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直径が1cm以上あれば、普通なら触診で甲状腺結節を触れる。しかし、結節が深いところにあるとか、首が短くて太った人では、甲状腺結節を触れにくい。Branderらの研究では、超音波で確認されている甲状腺結節を触診したところ、半数では触診できなかった。さらに、触診できなかった甲状腺結節の約1/3は直径が2cm以上であった。
甲状腺の触診の正確性は医師の経験によるところが大である。Branderらの研究では、触診の正確性と医師の経験がよく相関していたとしている。
以上より、触診は甲状腺結節の多きさを評価するには信頼性に欠けると思われる。 |
【表1】触診で単発性甲状腺結節がある患者対して超音波を行って、別の甲状腺結節の発見される頻度 |
著者(参考文献番号)
国 |
研究した年 |
超音波のプローベ
[単位:MHz] |
患者数 |
複数の甲状腺結節の割合
[単位:%] |
Scheibleら(17)
米 国 |
1979 |
10 |
73 |
40 |
Walkerら(19)
欧 州 |
1979〜1982 |
7.5 |
200 |
20 |
Branderら(2)
フィンランド |
1987〜1989 |
7.5 |
32 |
48 |
Tanら(8)
米 国 |
1990〜1991 |
7.0 |
151 |
48 |
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1982年にCarrollらは頚動脈超音波検査中に偶然見つかるインシデンタローマは13%であると報告した。
Horlockerらは10-MHzのプローベを使用して1000例の副甲状腺疾患疑いの患者に超音波を行い、462(46.2%)でなんらかの甲状腺に異常を認めた。別の研究では、709人の健常者に対して甲状腺シンチを行い、290人(40.9%)でなんらかの異常がみられた。この290人のうち272人(38.4%)で、甲状腺結節がみられた。Starkらは、副甲状腺機能亢進症の患者で超音波検査中に発見される甲状腺インシデンタローマは40%であると報告している。最近の前向き研究(prospective
study)では、北米の住民100人を対象とした超音波の検査では、正常甲状腺の人はたったの33人(33%)であった。67人(67%)の甲状腺結節のうち30人(45%)は多結節性で、15人(22%)は単結節であった。米国以外で行われた研究では、少しインシデンタローマの頻度が低い。フィンランドのBranderらの研究では甲状腺インシデンタローマの頻度は27%ですが、ベルギーのWoestynらは19%,ブラジルのTomimoriらは17%と低い傾向にあります。人種差、地域差、ヨードの摂取などが影響を与えているかもしれません。 |
【表2】超音波で発見される甲状腺インシデンタローマの頻度 |
著者(参考文献番号)
国 |
研究した年 |
超音波のプローベ
[単位:MHz] |
検査目的 |
頻度
[単位:%] |
Horloskerら(22)
米国 |
1981〜1984 |
10 |
副甲状腺機能亢進症 |
46 |
Starkら(23)
米国 |
1981〜1982 |
10 |
副甲状腺機能亢進症 |
40 |
Carrollら(21)
米国 |
1981 |
7.5 |
頸動脈 |
13 |
Ezzatら(24)
米国 |
1993 |
10 |
前向き研究 |
67 |
Branberら(25)
フィンランド |
1989〜1990 |
7.5 |
前向き研究 |
27 |
Woestynら(26)
ベルギー |
1984〜1985 |
5.5 |
前向き研究 |
19 |
Tomimoriら(27)
ブラジル |
1995 |
7.5 |
前向き研究 |
17 |
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我々はまだ、このような触診不能な甲状腺結節の患者がどのような経過を辿るのかについての知識を持たない。
Mortensenらの研究では、病理解剖をして見つかる甲状腺結節はほとんどが、良性で癌はたったの4.2%であったと報告している。Hermansonらは病理解剖で甲状腺結節のある200人で25人(12.5%)に癌がみられた。
KomorowskiとHansonは病理解剖で、甲状腺疾患のない138人のうち甲状腺癌はたったの3%にみられただけだと報告している。Horlockerらは副甲状腺疾患で手術をした689人のうち14人(2%)でのみ偶然に癌がみられたに過ぎない。これらのうちわけは平均直径3cmの触診可能なもの6例、超音波でしか分からない平均直径1cmのもの7例、超音波でも発見できない偶発癌1例であった。Branderらの研究でアトランダムに選んだ30例の甲状腺インシデンタローマに対して穿刺吸引細胞診を施行し、癌は一人もいなかったという事実からも、甲状腺インシデンタローマの癌の危険性は極めて低いことが想像される。病理解剖で発見される甲状腺癌の頻度は米国では、0.45%から13%で平均3.9%〜4.1%と推定される。同様の頻度は、米国以外の国でも観察される。しかし、長崎、広島、仙台に住む日本人とハワイに住む日本人の病理解剖で発見される甲状腺癌の頻度は18.9%〜28.4%である。
それらの癌はほとんどが乳頭癌であった。FukunagaとYataniの研究では、病理解剖で発見される甲状腺癌67例のうち、66例が乳頭癌であった。病理解剖で発見される甲状腺癌の患者の年齢は40歳から70歳が多い。性差は認められない。SampsonらはMinnesotaと日本の甲状腺癌の頻度を比較し、差がないことを報告している。また、その研究では、年令、性、放射線被爆などとも関連がないことがわかった。
以上の研究結果、特に広島とハワイに住む日本人で甲状腺の頻度に差がなかったことより、病理解剖で発見される甲状腺癌の頻度を調べる場合、遺伝的、社会的、文化的要因を含んだ地域的な差を考慮に入れるべきである。上半身への放射線被爆の既往は甲状腺結節の発生の危険性を増すと言われている。多くの研究から、甲状腺癌の危険が増すことも分かっている。Deaconsonらの前向き研究(prospective
study)では、放射線被爆の既往があり甲状腺結節の手術を受けた2118人のうち甲状腺癌の頻度は50%を超えていた。それらのほとんどは乳頭癌であった。
ほかの研究でも、首への放射線被爆の既往のある甲状腺結節の癌の頻度は32%から57%である。甲状腺乳頭癌は進行が緩やかで予後が大変良い。病理解剖で発見される甲状腺癌のほとんどは乳頭癌であり、おとなしい癌なので、保存的治療が望ましい。日本人の病理解剖で発見される甲状腺癌の高い頻度にもかかわらず、甲状腺癌による死亡率は驚く程低い。 |
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無自覚の甲状腺結節はほとんどが良性であることはよく知られた事実である。Kumaらは、無治療の甲状腺結節の長期予後について報告している。穿刺吸引細胞診で良性と診断された134人の甲状腺結節の患者を9〜11年間フォローしたところ、ほとんどの甲状腺結節は良性のままであった。良性と考えられていたが、経過中に腫瘍が増大してきたために、手術した患者が1人(0.7%)だけいた。結局、この患者は乳頭癌であった。この研究から分かることは、良性甲状腺結節は長期間、良性のままであるということである。ゆえに、我々は、無治療で経過をみていても甲状腺インシデンタローマと触診にて触れる良性甲状腺結節の長期予後は同じであると推測する。 |