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甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症の診断と治療のためのAACE臨床実地指針
(The American Association of Clinical Endocrinologists)臨床実地指針

指針の役割
これらの指針の目的は甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症患者の診断、治療とフォローアップのやり方を示すことである。これらの指針は甲状腺疾患を診断する際の注意について述べ、そして治療を改善し、コストを減らすにはどうしたらよいかを示す。AACEは患者を1人の医師によって定期的にフォローアップすることを提唱する。 AACEは内分泌科医がこの役割に一番適すると考える。

一般住民への役割
高感度甲状腺刺激ホルモン(TSH)測定の開発により、軽症の甲状腺疾患がいっそう正確に定義されて、そして診断されるようになった。軽症甲状腺機能亢進は治療されないと患者に悪い影響を与えることがわかった。また、軽症甲状腺機能低下も同じく健康に対して悪影響をもっているかも知れない。

甲状腺ホルモンの過量の投与量を受けている患者は、しばしば軽症甲状腺機能亢進症を持っている。その結果として閉経後の大きな問題である骨粗鬆症になる。加えるに、心臓肥大と心房細動は軽症甲状腺機能亢進の重大な合併症である。心臓や骨の問題は適切な診断、甲状腺ホルモンの過剰投与発見や投与量変更によって防ぐことができる。

軽症甲状腺機能低下症は多い疾患であり、60歳以上では20%以上にみられる。 臨床内分泌医はたいていの軽症甲状腺機能低下症を持っている患者に対しての治療を必要と考えている。この疾患を持っている患者は無症状なこともあるが、ある患者は脂肪代謝の異常と同じく心臓、胃腸、精神神経、生殖機能異常も持っている。医師と患者にとって、軽症甲状腺機能低下症の認識が必要である。

医師がこの指針を理解することによって軽症甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症についての認識が高まれば、意義ある住民サービスを提供できるであろう。

甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症は過剰な甲状腺ホルモンのはたらきの結果である。

甲状腺機能亢進症の原因
  • 中毒性びまん性甲状腺腫(バセドウ病)
  • 中毒性腺腫
  • 中毒性多結節性甲状腺腫
  • 亜急性甲状腺炎
  • 無痛性甲状腺炎
  • ヨードバセドウ
  • TSH産生腫瘍あるいは胞状奇体
  • 甲状腺ホルモンの過剰投与

臨床症状
甲状腺機能亢進症の兆候と症状は血中甲状腺ホルモン過剰によるものである。 兆候と症状の重症度は患者の年齢、ホルモンの量や期間と関係がある。

以下に甲状腺機能亢進の兆候と症状を示す。
  • 神経質と被刺激性
  • 心悸亢進と心拍数増加
  • 暑がりと発汗増加
  • 振せん
  • 体重減少
  • 食欲増加
  • 排便回数増加
  • 疲労と筋力低下
  • 甲状腺腫大(原因によるが)
  • 前脛骨粘液水腫(バセドウ病)
  • 運動時疲労と呼吸困難
  • 月経過少
  • 精神障害
  • 不眠
  • 視力低下、まぶしがり、異物感、二重視
  • 眼球突出症
  • 下肢浮腫
  • 周期性四肢麻痺
  • 不妊
しかしながら、患者は甲状腺機能亢進症の症状のすべてを持つとは限らない。

診 断
問診と診察時には以下のことに気をつける。
  • 体重と血圧
  • 脈拍数と不整脈
  • 甲状腺触診と聴診(甲状腺の大きさ、結節と血流量をみるため)
  • 神経筋検査
  • 眼科的検査
  • 皮膚科的検査
  • 心臓血管の検査
  • リンパ節
検査所見
眼症を持っている甲状腺機能亢進症の診断は通常簡単である。しかしながら、心臓の症状や体重減少のみしか症状として出ないことがあるので、高齢者では甲状腺機能亢進症を診断するのは難しいことがある。ある患者では甲状腺の大きさは正常のこともある。T4、T3、Free T3、Free T4は普通、高値となる。しかし、希にT3だけが高いタイプもあり、これはT3甲状腺中毒症と言われる。甲状腺機能亢進症では高感度TSHは常に低値で、甲状腺シンチではアイソトープはびまん性に取り込まれ、時々錐体葉が描出される。

