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[038]
[038]
ヨーロッパ、日本、およびアメリカでのバセドウ病の診断と治療における類似点と相違点
Leonard Wartofsky1,2
Daniel Glinoer3
Barbara Solomon1
Shigenobu Nagataki4
Raphael Lagasse3
Yuji Nagayama4
Motomori Izumi4
<所属>
1: Walter Reed Army Medical Center, Washinton DC
2: Uniformed Services University of the Health Sciences, Bethesda, MD
3: Hospital Saint Pierre and the Ecole de Sante Publique Faculty of Medicine, University of Brussels, Brussels, Belgium
4: 長崎大学第一内科、長崎、日本
Thyroid 1; 129-135: 1991

まとめ
3つの別々の研究で、アメリカ甲状腺学会(ATA)、ヨーロッパ甲状腺学会(ETA)、および日本甲状腺学会(JTA)の会員に対し、バセドウ病の管理に関するアンケート調査が実施された。目的は、臨床甲状腺専門医が診断方法や利用できる3種類の治療法をどのように採用しているかを確かめることであった。この報告では、この世界の3地域での調査結果を比較対照し、その違いと類似性をまとめた。一般的に、アメリカ甲状腺学会会員はヨーロッパや日本の会員に比べ、使用する診断用検査の数が少なかった。提示患者に関しては、アメリカ甲状腺学会の回答者の69%が放射性ヨードを治療に選択しているが、ヨーロッパ甲状腺学会と日本甲状腺学会の回答者ではそれぞれ22%と11%に過ぎなかった。対照的に、最初の治療に抗甲状腺剤を選択する者はアメリカ甲状腺学会の回答者で22%に過ぎなかったが、ヨーロッパ甲状腺学会の回答者では77%また日本甲状腺学会の回答者では88%であった。範囲の狭い適応症以外は、甲状腺切除術にそれほど大きな役割りはないということに関しては一致していた。バセドウ病の診断や治療に対するアプローチの違いの意味を検討する。

はじめに
バセドウ病またはびまん性中毒性甲状腺腫は、血中のサイロトロピン(TSH)レセプター抗体を介して起こる自己免疫性甲状腺疾患で、甲状腺腫や甲状腺中毒症、そしてしばしば起こる眼症が特徴である。診断のための精度の高い検査法や効果的な3種類の治療法があるにもかかわらず、ある特定の患者にどの治療法−手術、放射性ヨード(RAI)あるいは抗甲状腺剤−を行なうのがベストなのかに関しては、相当な意見の相違がある。

1987年に、Glinoerらが、バセドウ病の管理に関して行なったヨーロッパ甲状腺学会の会員の調査結果を報告している(1)。この調査の目的は、甲状腺専門医がどのような診断法を採用し、治療を行なっているかを評価することであった。その後まもなく、ヨーロッパ甲状腺学会で採用されたものとまったく同じ形式のアンケート調査が日本とアメリカで実施された。後の2つの調査では、アンケート用紙がアメリカ甲状腺学会と日本甲状腺学会の会員である臨床医に郵送された。これら2つの調査の結果はそれぞれ別個に報告された(2,3)

本報告では、この3つの調査を比較対照し、この世界3地域での本疾患に対する診断や管理上の違いをまとめた。

対象と方法
ヨーロッパ甲状腺学会で最初に採用されたアンケートの詳細はすでに発表されている(1)。日本甲状腺学会とアメリカ甲状腺学会の調査では、日本人とアメリカ人の言い回しに合わせるため、文の構成や用語にわずかな変更を加えたのみである。全体的に、この調査の目的は、1]in vivo<注釈:患者に検査用の薬品を投与して検査するもの>とin vitro<注釈:患者の血液で検査するもの>の検査で現在使われているものを確かめ、2]抗甲状腺剤と手術、そして放射性ヨードの各治療の中で、一般的にバセドウ病患者に出る様々な症状に対してどの治療を好んで行なっているかということを確かめることであった。回答の分析により臨床管理への新しい検査法の影響が出ていることや治療の選択傾向が以前の報告から変わっている可能性があること、また将来の研究へ向けての見通しが得られることが期待された。

