肥満と甲状腺疾患の関連性について

肥満は、世界中で蔓延しており、糖尿病、心血管疾患、がんなどとの関連性が指摘されているため、公衆衛生上の大問題になっています。近年では、肥満と甲状腺疾患の関連性も分かってきていますので、今回は肥満と甲状腺についてお話しします。

最初に、肥満と甲状腺がんの関係についてお話します。国際がん研究機関(IARC)と世界がん研究基金(WRCF)によれば、閉経後乳がん、子宮内膜がん、大腸がん、食道がん、腎臓がん、肝臓がん、膵臓がん、前立腺がん、甲状腺がん、白血病、非ホジキンリンパ腫、骨髄腫は肥満と明確に関連していると認識されています。しかし、肥満があるとなぜ甲状腺がんになりやすいかということは分かっていません。現在、多くの研究者が肥満と甲状腺がんの関連性について研究していますので、近い将来、発症機序(原因)が突き止められると思います。

次に、肥満と甲状腺機能障害(甲状腺機能低下症と甲状腺機能亢進症)の関係について説明します。肥満と甲状腺機能低下症は明らかな関連性が認められます。興味深いことに潜在性甲状腺機能低下症も肥満と関連性が認められています。それに反して、甲状腺機能亢進症では肥満との関連性はありませんでした。

最後に、肥満と自己免疫性甲状腺疾患(橋本病とバセドウ病)の関連性についてお話しします。肥満と自己免疫性甲状腺疾患の間には関連性はありませんでした。また、肥満とバセドウ病にも関連性はみられませんでした。しかし、橋本病では肥満との関連性が認められました。自己抗体で比較すると、肥満と抗サイログロブリン抗体には関連がありませんが、抗TPO抗体とは強い関連性がみられました。

肥満と甲状腺疾患の相互関係は非常に興味深い問題ですが、まだ十分な解明がなされているわけではありません。肥満、甲状腺疾患は非常に多い疾患なので、近い将来、この関係性が解明されて両疾患の治療に寄与する研究が進むことに期待したいと思います。

現実問題として、肥満になると甲状腺がん、甲状腺機能低下症、橋本病になる可能性が高くなりますので、食事療法、運動をすることで肥満を避ける方が安全のようです。

文責:田尻淳一

この記事は以下の論文を参考にして執筆しました。

The Impact of Obesity on Thyroid Autoimmunity and Dysfunction: A Systematic Review and Meta-Analysis. Front Immunol 10: 02349, 2019

Obesity and thyroid cancer. Endocrine-Related Cancer 21: T255–T271, 2014