情報源 > 患者情報[006]
07
[006]
先生に聞こう【Ask The Doctor】 Bridge; Volume 10, No2

07:橋本甲状腺炎

質 問
私は48歳の時、手術を通じて橋本甲状腺炎という診断を受けました。2〜3質問があるのですが、お答えいただけますでしょうか。
一つは、手術(顕微鏡下で組織を見ながら行う)でしか橋本甲状腺炎の診断はできないのでしょうか。

回 答
橋本甲状腺炎で手術を必要とする患者さんはほとんどおりません。ほとんどの場合、診断は病理学的所見によるというより、臨床的になされます。それには次のようなものが含まれます。
全部ではありませんが、ほとんどのケースに小さな甲状腺腫の組み合わせがあります。病気が進行するにつれ、ごく軽度から軽度、さらに重篤な甲状腺機能低下症へと進んでいきます。そして、抗甲状腺抗体が存在します。
抗甲状腺抗体の従来の呼び方は“抗マイクロゾーム抗体”でした。これはこの抗体が細胞の一部であるマイクロゾームに対するものであるためです。今ではこの抗体がマイクロゾームの中の特殊な蛋白質である甲状腺ペルオキシダーゼに対するものであることがわかっています。そして、今では多くのラボ(検査室)で、旧来の抗マイクロゾーム抗体検査の代わりに抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)の測定を行っています。この新しい検査の方が感度が高くなっています。

質 問
甲状腺切除の2年前に最初の症状が出たのですが、その時の症状は甲状腺が活動し過ぎる症状でした(神経質、体重減少、頻脈など)。橋本甲状腺炎が甲状腺機能低下症を起こすのであれば、なぜ私の場合は甲状腺機能亢進症のようになったのかがわかりません。

回 答
希ですが、橋本甲状腺炎患者で甲状腺機能亢進症の症状から始まる人がいます。これが起こりうる場合が2通りあります。患者さんの中には“橋本甲状腺中毒症”、すなわちバセドウ病と橋本甲状腺炎の両方がある人がいます。
バセドウ病では抗体が甲状腺を刺激して、過剰な甲状腺ホルモンが作られるようになります。これが、リンパ球が甲状腺を破壊するのと同時に起きた場合は、甲状腺がバセドウ病の抗体に反応できる間、甲状腺機能亢進期となる可能性があります。しかし、最終的には甲状腺がリンパ球を介した炎症により破壊されていくにつれ、甲状腺機能低下症となっていきます。
それ以外の患者さんでは、慢性橋本甲状腺炎による永久的な甲状腺機能低下症が起こる前に、痛みを伴わない甲状腺炎(無痛性甲状腺炎、または亜急性リンパ性甲状腺炎としても知られています)が起こるのです。無痛性甲状腺炎は、突然起こる甲状腺の亜急性炎症で、貯えられていた甲状腺ホルモンが血液中に放出されるため、甲状腺機能亢進症が起こります。ほとんどの患者さんは甲状腺機能低下症への移行期の後回復しますが、甲状腺機能亢進期の直後、あるいはこちらの方が多いのですが、何年も経ってから永久的な甲状腺機能低下症を起こす人もいるのです。

質 問
私は家族に綜合ビタミン剤を与えていますが、最近、主治医からヨードを100マイクログラム以上含むビタミン剤を飲まないように言われました。いろいろ見てまわって、ほとんどの綜合ビタミン剤が150マイクログラム以上のヨードを含んでいることがわかりましたので、私はずっと飲んでいません。レボトロイド<注釈:日本ではチラージンS>で完全なホルモン補充を行なっていますが、ビタミン剤を飲むのは害になるのでしょうか。甲状腺の病気がある患者にお勧めになるようなビタミン剤が何かありますでしょうか。

回 答
アメリカではヨードのRDA(1日当たりの摂取基準)150マイクログラム/日となっています。そしてほとんどの総合ビタミン錠にはこの量が含まれています。アメリカでは、ほぼ全部の人がこれよりはるかに多い量のヨードを摂取しています。ボストン地域でのヨード平均摂取量は400〜1200マイクログラム/日です。
余分にヨードを摂取することは、橋本病に伴う甲状腺腫と甲状腺機能低下症のどちらも悪化させる可能性があります。綜合ビタミン剤を避ける必要はないのですが、橋本病患者は高濃度のヨードを避けるようにしなければなりません。綜合ビタミン剤に見られる100〜500倍の高レベルのヨードは、多くの薬や海草中に見出されます。たびたび寿司を食べたり、海草を含むポルトガル風魚のシチュウなどは、ヨードの過剰摂取を起こす元となります。ベータジン溶液やベータジン浣腸も体の中に吸収される可能性のある非常に高濃度のヨードを含んでおります。
しかし、レボサイロキシン<注釈:日本ではチラージンS>を飲んでいれば、レボサイロキシンが甲状腺の肥大を抑え、甲状腺機能低下症もすでに適切に治療されていますので、ヨードにさらされても最小限のリスクで済みます。
ヨードは多結節性甲状腺腫のある患者さんにも有害なことがあります。これはヨードにさらされると甲状腺機能低下症を引き起こす可能性があるからです。ヨード欠乏による風土病性の甲状腺腫はアメリカには存在しません。しかし、世界的に見るとこれは甲状腺機能低下症の原因として非常に多いもので、これらの患者ではヨード補充が甲状腺腫の縮小や甲状腺機能低下症を元に戻す、病状改善のために欠かせないものとなります。

質 問 H.T., Wheeling, W. Va
最近、“リーデル甲状腺腫”とか呼ばれる病気についての記事を読みましたが、何となく橋本病に似ているような気がします。将来TFAでこの病気に関する記事を書いていただいて、それを読みたいと思っています。まだ、自己免疫性甲状腺炎とリーデル甲状腺腫の違いがよくわかりません。

回 答
リーデル甲状腺腫はきわめてまれな病気です。この病気の特徴は、線維症(瘢痕形成)を伴う重篤な炎症で、甲状腺だけに限局せず、頚部の他の部分や目の後ろ、胸部、腎臓付近の背部の組織(後腹膜腔)に広がることがあります。
この病因はわかっていませんが、自己免疫疾患ではないようです。患者の中には、橋本甲状腺炎の証拠も示す者がいます。この病気は進行性のことがあり、重篤な合併症を起こす場合もあります。幸いにきわめてまれなものであり、マサチュウセッツ総合病院でも、過去数十年間に2例しか見ておりません。

Douglas S. Ross, M.D.は、ボストンのマサチューセッツ総合病院の副医院長であり、甲状腺科の医師です。
Douglas S. Ross医師が、甲状腺の病気や甲状腺の働きに関する読者の一般的なご質問にお答えします。しかし、患者さんの個人的問題についての細かいご質問にはお答えできかねます。個人的に甲状腺の問題についての助言が必要な方は、ご相談なされるようTFAがお近くの内分泌専門医の名前をお送りすることができます。お問い合わせは、ここボストンのTFAまでお手紙かお電話でなさってください。

もどる