12〜13ページにわたるアンケートは、4つの主要セクションに分かれている。最初は、回答者が仮想の提示患者の分析と日常診療の中でそのような患者をいつも診ているとおりに診断検査のメニューの中から選択することを求められる。最初の提示患者は、43歳の女性で2〜3ヶ月間、中等度の症状が続いており、40〜50gの甲状腺腫があって、初めて甲状腺機能亢進症が発症したというものである 【表1】 。アンケートの2番目の部分は、この患者に対する治療法の選択に関するものである。第3部は選択した治療の実施に関する選択肢を扱っている。4番目の部分は、最初の提示患者のバリエーションを8つ示し 【表2】 、回答者に管理が年齢や性別、甲状腺腫のサイズ、疾患の重症度、あるいは初発例か抗甲状腺剤治療後や手術後の再発によって治療の方法が変わるかどうかを尋ねるものである。これは甲状腺専門医が現在、バセドウ病の管理をどう行なっているかを明らかにしようとするものであるため、アンケートはヨーロッパ甲状腺学会とアメリカ甲状腺学会の場合、臨床医の会員のみに送付された。日本甲状腺学会では全会員にアンケートが送られたが、臨床医の会員のみが回答したことは明白であった。

ヨーロッパ甲状腺学会とアメリカ甲状腺学会の調査のデータ分析は、ブリュッセルのFree大学のコンピューターで実施された。また、日本甲状腺学会調査結果の分析は長崎大学第1内科で行なわれた。かいつまんで説明すると、回答は4つの事項に基づき、診断法に対応するもの51項目、治療の選択肢61項目、提示症例の臨床バリエーション8種類に対するそれぞれ62項目を確認した。全体で、理論的に613項目がコンピューター分析で点検されたことになる。すべてのデータ入力はコード化し、フロッピーディスクに入れた後、ASC IIフォーマットに転換して個別化Fortran-IVプログラムとSPSS(社会科学用統計パッケージ)による分析を行なった。統計学的比較のために、すべての頻度を欠けているか、または不明な数値をのぞいた後100%に合わせた。有意レベルをp<0.05に設定したカイ平方検定を採用した。
【表1】提示患者
  • バセドウ病の症状はあるがそれ以外は健康にみえる43歳の女性
  • バセドウ病の症状が2〜3ヶ月間続いている
  • 初発である
  • 未治療である
  • 子供は5歳と10歳の2人で、将来子供を産む予定はない
  • 甲状腺はびまん性に腫大(40〜50g)している
  • 眼の症状は軽い
  • 脈拍数105/分
【表2】患者のバリエーション
番 号 年 令 重症度 甲状腺腫 初 発
1 43 中等度 80 はい
2 43 中等度 なし はい
3 43 重症 40 はい
4 43 中等度 40 いいえ、薬物治療後再発
5 43 中等度 40 いいえ、術後再発
6 43 中等度 40 はい
7 71 中等度 40 はい
8 19 中等度 40 はい

