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ケベックスクリーニングプログラムとニューイングランド先天性甲状腺機能低下症合同研究の少なくとも2つの北米の研究グループ(15,37)が、新生児スクリーニングと甲状腺ホルモン剤補充療法に基づく前向き研究を報告している。それによると、先天性甲状腺機能低下症の10〜15%が甲状腺ホルモン剤補充療法に対して抵抗性があることを示唆する結果を示している。この甲状腺ホルモン剤補充療法に対して抵抗性のある患児のIQは小学校に入学するころには(5〜7歳)、
正常と異常の境界か、少し低い。一方、26年間、先天性甲状腺機能低下症患者を経過観察した研究(40)では、子供時代(大体5〜6歳)から大人になるまで3回のIQテストを行ったところ、先天性甲状腺機能低下症の患者の15%で劇的に(最低でも20ポイント)、IQが改善することが分かった。この事実は、先天性甲状腺機能低下症の知的発達に対する治療効果は、一般的に考えられているよりずっと後程まで続き、成人になるまで続くことを示している(40)。残念なのは、この研究者達は最初に行ったIQテストからのIQスコアの変化の評価や予測をする場合に起こってくる潜在的な困難性を認識していない点である。最初に行ったIQテストは病気の程度や状態と関連しているかもしれないが、それらの結果は、必ずしも先天性甲状腺機能低下症患児の認識力(例えばIQ)の正確な予測にはならないということである(42,43)。精神的発達遅延がある場合でも、ない場合でも先天性甲状腺機能低下症の幼児における言語や聴力の4年間に及ぶ長期間の経過観察によれば、聴力障害のある7歳児と聴力障害のない7才児の間では、言語による表現力には差がないことが分かった(17)。しかし、聴力障害を持つ子供は言語理解力や読む力の低下が、その後の検査をするとずっと続いていることも分かった(17)。
パプアニュ−ギニアの10代の小児(これらの子供は妊娠中、母親がヨードの補充を受けていたのにほとんどがヨード不足であった)に対して、ジェスチャーに対する記銘力、一連の絵の記憶力などの前向き研究では妊娠時の母親の総T4値は、子供が14〜15歳になったときの単純な記銘力低下とは関連がないことが分かった(44)。しかしながら、2年後に再テストを行ったところ、妊娠時の母親の総T4値と逆算力は優位に関連があった。また、場所の記憶とも軽度の関連(r=0.39)を見いだした。この10代の若者たちはまた、手の器用さをみるテストも定期的に受けて(45-47)、妊娠中の母親の総T4値と手の器用さは一貫して、関連を認めた。先天性甲状腺機能低下症患児の運動能力の発達障害についての事実は、他のフォローアップ研究でも同じである(48)。骨格の発達(これは子宮内甲状腺機能低下症)に基づいてグループ分けされた先天性甲状腺機能低下症患児の他のフォローアップ研究(49)によれば、骨の発達の遅れた子では、普通2-5才で始まる運動能力と視覚が有意に遅れている。相対的な言語の表現力や言語理解力の低下は4〜5歳頃から出現してくる。この頃には、認識力のテストをすると知的障害が見つかることもある。これらの若者の観察をみると、先天性甲状腺機能低下症の早期発見及び早期治療は知的障害を防ぐのに有用であるが、他の神経学的認識力を予防するには有用でないかもしれないと結論づけている。
まとめると、未治療の先天性甲状腺機能低下症は、重症の認識力障害を伴った知的障害を引き起こす。先天性甲状腺機能低下症の早期発見及び早期治療をすれば、通常の知能テストでは異常がみられないことはよく知られている。しかし、早期発見及び早期治療をしても注意力、立体感、運動能力、言語理解力などの神経学的認識力の低下がみられ、これらの障害は大きくなっても(小学校高学年)、時として思春期(14〜15歳)まで続く。加えて、血中T4値と運動能力の関連性はずっとみられるという研究は例外として、甲状腺機能は全く正常に保っているにもかかわらず、神経学的認識力が必ずしも改善するとは限らない。 |
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