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甲状腺癌の管理のためのAACE臨床ガイドライン
AACE clinical practice guidelines for the management of thyroid carcinoma
アメリカ臨床内分泌病専門医協会およびアメリカ内分泌学協会作成 1997, AACE

Stanley Feld, M.D., F.A.C.P.
甲状腺癌対策委員会副委員長
この甲状腺癌管理のための臨床ガイドラインは、アメリカ臨床内分泌病専門医協会(AACE)とアメリカ内分泌病学協会(ACE)が過去3年間に続けて出した甲状腺疾患の管理のためのガイドラインの第3弾となります。AACEの使命の一つは、内分泌疾患についての認識を高め、それによって内分泌疾患をもつ患者に対するケアのやり方や質の改善を図ることにあります。甲状腺疾患は、一般や医療界からほとんど注意を向けられておりませんが、生活の質(QOL)やヘルスケアシステムのコストに甚大な影響を与えるものであります。臨床内分泌病専門医は、甲状腺疾患の罹患率や重要性について、一般および医療界の知識を啓蒙するべきであります。さらに、臨床内分泌病専門医は、甲状腺疾患の治療法にどのようなものがあるか、その情報の発信源とならなければなりません。AACE甲状腺癌ガイドラインは、“忘れられた癌”である甲状腺癌の罹患率とその重要性を強調したものであります。甲状腺癌は、多発性骨髄種や子宮頚癌、喉頭のようなさかんに発表される癌の罹患率と変わらないのです。毎年新しく診断される甲状腺癌の症例はおおよそ15,600であります。一般と医療界の認識上、さらに重要なことは、甲状腺癌は適切な治療とフォローアップによって治すことが可能であるということです。今までに効果的な甲状腺癌の治療を受け、生存している患者は約500,000人に上ります。
治療のやり方は、甲状腺専門医間の激しい論争を通じて発展してきました。
AACEは、甲状腺専門医の大多数が使っている管理法を反映させたこのガイドラインを作成するため、この分野のリーダーである人をメンバーとして選びました。Dr. Ian D.Hayは、甲状腺癌対策委員会の委員長に選出されましたが、甲状腺癌の治療法に対し、国内外で多大な貢献をなさっております。同様に、AACEの対策委員会メンバーは甲状腺癌の管理法に相当な影響力を持っております。
これら当事者の努力により、権威ある有益なものを作ることができました。
Dr.Michael Garciaは異なった考え方をうまくまとめ、多数の原因を満足させるようなものにしただけではなく、現代の合意事項を代表するもっとも信頼できる文書に仕上げました。対策委員会全員が努め、励んでくれたおかげで、このガイドラインの時宜を得た完成にこぎつけることができました。さらに、AACE幹部、特に会長であるJohn A. Seibel氏におきましては、私を対策委員会メンバーに指名していただき、またこのガイドライン作成に関わるさまざまな活動の調整役をまかせていただきましたことに心より感謝の意を表したいと思います。このような専門家の活動に参加する機会が得られましたことをありがたく思っております。この甲状腺ガイドラインの第3弾の発表は、偶然にも第3回甲状腺疾患啓蒙月間に重なることとなりました。これは過去に、アメリカの甲状腺疾患患者とその家族に対する重要な公共サービスとしての先駆的な機会となっておりました。
AACEはKnoll製薬会社に対し、このガイドライン作成および第3回甲状腺啓蒙月間への教育助成金のご支援をいただきましたことを感謝いたします。

社会的使命について
甲状腺結節は極めてありふれたものでありますが、甲状腺上皮細胞に由来する悪性病変(癌腫)は比較的希です。
臨床的には、甲状腺癌と認められたものは、ヒトの悪性腫瘍の1%以下であり、世界中の様々な地域での年間発病率は人口100,000人に対し0.5人から10人となっており、これはずっと変わっていません。それほど頻度が高くないにもかかわらず、甲状腺癌の罹患率は多発性骨髄腫と同じであり、ホジキン病の2倍となっています。また、頻度は食道癌や口腔癌、子宮頚癌などに匹敵します。さらに、内分泌器官の悪性疾患としてはいちばん多いものであり、死亡数はその他の内分泌腺の癌をすべて合わせたものよりも多くなっています。
1996年にアメリカ癌協会は、アメリカ全体で毎年15,600人(内分泌腺悪性病変の90%)が新しく甲状腺癌と診断され、1,210人がその期間中に死亡するであろうと見積もっています。これは、内分泌腺の悪性腫瘍に起因すると思われる死亡の64%を占めます。それでも、適切な治療を行なえば、甲状腺癌の生存率は非常に高いのです。アメリカでは、今までに推定500,000人の甲状腺癌患者が生存しており、中には診断されてから40年以上経っている者もいます。
甲状腺の癌は普通、濾胞細胞に由来するものですが、まれな髄様癌は濾胞周縁、またはC細胞から生じます。濾胞細胞に由来する癌(Follicular cell-derived cancers: FCDC)は、組織学的に4つのタイプに区別されます。圧倒的に多いのが乳頭癌で、その他の組織型は、濾胞癌、好酸性またはヒュルトレ細胞癌および未分化癌です。各々の腫瘍のタイプは、広がり方の初期モードやその後の再発や転移のパターンに大きな差があります。甲状腺癌の術前診断において細い針を使った吸引による生検(FNA)が、重要な役割を果たしていることはほとんど疑いありませんが、その後の管理における各ステップで論争が起きているのです。論争の一部は、先行的臨床治療比較対照試験がないということと、施設や国の患者管理経験から出た過去のデータは、新しい治療法が不適切なコントロールと比較されていることが多く、今までずっと信頼できなかったことに原因があります。特に初回手術での切除範囲や広範囲な領域リンパ節切除の必要性、およびFCDCにおける術後の放射性ヨードによる残留組織への内部照射(Radioiodine remnant ablation: RRA)、そして長期的な甲状腺ホルモン療法における甲状腺刺激ホルモン(TSH)抑制の程度に関して相当な議論が続いています。
甲状腺癌患者の結果を予測する予後ファクターの重要性が最近認識されてきましたが、それにより臨床家がそのような患者に対しより正確なカウンセリングができ、術後の補助療法の選択肢をさらに絞ることができるようになりました。
ほとんどの甲状腺癌患者は治りますが、腫瘍の再発が臨床的にはっきりするまでに何年もかかることがあるため、個々の甲状腺癌患者での腫瘍の様態の監視やラボ検査の程度に関して決定する際には妥当な判断を下すようにする必要があります。