結 果
in vivo検査
【図1】に放射性ヨード摂取率検査と画像診断が好んで実施されていることがはっきり示されている。回答者には提示患者を来院患者か、あるいは入院患者として診査するかどうか、シンチと/または摂取率検査を行なうかどうか、どのアイソトープを採用するか、そしてどの時点で行なうかを尋ねた。アイソトープ(放射性同位元素)の選択に関しては、アメリカ甲状腺学会と日本甲状腺学会の回答者では、123-Iがシンチと摂取率検査の両方に選択されており、ヨーロッパ甲状腺学会の回答者はシンチにはテクニチウムを、また摂取率検査には123-Iを好んで使っていた。シンチで摂取率を調べていたのはアメリカ甲状腺学会の回答者では45%のみで、シンチを使わずに摂取率検査の結果を得ていたのは53%であった。対照的に、ヨーロッパ甲状腺学会の回答者の67%と日本の回答者の90%が摂取率検査時にシンチを行なっていた。
in vitro検査
次に、実際の診療で提示患者のような患者に対するルーチン検査として、どのようなものを通常、あるいは実際に使っているかを回答者に尋ねた。これには血清総サイロキシンレベル(TT4)、血清総トリヨードサイロニンレベル(TT3)、TSH、T3レジン取り込み(R T3U)に基づく遊離T4指数(FTI)、遊離T4(FT4)、遊離T3(FT3)、コレステロール、サイログロブリン(Tg)、抗Tg抗体、抗マイクロゾーム抗体、および抗TSHレセプター抗体を含む項目の一覧の該当項目にチェックを入れて貰うようにした。さらに、尿中ヨードの測定だけでなく、サイロトロピン放出ホルモン(TRH)刺激試験もできるかと言う項目を加えた。

一般に、アメリカ甲状腺学会とヨーロッパ甲状腺学会では提示患者に対し、TT4、TT3、FTIおよびTSHを測定することで一致していた【図2】。アメリカの回答者の84%と日本の回答者の92%が非常に感度の高いTSHアッセイを採用していた。TT4、TT3を採用していた日本甲状腺学会回答者の割合はアメリカ甲状腺学会やヨーロッパ甲状腺学会とほぼ同じであったが、TSHの測定は回答者の90%が行なっていた。その一方でFTIはほとんど使われていなかった。実際に、【図3】にはアメリカ甲状腺学会やヨーロッパ甲状腺学会の回答者でははるかに高い頻度で使われているFTIが日本甲状腺学会でほとんど使われておらず、より直接的な遊離ホルモンアッセイの方が好まれていることがはっきり現れている。一般的に、日本甲状腺学会とヨーロッパ甲状腺学会の回答者は、アメリカ甲状腺学会の回答者よりもはるかに高い頻度でTRH刺激試験や血清Tg、抗Tg抗体、抗マイクロゾーム抗体および抗TSHレセプター抗体の測定を行なっていた。ただし、ヨーロッパ甲状腺学会の調査はアメリカ甲状腺学会の調査より18ヶ月ほど前に実施されており、感度の高いTSHアッセイがちょうど導入されたばかりで、TRH刺激試験にとって変わる状態ではなかったことを頭に入れておく必要がある。
提示患者に対する治療の選択
診断用検査が完了した後、治療の選択はすべて医師が行なうものとして、回答者はこの提示患者に対し、どのタイプの治療を勧めるかを問われる。【図4】にはすべての回答者による治療選択の内訳を示してある。アメリカ甲状腺学会の臨床医の69%が提示患者に対し、抗甲状腺剤や甲状腺切除手術よりも放射性ヨードの方を選択している。それと対照的に、ヨーロッパ甲状腺学会と日本甲状腺学会の回答者は、抗甲状腺剤治療を好んで選択していることが明らかである。アメリカ人の好みとは対照的に、放射性ヨード治療を選択したヨーロッパ甲状腺学会回答者は5人に1人、また日本甲状腺学会回答者は10人に1人であった。この患者に対し、3つのグループとも手術を選ぶことに熱心でないということに関して一致していた。
抗甲状腺剤のプロトコール
抗甲状腺剤治療を選んだ回答者には、どの薬剤を選択するか、検査や臨床パラメーターに基づいて治療を変更するかどうか、抗甲状腺剤単独で使うか、それともβ-遮断剤と併用、あるいは甲状腺ホルモン剤と組み合わせて使うかを尋ねた。また、一定の決まった期間治療を続けるかどうか、そしてもしそうならどれくらいの長さであるか、治療中止に使う基準(数種の選択肢を与えてある)は何かということも尋ねた。

