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良性結節および甲状腺がん

わたしの首に出来た小さなシコリは癌ですか?
シコリは甲状腺の中に出来たものですが、リンパ節は腫れていません。甲状腺癌とは思えませんが、はっきりさせるために検査が必要です。
検査をすれば100%わかりますか?
いつもそうとは限りません。特に針生検をしても癌の疑いが晴れない時は、手術を勧められるかもしれません。単発結節の約半数は手術を受けなければならない。
シコリが急に大きくなって痛みます。どのような病気でしょう?
甲状腺のシコリの中に出血したのだと思います。急に大きくなって痛いのはそのためです。液を抜くと縮んで痛みも取れます。後日、医師はこのシコリについて検査するでしょう。
液を抜いたらシコリがなくなりました。甲状腺嚢腫と言われました。又、シコリが大きくなりますか?
腫れてくるかもしれません。もしも、腫れてきたら再び液を抜くか、何回も溜まるようなら手術で切除します。

多くの検査を受け心配ないと言われたのに手術を勧められました。私には理解できません。
検査では甲状腺機能は正常でした。しかし、生検でははっきりとせず、癌ではないという確信が持てません。はっきりさせるには手術するのが一番良い方法です。たとえ癌としても、予後は大変よいです。
ヨードシンチでは癌の取り残しもないようです。来年も又、この検査をしなければならないのですか?
その必要はありません。将来は血中サイログロブリンという物質を測ることで癌の再発をみれます。サイログロブリン値で異常が出たときのみ、ヨードシンチが必要となります。
サイロキシン(チラージンS)の服用量が増えてきました。これは病気が悪くなっているのですか?癌が再発したのですか?
多分、違うでしょう。TSHの抑制が足りないためにサイロキシン(チラージンS)の量が増えたのでしょう。TSHは残存している甲状腺癌組織を刺激するので低くしておかなければなりません。
しかし、サイロキシンを増やすと神経質になったり。興奮しませんか?
甲状腺ホルモンは正常上限にするのを目的をしていますので、のみすぎにはなりません。
甲状腺癌ではないことは確かですか?
多分。あなたにはシコリは一つに感じるかもしれませんが、シンチでは甲状腺に大きな結節が多発しています。その所見は癌ではない可能性が高いです。

