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甲状腺の病気シリーズ1
[078]
百渓尚子先生が作った患者さん向けのパンフレット

甲状腺の病気シリーズ1:甲状腺とその病気

表紙

甲状腺の働き
  • 甲状腺は、平たく小さい臓器で、のどぼとけより下にあり、気管の前面に付着しています。若い人よりお年寄り、女性より男性がやや下の方に位置しています。
  • 甲状腺は食物などに含まれるヨード(ヨウ素)を主原料として、甲状腺ホルモンを合成し分泌しています。
  • 甲状腺ホルモンは、からだの新陳代謝を促し、成長期にはからだの成長や骨格の発達、胎児や乳児では脳の発達にも関わります。
  • 甲状腺ホルモンは多すぎると全身の代謝が過度に高まり、不足すると全身の代謝が低下し、からだにいろいろな影響がでてきます。
  • 甲状腺ホルモンに過不足がないかどうかは、血液検査で濃度を測って調べます。
図

甲状腺の病気の種類
甲状腺に異常がおこると、たいていの場合は甲状腺全体が大きくなるか、一部がはれるかします。このはれを「甲状腺腫」(こうじょうせんしゅ)といいます。甲状腺の病気ははれかたによって次のように2種類に分けられます。どれも男性より女性に多いのが特徴です。

1.- 甲状腺が全体に大きくなるもの:
びまん性甲状腺腫といい、このようなはれかたをするものには次の4種類のものがあります。
単純性びまん性甲状腺腫:甲状腺が大きくなっているが、ほかに異常がない。
バセドウ病:甲状腺を過剰に刺激する物質が原因で甲状腺ホルモンの生産が増え、血液中の濃度が高くなるもの。この状態を甲状腺機能亢進症という。動悸や手のふるえ、体重減少などがおこる。まぶたがはれたり、目がでたりすることもある。甲状腺ホルモンの量が正常になるように治療する。
橋本病:慢性甲状腺炎ともいう。まれに甲状腺がはれない橋本病もある。甲状腺ホルモン量に異常のないことが多いが、不足することがある。不足した状態を、甲状腺機能低下症という。不足状態が続く場合には、むくんだり、寒がりになったり、気力が低下するようになる。甲状腺ホルモンを服用して、不足分を補う。また橋本病では、甲状腺ホルモンが一時的に過剰になったりそのあと逆に一時的に不足したりすることもある。なお甲状腺機能低下症は、甲状腺の手術を受けたりアイソトープ治療をしたりしたあとにおこるものもある。また、生まれつきのものもある。

  亜急性甲状腺炎:甲状腺はしこりのようにはれることもある。甲状腺に痛みがあり、とくに夕方に発熱する。からだが非常にだるい。一時的に甲状腺ホルモン過剰になることが多い。自然に治るが、症状が強ければ消炎剤をつかう。
2.- 甲状腺に部分的にしこり、腫瘤のできるもの:
このしこりを結節性甲状腺腫といい、いわゆる腫瘍性の疾患である。良性のものと悪性のものがある。甲状腺ホルモン濃度には異常がないことがほとんど。なお、甲状腺の悪性腫瘍は他の臓器のがんとくらべてたちのよいものが多い。

以上のほかに、妊婦さん特有な甲状腺機能亢進症があります。主に妊娠初期に甲状腺ホルモンが一時的に過剰になるもので、バセドウ病とまぎらわしいことがあります。甲状腺は全体がはれることがありますが、小さいので目立ちません。
甲状腺とヨード(ヨウ素)について
ヨードは甲状腺ホルモンの主原料です。従ってからだになくてはならないミネラルです。ただし甲状腺ホルモンを作るのに必要なヨードの量はごくわずかで、一日0.10〜0.15mg(100〜150μg)程度です。
甲状腺ホルモンには2種類あり、一つはヨードを4つ持つサイロキシン(T4)、もう一つはヨードを3つ持つトリヨードサイロニン(T3)です。甲状腺から分泌されているのはほとんどがT4です。T3は主に肝臓でT4からヨードが1つとれて作られます。T4もT3も血液の中を流れているときは大部分が蛋白質と結合していて、ホルモンとして働くときには蛋白から離れます。これを遊離T4、遊離T3(略してFT4、FT3)といいます。

ヨードは、日本人が口にするものの中に大なり小なり含まれています(最後のぺージの表)。特にたくさん含まれているものは海藻類で、なかでも昆布には群をぬいて大量に含まれています。
昆布の次に多いのはひじきです。わかめ、海苔はこれらと比べるとはるかに少量です。このほか日本でとれる魚、肉、穀類にはわずかですがどれにも含まれています。なお、うがい(イソジンガーグルなど)の主成分はヨードです。レントゲン検査に使われる造影剤にも、多量のヨードが使われています。
日本人は世界で一番多くヨードを摂取している国民です。昆布はからだに良いとされて、健康食品として推奨されていたり、「だし」として調味料に加えられていたりします。また、甲状腺と関係ない薬にも含まれていることがあります。このようにして日本では普段から知らず知らずに必要量以上のヨードをとっていますから、不足を心配する必要はまずありません。また甲状腺にはヨードをとり過ぎても甲状腺ホルモンを作りすぎないようにする仕組みがありますので、通常はヨードのことを気にかける必要はありません。
ただヨードのアイソトープを使う検査や治療をする場合には、1週間ほどヨードをたくさん含むものをとらないようにしておかないとよい結果がでないため、ヨードの制限が指示されます。
国によってはヨードの不足のために十分ホルモンが作られず、多くの住民が甲状腺機能低下症になっている地域があります。

バセドウ病とヨード
ヨードを制限しないとバセドウ病の薬が効きにくかったり、バセドウ病が再発しやすくなったりすると言われることがありますが、これが事実かどうか、またどれくらい制限したらよいのか確かなことはわかっていませんし、実際に効果があるほど制限し続けることは日本に住んでいる限りまず不可能ですので、気にせずに普通にとっていてかまいません。なおバセドウ病は、ヨードが効きますので、治療薬として使うことがあります。昆布と同じようなものですから、副作用がないのが長所ですが、途中で効かなくなることが多いので、一時的に使用することがほとんどです。
橋本病とヨード
橋本病の患者さんのなかには、ヨードを特に大量に含んだもの(昆布、うがい薬)をとり続けると、甲状腺の働きが低下してホルモンが不足する人がいますが、やめれば早晩元に戻ります。いずれにしても、昆布をわざわざ毎日食べつづけたり、ヨードの入ったうがい薬で1日に何度もうがいをしなければ、まず問題はありません。
挿し絵

国内産の食品で1回の食事で摂取されるヨード量

食品 食品の量(g) 含有ヨード
昆布・とろろ昆布 5 10〜20mg
昆布だし汁 昆布0.5〜1.0 1〜2mg
ひじき 5〜7 1.5〜2mg
わかめ(乾) 1〜2 0.8〜1.50mg
海苔 2 0.12mg
寒天(乾) 10 0.20mg
いわし 100 0.30mg
ぶり 100 0.20mg
塩さけ 100 0.15mg
大豆 20 0.02mg
白米 160 0.06mg
(イソジンガーグル 2ml 14mg)

(財)東京都予防医学協会
挿し絵
百渓尚子
2004.2

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