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初回治療後の経過観察の目標は適切な甲状腺ホルモン剤による治療と癌の取り残しや再発を見つけることである。
再発は通常、最初の数年で起こることが多いが、もっと時間が経って見つかることもある。故に、経過観察は患者が生きている限り必要である。 |
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甲状腺腫瘍細胞の増殖は甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって調節されており、甲状腺ホルモン剤投与による甲状腺刺激ホルモン(TSH)分泌の抑制は、再発や生存率を改善する(35)。だから、サイロキシン(レボサイロキシンナトリウム<注釈:日本ではチラージンS>)は術式や他の治療後にかかわらず、すべての甲状腺癌の患者に投与すべきである。甲状腺ホルモン剤投与量は成人では2.2〜2.8マイクログラム/kgで、子供ではもう少し多い(52)。甲状腺ホルモン剤投与の最適量は甲状腺ホルモン剤投与開始3〜4ヶ月後に、血清TSH値によって決められる。最初の目標はTSH値が0.1mU/L以下でフリーT3(FT3)が正常範囲にあることである。このやり方を続けても、甲状腺ホルモン剤治療は心臓や骨に悪影響は与えない(52,53)。 |
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甲状腺部と頸部リンパ節領域の触診は必ず行うべきである。超音波は再発のリスクの高い例や診察で再発を疑った例で行う。小さくて丸く薄っぺらなリンパ節や3ヶ月後に大きさが小さくなるようなリンパ節は良性のものである。甲状腺ホルモン剤治療を受けていて、一つだけのリンパ節転移のある患者の20%では血清サイログロブリンは感度以下であるので、血清サイログロブリン値の感度以下はリンパ節転移の否定材料にならないことがある。もし、頸部リンパ節転移が疑われたら、超音波ガイド下に穿刺吸引細胞診を行う(54)。 |
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血清サイログロブリン値が感度以下の患者には、胸部レントゲン写真は行う必要はない。その理由は、肺に転移のある患者では全員、血清サイログロブリン値が高いからである(55)。 |
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サイログロブリンは正常甲状腺および腫瘍性濾胞細胞からのみ作られる糖蛋白である。甲状腺全摘術を受けた患者では、血清サイログロブリン値は測定感度以下でなければならない。もしも、甲状腺全摘術を受けた患者で血清サイログロブリンが測定可能なら、それは甲状腺癌の取り残しか再発を意味する(56)。少なくとも測定感度は1ng/ml以下でなければならない(57)。しかし、血清サイログロブリン値は抗サイログロブリン抗体が存在する血清では測定値に影響がでる。このような抗体を持つ患者は甲状腺癌中15%にみられる。血清サイログロブリンを測定する時には、この抗体は必ず、チェックすべきである。しかしながら、この抗体の陽性頻度は測定法(RIA,
IRMA)によって、変わってくる(56-58)。
正常甲状腺細胞、甲状腺腫瘍細胞から作られるサイログロブリンは一部TSHに依存している(57,59-64)。
このように、血清サイログロブリン値を解釈する場合、残存甲状腺の有無にかかわらず、血清TSH値を考慮に入れる必要がある【表3】。もし、甲状腺ホルモン剤治療中に血清サイログロブリン値が測定可能なら、甲状腺ホルモン剤治療を中止したら、血清サイログロブリン値は増加する。
血清サイログロブリン値は優れた予後判定因子である。甲状腺ホルモン剤治療を中止しても、血清サイログロブリン値が感度以下の患者は15年以上経っても、再発はしない(61)。反対に、甲状腺ホルモン剤治療中に血清サイログロブリン値が10ng/ml以上か甲状腺ホルモン剤治療中止後、血清サイログロブリン値が40ng/ml以上の患者の80%は、治療量の放射性ヨード(131-I)投与後に頸部や遠隔転移部に放射性ヨード(131-I)の異常集積がみられる(65-68)。 |
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放射性ヨード(131-I)全身スキャンの結果は甲状腺ホルモン剤を4〜6週間中止後、血清TSH高値の状態で甲状腺癌の組織が放射性ヨード(131-I)をどれくらい取り込む力を持っているかで決まる。
しかしながら、この間の甲状腺機能低下症で弱ってしまう人もいる。
