甲状腺の働きすぎは、甲状腺機能こう進症や甲状腺中毒症として知られている。
これは、血中でT3とT4が増えている病気です。甲状腺の働きすぎの10%の患者では、T3のみが増えている。これは、T3中毒症と言われますが症状は普通のバセドウ病と同じです。 |
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甲状腺の働きすぎの原因はいくつかある【表2】。しかし、80%は甲状腺刺激抗体による働きすぎである。これはバセドウ病、もしくはびまん性中毒症甲状腺腫と言われる。甲状腺が働きすぎていてアイソトープが甲状腺全体に取り込まれているので“びまん性”と言います。そして、毒素によるのではなく、血液中に増えた甲状腺ホルモンによって体の細胞が過剰に刺激されるために“中毒症”となります。この章ではバセドウ病についてだけ述べます。他の希な甲状腺の働きすぎの原因については<第6章>で述べます。 |
【表2】甲状腺機能亢進症の原因 |
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バセドウ病 |
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多結節性中毒性甲状腺腫 |
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中毒性腺腫 |
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亜急性甲状腺炎 |
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無痛性甲状腺炎 |
6 |
甲状腺ホルモン剤の飲み過ぎ |
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バセドウ病を引き起こす因子として以下のものが考えられている。 |
- 遺伝。自己免疫疾患は遺伝しやすい。
- 食事のヨード摂取量。多量のヨードを摂取した後の春や夏にバセドウ病の頻度が増えている?
- 女性に多い。男性の10〜15倍。女性に多い理由は不明。
- 時々、精神的ストレス後にバセドウ病が発症する。しかし、ストレスとバセドウ病の関係は不明である。例えば、1968年に始まった北アイルランド問題でバセドウ病が増えたという証拠はない。にもかかわらず、感情的ストレスは自己免疫系に障害を与えるという実験データはある。
- バセドウ病の原因は現在では甲状腺刺激抗体によるものと考えられている。しかし、この抗体が何故できるかは不明。
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20〜40歳までの女性に多い。5歳以上の女子にも起こりうる。そして、バセドウ病をもつ母親から生まれてる赤ちゃんでは希である。男女とも高齢者でも起こりうるが症状は若い人とは大分異なっている。 |
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病状は気付かないうちに徐々に出てくる。自覚症状がでるまでに数ヶ月かかることもある。倦怠感が最初の症状のことが多く、そのあとに体重減少、動悸、神経質、易刺激性、発汗増加などが出現する。便通回数増加もよくみる。下痢もひどくなることもある。下痢以外の症状がなければ、バセドウ病の診断が難しいことがある。暑がりになって夏などは耐えられないかもしれない。家人はそれほど暑いと感じないのに暖房がききすぎているとか、夜間暑くて布団をはね飛ばしたり、又、皮膚が発疹もないのにかゆいかもしれない。疲労感はひどくなり、特に買い物袋を持って急いで歩くときや階段を登るときに息切れが出てくる。食欲が増すこともあり、いつも空腹と感じる。食欲が増すにもかかわらず、数ヶ月で体重が3〜9.5kg程減る。生理の量が減り、回数も減って場合によっては無月経になることもある。もし、若い女性の場合なら、妊娠したかもしれないと思うかもしれない。実際には妊娠しにくくなる。
このような問題もバセドウ病を治療すると解決されてくる。
体力が落ちていることに自分では気付かないかもしれない。上、下肢の近位側の筋肉が特に弱る。立ち上がりにくくなったり、重いものを棚からおろすのが難しくなる。 |
