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[006]
先生に聞こう【Ask The Doctor】 Bridge; Volume 10, No3

16:橋本甲状腺炎について

質 問 SW, ニュージャージー州ティーネック
橋本病(の抗体)を持っていながら甲状腺の機能が正常で、過去に甲状腺機能低下症に罹ったことのない患者がいるのではないかと思っているのですが、これは本当でしょうか。これは私が橋本病は最後は甲状腺機能低下症になる進行性の病気だと言われたことから推測していることです。

回 答
橋本甲状腺炎は自己免疫疾患です。自己免疫についてはあまりよく分かっていないのですが、免疫系が自分自身の体の一部を攻撃し、破壊しようとする時に起こります。橋本甲状腺炎では、血液から来たリンパ球が甲状腺に侵入し、炎症と破壊を引き起こします。まだ議論の余地がありますが、甲状腺の病気を研究している研究者のほとんどが血液中に存在する抗甲状腺抗体がリンパ球による甲状腺の炎症と破壊を左右すると感じています。

言い換えれば、抗体のレベルが高ければ炎症がひどくなるという関係にあり、また抗体のレベルまたは力価が低ければ、炎症は軽いという関係にあるのです。抗体のレベルまたは力価の解釈は、長く続いている甲状腺炎ではさらに複雑なものとなります。これは、炎症の量はほとんどの甲状腺の組織が破壊されてしまった後に減少するからです。そのため、抗体レベルは 甲状腺炎の“最終段階”では、下がってくることがあります。そこでは炎症を起こすだけの甲状腺組織はたいして残っていません。

炎症の程度は時間の経過とともに変動することがあります。私達の多くは甲状腺自己抗体のレベルは低く、血液検査でも甲状腺の機能は正常です。炎症が甲状腺の肥大を引き起こすに足るほどであっても、甲状腺の機能は正常なままであることがあります。これは、 "機能正常性橋本甲状腺炎"とでも呼べるかもしれません。炎症が非常にひどく、甲状腺ホルモンの合成が障害されるようになると、患者さんは甲状腺機能低下症になります。
しかし、この過程は長年の間に変動する可能性があり、そのため炎症が起こり、その後の修復があり、またさらに炎症が起こるというようなことで、甲状腺機能検査で、一過性に低くなり、その後正常になり、また低くなるというようなことがあります。

定型的には、橋本甲状腺炎は何ヶ月、何年あるいは何十年にもわたって進んでいき、甲状腺組織の破壊が起こり、いつかは甲状腺機能低下症が起こります。この時期は甲状腺の自己修復の能力はぎりぎりのところにあるため、甲状腺ホルモンの値が低くなったり、正常になったりと変動する可能性があります。抗体のレベルが低い患者さんの中には、甲状腺機能低下症にならない人もいます。

Douglas S. Ross, M.D.は、ボストンのマサチューセッツ総合病院の副医院長であり、甲状腺科の医師です。
Douglas S. Ross医師が、甲状腺の病気や甲状腺の働きに関する読者の一般的なご質問にお答えします。しかし、患者さんの個人的問題についての細かいご質問にはお答えできかねます。個人的に甲状腺の問題についての助言が必要な方は、ご相談なされるようTFAがお近くの内分泌専門医の名前をお送りすることができます。お問い合わせは、ここボストンのTFAまでお手紙かお電話でなさってください。

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