分化度の高い甲状腺癌とはどのようなものでしょうか?
乳頭とは、皺状の突起のことです。乳頭癌は、たくさんの突起があり、顕微鏡で見るとシダやシュロの葉のように見えます。顕微鏡で組織を丁寧に調べると、“正常”な甲状腺の10%程に小さな乳頭癌が見つかることがあります。病理学者がもっと丁寧にそのようなごく小さな癌を探すようにすれば、もっとたくさん見つかるはずです。これらの顕微鏡で見つかるような微小癌は、臨床的には重要性がなく、病気そのものより好奇心の対象のようです。言い換えれば、これらの小さな癌に似た腫瘍が大きくなったり、もっと重篤な悪性腫瘍になる傾向はないようだということです。
一方で、乳頭癌が甲状腺の中にかたまりを作るほど大きく成長した場合は、そのまま大きくなり続け、体のあちこちに広がる可能性があるため、臨床的に重要であると考えます。乳頭癌は甲状腺癌全体の約70から80%を占め、年齢を問わず発生します。毎年アメリカで新しく発生する乳頭癌のケースは、約12,000にしか過ぎません。しかし、これらの患者の平均余命の長さから、1,000人に1人はこの形の癌を持っているか、または持っていたと推測されます。乳頭癌はゆっくりと成長し、リンパ系を経由して首のリンパ腺に広がる傾向があります。実際に乳頭癌の手術を受けた患者の約3分の1で、腫瘍がすでに周辺のリンパ節に広がっていました(リンパ節転移)。幸いに、リンパ節転移があったとしても予後がいいことには変わりはありません。
乳頭癌が甲状腺の片方からもう一方にリンパ系を通じて広がることがありますが、やはり患者の予後には変わりはありません。甲状腺乳頭癌のある患者の予後を最終的に決めるものは、主に、見つかった時病気がどこまで広がっていたかによります。先に述べたように、リンパ節への転移のあるなしは、予後に影響しません。
初期乳頭癌のある患者の85%は、腫瘍が甲状腺内にとどまっており、予後は極めて良いものです。
この状況での癌による25年死亡率は約1%で、これは100人の患者の内1人が25年経つまでに甲状腺癌で死ぬことを意味しています。それまでには、大多数は完全に治ってしまい、再発することはありません。年齢が50歳以上の患者や腫瘍の大きさが4cm以上の患者では、予後はそれ程よくありません。
初期乳頭癌のある患者の予後は非常に良いため、治療自体が有害にならないようにすることが大事です。このような軽いタイプの乳頭癌には、根治手術が適用されることはまずありません。甲状腺内乳頭癌のある患者の10%以下で再発が見られますが、普通は、首のリンパ節内の腫瘍細胞の成長による再発であり、生命を脅かすことはありません。これは、手術で取り除かれるのが普通です。
癌が成長して、甲状腺から周囲の組織に広がっているような患者では、あまり予後は良くありません。これは、甲状腺を取り囲んでいる線維性の被膜を通って、首の組織の中に癌が広がっていることを意味し、先に述べたようなリンパ節の関与はありません。非常に割合は少ないのですが(約5%)、癌が血流に乗って離れた場所、特に肺や骨に広がる場合があります。このような離れた場所に移った癌(転移)は、放射性ヨード(後述参照)でうまく治療ができることが多いのです。甲状腺乳頭癌のある若い患者では、一般的に予後が極めて良いのですが、20歳以下の患者では幾分肺に広がる危険性が高いようです。
濾胞癌とはどのようなものでしょうか?
正常な甲状腺は、濾胞と呼ばれる球形の構造からなっています。甲状腺癌で、これらの正常な濾胞構造を含んでいるものを濾胞癌と呼びます。濾胞癌はアメリカでは全甲状腺癌の10〜15%を占め、乳頭癌に比べ、幾分年齢の高い患者に発生する傾向があります<注釈:日本では濾胞癌の頻度は全甲状腺癌のほんの数%です>。甲状腺の濾胞癌は、乳頭癌より広がりやすいと考えられています。甲状腺濾胞癌のある患者の約3分の1は、浸潤は最小限で広がる傾向はありません。
このような場合は、非常に予後が良いのですが、残りの3分の2では、濾胞癌の浸潤性がもっと強いのです。血管の中に成長して入って行き、そこから離れた場所、特に肺や骨に広がることがあります。一般的に、50歳以上の患者に比べ、若い患者の予後の方が良くなっています。
分化度の高い甲状腺癌の治療はどのようなものですか?
どのような形の癌であれ、甲状腺癌の一次治療はすべて外科手術です。より進行の早いタイプの乳頭癌や濾胞癌では、甲状腺全体の除去、または安全に取り除くことができるだけの分を取るというアプローチが一般に受け入れられています。甲状腺内乳頭癌や浸潤が最小限に留まっている濾胞癌に対しては、外科医と内分泌病専門医の間で、甲状腺の全摘出と、甲状腺の片方と峡部と呼ばれる2つの腺葉をつなぐ部分だけの摘出と、どちらの方がメリットがあるかということについて論争が続いています。
甲状腺内乳頭癌と浸潤が最小限の濾胞癌の予後は極めて良いため、手術の範囲は別として、2つの内どちらの外科的アプローチの方が良いのか証明することは困難です。したがって、これらの癌に対する管理に関しては、絶対的なルールというものはありません。腫瘍の行動について一般的な特徴はわかってきましたが、どの患者に対しても、甲状腺癌患者の管理に熟達した医師により、その患者にとって最良の治療が選択されます。
放射性ヨード療法とはどのようなものですか?
