抗甲状腺薬の長期投与治療も選択肢のひとつ
ご存知のようにバセドウ病の治療法には、薬物治療、放射性ヨード治療、手術があります。日本では、圧倒的に抗甲状腺薬による治療が多いですね。最近、アメリカ甲状腺学会雑誌『Thyroid』最新号に抗甲状腺薬の長期投与治療は有用な治療法であるという論文が掲載されました。抗甲状腺薬治療の多い日本のバセドウ病患者さんにとっては、グッド・ニュースです。論文を書いた先生は、有名な甲状腺研究者であるAzizi先生です。Azizi先生はテヘラン在住のお医者さんです。
この論文は、抗甲状腺薬を長期間服用したバセドウ病患者について検討した論文をまとめたものです。信頼のおけるデータに基づいた6論文を厳選し、詳しく検討しています。長期投与は、2年以上と定義しています。これくらいの期間なら日本では普通ですけどね。だからこそ、日本人に当てはまる研究結果と考えてよいわけです。
結果ですが、587名のバセドウ病患者が抗甲状腺薬の長期投与を受けていました(平均41〜98ケ月)。寛解率は、57%でした。成人の方が若年者より若干寛解率が高い傾向にありました(61% vs. 53%)。想像通り、喫煙は寛解率を低下させる要因でした。バセドウ病の人にはタバコは禁物ですね。
従来の考え方は、抗甲状腺薬による治療は1.5〜2年以上続けても寛解率に差がないので、早く治りたい人には別の治療法(放射性ヨード治療、手術)を勧めることを推奨していました。しかし、現在では手術は甲状腺全摘を行い、放射性ヨード治療は多めに投与して低下症にします。そして、どちらの場合も終生、甲状腺ホルモン剤を服用するわけです。患者さんにとって、クスリを飲むことには変わりないわけです。ここからがポイントなのですが、手術、放射性ヨード治療は甲状腺を傷つける治療法です。抗甲状腺薬は副作用が起こる時期(服用開始3ケ月以内)を超えれば、いたって安全なクスリと考えらえます。それに甲状腺を傷つけない優しい治療法です。大変分かりやすい話です。
ただ、ここでお話している抗甲状腺薬とはメルカゾールのことです。PTU(チウラジールまたはプロパジール)は話が別です。というのもPTU特有にみられる重篤な副作用が問題になるのです。MPO-ANCA関連症候群、重症肝障害です。PTUは妊娠初期かメルカゾールで副作用がある場合を除いて使用することはありません。妊娠初期を例外として、現時点では抗甲状腺薬の第一選択薬はメルカゾールです。
日本では、以前から行われていた抗甲状腺薬長期投与治療が海外で見直されてきたというわけです。実際の治療では、個々のバセドウ病の状況が異なりますから(甲状腺腫が大きくてクスリではとても治りにくい、何度も再発を繰り返すなど)、主治医の先生とよくご相談ください。
文責:田尻淳一