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55歳以上では上で述べたような症状が明らかでないことがあり、症状は心臓に関したものだけが前面に出ることがある。高齢者では、息切れ、くるぶしの腫脹や心房細動が出やすい。上体を起こさなければ眠りにくいと感じるかもしれい。そして、アームチェアーに腰掛けての方が眠りやすいと感じる。この心不全症状はいつもみられるとは限らない。奇妙なことに、高齢者では時々動きが緩慢になり抑うつ状となる(これは無表情甲状腺機能こう進症と言われる)。 |
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眼症の最初の症状は何か眼の調子がおかしいというような漠然としたものです。自分で鏡をみて眼光が鋭なったと思うし、友人からもそのことを指摘される。上マブタがめくれ上がり白まなこが目立つようになる(これを眼瞼挙上という)。まぶたがめくれ上がるために眼が大きくみえる。あたかも恐怖を表現しようとする女優の表情のようにみえる。この症状は、バセドウ病以外の甲状腺ホルモンが高くなった状態でもみられることがある。普通は甲状腺ホルモンが正常化すればよくなる。バセドウ病では、他の眼症状が出てくる。これについては<第5章>で述べる。 |
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皮膚が薄くなってデリケートになったように感じるが、この症状はそんなに明らかではない。特に眼症をもつバセドウ病患者では時々下肢の皮膚に奇妙な症状が出る。病変は赤くもり上がってくる。そして、その部位の毛は荒くなる。病変は大きく広がり足首や親指に出ることもある。これを前けい骨粘液水腫と言う。 |
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体重が減ってやせてくる。落ち着かなくなり神経質になる。自分では気付かないかもしれないが、じっと座っていられなくなりそわそわして指をまわしたりする【図4】。
子供の場合は、行動がぎこちなくなり、物をすぐ落としたりする。年令に比して、身長が伸びることもある。寒い日でも軽装で大丈夫である。手のひらは温かくて湿っている。脈はおどっている。 |
【図4】甲状腺機能亢進症患者の症状 |
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医学生は次のように教えられる。「もし、甲状腺の状態を知りたいのなら、手を握りなさい」と。医者は目を閉じて手を前にまっすぐのばすよう指示する。そうすると、手指が振るえているのが分かる。脈は速くなっている。これは普通の緊張のためかもしれないが、安静なときも脈は速い。時々、高齢者では心動細動と言われる不整脈を示す。甲状腺の大きさは正常のこともある。しかし、通常少し大きいか、目立つ程大きくなる。甲状腺が働きすぎているために甲状腺の血流は増して、甲状腺の上に聴診器をおいて聞くと雑音が聞こえる。眼光が鋭くなることが最初の微候のことがあり、これを見て医者はどこが悪いかを知ることがある。自分では筋肉が弱っていることは気付かないかもしれないが、医者からみれば明らかであることが多い。一番弱るのは腰と肩の筋肉である。これは女性に比べて男性によくみられる。医者が少し手で押さえるだけで両腕を挙上できないことに驚くであろう。又、座った状態から立ち上がることが困難であることも気付く。 |
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病初期には、甲状腺の働きすぎを診断することは難しいことがある。病気が進んでくると、診断は易しくなる。甲状腺の働きすぎと単なる不安は区別しなければならない。しかし、実際は若いバセドウ病患者では不安感も強いために、バセドウ病で不安感の強い患者なのか単なる不安患者なのかを区別しなければならない。
体重減少や手指振戦などの身体所見は漠然とした不安などの症状よりは、はっきりとした所見である。最終的には血液検査(甲状腺ホルモン)によって診断が確定する。心不全を有する高齢者は甲状腺の働きすぎに起因するかどうかをみなければならない。なぜならば、他の心疾患による心不全よりは適切な治療で治りやすいからである。普通は検査によって診断がつく。
