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甲状腺癌<第3部>:郵便カバンからのFAQ

甲状腺結節と甲状腺癌に関する前2つの記事は、大きな興味をかきたて、Eメールの数も多かったのです。甲状腺癌に取り組んでいる患者さんと介護者の皆さんがこの問題の追加取材に感謝してくださったものと理解しております。ご賛同のコメントやご意見をお寄せくださったことに感謝いたしますと同時に、お寄せいただきました多数のご質問から、このことはまだすべてが明らかになっているわけではないことが窺われました。たくさんの方が、特定の個人的な医学上のアドバイスを求めていらっしゃいますが、もちろんこれは私も含め、診察や受けている治療をすべての面から評価する機会を持たない医師は誰であろうと全てには回答できないのであります。しかし、この甲状腺癌シリーズの最後にあたって(さしあたり)、過去数週間の間にこのトピックに関して受け取ったご質問の中で、いちばん多かったものに対する一般的な答えをここに挙げることにします。
放射線治療と甲状腺癌
  甲状腺ホルモン補充療法と放射性ヨードスキャンの準備
  分化度の高い再発甲状腺癌の管理についての詳細

放射線治療と甲状腺癌
私は甲状腺癌になるリスクのことを心配しています。私はホジキン病で放射線治療を受けて治りました。…でも、放射線のために甲状腺癌が起こるのであれば、今私にはその危険性があるのでしょうか?
放射線被爆が甲状腺癌を起こしうることははっきりしています。過去には、それが甲状腺癌発生のリスクに影響を与える単一のファクターとしてはいちばん明らかなものだったのです。これは、これら3つの記事の最初のものにある程度詳しく述べています。しかし、リスクを生じる被爆で重要なことは、低い線量で起こるということです。甲状腺癌に関係する放射線には、主要な源が2つあります。
  • 環境放射性同位元素−特に放射性ヨード−原子力発電所の事故で放出されたり、核爆発の後の放射性降下物中に含まれるものです。事故当時、チェルノブイリ周辺に住んでいた人の中で、高い率で甲状腺癌が新しく生じ、まだ増え続けています。同じ現象が日本の原爆被災者の生存者中にみとめられていますし、またアメリカの国立癌研究所ではアメリカ南西部の核爆発実験でリスクにさらされたと思われる人に関する情報を現在集めているところです。
  • 良性疾患に対し、頭部や頚部へ行われた低線量放射線治療。これは1950年代に腫瘍の誘発が確認されるまで、普通に行われていた治療です。それまでは放射線が頭部の白癬から扁桃腺肥大までたくさんの子供の病気の治療に使われていました。使われた線量は癌治療に使われる線量よりかなり低く、遺伝子損傷を受けた甲状腺細胞が死ぬことなく、悪性転化し始めるに足るほどの低線量であったのです。ここの共通の特徴は低線量であります(これが、歯科医がX線写真を撮影する前に患者に鉛の防護衣を着せたり、放射線医や放射線技師、およびその他の放射線を使った診断に関わる人達がいつも甲状腺を保護する防護衣を着けている理由です)。線量が十分に高い場合−通常癌の治療に使われる範囲の治療線量では、被爆した細胞が死に、その代わり甲状腺機能低下症の問題が生じることがあります。甲状腺の機能が失われるため甲状腺ホルモン補充療法が必要となります。
    甲状腺腫瘍形成のリスクのピークは、他の低線量誘発腫瘍のように、総線量が15〜20Gy(1500〜2000ラド)で起こります。この線量を超えた範囲では、被爆した甲状腺細胞は徐々に死滅し、約2〜5年経って25%以上の患者が甲状腺機能低下症になります。甲状腺機能低下症は、甲状腺のある下頚部域の放射線治療の合併症であり、横隔膜より上(甲状腺床を含む)の全リンパ節を3000ラド以上の線量で治療するホジキン病では、“外被”域照射後に明らかに問題となります。他の頭部や頚部の癌の治療照射には、もっと高い治療線量(5000〜7500ラド)を使いますが、甲状腺が照射範囲にある場合、ルーチンなフォローアップの一部として患者の甲状腺機能を監視するべきです。これらのことからホルモン分泌が落ち、脳下垂体が残りの機能している細胞を刺激するためにTSH(甲状腺刺激ホルモン)を放出するにつれ、良性の甲状腺結節の形成に至ることがあります。しかし、これは甲状腺癌が生じるような状況ではありません。

