非中毒性(non-toxic)多結節性甲状腺腫の治療 |
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治療の適応は甲状腺腫が大きくなり、圧迫症状を呈してきたときである。美容上の理由で、治療をすることもある。気管の圧迫症状のある患者に対しては、CT、MRIで気管の圧迫の状態をみるべきである。 |
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両側甲状腺亜全摘術が普通行われる。縦隔の中に入り込んでいても、慣れた外科医ならほとんどの場合は通常の首からのアプローチ(collar
incision)で十分である。しかし、稀に胸部からのアプローチが必要になることもある。手術による死亡は1%以下である。手術による後遺症は、出血、反回神経麻痺(1〜2%)、術後副甲状腺機能低下症(0.5〜5%)、上喉頭神経の損傷による声の変化、甲状腺機能低下症などである。上に記したパーセンテージは専門外科医の場合である。不十分な手術だと、時間が経つと再発してくる。十分な手術をしたとしても、10年後の再発は10%以上である。術後再発の目的で甲状腺ホルモン剤を処方することもあるが、有効性については、証明されていないので、あまり勧められない。 |
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non-toxic diffuse goiter<注釈:慢性甲状腺炎のことであろう>に対する 甲状腺ホルモン剤によるTSH抑制療法の有効性は認められている。非中毒性(non-toxic)多結節性甲状腺腫でもいくつかのnon-randomized
studyでは有効性は確認されている。しかし、これらの研究では、ヨード欠乏や甲状腺機能低下症を除外しておらず、コントロールもなく甲状腺重量の測り方も客観性に欠ける。
ちゃんとした測定法で行われたrandomized placebo-controlled trialが唯一ある。その研究では、nodule
volumeが13%以上縮小した場合を効いたとするとTSH抑制療法群では58%が効いたのに対し、placebo群では5%のみであった。9ヶ月間のTSH抑制療法でのnodule
volumeの平均縮小率は25%であった。
TSH抑制療法中止後、nodule volume は元の大きさに戻った。甲状腺腫が大きい程、治療効果が少ない傾向にあった。多結節性甲状腺腫では既にTSHが抑制されていることもあるので、TSH抑制療法を始める前に、必ず血中TSHを測るべきです。既にTSHが抑制されている例にはTSH抑制療法をすべきではありません。さらに、甲状腺ホルモンを高くするからです。 |
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131-Iによる放射性ヨード治療は非中毒性(non-toxic)多結節性甲状腺腫のほとんどの例で有効です。1gあたり100μCi(37MBq)の131-Iを投与します。3〜5年後には50〜60%縮小します。そのことで、気管の圧迫が改善され自覚症状もよくなります。副作用は希ですが、放射線性甲状腺炎などがみられることもあります。しかし、それも、一過性ですぐよくなります。5%で、放射性ヨード治療後にバセドウ病になる人がいます。これは、甲状腺組織の破壊で、甲状腺から抗原が漏出したためと考えられています。20〜30%の人で5年後に甲状腺機能低下症になります。 |
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長期間、甲状腺ホルモン剤によるTSH抑制療法を受けている閉経後の女性では有意に骨が弱ることが報告されている。一方、閉経前の女性や男性ではそのような事実は証明されていない。閉経後の女性に、
甲状腺ホルモン剤によるTSH抑制療法を行うときestrogenを併用すると、骨が弱らないとする報告もある。
60歳以上で血中TSHが低値の例では、心房細動の危険性が増すという報告がある。故に、高齢者の場合は甲状腺ホルモン剤によるTSH抑制療法の副作用として、心房細動には留意することが必要です。 |