ほとんどの甲状腺癌患者はまず最初に外科的な治療を受けます。次に、ほとんどすべての患者が毎日甲状腺ホルモンを補うための投薬を受けるようになります。患者の中には術後に放射線の外部照射が必要な者もおり、FCDCの多くには最近RRAを行なうことが勧められています。化学療法が必要な患者はほとんどいませんが、患者は全員適切なイメージングと甲状腺に特異的なマーカーの測定を組み合わせて、腫瘍再発がないか定期的にスクリーニングを受けます。
甲状腺癌患者の最適なケアのためには、内分泌学や外科、病理学、核医学、放射線治療学、内科腫瘍学、臨床化学、および放射線診断学などを含む複数の専門分野からなる医師のチームが必要と思われます。
臨床内分泌病専門医は、甲状腺癌患者の総合的ケアの調整と、必要があれば、複数の専門分野からなるチームの他のメンバーの協力を取り付けるいちばんの適格者であります。この臨床ガイドラインにより、アメリカ臨床内分泌病専門医協会(AACE)は、最近認められた甲状腺癌の管理法についてさらに理解を深めていただければと思っております。医療ケアのコストが上がり続ける時代において、このガイドラインが重きを置いていることは、良質のケアを費用効率のよいやり方で供給し、予後の良い患者に過度な侵襲を加えたり、まれであるが腫瘍の再発のリスクが高く、癌で死亡する可能性のある患者に不適切な治療を行なったりするのを避けるということです。

診 断
ほとんどの甲状腺癌患者の最初の診査は、原発性の甲状腺内の腫瘍または転移によるリンパ節肥大のどちらかを示していると思われる頚部のかたまりの触診です。しかし、一部の患者では腫瘍が臨床的に潜在性であり、触診で触れない病変が高解像度頚部イメージング、または良性の甲状腺腫瘍と思い手術を行なっている最中に初めて認められることがあります。甲状腺の髄様癌(髄様癌)または多発性内分泌腺腫症タイプ2(MEN II)の家族歴のある患者では、RET発癌遺伝子変異(発端者(プロバンド)と同じ)かカルシトニンレベル増加 (または刺激試験によるカルシトニンレベルの増加) 、またはその両方が見出された場合、選択的な予防的甲状腺切除が必要になると思われます。
そのような患者では、外科病理学者の顕微鏡でしか見ることのできない早期の髄様癌が確認される可能性があります。
病歴や身体的検査の特徴から、間違いなく甲状腺の悪性病変と診断できるようなはっきりした証拠が得られることはめったにありません。甲状腺癌の診断には、細胞や組織材料から病理学的な裏付けを取ることが必要です。“甲状腺結節の診断と管理のためのAACE臨床ガイドライン(Endocrine Practice、1月/2月1996年発行、78から84頁参照)の中に詳しく説明されているように、術前に良性の結節か悪性の結節かを見分けるにはFNA生検がいちばん効果的な方法です。しかし、癌の診断はすべて患部組織を外科的に切除した後に、組織学的材料を丁寧に調べ、確認されなければなりません。このアプローチは、特に細胞学者により“疑わしい”濾胞性細胞またはヒュルトレ細胞の新生物と記載された濾胞性病変の問題に関連があります。濾胞癌の診断(ヒュルトレ細胞の変異も含む)は、甲状腺被膜または隣接する血管(血管浸潤)のどちらかにミクロの浸潤のあるなしを切除標本の連続切片で念入りに診査するプロセスが特に必要となります。術中に採取した凍結標本で濾胞癌、またはヒュルトレ細胞癌であることが退けられたとしても、切除標本を複数のパラフィン埋包切片にして、再度丁寧に見直さなければなりません。
普通、FNA生検により、いちばん最近の患者シリーズでも臨床的に認められる甲状腺癌の75%以上を占める乳頭癌の診断を確定することができます。実際に、乳頭癌の診断に用いる核異常の特徴がいちばん多く見られるのは、凍結切片やパラフィン埋包組織の中よりもFNA生検標本の細胞検査用プレパラートの中のはずだと主張する権威者もおります。髄様癌もFNA生検ですぐに診断がつくと思われますが、あいまいなケースでは、コンゴーレッドを使ったアミロイド染色法か、細胞質内カルシトニンの免疫ペルオキシダーゼ染色により、術前の確定診断を行なうことができます。先に述べたように、濾胞癌は組織材料よりも細胞学的材料に基づいて診断できることはめったにありません。未分化癌はFNA生検で診断がつくことが多いようです。しかし、甲状腺に転移した癌との区別がつきにくいことも時にはあります。生検標本で陽性の所見が出た場合、サイログロブリンの免疫染色が未分化癌の診断の確認に役立つことがあります。甲状腺リンパ腫をFNAで診断することは難しく、確認のために試験切除(open biopsy)やBリンパ球とTリンパ球に特異的な免疫染色法が必要となることがあります。

治 療
乳頭癌
乳頭癌は片側性の甲状腺のかたまりとして現れることが普通ですが、生物学的には、多中心性で両側に発生することが多い疾患です。主にリンパ管を通じて甲状腺の外側、頚部の中央部や外側の局所リンパ節、時に縦隔上部に広がります。初回治療のねらいは、原発性腫瘍と局所周辺に広がったものを適切に切除することです。初回手術で切除する際の最適な範囲に関しては、相当の議論が戦わされております。ある外科医師は頚部診査時に対側の甲状腺葉の関与が全くない状態であれば、ルーチンに片側葉切除を行ないます。また、他の外科医師は、治療方法として甲状腺全摘出を選択します。その一方で、多くの施設ではいわゆる甲状腺亜全摘と呼ばれる方法を好んで行なっています。それは、主な腫瘍のかたまりを含む方の葉を完全に摘出し、対側の葉は副甲状腺への血液供給を確保できるだけのわずかな甲状腺組織だけを残して、ほぼ全部摘出するという方法です。片側葉切除では反回神経麻痺や重篤な副甲状腺機能低下症を起こすことはまずありません。しかし、ほとんどの施設で、術後の副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症を起こしてくるリスクがいちばん高いのは、甲状腺全摘出後です。このリスクは、日常的に甲状腺全摘出術を行なっている熟練した内分泌腺外科医または頭頚部外科医の手にかかれば、2〜3%のリスクにまで下げることが可能です。しかし、甲状腺摘出を行なっているほとんどの外科医師の場合では、甲状腺腺亜全摘出後の病的状態は葉切除後に見られるものとほぼ同じであり、甲状腺全摘出後のものよりかなり低くなっています。
いちばんリスクの低い乳頭癌患者では、片側葉切除以上のことを行なってもほとんど利点(生存に関して)はありません。しかし、乳頭癌は潜在的に多中心的で両側性の疾患であるため、片側葉切除後に局所に再発してくるリスクは小さいながら、長期的にはかなりのものとなります。熟練した外科医師の一部は、自分達の手にかかれば、(2次的に)“完全な”甲状腺摘出後に病的状態になるリスクは最小限しかないと主張するでしょうが、ほとんどの地域の施設では、2次的な頚部探査で術後の病的状態を起こすリスクが著しく増加する可能性があります。
