情報源 > 患者情報[005]
21
[005]
患者さんとの橋渡し【Bridge】 Bridge; Volume 9, No2

21:甲状腺機能亢進症および甲状腺癌患者に対する放射性ヨード治療 / Sedar Tezelman, M.D. / Orlo H. Clark, M.D.

放射性ヨードは今日、a]甲状腺が活発すぎる(甲状腺機能亢進症)患者と、b]甲状腺癌で甲状腺切除を受けた後の患者に対して主に使われております。放射性ヨードは甲状腺切除後に残存する甲状腺組織を破壊し、甲状腺を取り除いた後に頚部や体の他の場所に残っている癌組織をも破壊することができます。

甲状腺機能亢進症の放射性ヨード治療
血液中にある甲状腺ホルモンが多すぎる時に甲状腺機能亢進症が起こります。これは普通、甲状腺または甲状腺結節が過剰な甲状腺ホルモンを分泌するために起こります。びまん性の甲状腺肥大と甲状腺ホルモンの作り過ぎがある患者はバセドウ病です。また、1個またはそれ以上の過剰な甲状腺ホルモンを分泌する甲状腺結節のある患者は、単発性中毒性結節または中毒性多結節性甲状腺腫(プランマー病)です。バセドウ病は目が突き出す(眼球突出症)など他の病気も伴うことが多く、一方プランマー病は甲状腺以外の体のどこかに別の問題を伴うことは普通ありません。

平均的なバセドウ病患者に対しては、現在のところ放射性ヨード治療がいちばん多く勧められている治療法です。放射性ヨードは通常、無色の液体か、カプセルの形で経口投与されます。消化管で吸収された後に血液の流れに入り、甲状腺細胞内に集積します。甲状腺内に入った後で、“ベータ放射線”と呼ばれるタイプの放射線を発して細胞を破壊します。放射性ヨードは何日か、または何週間かの間にわたって尿中に排泄されます。

何週間か何ヶ月かの内に、甲状腺細胞は破壊され、6から12週間以内にほとんどの患者は正常になるか(甲状腺機能正常状態)、または甲状腺機能低下症になり、甲状腺機能亢進症の症状は消失します。

治療の結果は投与された線量によって異なります。例えば、高線量の放射性ヨードを投与された患者は低線量の放射性ヨードを投与された患者より早く正常または甲状腺機能低下症になります。一般的に、約20%の患者で2度目の放射性ヨードの投与が必要となり、少数の人(5%)でさらに治療が必要になります。

放射性ヨード治療のいちばん多い副作用は、甲状腺機能低下症です。非常に多くの甲状腺細胞が破壊されたり、損傷を受けるため、甲状腺がもはや十分な甲状腺ホルモンを作れなくなるのです。少なくとも50%の患者が治療後1年以内に甲状腺機能低下症を生じてきます。その後は毎年3%ずつの患者が新たに甲状腺機能低下症になります。10年経つまでに80%以上の患者が甲状腺機能低下症になります。
バセドウ病の放射性ヨードで急性の合併症が起こることはまれです。時に、患者が甲状腺の炎症(甲状腺炎)または頚部の軽い痛みや圧痛を生じることがあります<注釈:米国の場合は投与量が多く、最初から甲状腺機能低下症を狙って投与します。そのため、甲状腺機能低下症が多いのです。日本では、放射性ヨード治療10年後で大体50%が甲状腺機能低下症に陥ります。しかし、甲状腺ホルモン剤を飲めば、心配はありません>。

バセドウ病患者に投与される放射性ヨードの線量では、癌を生じるリスクが増加することはありません。また、放射性ヨードのために女性の不妊症が起きたり、放射性ヨード治療を受けた後に妊娠した場合、奇形児が生まれるようなことはありません。ある大規模な研究では、放射性ヨード治療を受けた患者に良性の甲状腺結節が生じる頻度が高いことが見出されましたが、これは他の研究ではまだ確認されておりません。

