甲状腺悪性リンパ腫のおはなし

甲状腺悪性リンパ腫は、甲状腺悪性疾患の1〜5%程度で希な疾患です。甲状腺にできる悪性リンパ腫は、リンパ節にできる悪性リンパ腫と大きく違うところがあります。

1つめは、大変予後が良いことです。すなわち、この病気で命を落とすことはあまりないことです。適切な治療をすれば、ほとんどの場合治ります。甲状腺悪性リンパ腫はリンパ球のB細胞から出てくるためです。リンパ節にできる悪性リンパ腫はリンパ球のT細胞から出来てきます。悪性リンパ腫の場合、B細胞の方がT細胞に比べたら治療によく反応することが分かっています。

2つめは橋本病の人に発症することです。希にバセドウ病にでることもありますが、ほぼ橋本病と言ってよいです。橋本病は、別名慢性甲状腺炎とも呼ばれます。

以上のことをまず、頭に入れてこれから甲状腺悪性リンパ腫についてお話ししていきます。甲状腺悪性リンパ腫には、2つのタイプがあります。MALToma(MALTリンパ腫)とびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(Diffuse Large B-cell lymphoma:DLBL)です。割合はMALTリンパ腫:びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫は4:6くらいで、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の方が多いです。

MALTリンパ腫なら、甲状腺部に放射線を当てれば治ってしまいます。しかし、びまん性大細胞型B細胞性リンパでは、放射線を当てるだけでは不十分で抗がん剤の点滴をする必要があります。

診断は、甲状腺超音波、穿刺吸引細胞診などで疑い、最終的には試験切開(手術で小さな甲状腺組織を切除)を行い、組織を顕微鏡で見て診断します。最近では、免疫学的な手法を用いて診断したり、遺伝子検査を行う場合もあります。診断が正しくないと間違った治療をすることになるので、慎重に検査します。

橋本病で長期間経過観察している場合、必ず超音波でみてもらいましょう。超音波で怪しい影がみえたら、一度は穿刺吸引細胞診をしてもらいましょう。当院では、MALTリンパ腫の割合が非常に多いです。これは、定期的に超音波で調べて、早めに悪性リンパ腫を発見しているからではないかと考えています。現に、時間が経過するとMALTリンパ腫からびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫へ変化するという報告もあります。