乳頭癌や濾胞癌が一度血流に乗って周囲の組織、または離れた部位(特に肺と骨)に広がってしまったら、腫瘍を破壊するために放射性ヨード(131-I)を投与するのが一般的な治療となります。この治療を理解するためには、ヨードと甲状腺の関係を知ることが大切です。正常な場合、甲状腺は血液からヨードを取り込み濃縮します。そしてこの過程は下垂体からのTSH(甲状腺刺激ホルモン)により刺激されます。その後ヨードは甲状腺ホルモン(サイロキシンT4)を作るのに使われます。甲状腺癌または甲状腺癌が転移したものは、正常な場合はごくわずかの量のヨード(または放射性ヨード)しか取り込みません。しかし、大量のTSHの影響下にある時は、甲状腺癌、またはその転移したものの一部は刺激を受けて、相当量のヨードを取り込むようになります。これにより、周囲の組織を損なうことなく、癌に直接大量の放射線が照射されることになります。甲状腺が存在しており、正常な量の甲状腺ホルモンを産生している場合は、下垂体のTSHの産生量は比較的低いままに留まっています。しかし、甲状腺全体が取り除かれたり、破壊されたりして甲状腺ホルモンのレベルが下がってくると、下垂体はTSHの分泌を急激に増やします。次にこのTSHが甲状腺癌を刺激し、放射性ヨードを取り込むようにします。
広がった甲状腺癌に対し、放射性ヨード療法を行なう場合は、甲状腺全体を手術でほぼ完全に取り除き、残留した組織を放射性ヨードを使って破壊する必要があります。一度これを行なったら、首に腫瘍が残っているか、離れた場所に転移があることがわかっている患者には、TSHのレベルが十分に高ければ、試験量の放射性ヨード(通常は約2から10ミリキュリー)を使ってスキャンを行ないます。もし、相当量のヨードが甲状腺癌の領域に集まっていれば、さらに大量の治療量の放射性ヨード(通常150〜200ミリキュリー)を与え、腫瘍の破壊を試みます。
大量の放射性ヨードで治療を受けている患者は、体内の放射能の量が他の人に害を与えないレベルに下がるまで、数日間入院する必要があります。しかし、この治療は安全で、きつくないので、分化度の高い癌が肺に転移した症例に対しても、多数例を直すことが可能であることが証明されています。
より浸潤性の強い甲状腺癌のある患者に対しても、放射性ヨードが安全で有効であるため、多くの医師がそれ程浸潤性の強くない乳頭癌や濾胞癌にも、放射性ヨードを日常的に使うようになっています。このような場合は、放射性ヨードが手術後にまだ残っている微細な甲状腺組織を破壊するのに使われます。これにより、予後が改善され、サイログロブリンの血液検査(後述参照)を使って、患者の腫瘍の再発をより簡単にモニターできるようになりました。
分化度の高い癌が広がり続けるような時は、手術を行い、放射性ヨードを投与した後でも、放射線の外部照射が有効な場合もあります。このような状況では、化学療法はあまり効果がありません。
甲状腺癌の患者のフォローアップはどのように行なうのでしょうか?
甲状腺乳頭癌や甲状腺濾胞癌の手術を受けた患者には、定期的にフォローアップ(経過観察)のための診査を必ず行なうようにします。それは、間違いなく成した手術の後で、何年も経ってから再発してくることが時々あるからです。
フォローアップのための再診時には、丁寧に病歴を採取し、定期的な胸部X線写真だけでなく、特に首の領域に注意しながら身体的診査を行なうようにします。
首と全身の影像を得るための超音波検査と放射性ヨードスキャンニングも役に立ちます。手術後、時々血液中のサイログロブリンのレベルの測定を行なうのも役立ちます。この物質は、正常な甲状腺組織から放出され、また分化度の高い癌細胞からも放出されます。甲状腺の全摘出を行なった後、また甲状腺の手術の後に甲状腺ホルモンを服用している患者ではサイログロブリンの血中レベルが非常に低くなります。サイログロブリンのレベルが高いまま、あるいは上がってきた場合は、一般的に甲状腺癌がまだ残っているか、または成長を続けていることをうかがわせるものですが、必ずしも予後が悪いということではありません。フォローアップの検査でサイログロブリンレベルが高くなっていることがわかったら、これは医師に対する警戒信号であり、腫瘍が再発していないか確かめるために他の検査も必要となることがあります。残念ながら、甲状腺癌の患者の中には、抗サイログロブリン抗体の存在により、サイログロブリンの正確な測定ができない者もいます<注釈:この抗体があると測定系に影響を与えるためです>。
甲状腺ホルモン剤治療とは?
甲状腺のほとんど、または全部を取り除いた場合、当然ながら体の機能を正常に保つために甲状腺ホルモンを服用しなければなりません。甲状腺の一部が残っていたとしても、甲状腺癌の患者ではサイロキシンを使った治療がフォローアップの際に行なう治療の重要な部分となります。これは、手術後にサイロキシンの投与を受けなかった患者に癌の再発が起こりやすいという研究結果が出ているためです。甲状腺ホルモンは、医学的に禁忌症である場合を除き、TSHレベルを正常値以下に抑えるよう十分な量を投与しなければなりません。感度の高いTSHの新らしい測定法は、TSH濃度のモニターや、患者の血清TSHが正常値よりわずかに下であれば患者の再発の危険性は少ないことを確かめるのに非常に役に立ちます。より浸潤性の強い形の乳頭癌や濾胞癌の患者に対しては、TSHを検知レベル以下に抑えるため、もっと量を増やして投与するべきでしょう<注釈:今では、TSHを検知レベル以下にする程、甲状腺ホルモン剤を増やすと、閉経後の女性では骨が弱る可能性を指摘する人もいます>。

