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甲状腺手術後の反回神経麻痺:患者さんへの朗報−「喉頭枠組み手術」
田尻淳一 田尻クリニック 熊本

最近の熊本日日新聞の医療面に、甲状腺手術後の反回神経麻痺に対する喉頭枠組み手術に関する記事が掲載されました。わたしも記事を読み、早速、患者さんを紹介しました。

甲状腺癌術後に声がしゃがれたと訴える患者さんがいます。これは、甲状腺の後ろを通っている反回神経を損傷したために起こるものです。反回神経は、声帯を動かす働きをしている神経です。反回神経が損傷を受けると、声帯が動かなくなり、声がかすれ声になります。また、声帯が完全に閉じないために、気管内に食物などが入りやすくなり、むせる原因にもなります。そんな術後性の声帯麻痺(または反回神経麻痺)には、音声外科の一つである喉頭枠組み手術が威力を発揮します。これは、耳鼻咽喉科の医師が治療するものです。

熊本大医学部耳鼻咽喉科の湯本英二教授は「これまでの外科の役割は、腫瘍を摘出して、命を助けるのが主だった。ところが医療が発達し、これまで手が回そうにも回せなかった機能回復にまで、回せるようになった。音声外科の喉頭枠組み手術は、そんな機能外科の一つです」と説明されています。

声帯が動かず声帯が左右にしっかリ閉まらないと、発声する際に気管内の空気が漏れてしまい、声を出しにくくなります。 声を出すときに、通常、一秒間100mlから150mlの空気が気管内から声帯を通ります。このときに声帯を振動させて声が出るのです。ところが、声帯麻痺を起こしている場合には、発声する際に声帯が閉まらず、一秒間に400mlから1000mlもの空気が気管内から声帯を通りますので、およそ二秒間で声が出せなくなってしまうわけです。喉頭枠組み手術を受けることで声帯が閉まり、発声が楽になるのです。

声帯麻痺(または反回神経麻痺)をそのまま放置すると、日常の会話に不自由するなど「生活の質(QOL)」は低下します。ささやき声は普通の声を出すのに比べると、数倍の空気量を必要とします。このため、ささやき声での会話はまず出来なくなってしまいます。そんな患者の「生活の質」をアップさせるため、喉頭枠組み手術が開発されました。

喉頭枠組み手術の方法は大別して1]麻痺した声帯を内側に押さえ込む、2]声帯そのものの位置を変える、3]喉頭筋に延びる反回神経を再建する、の三つです。ただ、この手術は高度の技術が求められます。湯本教授によると、九州で取り組んでいるのは九州大耳鼻咽喉科、久留米大耳鼻咽喉科、熊本大耳鼻咽喉科の三施設だそうです。熊本大耳鼻咽喉科では1998年10月以降から年平均10例ほど手掛けているとのことです。湯本教授は「手術したからといって、声帯を完全に原状回復させることは出来ないが、相当程度は回復させることができる。中でも反回神経の再建術は、麻痺以前の状態までほぼ回復できると言っても過言ではない」と説明しています。

今回の情報は、九州地区に限定していますが、他の地区でも喉頭枠組み手術をしている施設があると思います。甲状腺手術後、反回神経麻痺になっている患者さんは、主治医の先生にどこで喉頭枠組み手術をしているか質問されるといいと思います。

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