1996年に行われたアメリカ甲状腺専門医の調査では、乳頭癌の1次外科治療としていちばん好まれていたのは両葉切除でした。片側葉切除後の再発のリスクが増すことと、甲状腺全摘出後に副甲状腺機能不全症のリスクが高まることから、乳頭癌の1次治療には甲状腺亜全摘出が最適な方法ではないかと思われます。熟練者の手によるのであれば、甲状腺全摘出も容認できる方法であろうかと思います。しかし、今までのところ甲状腺亜全摘出後にくらべて甲状腺全摘出後の死亡率や再発率が少ないということを示すはっきりした証拠は全くありません。良性腫瘍のための甲状腺葉切除では、たまたま微細な乳頭癌(<1cm)が付加的に見出されることがしばしばあります。そのような微細な癌は、たとえあったとしても患者にほとんどリスクはありません。したがって、一般的にそのような例では対側の葉切除による完全な甲状腺全摘出は必要ないでしょう。リンパ節転移も頚部の診査で乳頭癌患者の約40%に認められます。しかし、小児と若年者ではリンパ節が冒される頻度は60%から90%となります。最初から頚部リンパ節に転移がある場合は、腫瘍の再発が起こってくるリスクが高くなります。ほとんどの権威者は、乳頭癌でリンパ節転移があることが、離れた場所へ広がったり、または癌に関連した死亡のリスクを高めることにはつながらないと考えていますが、頚部両側または縦隔リンパ節に転移がある場合は、癌による死亡率が高くなることを示す研究もいくつかあります。リンパ節への転移は比較的普通に見られるため、最初の外科的探査の際に正中部のリンパ節(気管傍リンパ節と気管食道リンパ節)を丁寧に調べ、疑わしいものは除去するようにしなければなりません。経静脈領域にあるリンパ節も丁寧に調べ、疑わしい時は生検標本を採取するようにします。リンパ節への転移が確認された場合は、Modified radical neck dissectionが適応になります。乳頭癌患者では、機能喪失を起こす可能性のあるそれ以上の頚部郭清術の適応はありません。さらに、乳頭癌患者では、特に触知できるようなリンパ節腫脹がない場合、予防的な広範な頚部郭清術(Radical neck dissection)を正当化する確実な証拠はありません。
濾胞癌またはヒュルトレ細胞癌
FNA生検で“濾胞性新生物が疑われる”細胞が見出された場合、浸潤性のFCDCが見られる可能性は10から15%に過ぎません。術中の凍結組織切片の分析に基づいて、濾胞癌の診断を下したり、退けたりしようとする外科病理学者はほとんどおりません。したがって、外科医師の多くはそのような検査を要求せず、最初の外科的介入から1日から数日待つことを受け入れますが、その間に切除された組織標本の連続切片を病理学者が念入りに調べるのです。
凍結組織切片で信頼性のある濾胞癌診断ができると考えている施設では、組織学的に癌と診断されたケースに対し、最初の手術で両側葉切除(甲状腺亜全摘出術または甲状腺全摘出術のどちらか)を行なっています。しかし、多くの施設では、最初に葉切除を行ない、パラフィン埋包組織切片中に濾胞癌が見つかった場合は、患者を手術室に戻して、甲状腺の全摘出を行ないます。熟練者の手にかかれば、この第2の方法にも病的状態を起こすリスクを伴うことはほとんどありません。しかし、濾胞癌患者の多くは凍結組織切片による診断が信頼性の高いものであるとしても、手術は1回の方がいいと思っています。乳頭癌とは対照的に、濾胞癌に頚部リンパ節への転移があることは例外ですが、これらの患者には濾胞癌の好酸性細胞またはヒュルトレ細胞変異形が見られることが幾分多いようです。Radical neck dissectionは不適切です。先に乳頭癌患者について述べたように、Modified radical neck dissectionを行ないます。
髄様癌
髄様癌は、散発的な場合と家族性のものとがあります。今までは、髄様癌の70%以上は散発的なものであると考えられおり、そのような腫瘍は単中心性で一つの葉内に限局する傾向があります。それとは対照的に、家族性の髄様癌は、親族内に発生する多発性内分泌腺腫症タイプ2(MEN II)で、両側性、多中心性の経過をとる傾向があります。RET腫瘍遺伝子変異のスクリーニング法が導入される前は、散発性のタイプと家族性のタイプを見分けることが難しかったため、初期治療は、両側の腺葉に発生している可能性があり、また局所リンパ節に転移していることも多い疾患の根絶を図るものでした。したがって、髄様癌の初期治療では、甲状腺全摘出術にルーチンな頚部正中部のリンパ節の除去と、臨床的に外頚リンパ節の関与があればModified neck dissection(胸鎖乳突筋は保存)を組み合わせて行うよう勧められることが多かったのです。散発性であることが明らかで、なおかつ甲状腺の一つの腺葉内に限局した小さな腫瘍のある例外的な患者では、そのような外科的アプローチは侵襲が大きすぎると思われます。しかし、乳頭癌とは反対に、リンパ節転移があることにより髄様癌の予後に不利な影響を与える可能性があります。したがって、最初の外科介入時に念入りなリンパ節郭清を行なうことは筋の通ったことと考えられます。
希な癌腫
未分化癌や甲状腺に転移した癌、原発性甲状腺悪性リンパ腫はまれな甲状腺の病変です。診断がつくまでに、未分化癌の多くは、甲状腺から外側の頚部軟組織に広がっており、リンパ節転移もよく見られます。原発腫瘍を外科的に除去することが考えられますが、腫瘍を完全に取ってしまうことは不可能であることが多く、そのため放射線治療を好んで管理に使うことが多いようです。外科的治療は、分化度の高い新生物以外では、たまたま見つかった小さな未分化癌に対してより効果が高いと思われます。残念ながら、このようなことはめったにありません。甲状腺切除が2次的な悪性病変に対して行われることはまれです。それよりも、普通は全身的な化学療法、または姑息的放射線照射による原発性腫瘍の治療に注意が向けられます。甲状腺リンパ腫に適応される甲状腺切除の範囲については、診断後にほとんどの腫瘍の治療に頚部放射線照射や化学療法、あるいはその両方が使われるため、論議が続いています。

術後のステージング
過去10年の間に、国際癌防止連合(UICC)とアメリカ癌合同委員会(AJCC)は甲状腺の癌腫におけるステージングシステムのための規則に関し、合意に達しました。AJCC分類はTNMシステムに基づいたもので、それは3つの要素の評価によるものです。
原発性腫瘍の範囲(T)、局所リンパ節への転移のあるなし(N)、そして離れた場所への転移のあるなし(M)です。
これら3つの要素の数を足すことによって、悪性病変の範囲が示されます。
つまり、腫瘍のサイズの進行的増大や冒された範囲を示すことができるのです。TNM分類は治療前に得られた証拠(FNA生検を含む)に基づいた臨床TNM(cTNM)、あるいは術中および外科病理学的データが入手できる場合の病理学的TNM(pTNM)のどちらでもかまいません。もちろん、原発性腫瘍の正確なサイズが特定でき、組織学的タイプの確認が可能で、甲状腺外浸潤も明確に示されるため、pTNM分類の方が好ましいのです。
