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[006]
先生に聞こう【Ask The Doctor】 Bridge; Volume 10, No4

17:ヨード欠乏性甲状腺腫について

質 問 JBT, ペンシルバニア州州立大学
スロバキア人女性に関するPh.D.論文のための研究で、聞き取り調査を行っている間、非公式に(個人的な興味からです)自分自身や、家族の中に甲状腺の病気に罹った者がいるかどうか、あるいはいわゆるペンシルバニア中央部の山岳地帯にある鉱山地区に住んでいる人を見たことを思い出せるかどうかを尋ねました。スノーシューやグラスフラット、モシャノン、およびクラレンスを含むこれらの町には、いまだに私がインタビューできるスロバキア人女性が多数おります。それで私が彼らを研究対象に選んだのです。
これらのスロバキア人女性のコミュニティーの中では、1920年代、1930年代、そして1940年代に入っても大きな甲状腺腫が非常に多かったことがわかりました。私が話した女性は、甲状腺腫が大きくなり過ぎたら取って貰うだろうと言いました。
これらの女性は非常に家族が多いので(子供が10人いることも珍しくなかったのです)、明らかに出産後に甲状腺の病気を起こしていました。私の父方の叔母も子供を産んだ後に甲状腺腫ができたので、非常に興味を覚えました。
この特定の地域になぜ甲状腺腫が非常に多いのか、また1940年代になってもまだそのような状況が続いていた理由について、コメントをいただければありがたいのですが。アメリカではこの地域に食餌上の問題があるのか、あるいはヨーロッパの出身地に問題があるのでしょうか。

回 答
食餌中のヨードは、甲状腺が甲状腺ホルモンを作る過程で必要な必須栄養素です。食餌中にヨードが欠乏する地域では、甲状腺が十分なホルモンを作ることができず、その結果甲状腺のサイズが大きくなり、甲状腺腫になります。世界で生じているヨード欠乏症は、土壌の中のヨードが枯渇している山岳地帯にいちばん多く見られます。海岸地域は、海から来るヨードが豊富にあります。アメリカには、国の中央部を横切って広がる大きな“甲状腺腫地帯”がありました。ヨーロッパにもまた明らかなヨード欠乏地帯がありました。
アメリカでは、ヨード欠乏による甲状腺腫の蔓延は、食物にヨードを添加することで完全になくなりました。ヨード化塩はいちばんよく知られた形の栄養食品です。ヨード化塩が普及する前は、学童は学校でヨードの注射を受けていました。
中西部出身の読者で、年配の方はヨード化油の注射を覚えている方があるかもしれません。アメリカではヨードの摂取量が増え、高齢化が進むにつれて、ヨード欠乏による甲状腺腫はまれなものとなりました。

ヨード化塩やその他のヨードの食品への添加は、世界の先進国の大部分であまり行われていません。ヨーロッパの多くの国では、ヨードの添加はアメリカでの行われているものに比べれば、ほんのわずかです。そして、甲状腺腫も多く見られます。例えば、ドイツでは人口の50%が食餌中のヨードが欠乏している可能性があり、多くの発展途上国ではヨード欠乏症がいまだに大きな公衆衛生上の問題となっています。

アメリカのヨード消費量は高すぎる可能性があります。そして、ヨード消費量の割合が高いと橋本甲状腺炎のような自己免疫性の甲状腺疾患の罹患率が高くなるのではないかと思われます。ヨード消費量の理想的なレベルに関しては、まだかなりの論争がありますが、アメリカでのRDA(1日あたり摂取基準)は150マイクログラムです。多くの地域での実際の消費量は、800マイクログラムを超えており、その一方で西ヨーロッパ諸国のほとんどでは1日100マイクログラム以下となっています。

妊娠は、食餌中のヨードが限られている場合、ヨードの貯えに対する大きなストレスとなります。これは、胎児の甲状腺がヨードを必要とするためです。妊娠中、ヨードの貯えがボーダーライン上にあれば、ヨードが枯渇してしまうことがあり、妊娠後期あるいは出産後に甲状腺腫ができることになります。一部の発展途上国では、若い女性に突然甲状腺腫が生じるのは、妊娠の徴候であるとみなされていました。

したがって、JBTが調査なさったペンシルバニア州中央部の山岳地帯に住むスロバキア人女性は、ほぼ間違いなくヨード欠乏による風土病性の甲状腺腫であったと思われます。これはヨード化塩やその他のヨード添加食品によってアメリカではすでに撲滅された公衆衛生上の問題です。

Douglas S. Ross, M.D.は、ボストンのマサチューセッツ総合病院の副医院長であり、甲状腺科の医師です。
Douglas S. Ross医師が、甲状腺の病気や甲状腺の働きに関する読者の一般的なご質問にお答えします。しかし、患者さんの個人的問題についての細かいご質問にはお答えできかねます。個人的に甲状腺の問題についての助言が必要な方は、ご相談なされるようTFAがお近くの内分泌専門医の名前をお送りすることができます。お問い合わせは、ここボストンのTFAまでお手紙かお電話でなさってください。

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