重篤な合併症が起きることはまれです。
以前受けた頭部や頚部のX線治療と後で起こってくる甲状腺癌の間に関連性があることがはっきりしたため、このような治療を受けたことがある人では甲状腺の診査を丁寧に行なうことと、生涯にわたって定期的にフォローアップの診査を行なって行くことが重要となります。

本当にX線の被爆を受けたのですか?
まず最初にはっきりさせることは、実際に顔や首の領域にX線治療が行われたのかどうかということです。患者が何年も前に受けた治療の内容を覚えていなかったり、情報がもはや入手できなかったりすることがあるため、このことをはっきりさせることは時に難しいことがあります。近親者に治療について何か思い出せることを聞くことは役にたちます。例えば、診療所で行われる治療には普通2回から10回の受診を必要とし、また大きな機械を使って治療が行われていました。患者は治療の間、処置室に一人残されるのが普通でした。時々、にきびのX線治療がにきびの紫外線治療と混同されることがあります。どちらも皮膚科専門医によって行われるのですが、紫外線治療の間は看護者が同室することが多かったのです(このようなことはX線治療の場合は普通ありません)。X線治療と、今まで有害な後遺症が出たことのない胸部や歯科のX線写真撮影、または甲状腺スキャンを混同しないようにしなくてはなりません。また、ラジウムを埋め込む形での扁桃腺の放射線治療も、後で起こってくる甲状腺の問題との関連性はありません。
可能な限り、放射線治療の確認のため、病院か医師の記録を入手するようにしなくてはなりません。ただ、残念ながらそのような記録は15年から20年以上取っておかれることは普通ないので、記録の多くはなくなったり、破棄されてしまっています。

次に何をするのですか?
そのようなX線治療を受けた可能性があるようならば、甲状腺には何も問題がないようでも甲状腺を詳しく調べてもらうべきです。普通はまず最初に、甲状腺を直接触診しながら頭部と首の丁寧な身体的検査を行ないます。もし、はっきりした異常が認められなかったら、それ以上の検査は必要ないでしょう。もし疑いがあれば、異常部位や甲状腺の機能が落ちている領域を捜すため、甲状腺の超音波検査か甲状腺スキャンが行われるでしょう。これらの方法は簡単で、安全です。また痛みや不快感を伴うことはありません。これにより、主治医が追加検査や治療を勧める上での有益な情報を得ることができるのです。

異常が見つかった場合はどうするのですか?
身体的検査で甲状腺に異常が見つかった場合は、主治医は様々な選択肢を持ち出してくるでしょう。状況によっては、針生検を勧められることがあります。これは簡単で、ほとんど痛みのない方法ですが、異常をきたしている甲状腺組織についての有益な情報を得ることができます。他には、主治医が手術を勧めることがありますが、これは疑わしい部位を取り除くだけでなく、残りの甲状腺を直接調べることが可能になるため、甲状腺の他の部分に癌が存在しないことを確かめることができます。

甲状腺ホルモン剤の投与はどうなのですか?
状況によっては、特に間違いなく過去に頚部の放射線照射を受けているけれども、結節が見つからないような場合に、甲状腺専門医の中には甲状腺の成長と機能を抑えるために甲状腺ホルモン剤を投与すべきだと信じている者がいます。これは、特に甲状腺が腫大、または“こぶ状”になっているが、はっきりした結節が存在しない場合、または患者が甲状腺癌の治療のため頚部に大量のX線照射を受けた場合では全くそのとおりです。甲状腺ホルモン剤が与えられると、下垂体はだまされて甲状腺がたくさんホルモンを作り過ぎていると思ってしまいます。それを相殺するために、下垂体は甲状腺刺激ホルモン(TSH)の産生を減らします。その結果、甲状腺への刺激は急速に減少し、甲状腺を休ませることになります。この状態は患者が甲状腺ホルモンを飲んでいる限り続きます。一部の専門家は休んでいる甲状腺は、はるかに甲状腺結節や甲状腺癌を生じにくいと考えていますが、実際はこれが人間でもそうであるという確実な証拠はありません。しかし、この投薬は正しい量が与えられれば、副作用がほとんどないため、多くの医師は効果がある可能性の方が非常に低い危険性を上回ると感じているのです。
正しい量の甲状腺ホルモンを飲んでいる患者は、健康状態に何も変化を感じることもなく、また甲状腺の機能の変化による症状もでません。もし、理由があって甲状腺ホルモンの投与を中止した時はいつでも、患者自身の甲状腺がすぐに正常な機能を取り戻します。

どれくらいの頻度で医師の診察を受けるべきでしょうか?
小児期か思春期に頚部の放射線照射を受けたことがある場合は、生涯定期的に医師の診察を受けなければなりません。これは、普通年1回の甲状腺診査のことで、定期検診時に一緒に行なうことができます。血液中の甲状腺ホルモンとTSHの測定も、正常範囲にあるかどうか確かめるため行なった方がよいでしょう。万一、甲状腺機能低下症がおきた場合は、甲状腺ホルモンを補い、血液中の甲状腺ホルモンのレベルを正常に戻す治療を行なうことが絶対に必要です。
とりわけ、過去に頭部や頚部の放射線治療を受けたかもしれないと思う人は、必ずそのことを医師に告げ、適切な医学的診査を受けるようにしてください。

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