抗甲状腺剤使用を選んだ回答者のうち、アメリカ甲状腺学会では明らかにプロピルチオウラシル(PTU<注釈:日本ではプロパジールまたはチウラジール>)が好まれ、その一方でヨーロッパ甲状腺学会と日本甲状腺学会の回答者が選択する薬剤はメチマゾール(MMI<注釈:日本ではメルカゾール/またはヨーロッパではカルビマゾール>)となっていた【図5】。アメリカと日本の回答者は抗甲状腺剤を単独で使用するのを好み、一方ヨーロッパの回答者は抗甲状腺剤と甲状腺ホルモンを組み合わせて使っている者がほぼ半数であった。_-遮断剤は調べたすべてのグループで同じように使われており、治療初期のみに限られていた。3つのグループすべての会員が同じようなアプローチで抗甲状腺剤の用量変更をしており、患者が甲状腺正常状態に達したか、あるいは数週間の治療後任意の時点で変更を行っていた。用量の変更は、臨床検査と臨床パラメーターのいずれか、あるいは両方の改善または悪化に基づいて行なわれていた。回答者全員が1〜2年の決まった期間抗甲状腺剤治療を行なう方法を好む傾向があった。治療は日本甲状腺学会回答者では1〜2年後にT3抑制試験またはTRH試験、あるいはTSHレセプター抗体の消失に基づき中止されていた。
放射性ヨード治療のプロトコール
提示症例に対し、放射性ヨード治療を選択した回答者に、治療の目標が患者を甲状腺正常状態にすることにあるのか、それとも意図的に十分な甲状腺組織を破壊し、患者を甲状腺機能低下症にし、生涯甲状腺ホルモン補充治療に依存させることにあるのかを尋ねた。また、治療用線量は決まった線量であるのか、あるいは甲状腺腫のサイズや放射性ヨード摂取率、またはその他のファクターを元に計算するのかを尋ねた。さらに、放射性ヨード治療の前後に抗甲状腺剤を補助治療に使うかどうか、最初の線量で治癒に至らなかった場合は2度目の治療線量を投与するのかどうか、投与する場合はいつするのかを尋ねた。