この問題を和らげるために代謝の速いトリヨードサイロニン(リオサイロニンナトリウム<注釈:日本ではチロナミン>)に変更する。サイロキシン<注釈:日本ではチラージンS>では3週間中止せねばならないが、トリヨードサイロニンは2週間の中止でよい(69)。また、サイロキシンを半分に減量するだけでも良い(70)。血清TSH値は最低30mU/ml以上でなければならず、もし、そのレベルに達さないときは放射性ヨード(131-I)治療は延期する。甲状腺ホルモン剤治療を中止する必要もなく、副作用もほとんどないので、レコンビナントヒューマンTSHの筋注が今後有望な選択肢である。甲状腺ホルモン剤治療を中止した場合とレコンビナントヒューマンTSH筋注の場合と比べて、放射性ヨード(131-I)の取込はほとんどの患者で同じである(71)。
放射性ヨード(131-I)治療を計画したら、患者はヨード含有の薬物や食物を控えるように指導される。ヨード制限がうまくいっていない疑いのある患者では尿中ヨードをチェックする(72)。
妊娠可能な女性では、妊娠の有無をチェックする必要がある。通常、検査のための放射性ヨード(131-I)スキャンでは、2〜5mCi(74〜185MBq)が投与される。それより多い量を投与すると、治療量の放射性ヨード(131-I)を投与したときに放射性ヨード(131-I)の取込を減らすことがある(73)。放射性ヨード(131-I)投与して3日後に放射性ヨード(131-I)スキャンと必要なら摂取率もおこなう。偽陽性は稀である(49)。
2〜5mCi(74〜185MBq)の投与では取込が少なすぎて、見えにくい時でも100mCi投与後には取込が出るようになるかもしれない。これが、たとえ検査量の放射性ヨード(131-I)スキャンで陰性のときでさえも、甲状腺ホルモン剤中止後に血清サイログロブリンが10ng/ml以上になる例では100mCiの放射性ヨード(131-I)を投与する医学的根拠である。放射性ヨード(131-I)全身スキャンは放射性ヨード(131-I)投与4〜7日後に行う(47,48,65-68)。
残置甲状腺を破壊するための放射性ヨード(131-I)を服用後の放射性ヨード(131-I)全身スキャンで甲状腺以外に異常集積がないときは、3ヶ月間甲状腺ホルモン剤服用後に血清TSHと血清サイログロブリンを測定すべきである。上述したように、放射性ヨード(131-I)治療後6〜12ヶ月経ってから、甲状腺ホルモン剤を中止して放射性ヨード(131-I)全身スキャンを行う【図3】。もし放射性ヨード(131-I)の異常集積がみられたら、100mCiの放射性ヨード(131-I)を投与する。もし放射性ヨード(131-I)の異常集積がないときは、乳頭癌や濾胞癌の患者では経過観察は血清サイログロブリン値をみながら行われる。
感度以下の血清サイログロブリンと放射性ヨード(131-I)全身スキャンで陰性の再発のリスクの低い患者では血清TSH値が0.1〜0.5mU/Lを保つように甲状腺ホルモン剤を減量する。再発のリスクの高い患者では【表2】、甲状腺ホルモン剤はそのままの量を続け、血清TSH値が0.1mU/L以下を保つようにする。診察と採血は年1回行う。血清サイログロブリン値が感度以下なら、他の検査は必要ない。
もし、甲状腺ホルモン剤服用中で血清サイログロブリン値が測定可能になってきたら、甲状腺ホルモン剤を中止し、放射性ヨード(131-I)全身スキャンを行うべきであり、その時、同時に血清サイログロブリン値を測定すべきである。もし放射性ヨード(131-I)全身スキャンで異常集積がみられるか血清サイログロブリン値が10ng/ml以上なら、100mCiの放射性ヨード(131-I)を投与すべきである。放射性ヨード(131-I)全身スキャンで異常集積がないときは、頸部や肺のCTスキャン、骨シンチ(74)、特異性は少し劣るが、タリウム、テトロホスミン、フルオロデオキシグルコースなどの放射性同位元素によるシンチ(75-77)が有用である。
甲状腺全摘術やほぼ甲状腺全摘術を受けている患者で術後放射性ヨード(131-I)治療を受けていな い再発のリスクの低い例では、術後6〜12カ月後に放射性ヨード(131-I)全身スキャンを行う。経過観察のやり方は、血清サイログロブリン値をみながら行われる。甲状腺片葉切除術を受けている再発のリスクの低い患者では、経過観察は年1回の頸部の触診と甲状腺ホルモン剤服用中の血清サイログロブリン値測定である。超音波は測定可能な血清サイログロブリン値を示すほとんどの患者において、残った甲状腺の異常所見を見つけだせる。もし、病変が小さい時には穿刺吸引細胞診は不可能であり、手術が唯一の治療となる<注釈:この記載はおかしい。いまは、超音波ガイド下に穿刺吸引細胞診は簡単にできる。直径1cm以下の触診不能の結節でも診断可能である>。 |