T4、FT4、T3、FT3のレベルが正常より高くTSHが抑制されている。初期では、T3のみが増えていることもある。しかし、このときもTSHはすでに抑制されている。症状がなくても、軽い検査異常だけなら、経過をみてもよい。もしも、病気があれば、1〜2ヶ月後に症状も検査データも明らかに異常を示してくる。甲状腺ホルモンが高いことがわかれば、その原因はバセドウ病なのかその他の原因なのかを区別しなければならない。バセドウ病の診断は眼症状や甲状腺の病気の家族歴を持っていれば、比較的やさしい。甲状腺部の圧痛や病歴から亜急性甲状腺炎を診断するのも難しくない。しかし、無痛性甲状腺炎の場合はバセドウ病との区別が難しいことがある。甲状腺を触診することで、甲状腺結節から過剰甲状腺ホルモンを作るタイプ(プランマ−病)は分かることがある。バセドウ病ではアイソト−プ検査をするとアイソト−プが甲状腺全体にびまん性に取り込まれる。さらに、ほとんどのバセドウ病患者の血液中にはTSHレセプタ−抗体が陽性を示すが、このテストはどこでもできるわけではない。 |
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バセドウ病になれば、治療が必要となる。昔は20%の患者は死亡し残りは長期にわたり良くなったり悪くなったりを繰り返していた。バセドウ病の治療には以下の3つがある。 |
- 抗甲状腺剤:甲状腺ホルモンの合成を阻害するが50%しか寛解しない。
- アイソト−プ治療:投与した131−Iが甲状腺に集められ甲状腺細胞を焼いてしまう。
- 手術:甲状腺の大部分を切除する(甲状腺亜全摘術)
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医者との相談によってあなたに合った治療法を決める。治療法を決める上での重要な因子は以下の如くである。 |
- まず、バセドウ病かどうか。上の3治療はバセドウ病でのみ使われる
- 年令
- 性
- 甲状腺腫の大きさ、美容上の問題、気管の圧迫の有無
- 異所性かどうか
- 長期に薬をのむのに適しているか
- 専門の外科医がいるかどうか、外科医の力量にて寛解率や後遺症が違う
- 過去にどのような治療を受けているか
例えば、薬を中止した後に再発したときは2度目の薬の治療は治る率が低い
手術後に再発したときは、再手術は後遺症を起こしやすいので禁忌となる
- 経済的問題。1週間の手術入院のために外科医と麻酔科医に払う費用はアイソトープ治療に比べると高価である
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1年〜1年半の薬物治療は手術よりは安いがアイソトープよりは高い。
病気についてよく知り、各々の治療法の利点や欠点をしっかり認識することはあなたにとって安心感を与え、重要な事である。 |
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症状を緩和し楽にする薬は2種類あるが、これらは治す目的では使われない。 |
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これはベータ・ブロッカーとして知られている薬で発汗、不安、落ちつきのなさ、動悸や頻脈を減らす働きがある。
プロプラノロール(インデラール)が一番よく使われており、安全な薬である。しかし、気管支喘息を持つ患者では使えない。一日2〜3回にわけて服用する。少し改良されたものや一日1回の服用でよいものもある。あなたにとってはプロラノロールより合ったものがあれば医師はそれを選ぶ。ベータ・ブロッカーは、症状が落ちつくまでは使用するが、それ以外は中止する。この薬は治すためのものではない。ベータ・ブロッカーは急に中止すべきではなく、切れないように注意しなければならない。薬を中止する場合は1週間から10日間かけてゆっくり減らして中止すべきである。 |
ヨード剤は一時的には甲状腺ホルモン合成を抑えるが、これは3〜4週間だけである。現在ではヨードはバセドウ病手術前にだけ使われる。ルゴールや錠剤として手術の1〜2週間前より与えられる。 |
数種類の薬が、甲状腺ホルモンの合成を抑え甲状腺ホルモンを正常にすることができる。もし、過量を長期間投与されれば甲状腺機能低下症になる。したがって医師は投与当初は多い量を処方するが、徐々に減量してあなたの症状や甲状腺ホルモン値を参考にして量を加減する。いったん甲状腺ホルモンが正常化したら、決まった量の中等量を服用し、低下症になるようなら甲状腺ホルモン剤を併用する。これは一見逆の治療のように思えるが、抗甲状腺剤の決まった量をのむと甲状腺ホルモンが増えたり、減ったり、一定しないために甲状腺ホルモン剤を服用することでそれを