通常は、原発性腫瘍の状態は、原発性病変のサイズ(T1, 最大直径が1cm以下;T2, 最大直径が1cm以上4cm以下;T3,4cm以上)または甲状腺外に直接広がっているか、あるいは甲状腺被膜を通って浸潤がある(T4)かに基づいて定められます。
甲状腺癌には4段階のT、2段階のN、そして2段階のMがあるため、TNMを16の異なったカテゴリーに分けることができます。要約と分析の目的のため、AJCCはこれらのカテゴリーを使いやすいTNMステージの数にまとめました【表1】。
【表1】
表1
一般的に、頭部や頚部の癌はすべて解剖学的な広がりの範囲に基づいて段階分けされるのですが、甲状腺癌の段階分けは、予後に重要な影響があるため、組織学的診断と患者の年齢を含める点がユニークです。
このステージングシステムにもとづけば、若いFCDC患者(年齢45歳未満)は離れた場所に転移がなければすべてステージIとなります。−この状況では、ステージIIのものも存在するだろうと思われます。年齢の高い患者(45歳以上)で、リンパ節転移のない乳頭状または濾胞状の微小癌があるものはステージIとなります。腫瘍のサイズが1.1cmと4cmの間のものはステージIIとなり、年齢の高い患者でリンパ節転移があるか、または甲状腺外への浸潤のどちらかがあるものはステージIIIに分類されます。髄様癌に関しては、体系は同じで、微小癌はステージI、そしてリンパ節転移がプラスのものはステージIIIとなります。ただし、髄様癌には年齢による区別はなく、局所(甲状腺外)浸潤があればステージIIとされます。髄様癌患者と年齢の高いFCDC患者では、ステージIVは離れた場所に転移があることを表わします。腫瘍の範囲には関係なく、未分化癌のある患者はすべてステージIVと見なされます。
pTNMシステムは、もっとも広く受け入れられている甲状腺癌のステージングで、疾患の広がりの範囲の評価に使われる道具としてAACEもこれを推奨しています。これはアメリカの病院が甲状腺癌の新しい症例を報告する際に使う標準システムです。実際には、甲状腺癌の臨床的広がりを表わす“略号表記”です。しかし、これが特定のリスクグループに入る一人の患者を分類するために、臨床家が必要とするであろうすべての情報を与えてくれるものではありません。リスクの特定を修正し、より正確なものにするためには、厳密な多変数分析で、結果の独立予測因子として表わされる別の予後指標を考慮する必要があると思われます。

リスクグループの特定
FCDCと髄様癌の両者に関しては、初回診査時の年齢、腫瘍のサイズ、甲状腺外浸潤または最初から離れた場所に転移があることが、腫瘍の再発と特定原死亡率の両方にとっていちばん重要なリスクファクターとなります。初回検査時にリンパ節転移があっても乳頭癌による死亡のリスクにはほとんど影響がないようですが、局部に再発するリスクは増加します。そのような転移が濾胞癌に存在する場合(極めてまれ)は、重大な影響があると思われます。
髄様癌では、初回診査時にリンパ節転移の証拠があれば、それは再発と死亡率両方のリスクが高いということになります。腫瘍のステージは乳頭癌においては確立されたリスクファクターですが、ルーチンな術後組織学的検査で評価されることはめったにありません。濾胞癌では、広く受け入れられるようなステージングシステムがまだ作られていません。しかし、分化度の低い濾胞癌の腫瘍は広い範囲に浸潤することが多く、分化度が高く、被膜内に留まり、最小限度の浸潤しかない腫瘍に比べ、予後ははるかに不良です。
非常に希な好酸性細胞や長形細胞または円柱細胞の変異形は除かれることがありますが、乳頭癌の組織学的亜型は予後に対する重要性はほとんどないように思われます。濾胞癌では、好酸性細胞型亜型は結節の再発がさらに起こりやすく、分化度の低い“insular”濾胞癌は死亡のリスクが著しく高くなります。
DNA異数性は乳頭癌または典型的な濾胞癌のどちらにとっても予後を左右する重要なファクターではないようですが、髄様癌と好酸性細胞性濾胞癌のどちらにおいても、死亡率の予測に重要性を持つことは明らかであります。アミロイドのコンゴーレッド染色は、長い間髄様癌の診断の確認に使われてきました。
最近、それが髄様癌による死亡に関連する予測因子であり、アミロイド染色の欠如はよくない徴候であることがわかりました。肉眼で見える残存腫瘍のあるなしではっきりするように、原発性の腫瘍切除が完全に行われたかどうかも髄様癌とFCDCの結果を左右します。最後に、癌の診断後に治療の実施を遅らせることも、FCDCでは予後に悪い影響を与える因子となることが最近明らかになりました。
これらの予後に関連するファクターの知識から、過去20年間に数種類のステージングまたはスコアリングシステムが生み出されました。これらのシステムは広範な分析から割り出されたもので、FCDC患者を特定原因死亡率に関し、低リスク、中等度、高リスクのカテゴリーに分類することができます。癌に関連した死亡のほとんどは、局所または離れた部位での生物学的に重要な意味のある再発という現象を介しているため、これらの分類法により、原発腫瘍の全摘出を受けた患者の腫瘍再発率に関連したデータも得られるのです。1979年にヨーロッパ癌治療研究機関(EORTC)により考案されたオリジナルの予後インデックスシステムを作る際に使われた変数と、1987年から1995年の間にアメリカの施設で定められた、別の6種類分類法で使われたものとを【表2】に対比させてあります。
【表1】
表2
目に付く点は、これらの分類法すべてに甲状腺外浸潤と離れた部位への転移が含まれていることです。ほとんどの分類法に、患者の年齢や腫瘍のサイズが入っています。大多数は組織学的タイプを考慮に入れています。リンパ節転移と患者の性別を考慮しているものも2〜3あります。組織学的段階や多発性(3個以上)腫瘍の有無を含めているものもあります。初回外科的切除後の肉眼的残存腫瘍の有無を含めている分類法は一つだけです。

このような分類法を使うことにより、初回頚部探査後1日以内にすぐ入手できるデータにのみ基づいて、個々のFCDC患者を特定のリスクグループのカテゴリーに分類しやすくなります。そのような分類によって、特定原因死亡率のリスクが低い患者であるFCDC患者の大多数(80〜85%)を相当正確に見分けることができます。それから、補助治療と密なフォローアップをリスクの高い患者に集中して行なうことができ、その一方でリスクの低い患者には介入度のより低いアプローチ法を使うことができます。
髄様癌患者では結果を予測するための新しい予後スコアリングシステム開発の試みはあまりなされておりません。
それにもかかわらず、髄様癌に対しては、UICC−AJCCのステージングシステムが再発と死亡率の両方に高い予測性を持つものとして、広く受け入れられています。FCDCでそうであるように、不完全な腫瘍切除後の肉眼で見える残存病変の存在は独立した、予後不良の徴候となります。同様に、コンゴーレッドで染まったアミロイドの存在が予後に関する情報を与えてくれます。さらに、腫瘍のステージや肉眼的残存病変の有無を知ることができます。