甲状腺癌のタイプは?
甲状腺癌には4つのタイプがあり、その中のいくつかは他のものより多く見られます。
【表】甲状腺癌のタイプと発生率
甲状腺癌のタイプ 発生率
乳頭癌と乳頭・濾胞癌の混合型 75%
濾胞癌とヒュルトレ細胞癌 15%
髄様癌 7%
未分化癌 3%
予後はどうなのでしょうか?
ほとんどの甲状腺癌は非常に治癒率が高いのです。事実、いちばん多く見られるタイプの甲状腺癌(乳頭癌と濾胞癌)がもっとも治癒率が高いのです。若い患者では、乳頭癌と濾胞癌のどちらも、適切な治療が行われれば95%以上の治癒率が期待できます。乳頭癌と濾胞癌のどちらも癌がある側の甲状腺葉を完全に取り除いた上に、もう片方の葉大部分、あるいは全部を切除する方法で行われるのが普通です。

甲状腺の髄様癌ははるかにまれなものですが、予後は悪くなります。髄様癌は非常に早い段階から多数のリンパ節に広がる傾向があり、したがって乳頭癌や濾胞癌のように局所に限局する傾向の高い癌に比べ、はるかに侵襲度の高い手術が必要になります。この癌は、甲状腺の全摘に加え、頚部の前方と側方のリンパ節郭清が必要になります。

いちばん頻度の少ないタイプの甲状腺癌は、未分化癌で、その予後はきわめて不良です。…これはすでに広がってしまった後に見つかることが多く、ほとんどは治りません。手術では腫瘍をすべて取りきれないことがよくあります。
放射性ヨード療法はどうですか?
甲状腺癌は癌の中でもユニークなものです。甲状腺細胞それ自体が人間の体の細胞の中でもユニークなのです。その細胞は唯一ヨードを取り込む能力を持った細胞です。ヨードは甲状腺細胞が甲状腺ホルモンを産生するのに必要で、そのため血液中からヨードを取り込み、細胞内に濃縮します。 ほとんどの甲状腺癌細胞は、このヨードを取り込み、濃縮する能力をそのまま保っています。ここから、完全な“化学療法”の戦略が生まれるのです。放射性ヨードが患者に与えられると残存した甲状腺細胞(そして甲状腺癌細胞にもこの能力が残っています)がそれを取り込み、濃縮します。体の他の細胞はどれもこの毒性のあるヨードを取り込みことはできないため、何ら害を受けません。しかし、甲状腺癌細胞は自分自身の中にこの毒物を集積し、その放射能によって内部から破壊されます。気分が悪くなることもなく、髪が抜けることもなく、吐き気も下痢もありません。また痛みもないのです。もっと詳しいことは、個々のタイプの甲状腺癌についての頁に載せてあります。

