|
手術はどのような甲状腺癌でも、その治癒のために欠かせないものです。分化度の高い癌−乳頭癌、濾胞癌およびヒュルトレ細胞癌−に対しては、甲状腺の罹患した側の葉だけを取り除く甲状腺葉切除術から、目にみえ、触れることのできる甲状腺組織をすべて取り除く甲状腺全摘出術まで、ある程度の許容範囲があります。甲状腺癌は、25%の患者で多病巣性−甲状腺内の多くの部位が罹患している−と言われます。これは非常に限局した手術法では腫瘍を取り残してしまうことを意味しています。保存的手術と根治手術のどちらにも、それを支持する理論的、臨床的根拠が数多くあります。一般的に、甲状腺切除範囲が広ければ広いほど、副甲状腺へ行く血管を取ってしまったり、損なうことにより、長期的に患者が低カルシウム血症(血液中のカルシウムレベルが低い)になる可能性が高くなります。もっと可能性が高いのは、喉頭を通る神経を触ったり、損傷したりして、患者の声のしゃがれや変化につながることです。結果は専門的技術や外科医の経験によって様々に異なります。副甲状腺が取り除いた甲状腺の中に確認できたら、その副甲状腺の一部分を頚部の筋肉にもう一度植え込むことができ、4〜6週間後には正常なカルシウム調節機能が回復します。熟練した外科医師による最近の報告では、このような合併症は甲状腺全摘出術を受けた患者の9%以下にしか起こらないことが示唆されています。しかし、もっと侵襲の少ない手術では事実上ゼロです。
分化度の高い甲状腺癌のある患者は全員、術後に131-Iによる治療を受けるため、他に甲状腺の残存組織が多ければ多いほど、そちらの方の放射性ヨードの取り込みが多くなるということを考慮しなければなりません。正常な甲状腺組織は分化度の高い甲状腺癌よりもはるかに効率的にヨードを集積するので、甲状腺の残存組織が多いことは、残った腫瘍細胞を治療する線量が低くなる可能性があることを意味します。甲状腺残存組織のヨード取り込みが多くなるにつれ、より多くの正常な甲状腺組織が直接隣接する正常な組織に放射する放射線線量がより高くなります。この結果、さらにいろいろな症状が出てくることになります。(喉の痛み、声のしゃがれ、嚥下困難)これらの症状は一過性ですが、厄介なものです。
分化度の高い甲状腺癌患者で、保存的手術を行い、残存甲状腺組織を131-I放射性ヨードで破壊した後に、再発のリスクがきわめて低い人を見分ける信頼性の高い基準が考案されました。いちばん多く使われている体系は、AMES基準で、これは手術後20年の内に甲状腺癌で死亡するリスクが1%以下、再発するリスクが5%以下の患者を見分けるものです。 |
【表】AMES基準:分化度の高い甲状腺癌の低リスク患者の特徴 |
年齢(Age) |
男性41歳以下・女性51歳以下 |
転移(Metastases) |
遠隔転移がない(リンパ節転移は再発のリスクに影響を与えるが、死亡リスクには影響しない)。 |
範囲(Extent) |
7被膜内侵襲は最小限で、外部へ広がっておらず腫瘍が甲状腺内に限られている。 |
サイズ(Size) |
75cm以下 |
|
リスクの低い患者は…
●リスクの低い年齢、転移がない(基準AとM)
●年齢が高い、転移がない、範囲とサイズが基準内(基準M,E,S) |
|
|
分化度の高い甲状腺癌のリンパ節転移は、甲状腺切除の際に他の頚部リンパ節と一緒に取り除き、顕微鏡学的な転移が残っていないか確かめる必要があります。複数の膨れたリンパ節がある場合は、頭部や頚部の扁平上皮癌患者に行うのと同様に頚部リンパ節郭清が必要です。未分化癌に対しては、最初の段階の効果的治療は、取れるのであれば最大限外科的に切除してしまうことです。甲状腺全摘出術と共に直接広がった部位と冒されたリンパ節はすべて、取れる限り最大限切除します。しかし、患者の年齢や重大な随伴疾患がある可能性、腫瘍の侵襲性、およびよく見られることですが、頚部や上胸部組織への局所浸潤の程度などによっては、手術が単に診断を確定し、姑息的に腫瘍の大きさを減らすだけになる場合もあります。
髄様癌は家族性のものでは、びまん性および両側性の頻度が高く、散発性のケースでは少なくなります。それでもかなり多く見られます。甲状腺全摘出術が選択される手術法です。リンパ節が冒されるリスクが高いため、中心リンパ節郭清を必ず一緒に行うようにしなければなりません。また、転移が陽性のリンパ節が見つかれば、さらに郭清範囲を広げることがあります。 |