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患者さんとの橋渡し【Bridge】 Bridge; Volume 13, No1

03:グレーブス病の目の問題 / Richard L. Dallow, M.D.
第2部…治療の選択肢と結果

私は目を患うグレーブス病に罹っています。−そのために何ができるのでしょうか?
甲状腺疾患に併発する目の問題に関するこの2番目の記事の主題は、目の治療です。最初の記事(ブリッジ1997年秋号(12巻-3号))では、グレーブス病がその過程でどのように目を冒すかというバックグラウンドについていくらか述べました。この過程は初期の“活動的な”第1期、およびそれに続く“慢性”期を通じて進行していくと述べました。活動期は、1年から5年かけて悪化する可能性がある目の周囲と後部の炎症と充血で特徴づけられます。慢性期は、これ以上進行することもないが、完全に戻ることもない永久的な目の変化の過程を表わしています。
病気の活動性(急性か慢性)は、グレーブス病の目の変化を評価する2つの主な基準の一つです。もう一つの基準は目の変化の程度です。これは、Wernerの分類にしたがって、軽度の瞼の広がりやわずかな目の突出の問題からもっと重篤な複視、角膜潰瘍、および視覚障害まで段階付けを行うことができます。目の治療は、患者の目に生じた変化の活動の時期と変化の程度の両方によります。
現在受けられる目の治療の目標と限界を理解しておくことが大切です。残念ながら、グレーブス病が目に及ぼす影響を完全に治すものはありません。根底にある自己免疫障害のため、数年かかって目に変化を生じ、後に再発する可能性があるという問題があります。自己免疫は除くことはできないものの、少なくとも病気の活動期には自ずから限界があり、実際に独りでに進行が止まってしまいます。
医師は、実際の病気の経過を変えることはできませんが、その途中で出る症状の一部は緩和することができ、重篤な視力を脅かすような影響を逆行させることができます。このような目的があるため、治療は個々の患者の状況に合わせて行われます。 目の治療法の選択肢は、4つのカテゴリーに分けられます。
  1. 特定の目の治療を行う前の甲状腺機能亢進症のコントロール
  2. 煩わしい目の症状を緩和するための目の局所的処置
  3. 目の充血と炎症を抑えるための抗炎症治療(投薬または放射線照射)
  4. 外観を損なう慢性期の病気の影響と/または視力が脅かされている場合、視力を救うための目と眼窩の手術

1. 甲状腺機能亢進症のコントロール
甲状腺機能のコントロールは、グレーブス病患者のケアの根本であり、主要な目の治療のどれを行う場合であっても、その前に必ずやっておかなければなりません。血液中の甲状腺ホルモンの量の増加で、直接目の筋肉が刺激され、瞼が広がることがあります(目を見開いたような外観、瞼の後退)。これは、甲状腺のコントロールで改善される可能性があります。さらに、自己免疫過程は甲状腺の機能が上がったり、あるいは下がったりすることにより悪化する可能性があり、それにより2次的に目が腫れたり、突き出したりするのです。しかし、目では頻度が少ないものの、良好な甲状腺機能のコントロールが得られた後でも悪化することがあります。これは、根底にある自己免疫過程が進行しており、これは甲状腺の治療では治らないためです。前の記事で、ある特定のタイプの甲状腺の治療が目に影響する可能性について述べましたが、これはまだ未解決のままです。

