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[013]
[013]
甲状腺機能低下症の神経学的認識力について
Anthony T. Dugbarty, PhD
Arch Intern Med 1998; 158: 1413-1418

甲状腺機能低下症は一生の間でいつでも起こりうる有意な神経学的認識力低下と関連している。この論文では先天性及び後天性甲状腺機能低下症に伴う認識力低下のパターンについて述べたい。臨床的に明らかな甲状腺機能低下症に対する治療がうまくいくと、小児でも大人でも甲状腺機能は正常に復する神経学的認識力機能の回復のパターンは一定しないことを、現在までに発表された論文は示している。異なった認識力障害パターンを示すのに加えて、先天性及び後天性甲状腺機能低下症患者は甲状腺ホルモン補充療法に対する反応がまちまちで、その治療が先天性甲状腺機能低下症患者に伴う神経学的認識力低下のリスクを高めることがある。甲状腺機能低下症による知的障害は治療により直ちに回復するものだという一般的に支持されている評価は、一部でのみ文献的に支持されているのみである。そして、それらの論文は方法論的にも概念的にも欠点の多いものであり、信頼性に欠ける。わたしは、臨床的甲状腺機能低下症を持つ患者に関連した認識的及び行動的障害に対する治療に取り組むためのいくつかの推奨を提案したい。

はじめに
多くの内分泌疾患が認識力に対して大きな影響力を有している。甲状腺機能異常患者は感情的かつ認識力不足の両方の症状を併せ持っている。不幸なことに、患者が神経学的認識力低下の症状について医師に話さなければ、甲状腺機能低下症にみられる認識力不足はたびたび医師から見逃される。医師が甲状腺機能低下症にみられる認識力不足のパターンについて知識を得ることで、そのような見逃しは減少すると思われる。痴呆、鬱病、他の甲状腺機能低下症でみられる神経精神病学的異常などの早期の発見は認識力に対する日常的かつ系統的な評価に依るところが大きい。今回、わたしは甲状腺機能低下症に随伴する神経学的認識力低下について論じたい。原則的に、潜在性甲状腺機能低下症ではなく典型的甲状腺機能低下症の影響、先天性および後天性甲状腺機能低下症、甲状腺機能低下症患者に対する薬物療法の影響力に焦点を当てたい。

甲状腺機能低下症では鬱病にもなることは良く知られているが、甲状腺機能低下症と鬱病については素晴らしい総説があるので(1,2)、この総説ではそれについては触れない。

先天性甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンは中枢神経の機能的発達と成熟にとって重要である。甲状腺ホルモン欠乏や先天性甲状腺機能低下症と知的遅延の間の関係は100年以上前から認識されていた。妊娠前に母親にヨードを補充しておけば、甲状腺機能低下症の神経精神学的異常を予防することができると考えられている(3)。新生児スクリーニングで先天性甲状腺機能低下症と診断されている乳児の脳の形態や脊髄のMRI検査を行うと、脳の白質の発達の遅延や異常のあるものから、正常な脳の発達しているものまで様々である(6)。正常な脳に発達しているのは、胎盤を通して母親から移行する甲状腺ホルモンのお陰であると考えられてきた。しかしながら、胎盤を通して母親から移行する甲状腺ホルモンはほとんどないに等しく、胎児は自分の甲状腺ホルモン産生に頼る以外なく、もし甲状腺の発達が悪いと先天性甲状腺機能低下症の危険性が増すという事実が判明した(7)。しかし、話はそんなに簡単なものではない。動物実験の結果から(8,9)、周産期の甲状腺ホルモン欠乏が永続性の形態学的、組織学的および行動の異常を引き起こすとうい事実が判明している。このような原因究明の糸口は人間でははっきり分かっていないが、生後3ヶ月以内に、場合によっては7ヶ月以内でも甲状腺ホルモン剤による補充療法を開始すれば、先天性甲状腺機能低下症の患者において知的発達は障害を受けないことが、報告されている(10-12)。これらの観察事実にも拘わらず、一般的な知能(例えば、注意力、言語、学習、記憶力など)以外の広い意味での認識力の総合的な評価がなされていないことを考慮に入れると、早期の甲状腺ホルモン剤による補充療法の開始により正常な神経学的認識力が保てるであろうと推論することは早計であると言わざるを得ない。生後3週後から甲状腺ホルモン剤による補充療法を開始した先天性甲状腺機能低下症の小児における聴覚の脳幹部での反応に対する大脳皮質の誘発電位の研究から、小児期になっても有意な聴力測定の障害があることが分かった(13)。この聴力測定の障害は聴力障害(14)言語での表現障害(例えば、物を正しい名称で呼ぶことができないことなど)(15)を伴い、先天性甲状腺機能低下症の小児ではより総合的な神経学的認識力の評価を必要とする。最近のカナダからの研究(17)では、新生児スクリーニングで見つかった先天性甲状腺機能低下症患者の小児<注釈:この小児たちは甲状腺ホルモン剤の補充をちゃんと受けている>の20%において両耳の軽度伝音性および感音性障害がみられたという報告がなされた。この事実は、生後2週間以内に甲状腺ホルモン剤の補充を開始するとこの聴力障害は減るかもしれないという強い可能性を示している。先天性甲状腺機能低下症と聴力障害を持つ小児はほとんどの一般的な言語テストでは正常であるが、会話音の識別のわずかな障害や識字能力の障害が明らかである(17)。先天性甲状腺機能低下症患者のIQが同年齢の子供と比べて変わらないとしても、これらの小児が必ずしも正常な認識力を持っているという証拠にはならない。例えば、ベルギーで行われた研究(19)では、注意力の持続障害や与えられた情報に対する認識力障害のみられた先天性甲状腺機能低下症患者の平均IQは100.1と正常であった(87.6〜113.8)。