修正したステージングシステムは死亡率増加に関係する3つの独立予測因子の有無に基づいて考案されました。ステージIIIまたはIVの疾患、腫瘍の不完全な摘出、そしてアミロイド染色が存在しないというものです。
実際にそのようなファクターを一つも持っていない髄様癌患者が死亡することはありませんが、3つの有害ファクターすべてを持っている患者はほとんど例外なく髄様癌で死亡します。これらのリスクファクターの内1つか2つを持っている患者は、生存すると予想されますが、その期待値は低いか、または中等度です。

補助的治療
甲状腺ホルモン剤
甲状腺ホルモン剤に対する術後の甲状腺抑制療法は、生理的な量以上のレボサイロキシン<注釈:チラージンS>の経口投与に基づいたものです。この治療法は40年以上にわたって広く使われてきました。そして研究者はTSHの内部産生を抑制することにより、TSH依存性の分化型FCDC細胞の成長促進に対する重要な影響が消えてしまうのではないかと推測しています。伝統的に、サイロキシン療法の目標は、下垂体のTSH分泌の完全抑制であり、それは感受性の高い免疫学的定量アッセイによる測定により感知できない程の血清TSHレベルや、または以前に行なわれていたサイロトロピン放出ホルモン(TRH)の静注や経口投与に反応した血清TSH増加が見られないことなどによって示されるものです。甲状腺抑制療法の効力は、対照試験がないため評価が難しく、そのため過去20年間に手術を受けたほとんどの患者に対しては十分な根治手術が行われ、術後の甲状腺機能不全を防ぐためのサイロキシン補充療法が必要であったのです。単変数分析では、サイロキシン療法は明らかに乳頭癌患者の癌に関連した死亡率を減少させます。しかし、シリーズ(一連の患者集団)の中にはこの生存効果が50歳以上の患者に限られるものもあり、リスクファクターに基づいて乳頭癌患者の層化を行なうとこの効果の有意性はなくなります。多くのシリーズでは、乳頭癌と濾胞癌の両者において腫瘍再発率の減少が報告されています。髄様癌患者では、その腫瘍がC細胞由来の場合はサイロキシン抑制療法が必要でないことは明らかですが、そのような患者で、甲状腺亜全摘、または全摘を行なった後にはサイロキシン補充療法が必要となります。
利用できる感受性の高いTSHアッセイが増えてきたため、サイロキシン抑制レベルの綿密な測定が可能になってきました。<0.1mIU/Lの基礎血清レベルは、サイロトロピン放出ホルモン(TRH)テスでのTSH無反応と同等と考えられており、以前はFCDCでの適切なTSH抑制の証明とみなされていました。
過去10年間に、多くの研究でサイロキシン抑制が骨の代謝や骨密度に及ぼす長期的影響が述べられてきました。最近の研究では、骨密度に対する有害な影響は明らかにされてはいませんが、サイロキシンを抑制したTSHレベルでは骨の代謝回転が促進されることが確かめられています。そのようなケースでは、骨密度が失われることが懸念されます。甲状腺ホルモンの抑制レベルの投薬を受けている患者では、心房性細動のような循環器系の異常も起こりえます。
FCDC患者がスコアリング、またはステージングシステムに基づいて、再発や死亡率のリスクが高い、あるいは残存した、または再発した癌腫を外科的に、または放射性ヨードやその他の治療法で根絶することができないとみなされた場合、サイロキシンの抑制によりTSHレベルを0.1mIU/L以下か0.1mIU/L近くに維持することが次の目標となるでしょう。
しかし、乳頭癌患者のほとんどは、予後のスコアリングシステムでリスクが低い方に分類されるため、今では一般的に臨床家はTSH抑制はそれ程厳しくしなくてもよく、その目標となる基準血清TSHレベルは0.1mIU/Lから0.4mIU/Lの範囲でよいと信じています。ただ、今までのところ先行的研究で、この方法により、完全にTSHレベルを抑制する従来のアプローチ法より優れた、または同じような結果が得られるということは示されていません。このことから、甲状腺癌患者に対するサイロキシン治療では個別に臨床的判断を下すことの必要性に重きが置かれます。
残置甲状腺組織の破壊
FCDC患者に対し、2番目に多く使われる補助療法は、放射性ヨードを使った残置組織の破壊です。
Radioiodine remnant ablation(RRA)は、“外科的に甲状腺を摘出した後の肉眼的に正常な残存甲状腺組織の破壊”と定義されています。
普通、RRAはFCDCが完全に切除された、すなわち初回頚部探査終了時に肉眼的病巣の存在を示す報告がない場合、患者の初期治療の締めくくりとして使われます。RRAは、“潜在的に有効な”外科治療を受けたFCDC患者に行なわれる治療法であり、より大きな投与線量の131-Iを使って、頚部の残置病巣や離れた場所に転移した病巣の破壊を試みる放射性ヨード(RAI)治療と混同してはなりません。

RRAの支持者は、この補助療法には少なくとも3つの利点があると述べています。まず最初に、正常な甲状腺細胞内に放射性ヨードが積極的に閉じ込められることにより、残存甲状腺内にある潜在性の微小癌をRAIが破壊すると信じられていることです。2番目には、残存している正常組織を破壊することにより、後にRAIスキャンで、特に頚部の残置病巣または再発病巣が見つけやすくなるということです。最後に、RRAを行なうことにより、フォローアップ中の血清サイログロブリン(Tg)測定価値を高めることです。これは予後のスコアリンまたはステージングシステムにより、腫瘍の再発や特定原因による死亡のリスクが低いと分類されたFCDC患者においても、多くの医師にRRAを考慮させるに足る効果であります。しかし、他の研究者は、結果が改善されるという証拠がないため、そのようなリスクの低い患者にRRAを行なうことを勧めてはおりません。リスクの低い患者におけるRRAの問題はまだ未解決のままです。:臨床的判断と経験に従い、ケースバイケースで決めるようにする方がよいでしょう。
過去にRRAに使われる131-Iの標準線量は、75から150mCi(2,275から5,550MBq)の間でしたが、最近ではアメリカの施設の多くは25から35mCi(925から1,110 MBq)の低線量治療を、特に甲状腺残存組織の量が少ない患者に対して、行なっております。この低線量治療には、入院が不要(アメリカでは)で、費用が安くなり、全身的な照射量が低くなるといういくつかの利点があります。破壊量のRAIを投与した後の体全体の平均被爆量は、30mCi(1,110 MBq)に対し6.1rem、50mCi(1,850 MBq)に対し8.5rem、60mCi(2,220 MBq)に対し12.2remと見積もられています。