中毒性腺腫(“hot nodule”、プランマー病)では血中T4、T3は高くTSHは低値になる。甲状腺シンチをするとfunctioning nodule(機能性結節)にアイソトープが取り込まれ、結節以外にはほとんど取り込まれない。中毒性多結節性甲状腺腫においても中毒性腺腫と同じ検査所見を示す。しかし甲状腺は比較的大きく、多数の小結節がある。これら疾患では、普通は放射性ヨードの取り込みは増えているが、時に正常範囲にあることもある。

甲状腺シンチでの低い放射性ヨード摂取率は亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎、ヨードによって誘発された甲状腺機能亢進症、医原性甲状腺機能亢進症でみられる。これらの疾患では甲状腺機能状態亢進症のときには血中T4、T3は高い。亜急性甲状腺炎は通常甲状腺部に一致して痛く、自然に良くなる。甲状腺機能亢進症状は炎症を起こした甲状腺から甲状腺ホルモンが放出されたためである。しばしば、甲状腺機能亢進症のあとに、甲状腺機能低下症になる。これは2~3ヶ月続き、機能正常に戻る。無痛性甲状腺炎は、自己免疫疾患と考えられており、亜急性甲状腺炎と同じ経過をたどり、産後によく見られる。ヨードによって誘発される甲状腺機能亢進症は高齢者で多く、非中毒性結節性甲状腺腫をもつ患者でよく見られる。ヨード含有薬物、ヨード補充、あるいは造影剤からのヨード負荷により、甲状腺機能亢進症が誘発され、これは容易に良くならないことが多く、治療を必要とするかも知れない。

T4とT3の高値またはTSH低値があれば必ず甲状腺機能亢進症であるとは限らない。エストロゲン(女性ホルモン)投与あるいは妊娠は血中TBG濃度を増加させ総T3、T4を見せかけ上、増加させるが、FT4と高感度TSHは正常である。Euthyroid高サイロキシン血症はアルブミンとプレアルブミンによるT4との異常な結合による。同様に、甲状腺ホルモン不応症は甲状腺機能亢進症状がなくて血中T4が高値を示す。グルココルチコイドの投与、重篤な疾患や脳下垂体機能機能低下症では甲状腺機能亢進症状がなくても高感度TSHが低値となる。

甲状腺機能亢進症患者の臨床の評価と甲状機能検査の解釈はしばしば臨床内分泌医の専門的知識を必要とする。

治療と管理
バセドウ病
治療法は以下の3つである。
  1. 手術
  2. 抗甲状腺剤
  3. 放射線治療
手 術
甲状線機能亢進症の治療としては手術が過去には一般的であったが、現在は合衆国ではほとんど行われなくなってきた。抗甲状腺剤に副作用のある妊婦や放射性ヨード治療は嫌だが早く治りたい希望のある非妊婦などが手術の適応となる。非常に大きな甲状腺腫、結節を持つものや小児の甲状腺機能亢進症患者に対して手術を勧める医師もいる。
手術の後遺症としてはまれであるが、術後上皮小体機能低下症と声帯麻痺になることがある。手術は熟練された、そして経験豊富な甲状腺外科医によって行われるべきである。
抗甲状腺剤
抗甲状腺剤にはメルカゾール(Tapazole)とプロピールチオウラシル(PTU)がある。1940年代から使われており、寛解に至らしめる目的で使用される。寛解率は報告によりまちまちであるが、一般的に再発は高頻度である。治りやすいのは甲状腺機能亢進症状の軽いものや甲状腺腫の小さいものである。抗甲状腺剤療法にはジンマシンや、まれに無顆粒球症と肝炎などの副作用がある。この治療の成功は患者が真面目に薬をのむかどうかで決まる。妊娠中の甲状腺機能亢進症には抗甲状腺剤療法が最も適している。高齢者や心疾患を持つ患者では放射性ヨード治療の前に、抗甲状腺剤で前治療を要することもある。内分泌科医によっては小児甲状腺機能亢進症に対して抗甲状腺剤療法を好むものもいる。抗甲状腺剤だけで甲状線機能亢進症を治療するやり方もあるが、合衆国では少数の患者で試みられるに過ぎない。
放射線治療
放射性ヨード療法が合衆国では現在標準的な治療法である。多くの臨床内分泌医は放射性ヨード療法では甲状腺組織を破壊する量を投与すること好む。患者の甲状腺機能を正常にすることを目的とする少量の放射性ヨード療法を好む医者は少ない。甲状腺を破壊する量の放射性ヨード療法は少量の放射性ヨード治療に比べてより早く甲状腺機能亢進の症状を抑える。