機能し過ぎの単発性、または多発性結節(中毒性結節性甲状腺腫)は、甲状腺機能亢進症の原因としてはもっとまれなものです。機能している結節のある患者は、バセドウ病患者より年齢が高いのが普通です。中毒性結節性甲状腺腫の患者は、結節に取り込まれる放射性ヨードの量がバセドウ病患者の場合より低いので、治療がうまく行くためにはより高い線量の放射性ヨードを投与する必要があります。

放射性ヨード治療は甲状腺機能亢進症がある妊婦すべてに禁忌となっております。

有害であるという証拠はほとんどないのですが、甲状腺機能亢進症の子供には放射性ヨードで治療することは普通ありません。ほとんどの子供は抗甲状腺剤で治療を受けます。甲状腺亜全摘または全摘も効果のある治療法です。

バセドウ病患者に対しては、患者の意向や甲状腺のサイズ、併存する甲状腺疾患、熟練した専門の外科医がいるかどうか、またそれ以外のファクターににもよりますが、抗甲状腺剤や放射性ヨード、または甲状腺亜全摘(約5g程度の甲状腺を残す手術)は効果的な治療法です。

甲状腺癌での放射性ヨード治療
放射性ヨードは、甲状腺癌で甲状腺切除を行った後に残存する正常な甲状腺組織の破壊、または体内に残っている甲状腺腫瘍組織を突き止め、破壊(根絶)する目的のどちらかに使われます。甲状腺癌の中でいちばん多い(そして幸いなことに、いちばん成長が遅い)タイプのものは、乳頭癌と濾胞癌と呼ばれ、普通の場合放射性ヨードを取り込みます。髄様癌やヒュルトレ細胞癌、そして未分化甲状腺癌のようなもっと希なタイプの甲状腺癌は、放射性ヨードを取り込まないのが普通です。

すべての医師がそうというわけではありませんが、ほとんどの医師が甲状腺癌患者の治療は甲状腺全摘または亜全摘であると思っています。甲状腺全摘術の後に、少量の放射性ヨードを使ってスキャンニングを行うことで、頚部のリンパ節、あるいはもっとまれですが肺や骨、あるいはそれ以外の部位に広がった甲状腺癌細胞を突き止めることができます。放射性ヨードによるスキャンニングは普通、甲状腺切除を行なってから2〜3ヶ月後に行われますが、これは患者が手術と癌であることを知ったことから身体的にも精神的にも立ち直ることができる時間を取るためです。

50歳以上の患者や4〜5cm以上の大きさの原発性腫瘍があり、すでに局所の頚部組織あるいは離れた場所に腫瘍が広がっている患者を含む、リスクの高い患者に対しては、甲状腺切除後約6週間で、早めに放射性ヨードによるスキャンニングと治療を行うようにすることを勧めております。

ほとんどの患者で、甲状腺切除後の治療にはサイロキシン(T4)の代わりにトリヨードサイロニン(T3)を使って治療するのが普通ですが、これは血液中からT3の方がT4より早くなくなるためです。その後T3は少なくともスキャンニングの2週間前に中止しますが、そのためすぐに甲状腺ホルモン欠乏(甲状腺機能低下症)が起こります。

甲状腺ホルモンが欠乏することで、脳下垂体の甲状腺刺激ホルモン(TSH)の生産量の増加が起こります。これは正常な甲状腺組織または癌性の甲状腺組織が放射性ヨードを取り込み、サイログロブリンを分泌させるために必要なものです(サイログロブリンは甲状腺の正常あるいは異常な組織が残存していることを示すものです)。放射性ヨードによる甲状腺のスキャンニングや治療の準備のために甲状腺ホルモン剤を中止すると、ほとんどの患者がいくぶん疲れたり“消耗した”ように感じます。寒さに弱くなったり、便秘するのが他の不快な副作用です。
幸いに、ほとんどの患者は別に支障なく日常生活を続けることができます。