甲状腺癌患者のすべてが手術後に放射性ヨード治療を必要とするわけではありません。これは知っておくべき大事なことです。しかし、それ以外の人は治癒を期待するならばこの治療を受けなければなりません。誰が必要で、誰が必要としないかについて、ここでちょっとだけ詳しく言いますと、髄様癌患者は通常ヨード治療を必要としませんが、これは髄様癌はまったくといってよい程放射性ヨードを取り込まないからです。甲状腺全摘術で治療を行った小さな乳頭癌の中にも同じようにヨード治療を必要としないものがありますが、それはまた別の理由からです。これらの癌は単に(完全な)手術のみで治ることが多いのです。大事なことは、これは患者により、また癌により様々であることです。ここに安易な答えを捜してはなりません。この決定は外科医と患者の間で、内分泌病専門医または内科の意見を参考にした上でなされるものです。放射性ヨード治療はきわめて安全なものであることを覚えておいてください。そして、必要ならば、その治療を受けるべきです。

癌ですか… …ただの良性のシコリですか?
.甲状腺結節は年齢とともに増加し、成人のほぼ10%に存在します。検死で調べたところ、50%の人に甲状腺結節があり、かなりありふれたものであることがわかりました。孤立性甲状腺結節の95%は良性です。すなわち、悪性の甲状腺結節は5%しかないということです。良性の甲状腺結節で多いタイプは、腺腫(“正常な”甲状腺組織が発育し過ぎたもの)や甲状腺嚢胞、そして橋本甲状腺炎です。良性の甲状腺結節で希なタイプは、亜急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎、片側の葉の非形成またはリーデル甲状腺腫によるものです。前の頁で述べたように、数少ない癌性の結節は大体において“分化度の高い”甲状腺癌によるもので、これが甲状腺癌の中で一番多いタイプです。乳頭癌が約60%、濾胞癌は12%、そして乳頭癌の濾胞変異があるものが6%を占めています<注釈:日本では乳頭癌が90%、濾胞癌は4〜5%です>。これらの分化度の高い甲状腺癌は大体治りますが、まず最初に見つけなければなりません。細針生検(穿刺吸引細胞診)は、甲状腺の結節が癌性のものであるかどうかを確かめる安全で、効果的かつ簡単な方法です。

甲状腺癌は、普通、目立った孤立性の結節として存在し、患者が自分で触れたり、家族や友人が首にしこりがあるのに気付く場合もあります。これは上の図に示してあります。
甲状腺結節の入門編で指摘したように、良性の結節と癌性の孤立性甲状腺結節とを見分ける必要があります。
.病歴や医師による診察、検査室検査、超音波、そして甲状腺スキャンは、どれも孤立性の結節に関する情報を与えてくれるものですが、甲状腺結節が良性か悪性かを見分けることができる唯一の検査は、細針生検(穿刺吸引細胞診)です(生検とは組織のサンプルを採取して、その細胞に癌の特徴があるかどうかを顕微鏡で見て調べる検査のことです)。
このような状況では、甲状腺癌は体の他のあらゆる組織から生じたものと何ら違いはありません。…何かが癌性であるかどうかを見る唯一の方法が生検を行うことなのです。しかし、甲状腺は針を使って簡単にアクセスでき、そのためナイフで切り開いて組織の一部を採ることはせずとも、非常に細い針を甲状腺に刺して、顕微鏡検査用の細胞を採ることができます。この生検の方法は細針吸引生検(穿刺吸引細胞診)または“FNA”と呼ばれます。

