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このタイプの甲状腺炎は体に備わっている免疫系が原因で起こります。免疫系が甲状腺を攻撃するような抗体を作るのです。このプロセスは痛みがありませんが、患者さんが甲状腺が少し大きくなったのに気づくことがあります。でも触っても痛くありません。ほとんどの自己免疫疾患がそうであるように、“痛みのない”自己免疫性甲状腺炎は男性より女性の方に多く起こります。そして、はっきりした原因もなく、いつでも起こりうるものです。
しかし、最近妊娠したことが発病の一つの因子である可能性があります。このような状況で起こる甲状腺炎のことを“産後甲状腺炎”と呼びます。アメリカ合衆国では、産後甲状腺炎は出産後の女性全体の8から12%に起こると報告されています。しかし、血液中に抗甲状腺抗体がある女性でも、産後甲状腺炎の起こる確率は30%です。産後甲状腺炎は、普通出産後2〜3ヶ月の内に起こります。以前、産後甲状腺炎になったことのある女性は、次にお産をした後にまた同じことが起こる可能性が高いのです。ほとんどの女性は回復しますが、産後甲状腺炎になった女性の約20%は永久的な甲状腺機能低下症になってしまいます。 |
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このタイプの甲状腺炎の原因はウィルスだと考えられていますが、特定のウィルスが確認されているわけではありません。患者さんは、発病の前に上気道の感染があったことに思い当たることがあるかと思われます。女性の方が男性より罹りやすく、晩春から夏にかけてこの病気に罹る人が多くなるようです。“痛みのない”自己免疫性甲状腺炎とは対照的に、甲状腺は触ると非常に痛いことがあります。多くの患者さんは、実際にひどい扁桃腺炎だと思い、病院に行くようです。
診察をすれば、痛いところは“咽頭”の外側で、甲状腺そのものであることに医師が気づくと思われます。 |
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ある種の薬が甲状腺炎の発症と関係しています。ある種の癌や慢性肝炎の治療に使われるインターロイキンやインターフェロンの注射薬や、ある種のタイプの不整脈のある患者に処方されるアミオダロンなどがそうです。 |
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甲状腺炎の症状は、血液中の異常なホルモンレベルと甲状腺炎の原因の双方に関わりがあります。甲状腺ホルモンレベルが上昇すると、患者さんは心悸亢進や暑さに弱くなる、神経質になるなどの典型的な甲状腺機能亢進症の症状をいくつか経験するでしょう。
また、後になって甲状腺機能低下症が出てくると、疲労や寒さを感じたり、うつ状態になったり、皮膚の乾燥が生じてくることがあります。さらに、亜急性ウィルス性甲状腺炎では、甲状腺が突然痛くなり、発熱を伴うことがあります。痛みは耳の後ろや顎のあたりまで広がることがあります。
産後甲状腺炎や薬で起きた甲状腺炎では、普通触っても痛くはありませんが、わずかに大きくなっていることがあります。 |
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血液検査で甲状腺ホルモンレベルの異常がわかります。ホルモンレベルは甲状腺機能亢進期に上がり、甲状腺機能低下期には下がっています。さらに、自己免疫性甲状腺炎の患者さんでは、ほとんどの人に抗甲状腺抗体があります。
亜急性甲状腺炎の活動期には、“血沈検査”と呼ばれる血液検査の値が大きく上がっており、また白血球数もわずかに増えています。
放射性ヨード取り込み試験は、甲状腺炎が原因の甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンが漏れ出しているため)と他によく見られる甲状腺機能亢進症の原因であるバセドウ病(甲状腺ホルモンの作り過ぎで起こる)との鑑別にいちばんよい方法です。甲状腺炎では、甲状腺ホルモンの合成がなされていないため、放射性ヨードの取り込みは低くなっていますが、バセドウ病では上がっているのが普通です。
妊娠中、または授乳中の女性にはこの検査の目的で、放射性ヨードを使うべきではありません。 |
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甲状腺炎の甲状腺機能亢進期は一過性のものであり、普通は治療の必要はありません。“ベータブロッカー”と呼ばれる薬で、心悸亢進や神経質などの症状を軽くできる場合があります。プロピルチオウラシルやメチマゾールのような抗甲状腺剤は、このような状況では効果はありません。
亜急性甲状腺炎の患者さんに対しては、アスピリンやイブプロフェンのような非ステロイド系抗炎症剤、またコーチゾンが使われることがあります。
甲状腺機能低下症が起きたら、甲状腺がその働きを取り戻すまで、甲状腺ホルモンレベルを正常にするため、サイロキシンが処方されることがあります。甲状腺が回復するまで大体6ヶ月かかります。その後で甲状腺ホルモンレベルをモニターしながら、サイロキシンを使った治療を止めることになります。ほとんどの患者さんは甲状腺機能が正常に戻りますが、少数の人は甲状腺機能低下症が残り、サイロキシンをずっと飲み続けなければならなくなります。 |