RAIスキャンニングの前に最適な準備を行なうことにより、うまく残存組織の破壊ができるのです。普通はFCDC患者にトリヨードサイロニンの術後投与を行ないます。若い成人に対しては、25mgを1日2〜3回投与しますが、年齢の高い患者では25mg/日しか投与しないこともよくあります。通常、トリヨードサイロニンは4週間投与され、2週間中止します。その時点でRAIスキャンを行なうのです。内分泌病専門医の中には、術後に甲状腺ホルモンの投与を行なわずに、ホルモン補充なしに5〜6週間経ってスキャンを行なうことを好む者もいます。最適なスキャンの結果を得るためには、血清TSHレベルが少なくとも30mIU/Lでなければなりませんが、甲状腺亜全摘または全摘の後では150から200 mIU/Lのレベルにまで達することもあります。TSHのレベルが30mIU/Lより低い場合は、スキャンは延期し、さらに1〜2週間経ってからTSHレベルの再評価を行なうようにします。近い将来、そのようなホルモン離脱療法は、組み替え型ヒトTSH(rhTSH)の非経口投与にとって変わられる可能性がきわめて高いと思われます。最近発表された研究では、このもう一つのアプローチには効果があり、副作用も最小限であることが明らかにされています。最初の研究は、RAIスキャンニングにおけるrhTSHの実用性を示すことに目標をおいていました。しかし、将来はrhTSHがFCDC患者のRAI治療の準備に使われるようになると思われます。
外照射
外照射が、FCDC患者の初期管理で補助療法として使われることはまれです。しかし、RAIが集積しない分化度の低い(組織学的グレードが高い)腫瘍を有する患者には効果がある可能性があります。
また、肉眼的に局所浸潤が認められたり、最初の外科治療の後に微小な病巣が残存していると思われるFCDC患者の術後管理においても考慮される可能性があります。同じようなことが、局所浸潤のある髄様癌患者に対しても言えます。しかし、術後に高カルシウム血症があるのに画像上や臨床的に残置した病巣があるという証拠が見られない髄様癌患者の頚部や外套に外部照射をしても、はっきりした効果は認められません。分化度の低い甲状腺悪性病巣に関してはかなり状況が異なります。未分化癌に対しては、生検や腫瘍の亜全摘後にほとんどルーチンに放射線照射療法が行われます。同様に、原発性甲状腺リンパ腫のある患者では、正確に疾患のステージングを行なった後で、ルーチンに甲状腺への外照射とマントル照射が行なわれます。
化学療法
分化型FCDCを有する患者では、化学療法は外科的に切除できず、RAIに反応しない腫瘍で、放射線外照射による治療が行われたか、または反応しない場合に限られます。このような特別な状況では、化学療法との組み合わせがドキソルビシン単独の治療に比べて優れているようには見えません。残念ながらどちらのプログラムでも腫瘍の退縮を見る例はそれ程多くありません。補助的化学療法が髄様癌の1次管理に用いられることはめったになく、正当な理由もないと思われます。これに対して、播種性甲状腺リンパ腫では最初の外科的介入の後に選択される治療に決まって入れられるのは、アントロサイクリンを基にした化学療法です。−通常はCHOP療法−サイクロフォスファミド、ハイドロキシダウノマイシン(ドキソルビシン)、オンコビン(ビンクリスチン)、プレドニゾン。未分化癌患者では、外科的治療や放射線療法、または化学療法単独では生存率が変わることはありません。ドキソルビシンとシスプラチンを組み合わせた治療に反応したという報告が2〜3ありますが、未分化癌に対し、単一の薬剤でもっとも効果の高いものはドキソルビシンです。未分化細胞癌では、残念ながら複数の治療を組み合わせたものでしか、局所のコントロール率改善とそれによる窒息死を避けることができません。

長期経過観察(フォローアップ)
腫瘍マーカー
血清Tgの測定で術前に良性の甲状腺腫瘍とFCDCの鑑別をすることはできませんが、そのような患者の術後調査においては中心的な役割を持っています。
甲状腺全摘や外科治療とRRAの組み合わせにより甲状腺組織を完全に取り除いた後、Tgのレベルの増加がFCDCの転移の存在に対する有効な指標となり得ます。一方で、正常値以下、または検知できない量のTgレベルであれば、かなり高い信頼性を持って転移がないことを示しています。Tgの測定は、患者が甲状腺ホルモン抑制療法を受けている間に行われ、FCDC患者の90%以上で病状を正しく反映するものです。しかし、患者の中にはサイロキシン投与によりTgが抑制される者もおり、そのため一部の研究者は、高リスクのFCDC患者では、サイロキシン治療を中止し、甲状腺機能低下の状態になってからTgレベルの測定を行なうべきだということを主張しています。Tgレベルの増加が転移部での治療用RAI取り込みを同じように予測するものではないことに注意しなければなりません。すなわち、TgアッセイはFCDC患者の術後管理におけるその後の全身RAIスキャンの必要性を減らすことはできますが、代わりとなるものではありません。
ほとんどのTgアッセイは、Tg自己抗体(AAb)の存在により無効になってしまうため、すべての検体に対してその自己抗体が存在するかどうかのスクリーニングをルーチンに行なう必要があります。
そして担当ラボは、Tgレベルの測定値が誤って高くなったり、低く出たりする程のAAb濃度がある場合は、臨床家に警告しなければなりません。都合のよいことに、これらAAbは時間が経つにつれて減少することがよくあり、何ヶ月または何年か経過した後に実質的な干渉作用は消えてしまう可能性があります。したがって、TgAAbの存在が1回以上見られたからといって、FCDCを有する一人の患者に対して行なったTgアッセイが役に立たなかったことを意味するものではありません。現在では、多くのラボがそのようなAAbの存在により簡単に影響されることのないTgの免疫学的アッセイの開発を試みています。ただし、今日までそのような特性を持つアッセイはまだ利用できる段階になってはいません。術後管理に血清Tgレベルを使うにあたっての2番目の問題点は、血清Tgアッセイの規格化が十分になされていないという事実に関係しています。;この矛盾があるため、意思決定の際に異なった研究者により使われているTg値が様々に異なるのです。臨床家の多くは、イメージングの必要性を見たり、疾患の存続や再発の可能性を探るために、患者が抑制療法を受けている間は5ng/mLを超えるTgレベルを、甲状腺機能低下の状態にある間は10ng/mL以上のTgレベルを異常とみなします。
ほとんどのFCDC患者は術後最初の1から3年の間、Tg測定と適切なスキャンニングを組み合わせたフォローアップを受けます。今では多くの医師が、血清Tgレベルが5ng/mL以下であれば、たとえ患者がサイロキシンを服用していたとしても、血清Tgレベルの測定だけで、甲状腺の全摘、または亜全摘を行なったFCDC患者のモニターができると信じています。
Radioiodine remnant ablation(RRA)治療を受けていない患者ではTgレベルの信頼性が低くなることがあるため、評価がさらに難しくなります。しかし、通常はそのような患者で、適切な抑制療法を受けている間に測定された血清Tgレベルが10ng/mL以上であれば、今後さらなる管理された調査が必要であることを示唆しています。
