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甲状腺の病気シリーズ8
[078]
百渓尚子先生が作った患者さん向けのパンフレット

甲状腺の病気シリーズ8:橋本病と甲状腺機能低下症と妊娠

表紙

橋本病と甲状腺機能低下症と妊娠
甲状腺の病気を持った人の妊娠・出産については、これまで間違って考えられていたことが少なくありませんでした。また今でも、訂正しなければならないものがあります。

正しい知識を身につけていれば、無用な心配をしないですみます。

違った情報に出会いましたら、ぜひお知らせください。

不妊、生理不順について
橋本病だからといって不妊症になることはありません。甲状腺ホルモンが不足している場合(甲状腺機能低下状態)は妊娠しにくくなる人があると言われていますが、必ずしもそうとは言えず、著しく不足している状態で妊娠する場合もあります。また、そのために子どもができにくいのであれば、甲状腺ホルモンを補うことによって解決するはずです。それでも妊娠しない場合は、何か別のことが原因です。ただし不妊は、もともと原因のはっきりしないことがあります。

甲状腺ホルモン不足を治療しないでいると、生理の間隔が短くなったり、量が多くなるなど、月経に異常のおこることがあります。きちんと治療していても生理が不順である場合は、甲状腺とは別のことが原因です。
挿し絵


妊娠から出産まで
一般の妊婦さんでも、10人に1人ぐらいは流産すると言われています。甲状腺ホルモンが不足したまま妊娠すると、流産はこれより多くなります。甲状腺ホルモンを服用して甲状腺ホルモン濃度が正常になっていれば、流産の原因にはなりません。また甲状腺ホルモンが著しく不足したまま妊娠を続けると、高血圧や妊娠中毒症をおこすことがあります。これも甲状腺ホルモンを補っていれば防げます。なお、妊娠すると甲状腺ホルモンが普段より少し多めに必要になります。

甲状腺ホルモン(一般名:サイロキシン、商品名:チラーヂンS)は、甲状腺で作られているホルモンと同じですから、子どもによい影響はあっても悪い影響があるはずがありません。

授乳
橋本病や甲状腺機能低下症の方の授乳は全く問題ありません。甲状腺ホルモン服用中の方の授乳も、全く差し支えありません。
挿し絵

産後
橋本病では、産後に甲状腺ホルモン濃度が変化することがよくあります。「無痛性甲状腺炎」という炎症がおきるためです。橋本病の人では産後と関係ない時期にもおこりますが、産後はことによくおこります。多いのは産後2〜4カ月です。これがおきると甲状腺の腫れが増してホルモン濃度が上がり、まるでバセドウ病のようになり、動悸、手のふるえなどを感じることがあります。そのために今でもよくバセドウ病とまちがわれます。

甲状腺がホルモンを作り過ぎているのがバセドウ病ですが、橋本病におこるものはこれとちがって、蓄えていたホルモンが流れ出すのが原因ですので、3カ月以内には自然におさまり、甲状腺腫の大きさも元に戻ります。ただ甲状腺にホルモンの蓄えがなくなったために、甲状腺ホルモンが不足することがあります。このときも甲状腺の腫れが大きくなります。これもせいぜい数カ月で回復するのが普通です。長く続くこともあります。

このようなことがおきた後にバセドウ病になることもありますが、血縁にバセドウ病の方がいない場合は、ことにまれです。

子どもの知能
母親が甲状腺機能低下症であっても、次に述べるように例外的な場合を除き、生まれつき甲状腺機能低下症(クレチン症)にかかっているとか、放っておくと知能が低い子どもになるという心配はありません。妊娠初期に母体に甲状腺不足があると子どもの知能に少し影響があるという論文が外国から出されていますが、ヨードを十分摂取している日本からは、そういうことがないという成績がでています。

例外的な場合というのは、「特発性粘液水腫」の患者さんです。この病気に罹っていても甲状腺ホルモンで治療すれば、健康な人と全く同じように妊娠・出産します。しかし、4〜5人に1人くらいの方が血液中に胎盤を通って甲状腺機能低下症をおこす物質をもっていて、胎児が甲状腺機能低下症になることがあります。ただし、妊娠中にきちんと治療を受けて、しかも生まれて間もなく治療を始めれば、知能の発達が遅れることはありません。また日本では、生まれて数日後にだれでも先天代謝異常の検査を受けますので、手遅れになることはまずありません。そして生後半年もすれば、母親からもらったその物質が消えるので、治療の必要もなくなります。

(財)東京都予防医学協会
挿し絵
百渓尚子
2004.2

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