放射性ヨード治療は安全である。しかし、たいていの患者が甲状腺機能低下症になって、生涯の甲状腺ホルモン服用を要する。妊娠可能年齢の患者に放射性ヨードを使うことをためらう内分泌医もいるが、放射性ヨード治療が妊娠に悪影響を及ぼす証拠はない。特に、不妊の原因にはならないし、奇形にもならない。本人および生まれてくる子供にも癌の危険性はない。高齢または心臓に問題を持つ甲状腺機能亢進症患者が放射性ヨード治療を受ける際には、その治療前に抗甲状腺剤を投与して甲状腺内に溜まった甲状腺ホルモンを枯渇させる。そうすることで放射線甲状腺炎による甲状腺機能亢進症の危険を減らすことができる。放射性ヨード治療は胎児の甲状腺機能を廃絶させる可能性があるので、妊婦には禁忌である。放射性ヨード治療後6ヶ月は妊娠を避けるべきである。同じく、授乳中の女性でも放射性ヨードはミルクに出るので放射線治療は禁忌である。20歳以下の若年者への放射性ヨード治療はとくに問題ない。

放射線治療後、甲状腺機能低下症になったら甲状腺ホルモン療法が慎重に始められるべきである。甲状腺ホルモン投与量は患者ごとに決めなければならない。甲状腺を破壊する量を投与して早期に甲状腺ホルモン剤を始めるやり方の良い点は甲状腺機能亢進症状を迅速に良くし、甲状腺機能低下症の合併症を最小限に止めることである。
経過の見方
甲状腺機能亢進症の診断がついたら、患者は病気と治療法の説明を受けるべきである。内分泌医だけで治療の選択を決めるより、むしろパートナーとして患者を巻き込んで、一緒に決めることが大切である。

もし患者が放射線治療を受けることを選ぶなら、治療法の説明を受けるべきである、そして治療に対する同意書に署名しなければならない。妊娠していないことを確認しなければならない。放射線治療後に、患者はフォローアップの方法の説明を受けるべきである。

放射性ヨード摂取率検査は治療前に行って、破壊性甲状腺炎やヨード取りすぎを除外して放射性ヨードの投与量を決めるべきである。甲状腺シンチは中毒性甲状腺結節とバセドウ病の鑑別に有用である。中毒性甲状腺結節は放射性ヨード療法が効きにくく、より多い量の放射ヨードを必要とする。

ベータ遮断剤は交感神経の緊張を和らげ、放射線治療の前処置として使用できる。甲状腺機能亢進症患者では少量のベータ遮断薬では効かないことがあり、そのような場合にはより多くの量を必要とする。患者の甲状腺機能亢進症状が落ち着いたら、ベータ遮断薬は減量し中止できる。重症の甲状腺機能亢進症では放射線治療後に無機ヨードや抗甲状腺剤を投与する。

放射線治療後、患者は 甲状腺機能が正常になるまで、しばらく定期的に診察を受けねばならない。たいていの患者は甲状腺ホルモン補充療法を必要とするであろう。診察は4~6週の間隔であるが、それぞれのケースで決めるべきである。患者は通常3ヶ月以内に甲状腺機能低下症に陥り、放射線治療後2ヶ月経ってから甲状腺ホルモン剤の補充が始まる。これは検査結果と臨床症状によって決定される。この頃の患者の甲状腺機能は正常から低下にと急速に変化する。この時期では血中TSHは、まだ反応しきれないので、機能の良い指標ではないかも知れない。TSH反応の回復には2週間から数ヶ月を要するかも知れない。

いったん甲状腺機能が安定したら、診察の間隔は延ばすことができる。 まず3ヶ月、そして次に6ヶ月、そして次に毎年と延ばしていく。しかしこれは医師の判断に従って修正されることができる。
妊娠中の甲状腺機能亢進症
妊娠中の甲状腺機能亢進症は特別な問題としてとりあげられ、臨床内分泌医によって管理されるべきである。放射性ヨードが胎盤を通過するために、放射線治療は、妊婦では禁忌である。抗甲状腺剤が妊娠中の甲状腺機能亢進症に対する一番適した治療である。米国ではPTUはメルカゾールより好んで使われる。抗甲状腺剤はどちらも胎盤を通過するので、過剰投与は胎児の甲状腺機能を抑えるかもしれない。それ故に、抗甲状腺剤はできるだけ少ない量を投与し母親の甲状腺機能を正常の上限に保つように使われるべきである。妊娠それ自身は甲状線機能亢進症に対しては良くするような効果を持っているから、妊娠が進行するにつれて、通常抗甲状腺剤の投与量は減る。しばしば抗甲状腺剤は出産の前に中止できる。