回答は【図6】に示したが、3つのグループすべて、特に日本甲状腺学会は治療の目標を甲状腺正常状態の回復に置いていることが明らかである。アメリカ甲状腺学会の回答者は、抗甲状腺剤による補助治療を放射性ヨード治療の3〜7日前までに使用する傾向がある(ヨーロッパ甲状腺学会の情報は入手できない)が、アメリカ甲状腺学会とヨーロッパ甲状腺学会の回答者の43%と日本甲状腺学会の回答者の81%が抗甲状腺剤を放射性ヨード治療用線量投与後に使う方を選んでいた。【図7】に示すごとく、全回答者の3分の2以上が投与する放射性ヨードの線量の計算や決定に24時間放射性ヨード摂取率試験と甲状腺腫の大きさを使っており、ヨーロッパ甲状腺学会とアメリカ甲状腺学会の回答者のほぼ100%ができれば1回の投与で済ませたいと思っている。また、ヨーロッパ甲状腺学会とアメリカ甲状腺学会のほぼ100%が1回目の投与で効果がないことがはっきりすれば2度目の放射性ヨード投与を行い(日本甲状腺学会のデータは入手できない)、2度目の投与はアメリカ甲状腺学会の回答者とヨーロッパ甲状腺学会の回答者の半数が平均4〜6ヶ月後に行なうとしており、ヨーロッパ甲状腺学会の残り半数と日本は2度目の治療が必要な場合、最初の治療からそれぞれ10〜12ヶ月後または6〜12ヶ月後に行なうと回答している。
提示患者のバリエーション
アンケート調査の第4部で、回答者に【表2】に提示した患者の8種類のバリエーションに基づき、治療がどのように変わるかを尋ねた。
甲状腺腫の大きさ
甲状腺腫の大きさのバリエーションでは、アメリカ甲状腺学会の回答者の好む治療が【図8】にはっきり出ている。甲状腺腫の大きさが80gの患者でも、まだ治療の選択は放射性ヨードであるが、甲状腺腫のない患者では抗甲状腺剤とほぼ半々になっている。甲状腺腫が大きな場合、手術が選択される頻度が提示患者より高くなっている。ヨーロッパ甲状腺学会と日本甲状腺学会の回答者の治療選択への甲状腺腫の大きさの影響を比較したものが【図9】である。アメリカ人が放射性ヨードを好むのとは対照的に、大きな甲状腺腫に対してヨーロッパ甲状腺学会では手術を選択する頻度が高くなっていた。同様に日本甲状腺学会でも大きな甲状腺腫に対して、手術を選択する頻度が高くなっていた。目立った甲状腺腫のない患者に対する治療選択として、ヨーロッパ甲状腺学会と日本甲状腺学会は抗甲状腺剤を選択する割合がはるかに高かった。
重症度の程度と再発
次のバリエーションは病気の重症度の程度、または以前受けた手術や抗甲状腺剤治療を受けた後の再発である。アメリカ甲状腺学会の回答は【図10】に出ているが、提示患者より重症度が高い場合には、抗甲状腺剤を使う傾向がわずかに高くなっている。しかし、放射性ヨードが治療の選択となっていることは変わらない。放射性ヨードは、以前に抗甲状腺剤治療を受けたか、手術を受けた後に再発した場合のバリエーションに対しても、やはり選択される治療となっている。【図11】に、重症度の程度、または再発のバリエーションに対するヨーロッパ甲状腺学会と日本甲状腺学会の治療選択をアメリカ甲状腺学会のものとの比較を載せたが、アメリカ甲状腺学会の臨床医は提示患者に対するのと同じように、重症度の高い場合も放射性ヨード治療を好むのに対し、ヨーロッパ甲状腺学会と日本甲状腺学会の回答者は明らかに抗甲状腺剤による治療を好んで選択していた。再発疾患に対しては、ヨーロッパ甲状腺学会とアメリカ甲状腺学会のどちらも放射性ヨード治療を好むという点で一致していたが、日本甲状腺学会側では放射性ヨード治療をあまりやりたがらない傾向がはっきりしており、回答者の約半数が2回目の治療にも抗甲状腺剤を使うとしていた。
年齢と性別
【図12】に、患者が男性か、女性か、また提示患者より年齢が低いか高いかで、アメリカ甲状腺学会の回答者がどのような治療を選択するかを挙げた。放射性ヨードはやはり、男性患者に対しもっとも人気のある治療法となっており、予測どおり年齢が高い患者ではなお一層好まれる治療となっている。しかし、若い患者(19歳)に対してのみ、アメリカ甲状腺学会の臨床医は放射性ヨード治療よりも抗甲状腺剤の方を選ぶ傾向が高くなっている。ヨーロッパ甲状腺学会と日本甲状腺学会回答者の治療の好みをアメリカ甲状腺学会の回答者のものを比較したのが【図13】であるが、患者が女性から男性に代わっても治療法の好みは変わらず、アメリカ甲状腺学会は放射性ヨードであるのにヨーロッパ甲状腺学会と日本甲状腺学会ではやはり抗甲状腺剤を選択していた。年齢の高い患者に対して放射性ヨード治療を選択するという点ではアメリカ甲状腺学会とヨーロッパ甲状腺学会は一致していたが、日本甲状腺学会では放射性ヨード治療を選ぶのは4分の1にしか過ぎなかった。19歳の患者というバリエーションに対しては、抗甲状腺剤を選ぶということで全体が一致していた。それでも、アメリカ甲状腺学会は他の2つのグループより放射性ヨードを進んで使う傾向がはっきり出ていた。