防ぐ。又、抗甲状腺剤に免疫能を抑えて病気を良くする働きがあるという考えもある。確かに抗甲状腺剤は甲状腺の働きを正常化することはできるが、治すことはできるとは限らない。薬を中止して3〜24ヶ月後に徐々に甲状腺ホルモンが増えることがある。バセドウ病においては12〜18ヶ月の薬の治療で50%の患者を治った状態にすることができるのみである。なぜ、ある人は薬で治り、又ある人では薬を中止して数ヶ月から数年して再発するのかは、はっきり分からない。治りやすいのは、軽い甲状腺機能亢進症で、甲状腺腫の小さいものや早期に治療をしたものである。
反対に薬で治りにくいのは、甲状腺腫の大きいもの、甲状腺機能亢進症のひどいものや治療が遅れたものである。甲状腺の大きさや甲状腺機能亢進症の程度だけが薬で治りやすいかどうかを決める因子ではない。遺伝も重要かもしれないし、薬を中止するときのTSHレセプター抗体値も重要な因子である。薬を中止した後の再発を不幸と思ってはいけない。それは単に、手術やアイソトープ治療で治るまでに、内科的な治療期間が延びただけである。手術かアイソトープのどちらを選ぶかは患者の好みによるが、多くの場合はアイソトープが選ばれる。再発後にまた、薬の治療を何故しないのかと思う人もいるかもしれない。当然ながら薬で再度、治療してもよい。しかし、経験上、2度目、又は3度目の薬の治療後には再発は避けられないと考えらる。長期間の内服治療はあまり勧められない。なぜなら、病気は時々良くなったり、悪くなったりすることがあり、必然時に内科的治療は長引く結果となるからである。抗甲状腺剤治療が適さない場合というのは、仕事の都合で定期的に診察に来れない人や薬をしっかり服用しないひとである。早く治りたいのなら、手術かアイソトープ治療が良い。手術は甲状腺腫が大きいとか、アイソトープ治療後に甲状腺腫が小さくならなかったときに適応となる。手術が一番適していのは、後胸骨甲状腺腫や腫大した甲状腺が呼吸しにくい程に気管を圧迫しているときである。急激な甲状腺ホルモンの低下は甲状腺眼症を悪化させるといういくつかの報告がある。この理由で、アイソトープ治療や手術をするのを決める前に、まず薬で治療をして眼症の具合をみるやり方が好まれる。 |
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抗甲状腺剤は新生児の非常に希な甲状腺機能亢進症にも使われる(これはTSHレセプター抗体が胎盤を通して胎児の甲状腺を刺激するもので、出産後も3〜4ヶ月間続く。これについては<第13章>で述べる)。子供に対しても抗甲状腺剤は一番適した治療ではあるが、子供は大人に比べて治りにくい。子供では抗甲状腺剤に甲状腺ホルモンを併用するやり方で18歳迄みる方法がとられるかもしれない。学校を卒業する時や大学に進学する前に、手術やアイソトープ治療を受けることができる。 |
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抗甲状腺剤は20〜40歳の甲状腺腫の小さい軽いバセドウ病患者に対して使われる。寛解率は50%である。しかしながら、近い将来、出産を考えている人にはベストの治療とは言えないかもしれない。甲状腺機能亢進症は生理の回数を減少させ、一時的に不妊になるが、抗甲状腺剤による速やかな甲状腺機能の正常化はこれらの異常を是正する。ゆえに、抗甲状腺剤服用中に妊娠するかもしれない。しかし、このことはそんなに重大な問題ではない。なぜなら、妊娠中は大体、少量の抗甲状腺剤の投与で充分であり、出産の4〜6週間前には中止できることが多い。産後は又、多くの場合薬をのまなければならない。しかし、母乳に薬が出てくるので授乳を避けるように指示する。実際には母乳のなかにでる薬は少量ではあるが。もし、乳児の世話をしながら、内科医に治療のために定期的に通わなければならないとしたら、あなたにとっては大変である。出産を考えている若い人に対して、アイソトープ治療や手術をすることで、上記のようなわずらわしさは解消される。しかし、アイソトープ治療後1年間は避妊しなければならない。 |
