メルカゾールで蕁麻疹が出た症例に対する少量メルカゾール再投与の安全性について
抗甲状腺薬のメルカゾールは、副作用が多いクスリという有り難くないレッテルを貼られています。副作用で一番多くみられるのはかゆみ、蕁麻疹です。症状がひどいためにメルカゾールを中止し、もう一つの抗甲状腺薬であるチウラジールに変更しなくてはいけないこともあります。
チウラジールに変更して5〜10年以上という長期間服用している人がいます。通常は、抗甲状腺薬の副作用は服用開始3ヶ月以内に起こります。しかし例外的に、チウラジールでは長期間服用した際、重篤な副作用である抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎症候群を起こすことがあります。ANCA関連血管炎症候群は、急速進行性糸球体腎炎や肺出血を起こすなど命に関わる重大な副作用です。
チウラジールを長期間服用している場合、この重篤な副作用にいつも怯えていなければなりません。できれば、別の治療法である放射性ヨウ素内用療法や手術で確実に治したほうが良いわけです。しかし、なかなかこれらの治療に切り替えることを躊躇する人が多いのが現状です。
チウラジールは投与量には関係なく少ない量でも副作用を起こすことがあります。一方、メルカゾールは投与量が多いほど副作用が出やすくなります。要するに、メルカゾールは投与量が少なければ副作用を起こす可能性が低くなるわけです。ここに着眼したのが、今回紹介するKubotaの論文です(Intern Med 55: 3235-3237, 2016)。
Kubotaは、以前メルカゾールで蕁麻疹を起こしたためチウラジールに変更して長期間服用(6〜21年間)している9例を対象に、少量のメルカゾールを再投与して蕁麻疹などの副作用が出現するかどうかを検討しました(メルカゾール5mg隔日 7例、メルカゾール5mg週2回 1例、メルカゾール5mg/日 1例)。メルカゾールに変更した理由は、上記で説明したチウラジールを長期間服用した際の重大な副作用を回避するためです。
9例中8例では、蕁麻疹やかゆみは出現しませんでした、1例でメルカゾール投与2日後(メルカゾール5mg隔日)にかゆみが出現したためチウラジールに戻しました。
当院でも、メルカゾールを再投与した2例を経験しました。2例ともKubotaの論文を医学的根拠として患者に説明して、同意を得ました。
1例目は、メルカゾールとチウラジールで肝障害を起こし、ヨウ化カリウム丸を服用していたのですが効かなくなり、放射性ヨウ素内用療法や手術などの別の治療を勧めるも同意が得られませんでした。メルカゾール5mg週2回の再投与を行いました。注意深く、副作用のチェックを行いましたが、肝障害を含む副作用は出ませんでした。
2例目は、メルカゾールで蕁麻疹とチウラジールでアレルギーと思われる発熱がみられたため、ヨウ化カリウム丸を服用するも効かなくなり、放射性ヨウ素内用療法や手術などの別の治療を勧めましたが同意を得られませんでした。メルカゾール2.5mg/日の再投与を行いました。副作用のチェックを行いましたが、蕁麻疹を含む副作用は出ませんでした。
メルカゾールで軽度の副作用がみられても、少量メルカゾール再投与を行うことが可能な場合もあります。2つの抗甲状腺薬で軽度の副作用が出てヨウ化カリウムも効かなくなったとき、メルカゾールで軽度の副作用が出て長期間チウラジールを服用しているときなどは、一度、主治医の先生に相談されてはいかかでしょうか。
ただ、知っておいてほしいのは、無顆粒球症や重症肝障害などの重篤な副作用が出た場合、この対処法は不適切です。そのような場合は手術や放射性ヨウ素内用療法が適しています。しかし、ヨウ化カリウム丸が効けば、長期に服用することも可能です。
対処のやり方は、状況によっていろいろあるわけです。引き出しの多い(いろんな対処法ができる)先生に相談されることをお勧めします。
文責:田尻淳一