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これが何か喫煙と関係があるのでしょうか?甲状腺のサイズについての研究がいくつかなされていますが、喫煙をしない人に比べ、喫煙者では甲状腺のサイズが大きくなりやすいことがわかりました。あるデンマークの研究論文には、非喫煙者112名の内、甲状腺の肥大があったのは3名だけであったが、これに比べ喫煙者では107名中32名に甲状腺肥大が見られたとあります(喫煙者とは1日15本以上のタバコを5年以上のんでいる人と定義されています)。
デンマークのようなヨード摂取量が下限ぎりぎりのところでは、喫煙の影響がいちばんはっきりと出てきます。これがヨード摂取量がデンマークより高く、アメリカに近い摂取量であるスウェーデンやオランダに住む喫煙者では、非喫煙者に比べ甲状腺サイズに差がない理由であると思われます。
また、喫煙する母親から生まれた赤ちゃんの甲状腺は、喫煙しない母親から生まれた赤ちゃんのものより大きいという報告もあります。これはチオシアネートが胎盤を通ることを示唆するものです。血液中の甲状腺ホルモンレベルは喫煙者と非喫煙者で変わりありませんが、喫煙者の軽度の甲状腺肥大が非常に軽い甲状腺障害の徴候である可能性があります。 |
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タバコの煙から来るチオシアネートは、甲状腺機能が悪化しやすい素因のある人の甲状腺機能低下症の発症にも影響すると思われます。
1996年に日本で行われた研究では、甲状腺機能低下症の最大の原因である自己免疫疾患、慢性甲状腺炎に罹っている女性の甲状腺機能が調べられましたが、喫煙している慢性甲状腺炎患者の内、76%が甲状腺機能低下症であったのに比べ、非喫煙者では35%であったのです。チオシアネートレベルは甲状腺機能低下症の喫煙者でもっとも高く、おそらく甲状腺機能低下症で様々な化学物質や薬剤の代謝が低下するためと思われます。チオシアネートレベルが高いために、甲状腺機能低下症患者の甲状腺の傷害が進行する可能性があります。チオシアネートは甲状腺機能を直接損なったり、あるいは、どのようにしてかは不明ですが、自己免疫性傷害を促進する可能性があります。
高コレステロールレベルも、甲状腺機能低下症のよく知られた影響の一つです。1995年に発表されたスイスの報告では、ごく軽い甲状腺機能低下症の喫煙者と非喫煙者で甲状腺機能低下症の症状の現れ方に喫煙が影響するかどうかを調べたところ、同じ程度の甲状腺ホルモン欠乏であっても、喫煙者は非喫煙者に比べコレステロールレベルが高いとなっています。これは、喫煙が甲状腺機能低下症の体への影響をいくぶん強めることを示唆するものであり、おそらく組織レベルでの甲状腺ホルモンの作用を妨げることによる影響であると思われます。 |
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1993年の物議をかもした報告には、非喫煙者に比べ、喫煙者は約2倍バセドウ病になりやすいというオランダの研究者グループの観察結果が載っています。補足統計では、この
喫煙者が非喫煙者よりバセドウ病に「2倍なりやすい」という見積もりが実際には高くて3倍、低くて1.1倍であることが示されています。それ以外の様々な甲状腺疾患、例えば甲状腺結節や甲状腺腫、および甲状腺炎のある患者の間では、喫煙者の数はコントロールと差がありません。 |
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また、この報告書の著者らは、バセドウ病に関連した眼症のあるバセドウ病患者が喫煙者である確率が年齢を揃えたコントロールに比べほぼ8倍であることも見出しました。
タバコを吸う本数が多ければ多いほど、目の問題が悪化していたのです。この観察所見は、すでにバセドウ病に罹っている人では、喫煙が眼症の発症のリスクファクターであることを示した他の2つの小規模な研究でも裏付けられました。
すでにかなりひどい目の問題があるバセドウ病の人は、活動し過ぎの甲状腺に対して放射性ヨード治療を受けると目の問題が悪化する危険性があります。放射性ヨード治療後の眼症の悪化に関係のあるリスクファクターを調べた1998年の研究で、目の問題がある喫煙者は非喫煙者に比べ、放射性ヨード治療後に眼症が悪化する可能性がはるかに高いことが示されています。 |
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どのようにして喫煙がバセドウ病を起こしたり、あるいはバセドウ病性眼症を悪化させたりするのでしょうか?答えはまだわかっていませんが、一つの可能性として、タバコの煙の中に含まれるチオシアネートのような化学物質が異常な免疫系の反応を引き起こすのではないかということです。これらの反応が最終的にバセドウ病の発病につながるのです。
もう一つの可能性は、これらの化学物質がわずかな甲状腺の異常を生じ、それが次に免疫系をおかしくしてバセドウ病の発病に至るということです。最後に、喫煙それ自体がバセドウ病の原因ではありませんが、非喫煙者に比べ喫煙者が取ることの多いその他の行動、すなわちコーヒーやアルコールを飲むような行動がバセドウ病の真の原因であります。 |