まもなく、甲状腺ホルモン剤を中止する必要がなく、放射性ヨードスキャンや治療を受けることができるようになると思われます。これは合成ヒトTSHを放射性ヨード投与の2〜3日前に注射することで、甲状腺組織や腫瘍組織が放射性ヨードを取り込むのに必要なTSHの高い血中レベルを作りだすことで可能になります。
これにより、甲状腺ホルモン剤を中止することから来る不快な、時にはもっと苦しい副作用がなくなると思われます。頚部や体の他の場所に放射性ヨードの取り込みがある証拠がある場合と/または血清サイログロブリンレベルが上がっている場合は、治療線量の放射性ヨードが投与されます(普通、リスクの低い患者には30mCiで、リスクの高い患者には100mCiです)。癌の放射性ヨード治療の副作用には、軽度の吐き気や耳下腺のところの痛みがあります。ちょうど甲状腺と同じように、唾液腺も放射性ヨードを集積するので、唾液腺の炎症が起こることがあります。一部の甲状腺疾患専門医は、すっぱいキャンディーをなめたり、水分補給を積極的にすることで耳下腺炎を予防できると信じています。これは、すっぱい食べ物が唾液の流出を増加させるからです。耳下腺炎が起きた場合は、普通、アスピリンで数日間治療します。

多くの専門家が、ほとんどの甲状腺癌患者で放射性ヨードによる根絶(残存正常甲状腺組織の破壊)をルーチンに行うことを支持しています。我が国やヨーロッパでの多数の研究者による研究では、このアプローチ法が支持されており、これによって腫瘍の再発が減少し、生存率も改善される可能性があることが示唆されております。

1cm以下のサイズの乳頭癌のある患者に対しては、術後の放射性ヨード治療を行わずに、甲状腺の手術だけですむのが普通です。

まとめ
放射性ヨード治療は、甲状腺機能亢進症のある成人患者に選択される治療法です。たくさんの乳頭癌や濾胞癌患者も放射性ヨード治療による恩恵を受けています。非常に小さな乳頭状癌(1cm以下)や包内への浸潤が最小限にとどまっている濾胞癌のある患者は、きわめて予後がよいため、術後に放射性ヨード治療を行わない甲状腺葉切除が適当です。

それ以外の乳頭癌や濾胞癌患者で、甲状腺をすべて取り除いた(甲状腺全摘術)またはほぼすべての甲状腺を取り除いた(甲状腺亜全摘術)場合は、放射性ヨード治療により再発が減少し、生存率も改善されるようです。

放射性ヨード治療の後で、患者は生涯にわたって甲状腺ホルモン補充療法を受けることになります。甲状腺ホルモン剤の投与量は脳下垂体のTSHを抑えるに十分な量でなければなりません<注釈:この情報が出版された時期は5年前で、まだTSH抑制療法による骨粗鬆症がそれほど問題になっていなかったころです。今では、少なくとも、閉経後の女性はTSHは正常にする方が安全と考えられています。男性、閉経前の女性ではTSH抑制療法でも骨粗鬆症にはならないことが分かっています>。
これはTSHがまだ残っている可能性がある腫瘍組織を成長させたり、あるいは広げたりする恐れがあるからです。一般的に、放射性ヨードで治療を受けた患者は、甲状腺組織と腫瘍組織がうまく根絶されたかどうかを確かめるため、6から12ヶ月後に甲状腺と全身のスキャンを再度受けることになります。血液中のサイログロブリンを記録しておくと、さらに治療が必要な人を見分けるのに非常に役立ちます。

“スキャン”の結果がマイナスであっても、2〜3年後に腫瘍の再発がないか確認するために再度スキャンを繰り返す場合があります。血清サイログロブリンレベルは年1回測ります。コンピュータートモグラフィー(CT)や磁気共鳴画像法(MRI)あるいは、超音波検査は放射性ヨードの取り込みがない "高リスク"患者で、腫瘍の再発がないかを確かめるために行うことをお勧めします。

Serder Tezelman博士はUCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)/マウントシオン医療センター内分泌腺外科の博士課程取得特別研究員です。Orlo H. Clark博士はUCSF/マウントシオン医療センター外科医長であり、UCSFの教授であります。

もどる