コールド結節とは何でしょうか?甲状腺細胞はヨードを取り込み、そのためヨードを原料として甲状腺ホルモンを作ることができます。放射性ヨードを与えると、甲状腺の外形を示すチョウチョのような形の画像がX線フィルム上に得られます。結節が甲状腺ホルモンを作らない細胞(ヨードを取り込まない)からなっていれば、X線フィルム上に“コールド”として現れます。甲状腺ホルモンを作り過ぎている結節は、まわりより暗い領域として現れ、“ホット”と呼ばれます<注釈:ホット結節はわたしの次のページを参考にしてください>。

孤立性結節の評価には、かならず病歴と医師による診察を含めるべきです。病歴や医師の診察のある側面から良性か悪性かを窺い知ることができます。ただし、何らかの形の生検が、確定診断を下す唯一の方法であることを覚えておいてください。
次のような特徴があれば、良性の甲状腺結節である可能性が高くなります
  • 橋本甲状腺炎の家族歴
  • 良性の甲状腺結節または甲状腺腫の家族歴
  • 甲状腺機能亢進症または甲状腺機能低下症の症状
  • 結節に痛みや圧痛がある。
  • やわらかく、滑らかで可動性の結節
  • 特に大きな結節がない多結節性甲状腺腫(結節がたくさんあるが主要なものがない)
  • 甲状腺スキャン上で、“ウォーム”な結節として現れる(正常な量の甲状腺ホルモンを作り出している)。
  • 超音波診断では単純な嚢胞である。
次のような特徴があれば、悪性である疑いが高くなります
  • 20歳以下である。
  • 70歳以上である。
  • 男性である。
  • 急にものが飲み込みにくくなった。
  • 急に声がしゃがれてきた。
  • 子供の頃に放射線外部照射歴がある。
  • 固く、でこぼこした動かない結節
  • 頚部リンパ節腫脹がある(首のリンパ節が固く腫れている)。
  • 甲状腺癌の既往歴がある。
  • スキャン上で結節が“コールド”である(上の写真に見られるように、結節がホルモンを作っていないことを意味しています)。
  • 超音波診断では、充実性または複合性である。
普通、甲状腺ホルモンレベルは、結節があっても正常で、正常な甲状腺ホルモンレベルから癌性の結節と良性の結節を区別することはできません。しかし、甲状腺機能亢進症または甲状腺機能低下症が存在すれば、良性の結節だと思われます(このため、“ウォーム”あるいは“ホット”結節が良性疾患である可能性が高いのです)。悪性であるという診断がつけば、サイログロブリンが腫瘍マーカーとして役立ちますが、癌性の甲状腺結節と良性のものを区別するだけの特異性はありません。超音波診断では、甲状腺の大きさや結節の数とサイズの正確な測定や甲状腺由来のしこりとそうでないものを分けること、必要な場合、細針生検(穿刺吸引細胞診)のガイドとなること、そして3mmまでの充実性の結節と2mmまでの嚢胞性結節を見分けることができます。超音波診断の特徴のいくつかは良性の結節が存在する可能性を示しますが、他のものは癌性結節の存在の可能性を示唆するものです。超音波診断だけでは悪性の結節と良性のものを見分けることはできません。これに関しては、甲状腺結節の超音波検査に詳しく述べております。そして、嚢胞性の結節の15%が悪性であることから、超音波診断で結節が嚢胞性であることがはっきりしても、甲状腺癌でないとは言い切れません。