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抗甲状腺剤とは3種類ある。 |
- カルビマゾール
- メルカゾール
- プロピルチオウラシル(PTU)
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カルビマゾールとメルカゾールは似ていて、前者は体内で速やかに後者に変換される。カルビマゾールは主にヨーロッパで、メルカゾールは北米で使われる。医師がPTUと呼ぶプロピルチオウラシルは現在では他の二つの薬の副作用が出たときに使われることが多い。 |
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副作用はそれ程、多くはない。しかし、抗甲状腺剤を処方されたら副作用についてよく知ることが大切である。副作用はのみ始めて2ヶ月以内に普通、出現する。一番多いのはメルカゾールやカルビマンゾールによる吐き気、胃腸障害、蕁麻疹、痒みである。次に多いのが関節炎、微熱、リンパ節腫脹である。これら副作用は薬を中止すればすぐ消失し、もし、PTUに変更しても再び出ることはない。3つの抗甲状腺剤に共通する最も重大な副作用は無顆粒球症である。この副作用は1000人に1人の割で起こるものであり、ほとんどは薬をのみ始めて数週間で起こる。原因は不明であるが、薬のために骨髄で白血球の一種である顆粒球または、好中球といわれる血球の産生が抑えられ血液中でほとんど0になる(無顆粒球症)。これらの血球は細菌が体内に入ってきたときにやっける働きをしている。通常、無顆粒球症の最初の症状は、のどの痛みである。抗甲状腺剤服用時に、のどが痛くなったら薬を直ちに中止して12時間以内に医者にみてもらわなければならない。そこで白血球数を測って、必要なら治療を受ける必要がある。もし、顆粒球が減っていれば骨髄が回復して白血球が元に戻るまで細菌感染を予防する目的でペニシリンが通常使用される。もし、ペニシリンが合わないなら、別の抗生物質が使われる。 |
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これは、バセドウ病の治療法としては一番よく使われる。
アイソトープ治療の長所は以下の如くである。 |
- 外来でカプセルをのむだけである
- 入院しなくてよい
- 麻酔しなくてよく、傷が残らない
- 他の人に近づくような仕事でなければ、服用後1〜2日間仕事を休むだけでよい
- 手術より安価である
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アイソトープ治療は50年間の治療実績があり、安全であることが証明されている。白血病、不妊や異常出産の心配もない。しかし、妊娠中は使えない。なぜなら、妊娠3ヶ月後からは胎児の甲状腺はヨードを取り込み、過剰に被爆を受けるためである。特別の理由がなければ、18歳未満の子供にはアイソトープ治療は行わない。
欠点は何か?アイソトープ服用後、数日間、のどが痛くなることがある。カプセル服用後しばらくの間、放射能が尿から排出されるので、日常生活で少し不便さを感じるかもしれない。放射能は48時間たてば尿から出なくなるために特別の装置でなく普通の水洗トイレで全く支障はない。投与された量によっては、数日間は他人とキスをしてはならないし、子供や赤ちゃんは1m以内に近づいてはならない。通常量でも、カプセル服用して1〜2日間は成人、特に妊娠可能な女性は長時間近づいた状態でいることは避ける方がよい。
医師は多分、あなたにこれらの事について説明し、説明書を手渡すでしょう。カプセル服用後の自家用車による旅行は、全く安全です。公共の交通機関を使っての旅行は時に制限がある。
他の欠点としては、早く効かない点である。通常、服用して3ヶ月位で効いてくる。言い換えれば、1〜2週間で自覚症状が改善してくる抗甲状腺剤に比べると、効き目がゆっくりしていることである。アイソトープが効くまでは、ベータ・ブロッカーを使用することで、症状を抑えることができる。甲状腺機能亢進症の症状が強いときは、アイソトープが効いてくるまでの間は、抗甲状腺剤が使われる。今まで述べた利点を帳消しにする程の大きな欠点は、時間が経つにつれて甲状腺の働きが低下することである。アイソトープ投与2〜20年後に、バセドウ病患者の80%が低下症に陥る。低下症の頻度は基本的には投与量とは関係しない。投与量が多いと低下症に早期に陥る。