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甲状腺の自己免疫性は家族性である。慢性自己免疫性甲状腺炎患者の1等親の50%までに甲状腺抗体があるが、これは明らかに優性素質として遺伝したものである(34,35)。バセドウ病あるいは慢性自己免疫性甲状腺炎がこの抗体を持つ親族に生じる恐れがある(36,37)。白人で行われた初期の研究では、HLA-B8、DR3ハプロタイプが萎縮性自己免疫性甲状腺炎に関係し、HLA-DR5が甲状腺腫性自己免疫性甲状腺炎に関わっており、これら2つの疾患はそれぞれ別の原因で起こることが示唆されている(10)。日本人では、HLA-DR2またはHLA-DQ1が保護的であるように見える(38,39)。しかし、これらの関連性は弱く、常に再現性があるとは限らない。さらに、特異的なHLA遺伝子座が甲状腺自己免疫抗体あるいは家族内の疾患発現に伴なって分離できないことも多く(36,40)、ダウン症候群患者(16〜28%)や家族性アルツハイマー病患者(42)に甲状腺自己免疫性の発生頻度が高いことから、染色体21が注目された。しかし、ターナー症候群患者の最大50%、特にX同位染色体を持つ者にも自己免疫性甲状腺疾患がある(43)。 |
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慢性自己免疫性甲状腺炎の罹患率はヨード摂取量と相関し、アメリカや日本のようなヨード摂取量がもっとも高い国で罹患率が最大である(44)。ヨードが足りない地域ではヨードを補うことで甲状腺のリンパ球浸潤の発生率が3倍に増え(45)、そのような地域では甲状腺抗体の血清検査が陽性になる率も0.5から5年以内に40%上がる(46)。十分なヨードがある地域では、それ以上にヨードを補うことで可逆性の甲状腺機能低下症を誘発することがある。しかし、ヨードは甲状腺自己抗体のある人にもない人にも甲状腺ホルモン分泌を減少させる。これはヨードが甲状腺の自己免疫性を増大させるというよりむしろ甲状腺ホルモンの生合成と放出を阻害するように働くことを示唆するものである(47,48)。慢性自己免疫性甲状腺炎を持つ甲状腺機能正常の患者は、過剰なヨードが甲状腺ホルモン生合成に及ぼす阻害効果(Wolff-Chaikoff効果)を甲状腺がどうしても受けてしまうためにヨードの抗甲状腺効果に弱いことが予測される(49)。アミオダロンは半減期が長く、ヨード含有量が高い(重量の35%)ためにヨード誘発性甲状腺機能低下症の原因としては多いものである。アミオダロン誘発性甲状腺機能低下症は通常、治療開始から18ヶ月以内に起こり、抗甲状腺抗体を持たない患者に比べ抗体のある患者には発病の可能性が7倍高い(50)。
甲状腺機能低下症、それは一過性のことが多いが、リチウムで治療を受けている患者の最高3分の1に生じ、抗甲状腺抗体のない患者に比べ、抗体のある患者の方に多い(51,52)。ヨードがそうであるように、この状態はリチウムが甲状腺ホルモン放出に及ぼす直接的な影響を示しているものと思われる。しかし、甲状腺自己抗体は正常な人よりもリチウムで治療を受けた患者に高い割合で見つかるのである(24%対12%)(52)。
甲状腺自己抗体、甲状腺機能低下症、あるいはもっと少ないがバセドウ病または一過性甲状腺機能亢進症が癌や骨髄増殖性症候群、または脊髄形成異常症患者、あるいはインターフェロンアルファで治療を受けている慢性ウィルス性肝炎患者に発症することがある(53-55)。抗体はインターフェロンアルファで治療を受けている患者の最高20%に見つかり、そのうち約5%に臨床的な甲状腺機能低下症が生じる(53,55,56)。どちらの影響も治療を中止すると通常は元に戻る。インターフェロン-2または顆粒球-マクロファージコロニー刺激ファクター(GM-CSF)による治療にも同じような影響がある(57,58)。治療前に甲状腺抗体のあった患者には治療中に甲状腺機能障害を起こしてくる可能性が高い(59)。これとは対照的に、インターフェロンガンマによる治療では本疾患の病因に役割を果たしていると思われるにも関わらず、慢性自己免疫性甲状腺炎を誘発することはない(60)。 |
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