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甲状腺機能亢進症は著明な骨密度の減少に関係しています。生涯のどの時期かにかかわらず、甲状腺機能亢進症の病歴がある場合、晩年になってからの股関節の骨折のリスクが増加します。甲状腺ホルモンは骨に直接吸収効果を及ぼします。
甲状腺機能亢進症の患者は、カルシウムバランスが大きくマイナスになっていることがあります。毎日、消化管で吸収する以上のカルシウムを尿から排泄してしまうことがあります。したがって、甲状腺機能亢進症患者は、甲状腺機能亢進症の病歴のある人もそうですが、適切な量のカルシウムを食餌か、栄養剤のどちらかから摂取することが大切です。十分なビタミンDもカルシウムがうまく吸収されるのに欠かせません。1,000〜1,500mgのカルシウムと400〜800単位のビタミンDを毎日摂るようにするのがよいでしょう。
ほとんどの研究では、甲状腺機能亢進症の治療後1年間で、ほとんどの骨のカルシウムは著しく回復することが示されていますが、全部元どおりになるわけではありません。
レボサイロキシン(シントロイド、レボキシル、レボトロイド、ユースロックス他)もまた、正常な補充療法の量を超えて投与された場合、骨からのカルシウムの喪失をきたすことがあります。レボサイロキシンの補充量、すなわち血清TSH濃度が正常になる量、そして甲状腺機能亢進症を放射性ヨードあるいは手術で治療した後に通常投与される量ということですが、それで骨密度の減少が起こることはありません。レボサイロキシンの量が多すぎる患者のみに骨密度減少の危険性があるのです。
医師は、甲状腺結節または甲状腺腫の成長を抑えたり、あるいは甲状腺癌の再発を防ぐためにレボサイロキシンの量をわずかに増やして投与することが時にあります(“TSH抑制療法”)。甲状腺ホルモンの軽い抑制量で、骨密度の減少が起こりうるかどうかについては、まだ議論の余地があります。ほとんどの研究では、エストロゲンの補充を受けていない閉経後の女性には著明な骨密度の喪失があることが示されています。しかし、エストロゲンの補充で、閉経後の女性の甲状腺ホルモンを介した骨喪失は防げるでしょうし、抑制量のレボサイロキシンを飲んでいる閉経前の女性では、骨の喪失は無視してよい程度のものだと思われます。ただし、これらの患者でも、レボサイロキシンの量が多すぎれば骨密度が失われることになるでしょう。 |
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