患者が治療に積極的に参加することは妊娠中の甲状線機能亢進症を治療していく上で大切であり、治療の効果を大きく左右する。患者がバセドウ病の危険を理解し、病気についてや治療に関する知識をもつことは不可欠である。患者教育をしっかりすると患者は治療をちゃんと受け、治療法を変更するときの理解にも役立つ。このような条件のもとでは、患者は治療中に起こってくる問題にたいしても早く気付くので内分泌医も異常に早めに気付くであろう。
患者は同じく、産後の健康あるいは彼女の赤ん坊の健康で起こるかも知れない異常に関しても知らせられるべきである。彼女は甲状腺疾患を持っていることを小児科医に知らせるべきで、赤ん坊が新生児の甲状腺機能亢進あるいは甲状腺機能低下になるかも知れないということの説明を受けなくてはいけない。新生児の甲状腺機能は出生において検査されなくてはならない。

また、患者は産後には甲状腺機能亢進症が再発しやすいことを知っているべきである。これはバセドウ病あるいは産後甲状腺炎で起こりやすい。もしバセドウ病が産後に再発したら、患者は抗甲状腺剤の再投与か放射線治療のどちらを選ぶか選択しなければならない。患者が授乳中なら、放射線治療を受け取るべきでない、もちろん、妊娠中でも同様である。患者は、産後に甲状腺機能が正常になるまで、臨床内分泌医によって観察されるべきである。

甲状線機能亢進症の治療で甲状腺機能が正常になっている妊婦でも、胎盤通過性の甲状腺刺激自己抗体(TSI、TRAb)を持っているかも知れない。母体のTSI(TRAb)の測定は胎児が甲状腺機能亢進症をもっている可能性をみるのに有用であり、内分泌医の臨床判断に基づいて検査をオーダーする。
甲状腺眼症
眼球突出症とその他の眼症状は甲状腺眼症の特徴であり、甲状腺機能亢進症がない場合でも時折見られるかも知れない。甲状腺機能が正常のバセドウ病患者でも重症の甲状腺眼症が起こりうる。甲状腺眼症の疑いのある患者では徹底的に甲状腺の検査をする必要がある。特に片眼の眼球突出症のケースでは、眼窩CTあるいはMRIが必要である。甲状腺眼症に特徴的である外眼筋の肥厚があれば眼窩腫瘍を除外するのに役立つ。診察の際に眼球突出を測定すれば、眼球突出症の増悪を知ることができる。患者に治療をちゃんと受けてもらうために、なぜ、サングラス、人口涙液、睡眠時の目の保護や頭を高くして寝ることなどが必要であるかを患者に説明するべきである。重症の甲状腺眼症に対しては、グルココルチコイド治療、眼窩への放射線照射、あるいは外科治療が考慮される。甲状腺眼症の治療に慣れている眼科医への対診はこのような患者を管理する上で有用である。
軽症甲状腺機能亢進症
軽症甲状腺機能亢進症とは血清TSHが正常以下に抑制され、血清T4とT3が正常の状態を言う。当然、副腎皮質ホルモン使用時、他の重症疾患や脳下垂体機能低下症のようなTSHが低値になるような他の原因は除外されねばならない。高感度TSHの開発は軽症甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンの産生過剰や甲状腺ホルモン剤の過剰投与による)の診断を容易にした。バセドウ病、中毒性甲状腺結節あるいは中毒性多結節性甲状腺腫による軽症甲状腺機能亢進症はたいていの場合治療を必要とする。抗甲状腺剤、手術あるいは放射線治療のうちどの治療法を選択するかは、その患者の病名、年齢、妊娠の有無や他の医学的要素による。

