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42
[006]
先生に聞こう【Ask The Doctor】 Bridge; Volume 15, No3

42:産後に起こる病気

質 問
産後に甲状腺にいったいどのようなことが起きるのでしょうか?
それぞれの病気はどれくらいの頻度で起こるのでしょうか?
ややこしくてよくわからないのですが。

回 答
産後の甲状腺機能不全は非常に多いもので、少なくとも妊婦の5%に起こります。産後期には、すべての自己免疫性疾患が急激に悪化します。ですからよくある自己免疫性甲状腺疾患も例外ではありません。

残念ながら自己免疫性甲状腺疾患とその臨床像を言い表す統一用語がありません。専門家の間にある意見の違いが、患者ばかりでなく医師にも混乱を招いているのです。

自己免疫性甲状腺疾患のメカニズムは次のとおりです。
  1. [刺激抗体]
    TSHのように振舞う抗体で、甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンの作りすぎを起こします。
  2. [阻害抗体]
    TSHが甲状腺のTSHレセプターに結合するのを阻害する抗体で、TSHが甲状腺を刺激できないようにします。そのため、甲状腺ホルモンの産生量が減少します。
  3. [成長・刺激抗体]
    甲状腺を成長させる抗体です。
  4. [慢性甲状腺炎]
    リンパ球(白血球の1種)が甲状腺に浸潤し、何ヶ月あるいは何年か、時には何十年もかけて甲状腺の機能を徐々に破壊していきます。
  5. [無痛性甲状腺炎]
    突然リンパ球が甲状腺内に入り込み、甲状腺の小胞を壊してしまうため、あらかじめ作られていた甲状腺ホルモンが血液中に放出されます。
それぞれのメカニズムに特有の臨床症状が4つ記載されています。
  1. [バセドウ病]
    刺激抗体による甲状腺機能亢進症
  2. [慢性甲状腺炎]
    慢性リンパ球性炎症による甲状腺腫と甲状腺機能低下症
  3. [無痛性甲状腺炎]
    炎症を起こした甲状腺内に蓄えられていた甲状腺ホルモンが放出されるために甲状腺機能亢進症になる。炎症が治まると甲状腺機能低下症になることが多く、その後、回復する。
  4. [橋本甲状腺中毒症]
    刺激抗体と慢性リンパ球性炎症とが組み合わさったもので、最初はバセドウ病にそっくりな甲状腺機能亢進症が出ますが、それに対する抗甲状腺剤治療を行わなくても、最終的には甲状腺機能低下症になります。
一部の甲状腺専門医は後の3つをすべて慢性甲状腺炎と呼んでいますが、わたしは一くくりにまとめて呼ぶ言葉としては、自己免疫性甲状腺炎という言葉を使い、これらの症状自体が細胞レベルでは同じプロセスの変異形である可能性はあるものの、特定の臨床症状を述べる時にもう一方の言葉を使った方がいいと思います。どの自己免疫プロセスが活動しているかによって、個々の患者に現れる症状は様々です。しかし、大多数の患者は先に述べた特定の臨床症状のどれかをたどります。

産後期にいちばん多く出る病気は、無痛性甲状腺炎か、慢性甲状腺炎による甲状腺の破壊のいずれかです。

Douglas S. Ross, M.D.は、ボストンのマサチューセッツ総合病院の副医院長であり、甲状腺科の医師です。

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