髄様癌患者に対し、診断とフォローアップの両方に使われる古典的腫瘍マーカーは、免疫反応性カルシトニン(iCT)レベル−基底値と刺激値です。RET腫瘍遺伝子変異のある若い患者では、ごく初期の転移前の段階で治療が行われた場合、術後のiCTレベルが正常に戻ることがよくあり、ペンタガストリンまたはペンタガストリンとカルシウムを組み合わせのどちらかで刺激した後のピークレベルも正常範囲内におさまることがあります。散発性の髄様癌を有する成人患者で、術後iCTレベルが正常になったり、ペンタガストリン刺激に対する正常な反応が戻ることがめったにないことから、AJCCステージIII(リンパ節転移あり)の病巣の存在が明らかになることが非常に多いのです。
一般的に、iCTレベルの基底値と刺激後の値は、ある程度腫瘍の大きさに比例しています。外科的根治治療を受け、最初の手術後に肉眼的に残存病巣が見られない髄様癌患者の多くで、臨床的にも、画像の上でも病巣が残っている証拠がないのにiCTレベルが上昇するということもまた事実であります。実際、そのような状況は、術後数年間にわたって存在することがあり、徐々に増加するiCTレベルが必ずしも、疾患のステージにより予測された以上に予後が相当に悪化していることを意味するものではありません。
髄様癌に対するもう一つの主な腫瘍マーカーは、見逃されることが多いのですが、すぐに測定できる癌胎児性抗原(CEA)です。一般的に、悪性度のより高い髄様癌でCEAレベルが高く、一方、iCTレベルはより分化度の高い髄様癌で高くなります。;このことから、一部の権威者は、術後のCEAレベルの増加が、浸潤性の高い再発腫瘍と関連している可能性が高いことを示唆しています。
画像診断
正常な甲状腺組織または新生物のどちらかに131-Iが特異的に取り込まれるため、長年の間このアイソトープによる全身スキャンがFCDC患者の術後フォローアップに使われています。このタイプのイメージングの主な利点は、腫瘍が131-Iにより全身スキャン上で眼に見えるようであれば、治療用RAIで治療できる可能性がきわめて高いということです。患者に正常な甲状腺組織がほとんどまたは全く残っていない場合に、全身スキャンがもっとも有効であることは明らかであります。大量の甲状腺組織が頚部に存在している場合は、スキャンは“スターバースト”効果を示すことが多く、このためそれ以外の場所への取り込みを眼にみえるようにすることはほとんど不可能です。もっとも一般的なのは、2〜5mCi(74〜185MBq)の131-Iを使って行われる全身スキャンで、48時間と72時間の取り込み量が測定されます。一部の研究者はもっと高い投与線量でスキャンニングを行なう方を好みますが、RAI治療に応じる転移病変のほとんどは、2〜3mCi(74〜111MBq)の131-Iの診断用投与線量を使えば甲状腺のない患者では見逃されるということはまずありません。131-Iのスキャンニング用投与線量を多くすると、甲状腺の“虚脱”を起こす可能性があり、それにより131-Iが集積している組織は、治療用RAIのその後の取り込みが逆に減少するように、スキャンニング線量が傷害を起こす可能性が十分にあります。普通、全身のスキャンは甲状腺全摘手術後6〜8週間以内、またはRRA後3〜6ヶ月以内に行われます。スキャンでマイナスの結果が得られた後、Tgレベルが相当に増加したり、腫瘍の再発の可能性をうかがわせる臨床所見がある場合にスキャンニングを再度行なうことがあります。FCDCと髄様癌の再発はほとんど頚部に起こるので、イメージングの最初の目標を頚部の中央部と側面に絞るようにします。高解像度コンピューター断層撮影や磁気共鳴断層撮影(MRI)などがこの目的に使われてきましたが、リアルタイムの高周波超音波検査法を日常的に使っている多くの施設では、このイメージング法が有益であることを見出しております。イメージングを行なうとすれば、感受性が高く、安価で、診察室で実施しやすい超音波検査法が好まれます。
超音波検査上で、疑わしい甲状腺支持組織の結節やリンパ節が認められたら、直ちに超音波ガイド下で生検用標本の採取ができますが、この方法では安全に診断用組織を採取するためにさらにトレーニングと経験をつむことが必要になります。FCDC患者で、全身スキャンと頚部超音波検査はマイナスでも、血清Tgレベルの上昇があり、臨床的に再発が強く疑われる場合は別のイメージングが必要となります。肺の転移病巣は普通この状況にあることが多く、胸部レントゲン写真で認められることがあります。また、転移病巣は微小結節を形成することが非常に多く、高解像度コンピューター断層スキャンニングでしか見えないこともあります。同様に、放射性ヨードを取り込まない潜在性骨転移病巣は、アイソトープによる骨スキャンニングでしか場所を特定できないことが多いのです。腹腔内の転移腫瘍に対しては、音波診断やコンピューター断層撮影、磁気共鳴断層撮影(MRI)が非常に感度の高い方法となります。
頭蓋内や小さな縦隔内転移病巣に対しては、コンピューター断層撮影か磁気共鳴断層撮影のどちらかの方法が選択されることになります。FCDC患者がサイロキシン抑制療法を続けているか、またはTgレベルが増加している状態で131-Iによる全身スキャンがマイナスとみなされた場合、研究者の中には201-T1による全身のイメージングを考慮する者もいます。甲状腺癌の検知に関しては、201-T1は131-Iより感受性が高いが、特異性は低く、また131-Iの方が残存した正常な甲状腺組織の検知能力は高いということを示唆する研究がいくつかあります。201-T1によるイメージングでは、外科治療または放射線外照射治療に反応するであろう腫瘍を見分けたり、また治療線量が与えられた際に131-Iが集積する可能性のある肺転位病巣の確認が可能です。最後に、Tgレベルが上がっており、131-Iの全身スキャンがマイナスの患者で、別にイメージングを追加して行なうことなしに大量の131-Iの治療量を処方している権威者もおりますが、これはTgレベルのみに基づいて決定を行なう方法です。
髄様癌患者では、全身の画像で残存腫瘍、または再発した腫瘍の確認のため、数種類の核医学的方法が考案されています。おそらくいちばん有望な新作用薬はソマトスタチンのアナログであるオクトレオタイドでしょう。過去には、放射性ヨード化したメタヨードベンジルグアニジンか99m-Tc5価ジメルカプトコハク酸が使われていました。放射能でラベルした抗CEA抗体のスキャンニングへの利用は理論的に訴えるものがありますが、今日にいたるまで、乳頭癌患者の調査にこのイメージング法はめったに使われていません。

残存病巣または再発病巣
二次的な外科的介入