適切な甲状腺ホルモン補充療法では、 血中TSH濃度は正常である。もし血中TSH濃度が正常以下に抑制されているなら、甲状腺ホルモン剤の投与量は減らされるべきである。例外は甲状腺癌術後に行う甲状腺ホルモン剤によるTSH抑制療法であり、この場合は血中TSHは正常以下に抑制されていることが望ましい。一部の医師は良性甲状腺小結節に対して甲状腺ホルモンによるTSH抑制療法を試みる。第3世代あるいは超高感度TSHは最適な甲状腺ホルモン剤の投与量を決定するのに役立つ。

甲状腺ホルモンの過剰投与は避なくてはならない。このような甲状腺ホルモンの過剰投与を長期に続けると、特に閉経後の女性にとって骨粗しょう症を引き起こす可能性があり、骨折の危険性が増す。同じく、過剰な甲状腺ホルモン投与が心房細動や心臓肥大を引き起こすかも知れない。医師と患者は甲状腺ホルモンの過剰投与の可能性とそれに随伴した危険に注意を払わねばならない。

甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は甲状腺からの甲状腺ホルモンの分泌低下の結果として生じる。米国では、甲状腺機能低下症の最も多い原因は慢性甲状腺炎(橋本病)である。他の原因では放射性ヨード治療後、頚部への外照射後、甲状腺手術後と甲状腺ヨード有機化障害などがある。二次性甲状腺機能低下症としては脳下垂体性と視床下部性がある。

臨床症状
症状は一般に甲状腺機能低下の期間と程度、甲状腺機能低下症が起こる速度と患者の心理上の特徴と関係がある。甲状腺機能低下症の症状には次のようなものがある:甲状腺疾患の診察に慣れた内分泌医は甲状腺機能低下症の些細な症状にも気付き、甲状腺の触診も熟練している。微妙な甲状腺のかたちの異常は甲状腺機能障害の存在を示唆しているかもしれない。
  1. 疲労
  2. 便秘
  3. 体重増加
  4. 記憶障害と精神障害
  5. 皮膚乾燥と寒がり
  6. 集中力低下
  1. 皮膚黄染
  2. うつ病
  3. 脱毛
  4. 月経不順と不妊
  5. 嗄声
  6. 筋肉痛
  1. 甲状腺腫
  2. 高脂血症
  3. アキレスけん反射弛緩相の遅れ
  4. 徐脈と低体温
  5. 運動失調
  6. 粘液水
すべての慢性甲状腺炎の患者が 甲状腺機能低下症になるわけではないし、あるいは甲状腺機能低下症をもっていたとしても、ずっと一生甲状腺機能低下症のままであるとは限らない。希に慢性甲状腺炎患者では甲状腺機能低下症から機能正常になったり、TSHレセプター刺激抗体(TSIあるいはTRAb)による甲状腺機能亢進症すなわちバセドウ病にさえ変わることがある。もしこれらの患者が甲状腺ホルモン剤治療中なら、減量あるいは中止さえ必要になるかも知れない。それ故に、適切なフォローアップは重要である。患者には治療に変更がありうることを知らせるべきである。患者が甲状腺腫を持っている時には、注意深い問診と診察を含めた評価と適切な検査が行われるべきである。慢性甲状腺炎を持っている患者は、白斑、リウマチ様関節炎、アジソン病、糖尿病、悪性貧血のような他の自己免疫疾患などの出現率が高い。

診 断
検査所見
甲状腺機能低下症の診断と病因を確立するために最も費用効果が高い方法で検査を行うことが必要である。最も価値あるテストは高感度TSH測定法である。血清TSH測定は甲状腺機能低下症の診断を確立するための主要なテストとして用いられるべきである。

次の検査も追加される。
  • T4・T3レジン摂取率・FreeT4
  • 甲状腺自己抗体
  • 甲状腺ペルオキシダーゼ抗体あるいは 抗マイクロゾーム抗体と抗サイログロブリン抗体
  • 甲状腺シンチ、超音波
慢性甲状腺炎患者の甲状腺の大きさは 萎縮、正常大、あるいは腫大とさまざまである。甲状腺自己抗体が慢性甲状腺炎患者の958%で陽性で、高い抗体価は診断の一助になる。甲状腺小結節は慢性甲状腺炎で珍しくなく、その結節は甲状腺癌の危険も少しある。慢性甲状腺炎を持っている患者での甲状腺の突然の腫脹は甲状腺悪性リンパ腫の存在を疑わせる。