甲状腺スキャンで検知される結節は、コールドとホットまたはウォームに分類されます。甲状腺結節の85%はコールドで、10%がウォーム、そして5%がホットです。上にスキャンで見た素晴らしいコールド結節の例を示しておりますが、コールド結節の85%、ウォーム結節の90%、そしてホット結節の95%が良性であることを覚えておいてください(全部頭に入りましたか???)。甲状腺スキャンでは結節が良性または悪性である可能性を知ることはできますが、良性と悪性の結節を本当に見分けることはできません。そして、これだけをもとにして、甲状腺の手術を含む特定の結節の治療法を勧めるべきではありません。
穿刺吸引細胞診の解釈は?
すべてではありませんが、ほとんどのケースで、甲状腺細針生検(FNA、穿刺吸引細胞診)が手術をしないで悪性と良性の結節を区別できる唯一の方法です。針を結節に数回刺し込んで、注射針の中に細胞を吸い込みます。細胞を顕微鏡のスライドの上に置いて、染色してから病理学者が調べます。そうやって、結節を“診断不能”、“良性”、“疑わしい”あるいは“悪性”と分類します。
  • “診断不能”とは、吸引した甲状腺細胞の数が不十分であり、診断を下すことが不可能であることを示唆しています。診断不能であった場合は、生検をもう一度行う必要があります。吸引を再度行った場合、約50%で診断が可能な量の吸引標本が得られます。全体的には、生検の5〜10%が診断不能であり、患者はさらに詳しく調べるため、超音波診断または甲状腺スキャンを受ける必要があります。
  • “良性”のものが甲状腺吸引標本の中では、いちばん多く(ほとんどの結節は良性であるため、予想通りです)、様々な量の甲状腺ホルモンタンパク(コロイド)を一緒に含む良性の濾胞性上皮から成っています。
  • “悪性”の吸引標本では、次のような甲状腺癌のタイプの診断ができます。乳頭癌、乳頭状の変異である濾胞癌、髄様癌、未分化癌、甲状腺リンパ腫、そして甲状腺に転移した癌です。濾胞性癌とヒュルトレ細胞癌はFNA生検では診断できません。これは大事なポイントです。良性の濾胞性腺腫と濾胞性癌(全甲状腺癌の12%)は区別できないため、これらの患者は結局、正式な手術による生検が必要になることが多く、その際結節がある側の葉を取ってしまうのが普通です<注釈:日本では濾胞癌は全甲状腺癌の3〜5%程度と少ないです>。
  • “細胞学的に疑わしい”ものはFNA(穿刺吸引細胞診)の約10%を占めます。これらの吸引標本中の甲状腺細胞は、明らかな良性でも悪性でもありません。疑わしい病変の25%は、患者が甲状腺の手術を受けた時に悪性であることがわかります。これらは大体において、濾胞性癌かヒュルトレ細胞癌です。したがって、疑わしい吸引標本が得られた甲状腺結節の治療としては、手術が勧められます。
FNA(穿刺吸引細胞診)は大多数のケースで、孤立性甲状腺結節の評価に真っ先に必要な唯一の検査です(TSH値も甲状腺機能を評価するために調べるべきです)。孤立性甲状腺結節の評価に、超音波診断や甲状腺スキャンは必要ないのが普通です。FNAで甲状腺結節の評価と治療にかかる費用を減らすことができますし、甲状腺の手術時に 見つかる癌の率が改善されます。孤立性の甲状腺結節は時間の経過とともに大きくなったり、小さくなったりすることはありますが、孤立性結節の自然経過から、ほとんどの結節は時間の経過とともに変化することはまずないということがはっきりしています<注釈:この記載もおかしいと思います。日本の隈病院の良性甲状腺結節の自然経過についての研究を紹介します。この研究は国際的にも高く評価されています>。
甲状腺ホルモン剤を飲めば結節はなくなりますか(押え込むことができますか)?
いくつかの研究で、甲状腺ホルモン剤を使った抑制療法では、甲状腺結節のサイズが小さくならないことが明らかになっています。したがって、結節が大きくなり続けるか、症状が出てきたというようなことがなければ、結節を薬で抑える必要はありません。さらに、甲状腺結節の抑制には長期にわたるTSHの抑制が必要になることから、これらの患者に骨粗鬆症が起きるリスクが高くなる可能性があります。従来から孤立性の結節のある甲状腺と多結節性甲状腺腫は区別されておりますが、診察で孤立性結節であると認められた患者の約50%に、超音波検査で他にも結節が見つかります。したがって、孤立性結節と多結節性甲状腺腫の違いはあいまいになってきています。また、長年の間多結節性甲状腺腫があれば甲状腺癌である可能性は低くなると信じられておりましたが、最近の研究で多結節性甲状腺腫に癌が生じる可能性は、孤立性結節のものと変わりはないらしいということが示唆されています。多結節性甲状腺腫の中に、目立って大きな結節があれば、その結節の生検を行う必要があります。