甲状腺ホルモン補充療法と放射性ヨードスキャンの準備
甲状腺スキャンの準備で、定期的に飲んでいる甲状腺ホルモン剤を止めて、サイトメルとかいうものを飲むようになりました(これは何ですか。またどんな副作用があるのですか)。しかし、これも今は中止されました。主治医は私のTSHが上がっていると言います。そして、みじめな気分です。−寒くて、疲れはて、何をする気にもなりません。どうしてこのようなことが必要なのですか?
放射性ヨードによる甲状腺スキャンの目的は、甲状腺全組織の機能を見分け、はっきりさせることです。甲状腺組織の特異な点は、ヨードを取り込み、集め、(正常な状況では)貯える能力です。これは他の器官では行われません。甲状腺はサイログロブリン−甲状腺濾胞内に貯えられる蛋白質−を作るのにヨードを使います。これは甲状腺ホルモン分子との結合部を含む貯蔵物質です。TSHの刺激に反応して、甲状腺のヨード取り込みが増加し、通常はもっとたくさんのサイログロブリンが産生されます。そして、貯蔵されたサイログロブリンは壊れて甲状腺ホルモン、サイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(リオサイロニン−T3とも呼ばれます)を放出します。2つの甲状腺ホルモンは、分子中のヨード原子の数が異なります。サイロキシンは4個、トリヨードサイロニンは3個で、T3とT4と短縮して言います。感受性のある細胞での作用の仕方はどちらもまったく同じです。
実際、T4は甲状腺外の作用部位で壊れ、T3になります。T3は活性形です。また、この2つは体の中に留まる時間が違います。これは“半減期”で測定されます。半減期とは一定量が体の中で壊れ、代謝されて半分になるのにかかる時間のことで、T4は6〜7日、T3は1〜2日です。普通、甲状腺ホルモン補充療法では、純粋なサイロキシンまたはT4とT3の混合物(シントロイドまたは乾燥甲状腺)が使われます。

甲状腺組織がスキャンのための放射性ヨードを取り込むためには、組織の中にある貯えをTSHで積極的に刺激し、他のヨード源がないようにして、枯渇させる必要があります。T4の半減期は長いので、血液中のホルモンの量と感受性のある組織での作用が安定しています。これは普通の場合、望ましい効果であり、脳下垂体のTSH分泌量を正常なレベルに抑える働きがあります(純粋なT3ではもっと不安定で、投薬のタイミングに大きく影響を受けます)。スキャンニングの前4〜6週間、甲状腺ホルモンレベルを下げて、患者のTSHレベルを上げるべくT4の投与を止める必要があります。これにより、質問の中で訴えておられたような症状や主訴を伴う臨床的甲状腺機能低下症になります。このスキャン準備期間中に患者を安定させ、症状を減らすため、純粋のT3−これがサイトメル<注釈:日本ではチロナミン>です−をこの期間の最初の方で使うことがあります。半減期が短いため、T3はスキャンの予定日近くになって止めることができます。普通は約2週間前です。スキャンを行う前にTSHレベルが30〜50の範囲にまで上がっていなくてはなりません。スキャンの準備の最後の仕上げとして、患者はスキャンの前2週間は、低ヨード食にするように言われますが、これは甲状腺が求める唯一のヨードが診断用に投与された放射性ヨードであるようにするためです。