考 察
この報告は、日本甲状腺学会、ヨーロッパ甲状腺学会、およびアメリカ甲状腺学会の臨床医会員に対して、別個に行なわれた最近のバセドウ病患者の診断用検査と治療についての調査からわかったことをまとめ、比較し、医療戦略の違いを明らかにしたものである。典型的な提示患者の管理に関して、3つのグループすべてが入院患者ではなく、むしろ来院患者を診断し、治療するという設定となっていた。放射性ヨード摂取率試験に関しては、アメリカ甲状腺学会と日本甲状腺学会は123-Iを好んで使っていたのに対し、ヨーロッパ甲状腺学会は123-Iをできれば使った方がよいという状態であったが、これは123-Iが入手しにくいためであると思われる。アメリカ甲状腺学会の回答者は放射性ヨード摂取率試験だけが必要と考えていたのに対し、他の2つのグループは摂取率試験と共にスキャンも行なう割合が高かった。一般に、ヨーロッパや日本の医師に比べ、アメリカ甲状腺学会の臨床医は行なう診断用検査の数が少なかった。

提示患者とその患者の8種類のバリエーションの内、7種類に対し、アメリカ甲状腺学会は放射性ヨード治療を選択する割合が目立って高かった。ヨーロッパ甲状腺学会と日本甲状腺学会では、再発例でのみ放射性ヨードの選択割合がほぼ同じであった。抗甲状腺剤は、ヨーロッパ甲状腺学会と日本甲状腺学会がそれぞれ提示患者と8種類のバリエーション患者の内4種類、提示患者と8種類のバリエーション患者の内7種類で好んで選択していた。若い患者に対しては、3つのグループすべてが抗甲状腺剤を選択することで一致していた。外科的な甲状腺切除術はアメリカ甲状腺学会回答者ではめったに選ばれておらず、ヨーロッパ甲状腺学会と日本甲状腺学会では大きな甲状腺腫がある患者にのみ選択されていた。

抗甲状腺剤に関しては、アメリカ甲状腺学会回答者の選択はPTUであるのに対し、ヨーロッパと日本ではメチマゾール<注釈:日本ではメルカゾール>またはカルビマゾールが好まれていた。β-ブロッカーによる補助治療も3つのグループすべてで治療の初期段階で採用されていた。使用する際は、アメリカ甲状腺学会と日本甲状腺学会の回答者のほとんどが抗甲状腺剤を単独で投与しており、ヨーロッパ甲状腺学会回答者はL-サイロキシン<注釈:日本ではチラージンS>と組み合わせて抗甲状腺剤を使用する傾向が高かった。抗甲状腺剤の用量や投与頻度など薬剤投与治療の方法は、全回答者が臨床検査や臨床パラメーターの改善に基づき、治療開始後数週間で変更していた。抗甲状腺剤は普通、1〜2年の一定期間継続して投与され、TSHレセプター抗体やT3抑制試験、あるいはTRH刺激試験などの正常化に基づいて中止される(注釈:現在はTSHの感度が良くなったので、T3抑制試験やTRH刺激試験は行われなくなった)。放射性ヨード治療では、3つのグループすべてで目標または望ましい結果は甲状腺正常状態であり(サイロキシン補充を必要とする甲状腺機能低下症よりも)、できれば1回の治療でそうなることが好ましいという回答であった。2回目の治療が必要な場合は、約4〜6ヶ月後に投与されていた。多くの回答者が放射性ヨード治療後に短期間抗甲状腺剤を使用していたが、これは甲状腺正常状態を得るため、または先に得られた甲状腺正常状態を維持するためである。全回答者が甲状腺サイズの見積もり値と24時間放射性ヨード摂取率を投与するアイソトープ線量の計算に使っていた。

これらの調査結果の比較から導き出された教訓がいくつかある。まず、甲状腺機能検査に関しては、非常に感度の高い新しいTSH測定が驚くほど急速に採用されてきているにもかかわらず、臨床家は相変わらず総T4測定に頼っているということである。日本では、アメリカで普通に行なわれている総T4やRT3U、FTIではなく、感度の高いTSHアッセイと直接遊離T4測定を組み合わせた、より新しいアプローチ法が採用されていることはほぼ間違いない。相当な数の文献で病気の再発や寛解の予測に使えることが立証されているにもかかわらず、TSHレセプター抗体の測定を管理プランに組み込んでいないということにも興味を引かれる。