小児期の甲状腺機能低下症は注意力障害を伴う傾向がある。先天性甲状腺機能低下症の小児は注意力の持続障害を評価するために考案された客観的テスト(観察者が注意力散漫や不注意などを点数化するやり方よりこの客観的テストの方がよいと思われる)を行うと明らかな神経学的認識力の障害がみられる(20)。T4やTSHの測定値(25-28)と同様に、治療効果(21)、病気の発症時期(22)、重症度(23)、甲状腺機能低下状態の期間(24)などのいろいろな因子が注意力障害の発現に関与しているように思える。最近の研究(29)で、注意力障害とじっとしていないで落ち着きのない症状(過動性)を持つ小児では、予想に反して甲状腺機能亢進症より甲状腺機能低下症の頻度が高いことが報告された。甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモン不応症であることが分かった(30-32)。甲状腺ホルモン不応症は注意力障害とじっとしていないで落ち着きのない症状(過動性)を持つ疾患の原因としては、大変稀である(33)
甲状腺ホルモン不応症にみられる神経学的認識力障害の特徴は普通みられる注意力障害とじっとしていないで落ち着きのない症状と少し違うように思うが、我々は甲状腺ホルモン不応症にみられる神経学的認識力障害が先天性甲状腺機能低下症の治療を受けた小児のそれとどのように異なるのか全く理解できていない、特に甲状腺ホルモン不応症患者では軽度の甲状腺機能低下症を示すものがいるという事実を考慮に入れたとしても(36)

先天性甲状腺機能低下症の経過観察
ケベックスクリーニングプログラムとニューイングランド先天性甲状腺機能低下症合同研究の少なくとも2つの北米の研究グループ(15,37)が、新生児スクリーニングと甲状腺ホルモン剤補充療法に基づく前向き研究を報告している。それによると、先天性甲状腺機能低下症の10〜15%が甲状腺ホルモン剤補充療法に対して抵抗性があることを示唆する結果を示している。この甲状腺ホルモン剤補充療法に対して抵抗性のある患児のIQは小学校に入学するころには(5〜7歳)、 正常と異常の境界か、少し低い。一方、26年間、先天性甲状腺機能低下症患者を経過観察した研究(40)では、子供時代(大体5〜6歳)から大人になるまで3回のIQテストを行ったところ、先天性甲状腺機能低下症の患者の15%で劇的に(最低でも20ポイント)、IQが改善することが分かった。この事実は、先天性甲状腺機能低下症の知的発達に対する治療効果は、一般的に考えられているよりずっと後程まで続き、成人になるまで続くことを示している(40)。残念なのは、この研究者達は最初に行ったIQテストからのIQスコアの変化の評価や予測をする場合に起こってくる潜在的な困難性を認識していない点である。最初に行ったIQテストは病気の程度や状態と関連しているかもしれないが、それらの結果は、必ずしも先天性甲状腺機能低下症患児の認識力(例えばIQ)の正確な予測にはならないということである(42,43)。精神的発達遅延がある場合でも、ない場合でも先天性甲状腺機能低下症の幼児における言語や聴力の4年間に及ぶ長期間の経過観察によれば、聴力障害のある7歳児と聴力障害のない7才児の間では、言語による表現力には差がないことが分かった(17)。しかし、聴力障害を持つ子供は言語理解力や読む力の低下が、その後の検査をするとずっと続いていることも分かった(17)