分化度の高い再発甲状腺癌の管理についての詳細
私は分化度の高い甲状腺癌が再発しました。頚部リンパ節に転移しており、CTスキャンでは両方の肺にも結節が見られました。生検ではどちらも甲状腺癌の転移であることが確かめられました。放射性ヨードで治療する予定になっています。転移したリンパ節の手術は必要ないのでしょうか?
放射性ヨードによる甲状腺スキャンの目的は、甲状腺全組織の機能を見分け、はっきりさせることです。甲状腺組織の特異な点は、ヨードを取り込み、集め、(正常な状況では)貯える能力です。これは他の器官では行われません。甲状腺は
  • 分化度の高い甲状腺癌では、手術と放射性ヨードが唯一寛解をもたらし、生存率と生活の質を改善できる方法です。
  • 正常な甲状腺は、どのタイプの甲状腺癌よりもヨードを必要とし、ヨードを集める力が高いのです。そのため、分化度の高い甲状腺癌に対して放射性ヨードが有効であるようにするには、正常な甲状腺組織をまず完全に取り除いてしまわなければなりません。
  • 異なった場所の甲状腺腫瘍は、異なったヨード集積能を持っていることがあります。
  • 放射性ヨードは腫瘍のいちばん貪欲な部位に選択的に取り込まれ、それ以外の部位ではほとんど、あるいはまったく取り込まれないことがあります。
  • より多くの甲状腺癌が存在すれば、治療効果を上げるための放射性ヨードの総線量は高くなりますが、副作用や後に合併症を起こしてくる可能性は大きくなります。
相反するファクターを考慮してバランスをとれば、もっとも成功の可能性が高く、ダメージを起こす可能性が最小である治療を選択するのがベストということになります。では、どのようにしてバランスをとるのでしょうか。

一方で、一部の転移性病巣では−肺などですが−放射性ヨードが唯一の治療法であるのは明らかで、手術は選択対象ではありません。内臓に転移したもの−生命に関わる臓器への転移−は患者の生存にはるかに大きな脅威を与えます。そして、肺への転移に関しては、比較的小さな量の放射性ヨードを普通、繰り返し与え、転移病巣周辺の正常な肺組織の瘢痕化を防ぐ必要があります。

その一方で、転移したリンパ節が大きくなっていたり、筋肉や皮膚、あるいは深部の頚部組織に癒着しておらず、患者が手術に耐えられるようであれば、普通は手術で管理できます。リンパ節転移病巣が頚部や甲状腺床の疾患のコントロールに影響する一方で、生存率にははっきりした効果がありません。理論上は手術が頚部リンパ節の治療としてはいちばん効果があると思われますが、患者の中には医学的に大きな手術が不適当な人もおります。またそれ以外では、様々な個人的事情から手術を拒む人もいると思われます。放射性ヨードがいちばん重要な罹患部位−肺−に対する治療として選択された場合、すべて放射性ヨードで治療する方が容易であると思われます。しかし…リンパ節転移病巣の方が肺の病巣部より放射性ヨードの取り込みが高いようであれば、放射性ヨード治療を繰り返し行って、転移リンパ節を破壊する必要があります。それまでは肺の病巣に有効な線量はまったく届かないことになります。したがって…手術を避けて、現存するすべての病巣をそのまま放射性ヨードで治療することは、病気のもっとも危険な部分−肺病巣−の治療が遅れる可能性があります。放射性ヨードは、他のタイプの癌に対するほとんどのホルモンあるいは化学療法剤のように、感受性のある病変のもっとも小さいものにいちばん効果があるのです。他のたくさんの癌から学んだとおり、異なった治療法を組み合わせることとそれをいちばん効果の高いものに対して使うようにすること−アクセス可能な大きな病巣に対しては手術、手術が危険であるか技術的に困難な部位に対しては放射性ヨードというように−がもっともよい結果を得ることになると思われます。

個々のケースでなされる決定は、患者と主治医によるすべての具体的ファクターの評価によりなされ、また患者の年齢や全身状態、および検査値などの観点から互いに合意点を見出すことが勧められます。これは個々の患者に関するデリケートかつ特異的なバランスであり、軽く受け取られるものでもなく、ウェブサイト上で述べられた一般的原則に基づいて決められるものでもありません。
この重要で複雑な問題に直面された時は、その判断と人柄が信頼できる専門医を見つけ、すべての問題を徹底的に、また率直に調べたり話し合ったりして、決めるようになさってください。

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