甲状腺機能低下症の症状
- 寒がりになった
- カサカサの皮膚
- 物忘れする
- 太ってきた
- 毛が抜ける
- やる気が起こらない
- 便秘になった
- むくんできた
- 集中力がない
- 声がかすれる
甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンが足りない全身病です。
生まれつき甲状腺の働きの悪い人もいますが(これはクレチン病と言います)、成人ではほとんどが慢性甲状腺炎のために甲状腺機能低下症になります。その他、バセドウ病や甲状腺のシコリ術後、アイソトープ治療後になることもあります。
症状はバセドウ病と正反対で、体重が増え、脈がゆっくりになり、寒がりで肌がカサカサになり、髪は抜けやすく、動きが鈍くなります。甲状腺ホルモンが足りないことによる全身病です。
症状が割りとゆっくりでてくるので、他の病気と間違われます。例えば脈がゆっくりなので循環器科、腫れぼったいところで腎臓科、肌がカサカサなので皮膚科、反応が鈍いので精神科に回されます。
日本では海草の取りすぎで、甲状腺機能低下症になっている人が一部います。
治療は不足した甲状腺ホルモンを外から補うことです。しかし日本では海草類(昆布、ワカメ、ノリ、ヒジキなど)のとり過ぎで甲状腺機能低下症になっている人がいます。海草に多く含まれるヨードは甲状腺ホルモンの原料ですが、慢性甲状腺炎の人の一部にこのヨードをとり過ぎると甲状腺ホルモンが作れなくなる人がいます。過ぎたるは及ばざるがごとしです。
食品中に含まれるヨードの量
この場合には、海草を食べないようにするとまた甲状腺ホルモンが作られるようになるので機能は正常になり、甲状腺ホルモン剤を飲む必要はありません。
他の海草類と比べてヨードが非常に多い昆布や昆布だしは控え、ヒジキも毎日は摂らない方がよいでしょう。ノリ、ワカメ、寒天などは毎日食べても構いません。
日本は海に囲まれていますので、日本でとれる食物を食べていれば、いくら海草を控えてもヨード不足には絶対になりません。
どうしても海草を控えるのが難しい人には甲状腺ホルモン剤を飲んでもらいます。
甲状腺機能低下症の半数の人は、甲状腺ホルモンを一生飲まなければなりませんが、妊婦や授乳中の人にも安心して使えます。
甲状腺機能低下症の中の2人に1人は甲状腺の組織自体が壊されて甲状腺ホルモンをもはや作れない状態になっています。こうなると、工場がつぶれたようなものですから製品は作れないので外国から製品を輸入しなくてはなりません。すなわち甲状腺ホルモンを外から補わなくてはなりません。
我々医師にとって、ホルモンを補う治療はバセドウ病などのようにホルモンが作られるのを抑える治療に比べて、ずっと簡単です。
甲状腺ホルモン剤は体の中にある甲状腺ホルモンと同じものですから、副作用もなく、どんなクスリと一緒に飲んでも大丈夫です。一日1回、起床時または就寝前に飲みましょう。空腹時のほうが甲状腺ホルモンの吸収が良いからです。
甲状腺ホルモン剤はチラーヂンSといって、一錠が10円と安いものです。甲状腺ホルモン剤さえしっかり飲んでいれば、普通の人と同じく天寿を全うできます。
また、甲状腺ホルモン剤は胎盤を通らず、オッパイにも出ませんので、妊婦やオッパイをやっている人にも安心して使えます。
治療で飲む適正な量の甲状腺ホルモン剤では、骨は弱りませんので心配ありません。
一時期、長期に甲状腺ホルモンを飲むと、骨がもろくなると言われていました。ここ4~5年間、甲状腺ホルモン剤を飲んでいる人の骨の強さを測ってきました。甲状腺ホルモンを飲んでいる人と甲状腺ホルモンを飲んでいない人では骨の強さは変わりありませんでした。
一時期、外国で心配された時期もありましたが、日本では甲状腺ホルモンを適正な量飲んでいれば、骨が弱ることはありませんので、安心ください。しかし、閉経後の女性に対してTSH抑制療法(甲状腺ホルモン剤を少し多めに投与する治療法)を行うのは、慎重であるべきでしょう。
骨塩測定値
下の図でもお分かりのように、TSH抑制療法を行っている人は少し骨が弱い傾向にあります。骨の強さを測るいい機械が最近できましたので簡単に骨の強さを測れます。この検査は痛くもかゆくもなく2~3分で終わります。もしも、骨が弱っていたら、骨を強くするクスリをいっしよに飲むか甲状腺ホルモン剤の量を減らします。
甲状腺ホルモン剤投与による骨塩量
甲状腺ホルモン剤を飲んでいるときと、飲んでいないときでは、骨の強さに差はありませんでした。
甲状腺のシコリや甲状腺がん術後の人に対して行う甲状腺ホルモン剤投与によるTSH抑制療法を行っている人は少し骨が弱い傾向にあります。
マイナスの数値が大きいほど骨が弱っていることを示しています。
甲状腺機能低下症の治療における最近の進歩
甲状腺機能低下症の治療における最近の進歩についてお話したいと思います。ところで、「脳の霧」という言葉をご存知ですか?
レボチロキシン(商品名:チラーヂンSまたはレボチロキシンNa)は甲状腺機能低下症の標準治療であり、ほとんどの患者さんはこの治療に満足しています。しかし、治療がうまくいっているにもかかわらず、10〜15%の患者さんが残存症状、生活の質の低下を訴え、レボチロキシンによる治療に対して不満を持っていることがわかってきました。訴える症状は以下のようなものです。
- 活力低下
- 疲労
- 憂うつな気分
- 物忘れ
- 眠気
- 集中力低下
- 不安感
- 意識混濁
- 意思決定が難しい
- とっさに言葉が出てこない
これらの症状は「脳の霧」と呼ばれ、日常生活に支障を来すことがあります。
最近、『「脳の霧」を訴える患者さんにT3+T4併用療法を行ったら症状の改善がみられた』と報告されました。T3+T4併用療法とは、現在服用しているレボチロキシン(T4)に、より活性が高く即効性のあるチロナミン(T3)を併用する治療方法です。
甲状腺刺激ホルモン(TSH)レベルが正常であるにもかかわらず「脳の霧」の症状に当てはまると思われる患者さんにとって、T3+T4併用療法は期待が持てる治療法のひとつです。