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50歳以上で甲状腺疾患の疑いはないが、症状のある女性では甲状腺異能検査のスクリーニングを行うことは理にかなっている。推奨される検査は高感度TSH測定である。フリーT4検査は高感度TSH測定で感度以下か10mU/L以上の場合に行う。高感度TSH測定で感度以下でフリーT4高値なら顕性甲状腺機能亢進症である。高感度TSH測定で10mU/L以上でフリーT4低値なら顕性甲状腺機能低下症である。この2つの状態の患者は治療により症状が改善する。
大変よくデザインされたprospective studyでは甲状腺異能検査のスクリーニングを行うことで、50歳以上で甲状腺疾患の疑いがない女性のうち、顕性甲状腺機能亢進症または顕性甲状腺機能低下症の見つかる率は71人中1人だけである[3.3]。50歳以下の女性や全ての年令の男性では症状のある顕性甲状腺機能異常の見つかる率が非常に低いので、このグループの人達に対しての甲状腺異能検査のスクリーニングを行うことは、正当化されない[3.4]。 |
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持続する潜在性甲状腺機能亢進症を持っている患者がスクリーニングで見つかって治療した場合、利益はあるのかどうかについての研究はない。潜在性甲状腺機能亢進症が持続すると、心房細動や骨粗鬆症の危険が増す。甲状腺腫、甲状腺結節、バセドウ病の眼症状、振戦などの比較的特異的な症状のある患者は治療の必要があるかどうかを内分泌科の専門医に紹介すべきである。臨床症状のない患者は健康であるので、彼らに対しての治療についてははっきりした結論は出ていない。将来出てくる可能性のある合併症を予知するのに良い指標を探し出すことはこの状態の患者を管理していく上で重要である。 |
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潜在性甲状腺機能低下症に対する治療が良いのかどうかを判断するには、情報があまりにも少ない。潜在性甲状腺機能低下症の起こりうる合併症は高コレステロール血症などの可逆的な症状や顕性甲状腺機能低下症への進展である。今までに行われた、症状を軽減するための治療に関するrandomized
studyの結果は一致したものではない。
そして、脂質に対する治療効果を判断しようにも、これらの研究では対象患者があまりにも少なく、統計学的に有意差を検定できない[5.9-5.17]。一見健康と思われる患者の甲状腺機能検査のスクリーニングを行い甲状腺機能異常患者を見つけ出し、かれらに対しての治療が有効かどうかをはっきりさせるために、もっと多数の患者を対象とした良くデザインされたrandomized
studyが必要である。
潜在性甲状腺機能低下症の患者の中で、血中TSH値が10mU/L以上に増加している50歳以上の女性が合併症の危険率が一番高い。血中TSH値が10mU/L以上に増加している50歳以上の女性では、治療か経過観察が正当化される。一つのやり方としては、甲状腺機能低下症によると思われる症状を持つ患者を治療してみる。しかし、その治療でたったの4人に1人しか利益を得ないこと、症状が治療によっても改善しないときには治療を中止するかどうかを判断するために経過観察による評価が必要であることを理解しておくことが、重要である。対象の少ない、時としてはコントロールもないような研究の結果では、血中TSH値が10mU/L以上に増加しており、血中コレステロール値が240mg/dl以上の女性ではサイロキシン(T4:日本ではチラージンS)を投与すると血中コレステロール値が8%低下したと報告している[5.31]。血中TSH値が10mU/L以上に増加しており、血中コレステロール値が240mg/dl以上の女性に対してはサイロキシン投与による研究をしても正当化される。潜在性甲状腺機能低下症を治療することで顕性甲状腺機能低下症への進展を予防できるかどかは不明である。しかしながら、高い率で顕性甲状腺機能低下症への進展が起こっていると信じている内科医は血中TSH値が10mU/L以上に増加している全ての患者にサイロキシンを投与することを望むかもしれない。
血中TSH値が6mU/L〜9mU/Lと軽度増加しているだけの若い女性、全ての年令の男性では合併症の危険率は低い[5.6,
5.21-5.24]。これらのグループでは、治療によって症状の改善があるのかないのかについてほとんど研究がなされていない。スクリーニングにより見つかった患者の多数を対象とした治療の有効性を検討したcontrolled
studyのみがこの疑問を解決してくれる。これらの患者に対してサイロキシンによる治療を一般的なものにする前に、生活の質、治療への反応、副作用の出現率などを検討すべきである。
血中TSH値が軽度増加しているだけの患者は医師に十分な説明を求めるべきである。異常検査結果に対して対応を間違ったときの法的および倫理的な重大性に関する懸念が一方にあり、また目的を絞った経過観察や治療の有益性がはっきりしていないことなどもあり、一部の医師は全く甲状腺機能検査のスクリーニングを行わない。このジレンマに対する明確な答えはないが、医師は選択されたより症状を有する患者に対して治療の試みや治療しない患者の厳重な経過観察プランを考慮すべきであろう。経過観察は病歴を聞くこと、診察、甲状腺ホルモン検査を定期的にすることである。どれくらいの間隔で定期検査をするかは決まっていない。血中TSH値が軽度増加しているだけの患者はスクリーニングで発見されてから2年以内には病気が進展することは希なので、1〜2年毎の検査は多分必要ないでしょう。この観察結果から、2〜5年の間隔で検査するのが、適当であろう。 |
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経済的にスクリーニングの負担を軽くするために、検査室、クリニックなどは、スクリーニングをする患者の年令、性などの取り決めを作成して、一回の採血で済むようにすべきである。特に、クリニックでは症状を有するが臨床的には見逃されていた甲状腺機能異常症患者の経過をしっかり診るべきである。これらの患者は最も明確な治療効果が期待できるのである。血中TSH高値と血中T4低値または血中TSH低値と血中T4高値を示すこれらの患者は検査により見つかり、彼らは特別に経過を診ていくわけである。患者を見つけて経過を診ていくやり方の取り決めはスクリーニングプログラムの一部であるべきである。出版された論文ではスクリーニングを受けるのに適した人達やフォロー、治療の必要な患者を選ぶのに有効で信頼おける方法を用いた注意深く組織化されたプログラムについて記載している。無効ででたらめなスクリーニングやスクリーニングテストに対する不適切で不十分な反応は実際の臨床でのスクリーニングの有効性を阻害する。今までに出版された結果は、組織化され体系化された患者を見つけ出しフォローするアプローチを用いる健康管理に一番よく適用される。 |