パプアニュ−ギニアの10代の小児(これらの子供は妊娠中、母親がヨードの補充を受けていたのにほとんどがヨード不足であった)に対して、ジェスチャーに対する記銘力、一連の絵の記憶力などの前向き研究では妊娠時の母親の総T4値は、子供が14〜15歳になったときの単純な記銘力低下とは関連がないことが分かった(44)。しかしながら、2年後に再テストを行ったところ、妊娠時の母親の総T4値と逆算力は優位に関連があった。また、場所の記憶とも軽度の関連(r=0.39)を見いだした。この10代の若者たちはまた、手の器用さをみるテストも定期的に受けて(45-47)、妊娠中の母親の総T4値と手の器用さは一貫して、関連を認めた。先天性甲状腺機能低下症患児の運動能力の発達障害についての事実は、他のフォローアップ研究でも同じである(48)。骨格の発達(これは子宮内甲状腺機能低下症)に基づいてグループ分けされた先天性甲状腺機能低下症患児の他のフォローアップ研究(49)によれば、骨の発達の遅れた子では、普通2-5才で始まる運動能力と視覚が有意に遅れている。相対的な言語の表現力や言語理解力の低下は4〜5歳頃から出現してくる。この頃には、認識力のテストをすると知的障害が見つかることもある。これらの若者の観察をみると、先天性甲状腺機能低下症の早期発見及び早期治療は知的障害を防ぐのに有用であるが、他の神経学的認識力を予防するには有用でないかもしれないと結論づけている。

まとめると、未治療の先天性甲状腺機能低下症は、重症の認識力障害を伴った知的障害を引き起こす。先天性甲状腺機能低下症の早期発見及び早期治療をすれば、通常の知能テストでは異常がみられないことはよく知られている。しかし、早期発見及び早期治療をしても注意力、立体感、運動能力、言語理解力などの神経学的認識力の低下がみられ、これらの障害は大きくなっても(小学校高学年)、時として思春期(14〜15歳)まで続く。加えて、血中T4値と運動能力の関連性はずっとみられるという研究は例外として、甲状腺機能は全く正常に保っているにもかかわらず、神経学的認識力が必ずしも改善するとは限らない。

先天性甲状腺機能低下症の経過観察
成人の甲状腺機能低下症は神経学的認識力にとって有害な作用を有する。【表1】は甲状腺機能低下症に随伴した認識力障害の主なものを示した。

残念ながら、成人の甲状腺機能低下症における神経精神学的機能に関する報告はほとんどが認識力の限られた面のみを評価しているに過ぎないことです。例えば、甲状腺機能低下症患者における物をじっと見つめる集中力、物を見て認識する速さ、文章をまとめる力、複雑な問題を解決する力、学究的到達度、触覚による認識力、練習や運動能力などの研究がほとんどなされてないのです。甲状腺機能低下症で検討されている認識力検査の結果より【表1】、甲状腺機能低下症は記憶力低下、精神神経運動の遅延、視覚や構成力の低下を伴い、それらの障害のどれもが甲状腺ホルモン剤の補充療法により全員が回復するわけではないことが結論付けられた。反対に、成人の甲状腺機能低下症では、じっと聞く力、言語理解力、運動能力(例えば、握力)は、それ程障害を受けていないように思える。興味あることに、Mini-Mental State Examinationやいろいろな一般的な認識力のスクリーニングを使った研究のうちで少数が、甲状腺機能低下症患者において治療に抵抗する臨床的に有意で重症の障害を報告しているのみである。もちろん、これにより、この研究がなされた時期に病気の重症度に関する重要な問題が持ち上がっている。他の神経精神学的な状況の可能性と同様に、現在の論文での他の重要な観点は、甲状腺機能低下症の程度によって、神経学的認識力低下の後遺症に違いがあり、この甲状腺機能低下症を十分に区別する診断基準が存在しないことである。例えば、その結果として軽度の甲状腺機能低下症による認識力障害と重症の甲状腺機能低下症による認識力障害がどのように違うのかどうかという明確な指標がないのである。