FCDCまたは髄様癌のどちらかで、頚部に(支持組織またはリンパ節)臨床的に明らかな、しばしば触知可能な病巣の再発が見られたら、気道部分も含めた浸潤のある局所組織の切除を伴う外科的切除を考えなければなりません。FCDCでは、万一縦隔に大きな転移病巣が生じ、活発な131-Iの取り込みがない場合にも外科的介入を考えなければなりません。肺の転移病巣が“孤立性”であると考えられることはまずありませんが、転移FCDCが肺の病巣部または隣接した肋骨(またはその両方)に限局している場合は、時に開胸術を考えることもあります。
FCDCの長骨への転移病巣は、特に病的骨折を起こす危険性がある場合、整形外科医により切除されることがあります。FCDCや髄様癌の脊椎転移による脊髄圧迫の危険がある場合は、減圧後に脊髄が安定する可能性があるので、特に神経外科医の介入が必要な場合もあります。明らかに孤立性の脳へのFCDC転移腫瘍では、症例を選んでの外科的切除が考えられます。
放射性ヨード
FCDC患者の131-Iによる全身スキャンで、転移病巣が見つかった場合は、一般的にRAI療法が行われることになります。線量により3種類の方法がありますが、いちばん広く使われている最も簡単な方法は、大量の固定線量の投与です。一般に、リンパ節に切除する程大きくない転移病巣がある患者は、100〜175mCi(3,700〜6,475MBq)で治療を受けます。局所に再発した浸潤性FCDCは通常150〜200mCi(5,550〜7,400MBq)で治療されますが、この量では放射線宿酔を起こしたり、他の組織に重大な傷害が生じることはありません。リスクの低いFCDCがあると考えられる患者では、この線量を100mCi(3,700MBq)に減らします。離れた場所への転移がある患者は200mCi(7,400MBq)で治療するのが普通です。131-Iの診断用線量の50%以上が集積するびまん性肺転位病巣では、肺の損傷を避けるために131-Iの投与線量を減らして治療を行なうことがあります。高リスクの範疇にある年齢の高い患者で、離れた場所に少しでも放射性ヨードを取り込む転移病巣がある場合は、300mCi(11,100MBq)もの線量で治療を行なうことがあります。

RAI療法のもう一つのアプローチは、腫瘍の取り込みを予測する定量的線量法です。計算された到達線量3,500rad(36Gy)以下であれば、そのFCDCがRAI療法に反応する可能性は低いのです。これとは対照的に、残存正常組織への到達線量が50,000〜60,000rad(500〜600Gy)であれば、転移組織に対し4,000〜5,000rad(40〜50Gy)で効果が出る可能性があります。転移がある患者で、150〜200mCi(5,550〜7,400MBq)の線量の131-Iから数百radしか転移病巣へ到達しない場合は、外科的に切除するか、外照射を考えなければなりません。いちばん使われる頻度の少ないアプローチ法は、血液中に最大200rad(2Gy)が到達し、48時間で全身停留量を120mCi(4,440MBq)以下に、またびまん性の肺の取り込みがある際には、肺で80mCi(2,960MBq)以下に維持するように計算された線量を与えるというものです。このアプローチで使う131Iの最大投与線量は300mCi(11,100MBq)に保たれます。
131-Iによる治療前に、10日間の低ヨード食を摂るとヨードが集積する細胞によるアイソトープの取り込みが促進されることがあります。アメリカでは、線量が30mCi(1,110MBq)以上の131-Iを投与する際には、患者は全身の131I総負担線量が30mCi(1,110MBq)未満に減少するまで病院で隔離されなければなりません。患者の腎機能が正常で、水分補給が十分であれば、これは通常3日以内で起こります。この間に、経口的に水分を十分摂取することにより、尿の排泄が促進され、脱水による膀胱の損傷を最小限に抑えることができるようになります。さらに、唾液腺炎を防ぐため、唾液の流出を刺激するレモンドロップを患者になめさせるようにします。131-Iの治療用線量で、精子数が数ヶ月間減少することがあり、ほとんどの権威者が女性に対し、少なくとも6ヶ月間は妊娠を避けるよう勧告しています。最後に、便秘があれば、生殖腺と腸の被曝を減少させる目的で下剤を使って治療すべきです。
RAI治療を行なった後、4から10日して、FCDCの131-Iの取り込みの程度を記録するため、全身スキャンを行なうようにします。そのようなスキャンの約25%で、治療前の診断用スキャンでは検知されなかった転移病巣が現れます。治療後のスキャンで、過去にRAI治療を受けた経験のある45歳以下の患者において、臨床的に重要な新しい情報が得られる可能性がきわめて高いのです。
また、診断用スキャンがマイナスで、血清Tg濃度が非常に高い場合に、いちばん重要な情報が得られる可能性があります。この状況では、Tgレベルが上昇し、診断用スキャンがマイナスであった患者の10〜50%に、肺または長骨の転移腫瘍があることが明らかになります。
放射線照射治療
FCDCか髄様癌の頚部再発病巣の外科的除去が困難であると思われたり、患者に不適切と思われる場合は、放射線治療により、高い割合で緩解が得られる可能性があります。その他には、局所的な再発腫瘍の外科的除去が不完全な場合に、将来の再発の可能性を減らすため術後に放射線照射治療を行なうことがあります。放射線治療は、骨のFCDCや髄様癌の転移病巣に対する対症療法としても使われます。FCDCの脳転移腫瘍が放射性ヨードを取り込むことは希です。したがって、放射線照射治療が役割を持つ可能性があり、ごくまれに良好な緩解状態が得られたケースもあります。
化学療法
進行したFCDCに対する化学療法では、主立った新しい開発はなされていませんが、再発性、進行性の髄様癌に対する様々な化学療法の組み合わせについての報告が最近いくつか発表されています。これらの治療法はすべてダカルバジンと5-フルオロウラシルやストレプトゾシン、サイクロフォスファミド、ビクリスチンとの組み合わせを含んでいます。これらの方法で治療を受けた進行した転移髄様癌患者の約50%が有意な反応を示すと考えられ、一部には長期的な安定が得られる患者もいることはいますが、しかし、化学療法開始から2年以上生存する患者はまれです。

結 論
AACEにより定められたこれらの考え方のガイドラインは、甲状腺癌患者の管理に対する意見の一致を示すものです。この分野は、非常に複雑で、相当な意見の相違があります。意見の相違の範囲は、このガイドラインを作成したAACE甲状腺癌対策委員会により提示されています。この文書の重要な目標は、甲状腺癌患者の総合的ケアと費用効率がよく、質の高いケアの提供とを一致させるにあたって臨床内分泌病専門医の役割を明確にすることであります。このガイドラインに従うことにより、予後のきわめてよい患者に過度に侵襲の高い治療を行なったり、腫瘍の再発や、癌による死亡のリスクの高い患者に不十分な治療を行なったりすることがなくなるはずです。

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