大きな甲状腺腫を持つバセドウ病患者に対するアイソトープ治療
最近の米国甲状腺学会雑誌(2023年11月号)で、大きな甲状腺腫(80g以上)を持つバセドウ病(以下、GDLGと略)に対するアイソトープ治療(以下、RAIと略)について中国とアメリカの間で興味深いやり取りがありました。
まず、口火を切ったのは中国でした。米国甲状腺学会(以下、ATAと略)から出版された甲状腺機能亢進症治療のガイドライン(2016年版)ではGDLGに対しては手術を推奨していることに反論しました。中国からの観点では、GDLGに対してはRAIが望ましいと主張して、次回のガイドラインでは是非、GDLGに対してRAIも推奨するように訂正してほしいと要望しました。
一方、アメリカはというと中国からの要望に対して、ATAの返事は色々な理由をあげて、基本的にはGDLGに対しては手術が望ましいと結論付けました。しかし、決してRAIを妨げるわけではないというかなり消極的な姿勢でした。
実は、欧州甲状腺学会の甲状腺機能亢進症治療のガイドライン(2018年版)では、GDLGに対しては縦隔内甲状腺腫(甲状腺腫が縦隔内に入っている状態)であってもRAIを行って良いと明記しています。縦隔内に甲状腺腫が入っているとRAIを行った際、甲状腺腫が大きくなり気管を圧迫して呼吸しにくくなる可能性があるので、今まではRAIを避けていたのですが、その点も気にしなくて良くなったわけです。
我々も100g以上のGDLG患者71例に対してRAIを行い、その治療成績をEndocrine Journalに報告しました(68巻: 1117-1125頁, 2021年)。甲状腺重量は平均126g (101-481g)から平均8.2g(1.4-37g)まで縮小しました。
RAI後の甲状腺機能は、甲状腺機能低下症 45例、潜在性甲状腺機能低下症 3例、甲状腺機能正常 10例、潜在性甲状腺機能亢進症 8例、RAI治療中 3例と満足のいく治療成績でした(脱落 2例)。もちろん、RAI後に呼吸困難等の症状を訴えた患者はいませんでした。したがって、上記の欧州甲状腺学会の甲状腺機能亢進症治療のガイドライン(2018年版)の記載は正しいと考えます。
当院では、大きな甲状腺腫を持つバセドウ病患者に対する治療方針は、高齢者や糖尿病、心臓病など手術に適さない疾患を持つ患者以外には、まず手術を勧めます。手術に同意しない患者に対してのみ、RAIを勧めます。我々の対応は中国と米国の中間で、強いて言えば米国に近いものです。
甲状腺腫が一番大きな患者は481gで、200g以上が10人いました。こんなに大きくても、外来RAIの分割投与で治療できます(日本では、外来で治療できるのは13.5mCiまでです;そのため数回に分割して治療するわけです)。300〜400gの非常に大きな甲状腺腫を持つバセドウ病患者でもRAIで治せるという事実は(それも外来で!)、手術に同意しないバセドウ病患者にとっては希望の持てる情報ではないでしょうか。
文責:田尻淳一