2. 目の局所的処置
数種類の局所的な治療法で、目の不快感を緩和することができ、大多数のグレーブス病患者ではそれで十分となります。目の過敏状態(ひりひり)や涙目、腫れ、および光過敏症などの煩わしい目の症状は、誰でもできる簡単な方法で改善することができます。
  • 目の回りの軟組織の腫れ(水分貯留または水腫)は、体と頭が水平になっている場合、寝ている間に一晩で起こる傾向があります。睡眠中に枕を2つ重ねて頭を上げ、昼間起きている間に目の上に氷をあてることで腫れが引きやすくなる可能性があります。
  • 人工涙液の点眼剤や潤滑軟膏を1日2、3回使うのも効果があります。これは処方箋がなくても入手できます。しかし、血管収縮剤入りの点眼薬は、目の表面の血管を傷めることがあるので避けるようにしなければなりません。抗生物質やステロイド入り点眼薬は普通必要ありません。眠っている間に目が完全に閉じないため、目の痛みが出る場合は、眼軟膏や瞼を閉めるためのテーピングが必要なことがあります。
  • 枠のまわりに覆いを付けたサングラスで光過敏症を和らげ、風や乾燥から目を守ることができます。
  • 瞼の広がり(びっくり目、瞼の後退)は点眼薬(グアネチジン<注釈:日本ではミケラン点眼液が使用されます>)の処方で一次的に緩和されます。しかし、アメリカでは認可されておらず、また入手することもできません。この問題については、後述の目の手術の項で述べることにします。
  • 複視(二重視)は、処方めがねにプリズムを組み込むことで一部矯正可能です。小さなプリズムは見えませんが、大きなものは見てわかります。時に、複視を避けるため、片方の目を覆う眼帯が必要なことがあります。これも外科手術の項でもう少し詳しく述べます。

3. 抗炎症治療
目の充血と炎症のある活動期が、ややひどい程度であれば抗炎症療法で少しは緩和できます。これらの薬剤は、おそらく目の回りや後ろ側に集積した炎症性細胞(リンパ球と線維芽細胞)を抑えるものと思われます。それにより、目の合併症の程度が軽くなるのです。しかし、この効果には限界があり、一次的なもので、目の病気を治すことはなく、また実際に経過を短縮することはないと思われます。
3種類の抗炎症療法があります。
a]ステロイド錠剤(コルチコステロイド、コーチゾン、プレドニゾンなど)の経口投与
ステロイドは急性の活動期の炎症にと充血に非常に効果的です。しかし、グレーブス病の慢性期の変化には全く効果はありません。ステロイドにより症状は改善されますが、目の突出や瞼の後退、および複視などの測定可能なパラメーターにはほとんど変化はありません。効果を上げるためには高いステロイドの投与量が必要であり、好ましくない副作用が多くなりますし、その中のいくつかはかなり重篤なものです。短期間のステロイド治療が実際的です。したがって、通常は程度の著しい炎症や、重篤な角膜露出、および視覚喪失(視神経圧迫)など大きな目の合併症に使うように取って置き、その場合でも他の治療法を考慮している間の一次的な治療法として使います<注釈:最近では、メチルプレドニゾロン(ソルメドロール)点滴によるパルス療法[衝撃療法]が、経口投与に比べ副作用も少なく、効果もあります>。
b]その他の免疫抑制剤(サイトキサン、サイクロスポリンなど)
このような免疫抑制剤の有効性はステロイドと同様ですが、信頼性は劣り、より多くの副作用があります。
ルーチンには使われませんが、他の治療に反応しない患者に対しての治療法としてとっておかれます。
c]X線(局所外部照射治療)
X線治療(照射)も、グレーブス病で目の後部に集積した非常に感受性の高いリンパ球を殺すことにより部分的に急性炎症を緩和することができます。これは癌治療に使われるものと同じ方法ですが、グレーブス病で使われる照射では非常に線量が低く、近くにある目の組織を守るため、限られた部位にのみ照射します。
この照射は2週間にわたって行われる一回限りの治療です。有効性はステロイドに見られるものと同様です が、効果はもっと長く続きます。炎症は、新しい反応性の細胞が目の後ろに移動してくるのに伴って再発する可能性があります。照射の副作用は、目の乾燥の悪化のようなごく軽度のものですが、希に網膜の損傷が起こることがあります。放射線治療はステロイドと同じ理由で使われ、ステロイドが効きそうもないか、中止すると病気の再発が避けられない時に有効です。
このタイプの目の照射治療は甲状腺の放射性ヨード治療とは関係がありません。これは別のタイプの放射線治療です。

