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甲状腺癌<第1部>:基礎パート1

このサイトを開いて以来、電子メールによる問い合わせが一番多かったのは甲状腺癌についてです。甲状腺癌は比較的まれな腫瘍で、一番よく見られる形のものは、長期にわたって静止状態の経過をたどります。よく言われるのは“もし癌に罹らなければならないとしたら…たちのよい癌の方がいい”ということです。甲状腺癌はほとんどの癌と異なる管理がなされるため、他の悪性疾患とは部分的に違うものと見なされる傾向があります。手術の後、化学療法や放射線照射が必要なことはめったにありません。その後のケアは腫瘍専門医ではなく、むしろ内分泌病専門医の責任であるのが普通です。あまり広がらずその場に留まる傾向があるのですが、甲状腺癌の中にも例外的に悪性度の高い癌があります。未分化癌と髄様癌です。その進行は早く、診断がついてすぐに患者の命を脅かす状態になります。他の多くの癌と同じように、再発したものは管理が難しく、原発性のものよりもはるかに早く生命を脅かすようになります。
今週は、これから述べるこれらの問題についての最初のシリーズとして、まず診断と分類、そして現れ方から始めることにします。
01 どこにできるのか?−そして何が危険なのか?
02 それは何か?−腫瘍発生率と分類
03 どうしてできるのか?−原因とリスクファクター
04 どうやって見つけるのか?−徴候と症状

[01]どこにできるのか?−そして何が危険なのか?
甲状腺は首の付け根の前、中央部の喉頭の下、鎖骨上部の後ろにある蝶ネクタイのような形をしたやわらかいかたまりです。反回神経−これは声帯を動かす神経です−が甲状腺の外葉の背後から喉頭に入っています。そのため、腫瘍が大きくなった時や、手術中に損傷されることがあります。副甲状腺は正常なカルシウム調節に欠かせないものです。これは小さな軟組織のかたまりで、普通、外葉の上極または下極の周囲に位置しており、甲状腺体部と分かれているか、あるいは体部に埋まっている場合があります。

癌は甲状腺から3つのルートで広がると思われます。
  • 直接甲状腺体部の外側から周辺の筋肉や軟組織、そして胸骨切痕や鎖骨から上縦隔へ
  • リンパ経路を通じて片方のリンパ節に広がり、
  • 血管浸潤により、血液の流れを介して離れた場所へ−いちばん多いのは肺と骨です【図1】。甲状腺は2つの異なった細胞集団から2種類のホルモンを分泌します。
  • サイロキシンとトリヨードサイロニン(T4とT3)は濾胞細胞から分泌され、体全体の代謝活動を調節します。濾胞細胞はホルモンの分泌のためにヨードを取り込み、集積するというユニークな特性を持っており、甲状腺の濾胞内にホルモンの中間形をサイログロブリンとして貯蔵します。また、
  • 濾胞周辺細胞またはC細胞からカルシトニンが分泌され、これは血清中のカルシウムレベルを減少させる作用を持ちます【図2】。
【図1】
図1
【図2】正常甲状腺
図2
濾胞がサイログロブリンを取り囲んでいる。

[02]それは何か?−腫瘍発生率と分類
内分泌腺の悪性腫瘍は希です。全部合わせても、アメリカ合衆国で毎年新しく発生する皮膚癌以外の癌全体の1.2%を占めるだけです。甲状腺癌は、これらのサブグループの中で最大のものですが、全内分泌腺癌のほぼ90%を占めています。
甲状腺癌に関するアメリカの経験から、年間に1,4000の新しいケースが発生し、1,100人が死亡していることが示唆されていますが、これは治癒率が高く、ほとんどが長期の自然経過をとることを反映しています。甲状腺癌のタイプによって、その行動は大きく異なります。

甲状腺の2つの機能細胞集団から、独特の異なったタイプの腫瘍が生じてきます。
【表】
発生源となる細胞   腫瘍のタイプ 頻度 生存率 病理
濾胞細胞 サブクラス 分化度の高いもの 90%    
濾胞癌 10〜15% 10年で43〜94% .
乳頭癌 80〜85% 10年で74〜93% .
ヒュルトレ細胞 3〜5% 10年で74〜93%
  未分化癌 1〜2% 余命4〜5ヶ月 .
濾胞周辺細胞   髄様癌 5〜9% 10年で70〜80% .

[03]どうしてできるのか?−原因とリスクファクター
アメリカ合衆国とほとんどの先進国では、分化度の高い甲状腺癌は40歳代はじめの女性に多く起こります(男性の2.5倍)。乳頭癌の診断時の平均年齢は、女性で40〜41歳、男性で44〜45歳となっています。濾胞癌の発生平均年齢は、男女どちらも約8歳遅くなっています。分化度の高い甲状腺癌は、黒人よりも白人に約2倍多くなっていますが、濾胞癌は黒人の方に2倍多く発生します。

未分化癌は、高齢者に非常に多い病気で、発生時の平均年齢は60歳半ばから70歳半ばであると報告されています。また、この病気に罹る女性は、男性よりわずかに多くなっているだけです。未分化癌は、良性の増殖性甲状腺疾患(甲状腺腫)や以前分化度の高い甲状腺癌であったものから生じてくる傾向があります。