橋本病患者は高感度TSHを含め甲状腺機能検査では異常がないかも知れない。軽症甲状腺機能低下症患者ではT4、FreeT4とT3値は正常で高感度TSHが高値である。典型的甲状腺機能低下症患者ではT4、FreeT4値は低値で高感度TSHは高値を示す。

治療と管理
機能正常の慢性甲状腺炎/軽症甲状腺機能低下症/典型的甲状腺機能低下症
機能正常の慢性甲状腺炎/軽症甲状腺機能低下症/典型的甲状腺機能低下症の治療と管理は個別の患者に合わせて計画されねばならない。多くの内分泌医は、血清TSHが正常でも甲状腺腫に対して甲状腺ホルモン剤を投与する。
ほとんどの医者は軽症 甲状腺機能低下症に対して甲状腺ホルモンを投与し、そしてすべての医者が典型的甲状腺機能低下症に対して甲状腺ホルモンによる補充療法をするであろう。

AACEは高品質の甲状腺ホルモン剤製剤(T4)の使用を勧める。治療中は同じ商標の製剤の使用が望ましい。一般に、甲状腺ホルモン粉末、甲状腺ホルモンの合剤、あるいはT3製剤は補充療法として用いられるべきではない。
投与量は個別の患者で異なるであろうが、 目下、T4の平均投与量は112マイクログラム/日あるいは1日に1.6マイクログラム/ kgであると思われる。最適補充量に達するまでの期間は患者によって違う。T4の投与開始量は年齢、体重、心臓の状態、甲状腺機能低下症の重症度や期間によって、12.5マイクログラム/日から最適補充量までさまざまである。重要なことは、T4の商標あるいは投与量の変更があった場合には、6週間後に甲状腺機能を調べるべきである。その検査には、血清TSHが最も重要であり、T4、T3レジン摂取率、FreeT4が含まれるかも知れない。一端、TSHレベルが正常範囲になったら、診察の頻度は減らすことができる。それぞれの患者の状態で違ってくるが、普通、フォローアップは6ヶ月毎に、それで変化なければ1年毎に延ばす。フォローアップでは、問診と診察が適切な検査と一緒に行われるべきである。甲状腺疾患について又は合併症について説明することによって患者を治療計画に引き込むと、患者の服薬状況を良くすることができる。

甲状腺ホルモンの吸収は 吸収不良や年齢に影響をうける。加えるに市販のT4製剤は生物学的活性は一定とは限らない。T4は治療域が狭いので、吸収におけるちょっとした違いが軽症あるいは典型的甲状腺機能低下症または甲状腺機能亢進症になる。薬物相互作用が同じく問題になる。コレスチラミン、硫酸鉄、アルサルミンなどのアルミニウム水酸化物を含んでいる制酸薬のようなある特定の薬がT4吸収を妨害する。抗痙攣薬と抗結核剤(リファンピシン)のような薬はT4代謝を速めるので、より多くの投与量を必要とするかもしれない。医師は吸収特異性と薬物相互作用を考慮してT4投与量の適切な調整をすることを要求される。不適当なT4補充療法は患者の診察回数増加と検査ために経費を増す。
軽症甲状腺機能低下症
軽症甲状腺機能低下症というレッテルをはられた疾患については多くの論議があった。軽症甲状腺機能低下症患者はTSH高値 だがT4、T3レジン摂取率、FreeT4は正常値を示す。このような患者は症状を持たないかも知れない。しかし、疲労、月経不順、うつ病、認知障害、体重増加などの説明できない症状を持つかもしれない。消化器疾患、高脂血症、心臓血管病、高血圧症あるいは不妊があれば、軽症甲状腺機能低下症を持っている可能性がある。
高齢患者、特に高齢女性はこの同年代グループで橋本病と 軽症甲状腺機能低下症の頻度が高いために高感度TSHでスクリーニングされるべきである。