甲状腺機能低下症と痴呆
粘液水腫は通常、高齢者の痴呆でも可逆性のものとして分類されています。しかしながら、痴呆の原因としての甲状腺機能低下症に関する論文の総説では(56)、完全に痴呆が治るという強い証拠は見いだせないことが判明しています。しかしながら、これは未治療の甲状腺機能低下症患者でみられる進行性で重症の神経学的認識力低下を防ぐことができないという意味ではありません。迅速で適切な治療を受ければ、少なくとも神経学的認識力低下の進行はゆっくりにすることができます。

老人に関連した健康管理について論ずる場合には、以下に述べるような認識力に関する事項(57)を調べる必要があります。
  1. 視覚、聴覚などの知覚障害の罹患率
  2. 多くの老人でみられる慢性疾患に対する数種類の薬物
  3. 薬物を変えた時に老人では副作用が出やすいこと
  4. 甲状腺機能低下症以外の痴呆を引き起こす原因を持っている可能性が高いこと
高齢者では特に甲状腺機能低下症に罹りやすく、年令が上がるにつれて甲状腺機能低下症の頻度が高くなる(58)。高齢者における甲状腺機能低下症の神経学的認識力に関する少数の研究でのみ、神経学的認識力について調べられているにすぎない。高齢者になって発症した甲状腺機能低下症の知的障害の評価をするために、さらなる研究を要する。

甲状腺機能低下症による痴呆の可逆性について
何人かの研究者は(59-63)、痴呆を起こす原因疾患の10〜30%に可逆性、もしくは治療で改善する人がいることを報告している。しかしながら、これらの主張が厳しい精査を受けたとき、実際の痴呆の可逆性の頻度はずっと低く、8%が部分改善、3%のみが完全に改善するのみである(64)。前向き研究のフォローアップデータから、元通りになるのは例外的であり、治療後に認識力の改善を示す患者の多くは、最初の段階では痴呆を持っていない(65)

現在では、痴呆の診断を満たすためには、患者は社会的に適応できない程の重症の記憶力低下の症状を有していることが必要である。また、より重要なことであるが、これらの認識力低下はより高い認識力からの有意な低下でなければならない(66)。甲状腺機能低下症による痴呆の神経学的認識力の研究は、現在可能な限りの多くの革新的な評価方法の一つを使って、以前の正常なときの認識力からどれくらい、低下したかを客観的に示す必要がある(67-71)。そのような客観的な証拠がなければ、論文における痴呆の報告は信用に欠けるし、特に基礎疾患が変性疾患の場合に痴呆が完全に治ったとする報告は信用しにくい。それにもかかわらず、薬物療法を行ったとしても甲状腺機能低下症を持つ患者の複雑な臨床症状が完全に元に戻ることはないという事実は、進行性の神経学的認識力低下の進行がゆっくりになったり、止まったりすることがないということを意味しているのではない。痴呆の可逆性に関する以前の研究(50)では、短期間の連続したテストから集められた実際の効果などの見せかけの人為的なもの、すなわち再テストの際に実際の認識力を過度に評価してしまうことがないことを証明しなければならない。加えて、もし患者が長期間経過を観察されている場合(64)、痴呆の可逆性がずっと続くのかという疑問も出てくる。このように、治療効果の期間についての疑問も生じてくる。

まとめると、甲状腺機能低下症による痴呆は可逆性であるという主張する現在の経験的な研究は、概念的、方法論上の困難性により、抑えられている。そして、多くの症例で、治療によって認識力は元のレベルに戻るという報告はなされていない。残念ながら、神経変性疾患や認識力に影響を与える他の要因(57)を持っている可能性があるので、甲状腺機能低下症がこれらの神経精神学的異常の原因の唯一のものであると確信ができるわけではない。甲状腺機能低下症に関連した認識力低下を持つ患者の適切な社会的管理(72)について、もっと主張すべきだと、そして可逆性と非可逆性の痴呆の分類(65)は避けるべきであるということも主張すべきだと、たびたび言われてきている。明らかに、甲状腺機能低下症による痴呆がどれくらい治療可能で、薬物療法が最も効果的である病気の程度を決めるために、さらに研究が必要である。