治療の選択に関して一つ興味を引かれた傾向は、甲状腺切除術が驚くほど減少していることである。これは、容易であること、簡便であること、そして費用が安いことにより、若い患者においてさえ放射性ヨードを進んで採用することが増えた結果であると思われる。さらに、実施される甲状腺切除術の頻度が減少するとこの処置に熟練した外科医が次第に少なくなり、手術の合併症が起こる可能性が高くなるという悪循環がかなり長い間に認められてきている。

また、アメリカの甲状腺専門医が抗甲状腺剤を使うのを止めて、放射性ヨードによる破壊治療の方を選択する傾向がはっきり見られたのも興味深い。アメリカ甲状腺学会回答者の大多数が1種類のバリエーション、19歳女性の患者に対してのみ抗甲状腺剤を選んだが、回答者の33%がこの若い患者にも進んで放射性ヨードを投与するという事実は、わずか6年前にDunn(4)が確認した治療の傾向が変わってきていることを示すものである。その一方で、ヨーロッパ甲状腺学会と日本甲状腺学会の臨床家は放射性ヨード治療にはきわめて消極的に見える。この違いの理由は、推測に過ぎないが、おそらく西ヨーロッパの患者は過去数十年間にわたって2大勢力の間の核戦争が起こる可能性にさらされてきたため、反核的偏見から放射性ヨードを拒否してきたのかもしれない。ヨーロッパ甲状腺学会の調査後ではあるが、USSRで最近起きたチェルノブイリの事故によりこの偏見が強まったことは間違いない。事実、日本人では核兵器による被爆の経験がなお一層放射性ヨード治療に対する嫌悪感を増大させている可能性がある。実際的な問題も放射性ヨード治療の使用に影響していると思われる。ほとんどのヨーロッパ諸国は、現在内分泌病専門医が患者に放射性ヨードを投与する際、患者を入院させるよう求めているため、経済的ファクターも治療の選択に混乱を招いている(日本では1988年6月より使用量に制限があるものの外来での放射性ヨード治療ができるようになった)。

現在そして将来の地理的や経済的要因の変化が治療選択に対する患者と医師の偏見になお一層影響してくる恐れがある。おそらくは、最近の研究でわかってきたバセドウ病の免疫学的な要因が現在使われているよりも新しく、特異性の高い治療につながる可能性が高いと思われる。それまでは、医師が勧める治療は費用や簡便性、客観的データ、および患者自身が持っている様々な情報と偏見に基づいた患者の好みによって、左右されることになりそうである。これら別個に行なわれた全国的調査の比較からは、基本的ヨード摂取量のようなその他の環境的要因の役割りとその治療への影響をはっきりさせることはできなかったが、この再検討と3つの主要な報告に基づき、この分野での将来の研究が加速されることを願っている。

. Dr.Tajiri's comment . .
. この論文が発表されたのは1991年であり、10年前のものです。まず、治療法に関しては、アメリカでは以前と比べて、放射性ヨード治療の割合が増えています。それとは対照的に、日本では今でも80%の人が抗甲状腺剤で治療を受けています。また、使用する抗甲状腺剤に関しては、日本とヨーロッパではメルカゾールが好まれ、アメリカではPTU<注釈:日本ではプロパジールまたはチウラジール>が好まれていました。この傾向は、現在も同じです。

1998年6月より、日本でも外来で放射性ヨード治療が可能になりました。放射性ヨード治療が増えることが期待されました。しかし、日本では放射性ヨード治療自体に保険で認められた点数がつきませんので、外来での放射性ヨード治療がなかなか普及しないのが現状です。厚生省の早急な対応を望みます。
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参考文献]・[もどる