多くの婦人は、低下症によって体重が増え、太ることを必要以上に恐れているが、実際はアイソトープ後の低下症というのは考えている程、そんなに大きな問題ではない。もし、アイソトープ治療後も定期的に診察を受けるなら低下症の症状が出ることは希である。なぜなら、症状が出る前に血中TSHが増加するわけですが、このTSHが増えてきたら直ちに、甲状腺ホルモン剤補充が始められるからです。多くのクリニックではアイソトープ治療後の患者に対して血液検査ができないときは、ハガキによる年一回のフォローをしている。しかし、理想的には年一回医師の診察を受けることが望ましい。適正量のアイソトープを投与するのは難しい。投与量が少ないときは甲状腺機能亢進症状は改善せず、2回目、3回目のアイソトープ治療が必要となる。反対に投与量が多すぎるとすぐ、低下症になる。しかし、甲状腺ホルモン補充療法を始めれば頻回の診察はしなくてよい。病院によっては、甲状腺腫の大きさやアイソトープの摂取率により、投与量を計算しているところもある。早晩、低下症になるので投与量は一定にして血中TSHが増加したら直ちに甲状腺ホルモン剤を投与するところもある。この方法だと低下症の心配もないし、診察も頻回に受けなくてよい。ゆえに、バセドウ病の治療としてアイソトープ治療を受けるときは、将来甲状腺ホルモン剤をのむこともありうることは知っておく必要がある。しかし、必ず低下症になるとは限らない。 |
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熟練した外科医が行えば手術は大変、効果的な治療法である。手術前には、ヨードか抗甲状腺剤によって甲状腺機能を正常にしなければならない。甲状腺機能亢進状態での手術は甲状腺クリーゼの危険があるので、避けなければならない。ベータ・ブロッカーのみで症状を改善させて手術をする外科医もいるが、我々はこのようなことは賛成しない。慣れた外科医と優れた麻酔科医がいれば、手術のための入院は1週間を越すことはない。傷口を全く分からないようにすることは無理だが、首のしわの上に切開を入れ、しわの1本のようにみえるようにする。甲状腺を7/8切除した後に、皮膚を閉じるときに形成外科の手法を使用する。ほとんどの外科医は甲状腺を少し多めに切除する。これは手術後の再発を防ぐのが目的である。もし術後に再発したら、2回目の手術は術後後遺症の危険が増すので、通常2回目の手術は行わない。もし、術後に再発した際には年令、性にかかわらず、アイソトープ治療が行われる。手術が適するのは次のような場合である。 |
- 後胸骨甲状腺腫
- 美容上の問題(甲状腺腫が大きい)
- 気管を圧迫、偏位しているとき
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気管が圧迫されていれば、少し呼吸しにくいような感じを受けるかもしれない。しかし、呼吸困難が起きる前に、伴侶が気づくようないびきをかくようになる。俗に言う喘鳴は、あごを引いた状態のときや眠ったときに顔を一方に向けたときによりひどくなる。このような状況では抗甲状腺剤やアイソトープ治療は避ける方がよい。なぜならこれらの治療では、甲状腺腫が一時的にでも大きくなることがあるので。術後に20%で甲状腺機能低下症が出てくる。外科医は甲状腺を少し多く切り取るので、この後遺症の出現は責められるべきでない。甲状腺機能低下症の直接の原因が手術ならば、手術後3ヶ月以内に低下症になる。自己免疫機序での甲状腺細胞の破壊による低下症は、もっと後に出てくる。もし低下症が出てきたら、甲状腺ホルモン補充療法を始める。 |
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手術の後遺症には2つあるが、これは非常に希である。 |
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声帯を動かす神経(反回神経)が甲状腺の後部を左右に走っている。もし、手術のときにその神経を損傷したら、一生声がかすれてしまう。しかし、麻酔時の気管内挿管で術後1〜2日、間声がかすれることはよくある。永続性の嗄声はどちらかの反回神経を切断したときに起こり、これは慣れた外科医が手術すれば、ほとんど起こすことはない。 |
