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バセドウ病を持つ母親では、胎児や新生児がTSHレセプター抗体と抗甲状腺剤で甲状腺機能亢進症にも甲状腺機能低下症にもなることがある。母親と胎児のTSHレセプター抗体(TBII)はきれいな相関関係にある【図1】。母親のPTU濃度と胎児のPTU濃度も良い相関があります【図2】。従って、妊娠中どれくらいの期間、抗甲状腺剤を続けているかということとは無関係に、胎児と母親のフリーT4はきれいに相関する【図3】。胎児と母親のフリーT4に対する甲状腺ホルモン抑制効果はPTUとメルカゾールでほとんど差がない(8,9)。
母親にとって最適量の抗甲状腺剤は胎児にとっては効きすぎになることが問題である(8,9)。一般的な考えとしては、甲状腺機能を正常に保たなければならないのは、母親ではなく、胎児である。この考えは、正常甲状腺ホルモンレベルは脳の正常な発育に必須であるという仮定に基づいている。にもかかわらず、先天性甲状腺機能低下症の神経精神的な予後に関する最近の研究では、生後の甲状腺機能低下症の期間が短ければ、幼児は知的にも普通通りに発達することが示されている(10,11)。もし、知的障害が起こることがあれば、それは重症の甲状腺機能低下症においてのみである。故に、我々は、出産までフリーT4を正常に保つように抗甲状腺剤を服用していた母親から生まれた赤ちゃんが、どの程度そしてどれくらいの期間甲状腺機能が抑制されているのかを調べた。【図4】はメルカゾールかPTUを服用していて出産時に正常血清フリーT4値であった77人の母親の臍帯血のフリーT4とTSHを示しています。フリーT4低値を示す赤ちゃんの頻度は6.5%、TSH高値を示す赤ちゃんの頻度は16.9%である;最も低いフリーT4値は0.5ng/dl、最も高いTSH値は76mU/Lであった。出産時、フリーT4値とTSH値が正常であった新生児のうちの一人で、産後4〜5日に行った先天性甲状腺機能低下症のスクリーニングでTSH値高値を指摘された。しかし、彼は産後2週間してからの再検にてTSH値は正常になっていた。出産時、フリーT4低値とTSH高値もしくはTSH高値のみを示していた新生児のうち、スクリーニングテストで異常TSH値を示した子は一人もいなかった。妊娠中の一時期かもしくはずっと抗甲状腺剤を服用していた母親で出産時様々な甲状腺機能の母親から生まれた赤ちゃんの知的発育に関する研究は今までに4つみられる(12-15)。それらの研究で、知的障害を起こした子は一人もいない。
母親の軽度の甲状腺機能亢進症は妊娠にとって悪影響は与えないと信じられている。しかし、我々が、抗甲状腺剤で治療中であるバセドウ病妊婦の妊娠中毒症について調べたところ、出産時にフリーT4が2ng/dl以上(正常
0.6〜1.21ng/dl)の母親の1/4で妊娠中毒症になっていた。フリーT4値が正常な例でさえ、一般的な日本人妊婦と比べて糖尿の頻度が高い。これらの妊婦の38%はフリーT3値が高い。
これらの事実は、甲状腺機能亢進症の治療が遅れてコントロール不十分な場合や母親が妊娠中毒症や糖尿病のリスクを持っている場合には、母親のフリーT4値を正常に保つことの方が、新生児の一過性甲状腺機能低下症より望ましいことを示している。抗甲状腺剤に対する感受性には個人差があるので、出産時にフリーT4値が低い新生児は甲状腺機能の経過をしっかりみるべきである(16)。しばらくしても、フリーT4値が回復しないときには、甲状腺ホルモン剤を開始すべきである。 |
甲状腺機能正常な母親における新生児甲状腺機能亢進症 |
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バセドウ病に対して手術やアイソトープ治療を受けた後に寛解期に入っている母親でも、母親が甲状腺機能亢進症を引き起こすのに十分な甲状腺刺激型のTSHレセプター抗体を持っている場合には、たまに胎児は甲状腺機能亢進症にかかることがある。事実、重症の甲状腺機能亢進症にかかっている胎児もしくは新生児の母親は、バセドウ病に対して手術かアイソトープ治療を受けている既往がある。胎児は子宮内にいるときに抗甲状腺剤で治療を受けないために、この状態での甲状腺機能亢進症はときたま重症化することがある。さらに、母親のフリーT4値は胎児の甲状腺機能の指標としては役に立たないので、胎児を治療するのがときどき困難なことがある。胎児の心拍数が160/分以上の場合は、胎児甲状腺機能亢進症と見なされ、通常、母親に抗甲状腺剤を投与することで胎児を治療する(17,18)。抗甲状腺剤による母親の甲状腺機能低下症を防ぐために甲状腺ホルモン剤を母親に投与する。問題は、抗甲状腺剤の過剰投与による胎児の甲状腺機能低下症の指標として、胎児の心拍数は役に立たないことである。我々は、抗甲状腺剤を使用する代わりに副作用のないヨード剤を、まず使用する。従来、胎児の甲状腺機能を抑制する可能性があるためにヨードはバセドウ病妊婦の治療には使用されなかったが、実際には胎児にとっては抗甲状腺剤よりヨードの方が、甲状腺機能低下症のリスクが低いことが分かった(19)。1995年までに、我々は、バセドウ病の手術やアイソトープ治療後に甲状腺機能が正常もしくは低下している母親で、7人の胎児甲状腺機能亢進症の治療を行った。出産時に甲状腺機能低下症になっていた新生児は一人もいなかった。そのうちの4人ではフリーT4値が若干高値であったが、残り3人ではフリーT4値は正常であった。産後、7人全員でフリーT4値が明らかに高値になった。7人中3人はヨード剤もしくは抗甲状腺剤の治療を要した。これらの結果から、妊娠中のヨード剤の有効性が示唆される。【図5】に、その7例の一例を示す。母親は妊娠の17ヶ月前にバセドウ病に対して、手術を受けている。手術後、甲状腺機能は正常を保っていたが、しかし彼女は妊娠中ずっとTBIIとTSAb(甲状腺刺激抗体)が強陽性であった。胎児の心拍数は妊娠32週で160/分であり、ヨード6mg/日とチラーヂンS(50)2錠/日の投与を開始した。胎児の心拍数はすぐに132/分に減少した。出産時、フリーT4は若干高めで(2.54ng/dl;正常0.9〜1.48)、TSHは少し低めであった(0.23mU/L;正常2.5〜19.4)。赤ちゃんは、甲状腺機能亢進症の症状はほとんど見られなかった。ヨードは症例によっては、甲状腺機能亢進症をコントロールできないこともあるし、その効果は一過性のこともあるので、胎児の心拍数が減少しないときや一旦減少していたのが増加してきたときは抗甲状腺剤を追加することが重要である。 |
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