|
甲状腺腫はヨード不足のある地域に住む人に高率に発生します。ヨード欠乏地域に起こる甲状腺腫は、地方病性甲状腺腫と呼ばれ、甲状腺が十分に甲状腺ホルモンを分泌しない場合に生じると信じられています。ヨードは甲状腺ホルモンの欠かせない材料であり、ヨードが不足すると、正常な量の甲状腺ホルモンを作ることができません。脳下垂体は甲状腺ホルモンの不足を感じ、TSH(甲状腺刺激ホルモン)と呼ばれるホルモンを分泌して、甲状腺が大きくなり、ヨードを効率的に使うようにし、もっとたくさんの甲状腺ホルモンを作り出すよう刺激します。
甲状腺が正常な場合より大きくなると、甲状腺腫ができ、甲状腺内に固い結節が生じることがよくあります。ヨード欠乏が改善されなければ、成長が衰えることなく続き、甲状腺腫がたいへんな大きさにまで達することがあります。
地方病性甲状腺腫は先進国ではまれですが、ヨードが手に入るにもかかわらず、他のタイプの甲状腺腫が生じます。甲状腺に対する免疫系の異常な反応によって引き起こされる甲状腺腫の原因には2つの重要なものがあります。 |
- 橋本甲状腺炎は自己免疫疾患で、免疫系の細胞(リンパ球)が甲状腺に対する抗体を作り出し、甲状腺に直接侵入します。甲状腺は炎症と瘢痕形成のためと甲状腺ホルモン産生の減少でTSHが上がるために大きくなります。
- グレーブス病(バセドウ病)はもう一つの自己免疫疾患ですが、甲状腺細胞の表面にTSHの作用に似た抗体が結びつき、甲状腺を刺激して成長と機能の異常を引き起こします。
|
開発途上国でいちばん多いタイプの甲状腺肥大は、おそらく多結節性甲状腺腫でしょう。これは甲状腺内のある特定の細胞グループが近接する正常な細胞をしのいで、過剰に発育する場合に起こるようです。その細胞が発育するにつれ、甲状腺の異常な肥大と結節が生じます。これが血液供給量を上回った時、細胞が死に、甲状腺内に出血または瘢痕形成が起こることがあります。これらの細胞はゆっくり成長する近隣の細胞とは異なる細胞の成長を刺激する遺伝子(腫瘍遺伝子または癌遺伝子)を持っていたり、甲状腺内またはそれ以外の場所で産生された成長促進因子に対する曝露や感受性が高くなっていると思われます。多結節性甲状腺腫の原因はまだよく分かっておらず、現在研究が続けられています。 |