この最近の甲状腺の研究のまとめは、1998年5月にギリシアのピエリアで開かれた第4回TFI年次総会でTFI医療顧問であるRobert
Volpeにより発表されたものです。この版の研究論文と合わせ、No.7、8および10が特に面白いと思われます。 |
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- Vassartら(J Clin Endocrinol
Metab 81: 547, 1996)は常染色体優性の中毒性甲状腺異常増殖を引き起こすTSHレセプター遺伝子の3つの新しい胚細胞系列変異の機能的特性を確定しました。これはTSHレセプターの遺伝性変異が原因の、乳児に見られる希な形の甲状腺機能亢進症です。TSHレセプターには細胞外コンポーネントと経膜性コンポーネントおよび細胞内コンポーネントがあります。これらの変異が起こったのは細胞外コンポーネントです。
成人の中毒性結節性甲状腺腫の多くのケースがTSHレセプターの細胞外コンポーネントに起こった体細胞突然変異によるものであることがわかっています。すなわち、出生後、おそらくは大人になってから起こるものと思われます。
- Tuttleら(Thyroid 5:
243, 1995)はバセドウ病を放射性ヨードで治療する前にプロピルチオウラシルで治療した場合、放射性ヨードだけで治療したものより失敗率が高くなることを明らかにしました。したがって、PTUで治療を受けた患者は治療の効果を確実に得るために必要な放射性ヨードの量が多くなると思われます。
- Toftら(N Engl J Med
334: 220, 1996)は抗甲状腺剤にサイロキシンを加えても、抗甲状腺剤だけで治療した場合に比べバセドウ病の寛解率が改善しないことを示しました。これは、同様の研究では4つ目のものであり、サイロキシンに効果があるというアイデア全体が今や考慮外のものとなりました。
- イタリアのPincheraら(N
Engl J Med)は、バセドウ病の放射性ヨード治療で主に治療を行った場合に、眼症が治療後に悪化する危険性が15%になることを示しました。
- Shimojoら(米国科学アカデミー会報93:
11074, 1996)は、TSHレセプターとクラスII分子をトランスフェクションした線維芽細胞で免疫したマウスでバセドウ病によく似た病気を誘発させました。これはバセドウ病と同じであると思われる実に興味深い動物モデルでありますが、このモデルでは線維芽細胞が抗原となりうると思われるために、甲状腺細胞が抗原性を示すことができない可能性があります。甲状腺細胞上にクラスIIの発現がしやすくなるようにすると、バセドウ病が悪化したり、発病することはない代わり、実際には防護的に働くという証拠があります。
- ChoらはTSHレセプターブロッキング抗体が高率に見られる一方で、自己免疫性甲状腺疾患のある患者ではそれが抗甲状腺剤やサイロキシン療法で変ることはないということを示しました。
- Popら(J Clin Endocrinol
Metab 80: 3561, 1995)は、妊娠後期に甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)の力価が高く、正常な甲状腺機能を持つ女性から生まれた子供は発達障害の危険性が高いことを示しました。この興味深い研究はまだ追試確認されていません。
- Wasserstrumら(Clin
Endocrinol 42: 353-1995)は、妊娠初期に母親が重症の甲状腺機能低下症であると、出産時に胎児切迫仮死が起こる頻度が高いことを示しました。妊娠末期にこれらの女性では遊離サイロキシン値が正常であったのですが、TSHレベルは妊娠期間全体を通じて上がっておりました。患者の早期サイロキシン療法が重要です。これは妊娠初期に母親のサイロキシンレベルが不十分であれば胎児に永久的にマイナスの影響が及ぶおそれがあるからです。
- Sawinら(JAMA 276:
285,1996)は、意思決定と費用効率を分析するために定期検診で軽度の甲状腺機能不全のスクリーニングを行いました。35歳の患者を5年毎に血清TSHアッセイでスクリーニングする費用効率は、生活様式を調整した生涯年あたり、女性で約$9,000、男性で$22,000でした。結論として、軽度の甲状腺機能不全のスクリーニングは他の一般的に受け入れられている予防医学的戦術と同じくらいの費用効率があるということになりました。年齢が35歳以上の患者、特に高齢の女性の血清TSHレベルの測定は有益であります。
- Reussら(N Engl J Med
334: 821,1996)は、未熟児における2歳時の神経学的発達に対する一過性の低サイロキシン血症の関係を研究しました。多くの未熟児に一過性の低サイロキシン血症がありますが、それは長く続くことはなく、甲状腺ホルモン補充も必要としません。しかし、未熟児の低サイロキシン血症とその後の運動や認知異常の間につながりのある可能性について、同一病歴集団での研究で、調査がなされました。妊娠29週以降に生まれた乳児では、薬剤型サイロキシンの濃度が妊娠齢と共に増加していました。障害を起こす脳性麻痺のリスクは、妊娠齢を合わせた後に低サイロキシン血症のなかった乳児に比べ、ひどい低サイロキシン血症のあった乳児で著しく増加していたのです。2歳時の平均発達スコアは重症の低サイロキシン血症のあった乳児で15ポイント低くなっていました。したがって、未熟児でのこの状態が2歳時の神経学的、精神的発達の問題と関連しているように思われます。新生児のサイロキシン濃度を高める治療の研究が、この関係が原因であるのかどうか、また治療で神経学的、および発達上の続発症を予防できるのかどうかを定める役に立つと思われます。
- Faginら(J Clin Endocrinol
Metab 81: 9, 1996)は、チェルノブイリの大事故の後の小児と青少年の甲状腺病変を研究しました。チェルノブイリ大事故の後、放射線に被爆した相当数の子供に、短い潜伏期間の後に現れた悪性および良性の甲状腺腫瘍が見られました。低い年齢で被爆を受け、もっとも汚染の高い地域の住人であることが、悪性病変の発症の重要なファクターと思われます。
- Gharib and Mazzaferri(Ann
Intern Med 128: 386, 1998)は、細胞学的に良性の甲状腺結節を持つ患者は、サイロキシン治療なしで経過を見るのがいちばんよいことを示しました。ほとんどの良性結節は長期に渡ってモニターした場合、サイズが安定しており、また良性のままです。サイズが大きくなっていく結節では、再度生検を行うか、手術を実施すべきです。
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広汎な研究論文から、これらのものがいちばん国際甲状腺協会のためになると思いましたが、この点に関しては他の方からご意見をいただければ幸いです。 |
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