結論として、甲状腺のFNA(穿刺吸引細胞診)は、良性と悪性の結節を区別する安全で、費用が安く、しかも効果の高い方法であり、通常、診断のために真っ先に行われるべき検査です。

喫煙や飲酒は甲状腺癌の原因になりますか?
喫煙や飲酒は甲状腺癌とは関係ありません。もちろんそのような習慣は健康のために避けた方がよいのですが、甲状腺の悪性疾患を引き起こしたり、悪化させたりするようなことはありません。
甲状腺癌は全身に広がりますか?もしそうならどうやってわかるのですか?
甲状腺癌が全身に広がることはめったにありません。ほとんどの甲状腺癌は最初の手術で治ります。甲状腺癌が頸部のリンパ節に広がることはありますが、そのようなリンパ節は取ってしまえばよく、それで治すことができます。頻度は少ないのですが、癌が肺や骨に広がることがあります。そのような場合はX線やスキャンによる画像診断で見つけることができます。また放射性ヨードやX線による治療が必要になり、時に外科的に取ってしまうことも必要になります。まれですが性質の悪いタイプの癌に対しては、化学療法やX線治療が勧められることがあります。
そのような治療を全部したとしても、甲状腺癌で死ぬ可能性はありますか?
皮膚癌以外では、すぐに治療した場合、他のあらゆるタイプの癌に比べ、いちばん多いタイプの甲状腺癌がもっとも長期成績がよいのです。ほとんどすべての患者が治療により完治します。
どうやって甲状腺癌を見つけるのですか?
腫甲状腺癌は患者が首のシコリに気付いて見つかることが多いのです。そのようなケースの半分は医師が別の癌とは無関係な病気の診察をしている時に見つかります。甲状腺癌では痛みがなく、症状もめったに出ません。実際に甲状腺癌患者はすべて代謝と甲状腺検査所見が正常です。
治療の副作用にはどのようなものがありますか?声が出なくなったり、大きな傷が残ったりすることがありますか?
甲状腺癌の通常の治療は、小さな切開を入れて甲状腺の必要な部分だけ、あるいは全部を取ってしまうことになります。手術の後、患者の声に障害が出るとか、カルシウムバランスの乱れが起こるようなことはまれです。リンパ節を取る場合はもっと切開を大きくしなくてはならないことがあります。しかし、それは首の下の方に入れますし、見かけもそんなに悪くなりません。
自分の甲状腺癌の治療結果を最良のものにするにはどうしたらいいのですか?
大事なのは甲状腺や頸部のシコリを早いうちに正しく診断してもらうことです。まず家庭医に診てもらうべきで、その医師が状況を判断して、診断を確かめ、正しい治療を行なうため適切な専門医へ紹介することになるでしょう。しかし、他の多くの癌とは対照的に、早期発見と早期治療により必ずといってよいほど癌の根絶と完治がもたらされます。
放射性ヨードの投与を受ける場合は甲状腺ホルモン錠を飲むのを止めなければなりませんか?
その通りです。6週間止めなくてはなりません。TSHレベルが上がっている場合にだけ、放射性ヨードが甲状腺に「入り込み」、作用することができるのです。甲状腺ホルモン剤を止めるとそうなります。残念ながらその間、不活発な甲状腺の影響で、疲労や筋肉のつり、むくみ、便秘などの症状が出る可能性が高いのです。研究ではヒトTSHの注射の使用が試験されていますが、これは有望のようです。できればこの薬が利用できるようになって、甲状腺ホルモン剤を止めずに放射性ヨード治療ができるようになることを願っています。

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以下のページも参考にしてください。