4. 目と眼窩の手術
グレーブス病に対して、目の外観をより正常なものにしたり、角膜を過度の露出から守るため、あるいは複視の減少、視神経の圧迫によって起こる視覚障害の緩和のために数種類の手術法が適用できます。まれなことですが、重篤な視神経および/または角膜の問題のため緊急手術が必要な場合もあります。それ以外は、病気が慢性期になり目の変化が安定するまで手術を延ばすのがベストです。手術を病気の早い段階で行うと、結果が予測できず、後でもう一度手術が必要になってくることがあります。幸いに、そのような目の手術が必要となるグレーブス病患者の割合はほんのわずかしかありません。
目の手術法には3つのタイプがあります。
a]瞼の整復と減量手術
もっとも行われる頻度の高い手術で、後退した瞼の位置を下げ、角膜の保護を行い、目の露出からくる過敏状態を緩和するものです。これは瞼の筋肉を部分的に少量剥離(挙筋後転術)することで得られます。さらに 過剰な瞼の組織や突出した脂肪も部分的に取り除く場合があります。
b]目の筋肉の調整(斜視修復)
次は、プリズム入りめがねでは適切な矯正ができない複視の問題が常にある場合に必要となる、そして普通 に行われる方法、斜視修復です。 グレーブス病では目を回転させる筋肉に様々な程度の腫れが生じ、目の向きのずれと複視を起こします。もっともひどく冒された筋肉を手術で長くし、目の向きがより正常な位置に来るように合わせます。
c]眼窩減圧術/拡大術
これはグレーブス病では、もっとも大がかりな目の手術であり、普通は目の後ろの腫れた脂肪や筋肉を隣接する洞に脱出させるさせるための眼窩の骨壁(目の入っている腔)の部分的切除が含まれます。この方法の目的は、目の前方への突き出し(眼球突出症)を減少させるため、目の後ろの腫れた組織の量を減らすことです。これにより、角膜の保護がうまく行われるようになり、視神経にかかる圧力が減少します。しかし、この形の手術は目の筋肉のアンバランスを悪化させることがあり、後になって斜視の手術が必要になるかもしれないという問題があります。
グレーブス病での目の手術で一番難しいところは、手術が適当となる前に病気の経過が自然に安定するのを待つことであり、これは6ヶ月から数年必要なことがあります。また、手術で症状を劇的に改善することができますが、目は完全に正常な状態に戻らない可能性があることを患者は理解しなければなりません。グレーブス病による目の変化は、ある程度残ります。

治療の結果
グレーブス病に伴う目の変化は、よくある目のひりひりや瞼の後退などの軽度のものから、目の外観が損なわれたり、視覚障害などの希なものまで広範囲にわたっています。目の問題は程度の如何にかかわらず改善できます。
ただし、多くは完全に治ったり、元に戻ることはありません。治療は個々の患者に合わせて行われます。大多数の患者は、症状を緩和するための局所的処置しか必要としません。ステロイドと放射線照射は、過度の充血や炎症を改善することができます。
外科手術は、より難しい目の問題に効果があると思われますが、これを必要とする患者の割合はほんのわずかしかありません。グレーブス病性眼病のプロセスは長期にわたり、その治療は数年かかることも多いのです。

Richard L. Dallow医師は、ハーバード大学医学部の教官であり、マサチューセッツ州ボストンのマサチューセッツ眼科耳鼻科診療所医師であります。

. Dr.Tajiri's comment . .
. 現在では、ステロイドパルス療法と球後照射の併用が一番効果があると言われています。また、甲状腺眼症は自然経過で良くなる人も多く、最近の研究では、1年間経過を見ていたら2/3は自然に眼症の症状が改善したとする報告もあります。(Petros P et al. Natural history of thyroid associated ophthalmopathy. Clin Endocrinol 42; 45-50: 1995) .
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