先天性甲状腺機能低下症と後天性甲状腺機能低下症
まず、先天性甲状腺機能低下症と成人発症の甲状腺機能低下症は同様の神経学的認識力低下のパターンを持っているように思える。特に、記銘力低下、立体感、一般的な知能などの神経学的認識力の低下をもっているように思える。しかし、そのような結論を出すのに妨げとなるいくつかの要因がある。失われた脳の機能を回復させるために、脳に対して治療をしなければならない。

一般的に、神経学的回復は年令と関係しており、高齢者より幼児の方が治療によって回復しやすい(47,73)。このように、聴力低下のような知覚障害は先天性甲状腺機能低下症でも、成人発症の甲状腺機能低下症でもみられるが、そのような障害の発達に基づく神経学的認識力の発現の仕方は先天性甲状腺機能低下症と成人発症の甲状腺機能低下症では治療に対する反応(76,77)も含めて、著明に異なっている。

この治療に対する違いや部分的な回復は甲状腺ホルモン補充療法を行っている先天性甲状腺機能低下症において、成人発症の甲状腺機能低下症で想像されるより重症で遅延した神経行動的な結果を示す。そこで、甲状腺機能低下症に伴った聴力障害が出現した年令は、いろんな年令の人での神経学的認識力の評価として表される言語障害の性質や程度における特別の影響力をもっていると思われる。運動能力低下の面から見ると、成人における手先の器用さや他の純粋な運動能力における説得力のある経験的なデータの欠如のために、先天性甲状腺機能低下症と成人発症の甲状腺機能低下症の間の明確な比較ができない。甲状腺ホルモン剤治療後の認識力の回復の程度と期間に関する先天性甲状腺機能低下症と成人発症の甲状腺機能低下症では、文献上で相反する論文が出ているが、そのような回復がいつも完全とは限らないし、全ての症例で徹底してフォローされているわけでもない。しかしながら、2つの群(先天性甲状腺機能低下症と成人発症の甲状腺機能低下症)で、何が明らかであるかというと、甲状腺ホルモン剤治療が遅れたり、治療がされなかったときには、どうしようもない非可逆性認識力の低下が見られることがある。

結 論
臨床的甲状腺機能低下症の神経学的認識力に関する現在の経験的な文献は、全く初歩的なものであるが、甲状腺機能低下症と診断された全ての患者は認識力低下のリスクの面から、神経精神学的評価をするために精神科の専門医にみせるべきである。甲状腺機能低下症と関連している神経学的認識力の理解を助長するためにいくつかの方法論や概念が必要である。例えば、Mini Mental State Examinationなどの認識力のスクリーニングのみが唯一のよりどころなら、間違った分類をする可能性が高い(78)。甲状腺機能低下症に随伴した認識力の強弱のパターンをよりよく決めるために、より総合的な神経学的認識力の評価は必要である。また、もし治療後の認識力の変化を記録するのに連続した評価が使われているのなら、学習効果、正常値への復帰などのテスト−再テストの強制の混合する影響に関する結論は、重大に考える必要がある。

治療後(79)の神経学的認識力の変化を示すデータの信頼性を決めるために使われる最近の革新的で有望な技術が臨床神経精神学的研究(80)において、現在研究されており、甲状腺機能低下症による痴呆の可逆性を評価するのに有用であるかもしれない。これらの方法と他の方法を一緒にして、甲状腺機能低下症に関連した認識力の低下の全体的な回復よりほかの観点が、例えば未治療の甲状腺機能低下症と比べて、治療している患者の方が、認識力の低下の程度が軽いというような変動する臨床的な目標物として、考えられるべきである。

経験的な研究は甲状腺機能低下症による痴呆の混合型は治療に抵抗性があることを示している。甲状腺機能低下症と診断された子供は、成人の甲状腺機能低下症患者が職業的な遂行で経験するのと同じ様な教育的困難性を経験する可能性が大きい。総合的な神経精神学的な評価が、学習や記憶、手先の器用さ(字を書くときなど)、発声や言語力の困難性が教養的要因を取り囲む事が可能で、その程度に関する有用な提案を容易する事ができる。

成人甲状腺機能低下症を認識力の早期評価することは、長期間の神経精神学的状態の変化に対する客観的な証拠を提示できる。そして、長期間の管理計画と治療によって効果が期待できる。成人の甲状腺機能低下症の患者が、拘束されたケアと管理を必要とするのか、自由に生きていくことができるのかどうかは、総合的な神経学的認識力の評価によって決めることが可能な患者の認識力と行動の強弱によるところが大きい。

参考文献]・[もどる