甲状腺の髄様癌は2つの形で発生します。散発型(70%)と常染色体優性遺伝性家族発生型(30%)で、後者には多発性内分泌腺新生物(MEN)症候群タイプ2にある、数多くの他の内分泌腺の異常と関連していることが多いのです。髄様癌は、散発性でも家族性でも男女両方に同じように発生します。そして、MENを伴わないほとんどの新しいケースは、40歳代始めの患者に見られ、MENを伴うものは、特定の症候群にもよりますが、診断時年齢は15歳から27歳の範囲となっています。
分化度の高い甲状腺癌を起こしやすくすることがはっきりしている唯一のファクターは、治療用照射や核爆発のような外部からの被爆、または放射性降下物あるいはその他の放射性物質の摂取による内部被爆のいずれであっても−電離放射線への被爆です【図3】。
【図3】
図3
ヨードは体内で甲状腺にしか集積しないため、甲状腺は核実験や事故の放射性降下物の主要成分である環境放射性ヨード(131-I)に特別に被害を受けやすいのです。放射線照射のリスクは、小児期の様々な良性疾患に対し、頭部や頚部の低線量治療照射の結果としてまず認識され、記述されたものです。結果的にその治療法は行われなくなりました。放射線照射に関連した甲状腺新生物発生のリスクは、約20Gy(2000ラド)の線量までは次第に増加します。癌が生じるには照射後少なくとも3〜5年必要ですが、リスクは照射後40年間一定のままです。リスクは特に子供にはっきり現れ、照射時の年齢が高くなるにつれだんだん減少してきます。現代の放射線治療では、小児のウィルムス腫瘍や神経芽細胞腫に対する上胸部や頚部への放射線治療や青少年のリンパ腫に対する外被門部(横隔膜より上の全リンパ節)の放射線治療でのリスクがそのまま残っています。しかし、分化度の高い甲状腺癌を生じた患者の90%で、過去の放射線被爆歴がありません。食餌性のファクター、特にヨード欠乏症、またはヨードの取り込みを阻害するアブラナ科の野菜(ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー)の摂取量が高い場合は良性の甲状腺増殖症(甲状腺腫)を生じ、濾胞癌と未分化癌の両方に中程度の関連性を持つと考えられています。

[04]どうやって見つけるのか?−徴候と症状
ほとんどのケースで、甲状腺腫瘍は、腫れや甲状腺内または甲状腺の体部に付着したいくつかの局所的なかたまりとして現れる小さな結節の形で、症状が現れてきます。甲状腺結節の10〜15%しか悪性のものはありません<注釈:この頻度は多すぎます。5%未満です>。この割合は男性で高く、特に非常に若いか、年を取っている人、また放射線の被爆歴のある人では高くなっています。
この場合、約3分の1が癌です。孤立性の結節、痛みあるいは急速な発育、しゃがれ声、またはホルネル症候群(頚部交感神経の浸潤により、眼瞼下垂や瞳孔収縮、同側の顔面の発汗がなくなるなどの症状がでます)の発症はすべて特に懸念されるものです。
代謝の促進を伴う甲状腺ホルモンの過剰分泌−体重減少、暑さに耐えられない、心拍が速くなる、震え−は普通、良性疾患に伴うもので、正常な場合甲状腺癌の特徴ではありません。次週は甲状腺結節の検査へと続く予定です。

頻度は低くなりますが、甲状腺癌が、頚部のリンパ節のかたまりの生検で甲状腺様の組織が見られた場合、そのリンパ節に症状が出てくることがあります。原発甲状腺癌が小さく、症状がない場合、リンパ節転移病巣のことを訴えている可能性があります。周辺組織への浸潤と同様に、リンパ節転移は悪性腫瘍の発育に特有のものです。そのような甲状腺から生じた腫瘍細胞や組織が正常な甲状腺と見分けがつかないような組織を形作る行動(“側頸部迷入甲状腺”)が、悪性を示す唯一の指標である可能性があります。濾胞癌では、頚部リンパ節の関与はめったにありません(約10%)。乳頭癌ではその割合が33〜45%にもなります<注釈:これはもっと頻度は高い。顕微鏡でみると、90%の症例で頸部リンパ節転移がみられる>。
髄様癌では、診断時のリンパ節転移の確率は、原発病巣のサイズによって異なり(原発病巣の直径が1cm以下の場合11%、原発病巣の直径が2cm以上の場合65%)ますが、散発性のケースで高くなっています。

甲状腺癌では、癌が頚部下方や胸骨より下の上縦隔に広がってくると、かたまりの影響が出てくることがあります。充実性のかたまりが増加するにつれて、患者の声帯を動かす神経をかたまりが取り囲み、圧迫するため、声がしゃがれてくることがあります。そして、発育するかたまりによって気管や食道が圧迫されてくると、嚥下や咳、あるいは粘液の排出、および呼吸が困難になってくる可能性があります。これらの症状は、より普通に見られる分化度の高い甲状腺癌、あるいは長いこと放置されてきた腫瘍というより、発育の速い未分化癌か、髄様癌の症状であるである可能性が高いのです。しかし、いちばん多いのは、良性の甲状腺疾患−大きな甲状腺腫、あるいは橋本甲状腺炎(自己免疫性疾患)の病像である場合で、これらの病気は甲状腺が大きくなるにつれ、同じような問題を生じてきます。

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