もう一つの手術の後遺症は副甲状腺の損傷と関連する。通常副甲状腺は甲状腺の後に隠れてみえない。大きさはえんどう豆程で、左右2つずつの計4つある。外科医は手術時にこの臓器を損傷しないように細心の注意をするので、4つ全てが完全に血流が途絶えることは希である。しかし、術中に副甲状腺を傷つけるために術後数日〜数週間、副甲状腺の働きが低下することがある。副甲状腺は血中カルシウム濃度を調節している。もし副甲状腺の働きが低下したら血中のカルシウム値は下がり、テタニーを起こす。血中カルシウムが低下すると、まず最初に出る症状は口唇や口周囲のしびれ感です。症状が進むと手や脚のつりが出る。これらの症状は血中カルシウムを正常化する目的でカルシウム剤やビタミンDを投与することで改善する。通常、この治療は短期間で良いことが多い。 |
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前ケイ骨粘液水腫の経過を予測するのは難しい。眼症を持っている患者でよくみられる。甲状腺機能亢進症状態がよくなるにつれてこの皮膚症状も改善されるかもしれない。又、ある人ではバセドウ病が治った後にこの皮膚病変が出現することもある。最も効果的な治療は毎晩病変部にステロイド軟こうを貼って、その部分をラップでおおう治療である。この治療は長期間続ける必要がある【プレート6】。 |
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バセドウ病は簡単に治る病気ではない。薬、アイソトープ、手術のどれで治療を受けてもすぐに治るわけではないことをまず、認識することが大切である。薬を1年〜1.5年間続けて服用しなければならないことを考えるとイライラするかもしれない。アイソトープは3ヶ月経たないと効いてこない。もし、手術を選んだとしても、術前に甲状腺機能を正常にするのに時間がかかる。たとえ治っても、経過観察が必要であり、時として、一生みる必要もある。バセドウ病の感情的及び、心理的な面は現実問題として考慮しなければいけない。心配性や過敏性であっても自分を責めてはいけません。これらの問題はそのうち解決されますので、気長にいかなければなりません。もし、眼症があれば物事はより複雑化してきます。この眼症は婦人にとっては他の症状よりもずっと心配な事柄です。この症状についてはあなたはもっと気長にならなければなりません。眼の手術によって眼姿はかなりよくなりますが、通常は甲状腺機能が正常化しなければ眼の手術はできません。 |
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■問題と解答 |
Q1 |
バセドウ病でアイソトープ治療を受けるとしてもそれは甲状腺癌を合併しているわけではないのですね? |
バセドウ病は悪性疾患ではありません。 |
Q2 |
4人の子供が居ますが、将来バセドウ病になりますか? |
もちろん必ずバセドウ病になるとは限りません。しかし、バセドウ病や橋本病のような自己免疫性甲状腺疾患になる可能性はあります。 |
Q3 |
バセドウ病を治療し始めると太りますか? |
もし体重が減っていたら、体重は元に戻ります。元々太ってないのなら、治療後にもと以上に太ることはありません。 |
Q4 |
夜間動悸がして目覚めます。どうしたらいいですか? |
ベータ・ブロッカーを飲むと動悸がおさまります。 |
Q5 |
以前は、暑い気候が好きでした。しかし、今は暑さに耐えられません。8月に家族とスペインに行く予定です。キャンセルすべきでしょうか? |
今は4月です。8月までは甲状腺機能は落ちつくでしょう。8月頃にはスペインの気候もきにならないでしょう。旅行は行ってよいです。 |
Q6 |
子供を叱りつけたり、夫と口論がたえません。どうしたらいいでしょうか?以前は、忍耐強く人と争うことはありませんでした。 |
しばらくベータ・ブロッカーをのんで、甲状腺の働きが落ちついて来ると気持ちもやわらいできます。 |
Q7 |
どの治療方法が自分に向いていますか? |
あなたの状況や3つの治療の利点や欠点を考慮して決めます。欠点・利点をお互いに話しあいましょう。そして、最終的にどの治療があなたに適しているかを自分で決めてください。 |
Q8 |
手術したら傷は目立ちますか? |
殆どはそんなに目立つことはありません。通常は一本の皺のようになってしまいます。 |
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