軽症甲状腺機能低下症患者が甲状腺ホルモン剤治療を受けるかどうかについては論争されてきた。現在では、臨床内分泌医は、特に甲状腺自己抗体を持つ場合にはたいていの軽症甲状腺機能低下症患者がT4補充療法で治療を受けることに同意する。しかしながら、軽症甲状腺機能低下症にT4治療をするかどうかは個々の患者で決めなくてはならない。例えば、ただわずかにTSHが増えている高齢患者や心臓病を持つ患者などにはT4治療は差し控えるのが最良と思われる。いくらかの患者ではT4治療がはっきりしない症状を若干改善するかも知れない。
妊娠と甲状腺機能低下症
慢性甲状腺炎の女性が妊娠した時、甲状腺機能が変化するかも知れない。甲状腺機能は良くなることもあり、悪くなることもある。悪くなった際には甲状腺ホルモン剤での治療を要する。一般に、中程度から高度の甲状腺機能低下症患者が妊娠したときには甲状腺ホルモンの補充量は増やす必要がある。患者が原因不明の不妊あるいは流産のあるとき、彼女は妊娠前や妊娠中に高感度TSH測定をすべきである。もし妊婦が甲状腺腫を持っているなら、高感度TSH測定は特に重要である。慢性甲状腺炎患者は妊娠6~7ヶ月目までにT4補充量の変更の必要性を調べるべきである。もし甲状腺自己抗体が陽性なら、産後甲状腺炎の可能性は特に、念頭におかなくてはならない。もし産後甲状腺炎が起こったなら、甲状腺ホルモン投与量が減らされるか、あるいは一時的に止める必要があるかも知れない。
妊娠中と産後のT4投与量の評価は、臨床内分泌医 によって行われるのが最良である。
他の疾患と甲状腺機能低下症
IDDM糖尿病を持っている患者のおよそ10%が、慢性甲状腺炎を持っており、知らないうちに軽症甲状腺機能低下症に陥る例もある。軽症甲状腺機能低下症があれば、インシュリン必要量が変化するかも知れない。甲状腺が腫れてきた糖尿病患者では甲状腺機能を調べることは重要である。もし甲状腺腫が出現してきたり、他の自己免疫疾患があるなら、糖尿病の患者で定期的に高感度TSH測定がなされるべきである。同じく、IDDM糖尿病女性患者の25%以上が 産後甲状腺炎になるであろう。
不 妊
不妊と月経不順のある患者の一部に、慢性甲状腺炎による軽症あるいは典型的甲状腺機能低下症が原因のものがいる。これらの患者では甲状腺機能低下症の症状よりどちらかと言うと、不妊、流産が前面にでてくる。慢性甲状腺炎は注意深い問診、診察と適切な検査によって診断できる。高TSH値をもつ患者に対し、T4投与すると月経周期を正常化して、正常な受精能を復活させるかも知れない。
うつ病
軽症あるいは典型的甲状腺機能低下症の存在はうつ病すべての患者で考慮されなくてはならない。実際に、うつ病をもつ患者の一部に典型的あるいは軽症甲状腺機能低下症がみられる。うつ病の治療薬であるリチウムは甲状腺腫と甲状腺機能低下症を誘発するので、すべてのリチウム治療中のうつ病患者は、定期的な甲状腺機能検査を必要とする。

慢性甲状腺炎、軽症あるいは典型的甲状腺機能低下症の診断はTSH高値と甲状腺自己抗体陽性によりなされる。適切なT4補充療法が開始されるべきである。しかしながら、甲状腺機能は正常にも拘わらず、若干のうつ病患者が、甲状腺ホルモンを投与されていることは指摘されるべきである。これは抗うつ薬治療の一環として精神医学の診療の場で時折見られる。甲状腺ホルモン治療がなんらかの形でうつ病を軽減するという証拠はいまのところない。
Euthyroid Sick Syndrome
慢性疾患をもつ患者での甲状腺機能の評価は難しい。多くの薬剤が甲状腺機能に影響を与える。患者が病気や飢餓状態にある時、からだの代謝を減らせることによって代償しようとする。甲状腺機能では一般には、TSH正常か低値、T3低値とT4低値を示す。FreeT4も低いかも知れない。慢性的疾患をもつ患者や入院患者に異常な甲状腺機能がみられたときには、臨床内分泌医によって評価されるべきである。

結 論
AACEによるこれらの概念的な指針は甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症の診断と治療へのいくつかのアプローチを示した。この指針は甲状腺疾患の複雑さを指摘して、診断や治療のやり方を示すように意図されている。しかし、すべてこの指針で治療の選択をするわけではない。軽症甲状腺疾患はしばしば診断されないままで放置されている。適切な診断、適切な治療の開始と患者との掛かり合いを通して、患者をケアーしていくことが必要である。

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