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甲状腺癌患者のフォローアップ[論説]
Robert D. Utiger, M.D.
N Engl J Med 1997; 337: 928-930

アメリカでは毎年新しく約14,000例の甲状腺癌の症例が発生するが、そのほぼ90%は分化型癌−乳頭状癌と濾胞性癌である。そして死亡者は約1,100名である(1)。したがって、フォローアップを必要とする患者の数は増える一方であり、また診断時の平均年齢が40歳であること、その後数十年間はいつ再発してもおかしくないことから、フォローアップの期間はどうしても長くなる。さらに、国立癌研究所が発表した最近の研究では、1950年代から1960年代にかけてアメリカ西部で行なわれた核実験により生じた放射性ヨード摂取が原因で、症例数がわずかに増えてくることが示唆されている(2)

甲状腺癌患者の予後は患者や疾患、および治療に関連したファクターに影響される。好ましい患者の疾患−関連ファクターは、患者の年齢が若いこと、組織学的に分化度の高い原発性腫瘍で小さいものであること、また腫瘍が甲状腺内あるいは少なくとも頸部に限られていることである(3-5)。したがって治療に関連する予後ファクターは変わりうるものであるが、最初の手術の範囲、その後患者が放射性ヨード治療や甲状腺ホルモン治療を受けたかどうかである。実際に行なうことが無理であるため、無作為治験が行なわれていないにもかかわらず、ほとんどの患者にとって最良の手術はほぼ完全に甲状腺を切除すること、すなわち腫瘍のある側の葉を完全に取ってしまい、反対側の葉もほぼ全部取ってしまうことである(3,4)

ほぼ完全な甲状腺切除を受けた患者のほとんどで、残存した甲状腺組織を放射性ヨードスキャンで確認できる。この検査は手術後ルーチンに行なわねばならず、残存した甲状腺組織があればすべて放射性ヨードで破壊しなければならない。この理由は4つある。まず、残存甲状腺組織の中に顕微鏡的な癌病巣があれば、隣接する甲状腺組織から放射能を浴びるため、破壊されるということである。2番目に、万一癌が再発したら、ヨードをより貪欲に取り込む正常な甲状腺組織がないので、放射性ヨードスキャンニングで見つかる可能性が高いということである。3番目に、残存甲状腺組織以外に癌があれば、見つけて治療できる可能性があるということである。4番目に、正常な甲状腺組織がすべて破壊された場合、血清サイログロブリンが癌再発のよいマーカーとなるということである。

残存甲状腺組織を破壊する価値については過去に論争があったが、今ではそれにより再発率が減少し、生存率が上がることがはっきり証明されている(6)

残存甲状腺組織の破壊に必要な放射性ヨードの線量については議論があるが、アメリカでは入院させずに投与できる最大線量は29mCi(1,073MBq)とされており、これより高い線量と効果は変わらないように思われる(7)。その後、血清TSHの濃度を正常値以下に抑え、かつ甲状腺機能低下症が起きない程度の用量で甲状腺ホルモン治療が開始される。残存甲状腺組織が破壊され、残存甲状腺組織以外に放射性ヨードの取り込みがないかを確かめるため、6ヶ月から12ヶ月後にもう1度甲状腺スキャンを行なうことが多いが、私はリスクの低い患者に対してはその必要性を疑っている。

フォローアップでは定期的な検診と血清TSHの測定を行い、TSHの分泌が抑制されていることを確かめ、また癌の再発を知るために血清サイログロブリンの測定を行なうようにしなければならない。ほぼすべての分化型甲状腺癌がサイログロブリンを分泌する。したがって正常な甲状腺組織を手術で取り除いた後、または放射性ヨードで破壊した後に血清サイログロブリン濃度が1リットルあたり約2から3μgを超えた場合は、ほぼ癌の再発があると見て間違いない(8)。頸部の超音波画像診断や胸部レントゲン写真撮影はもっと簡単な検査で、癌の再発がうかがえる場合は行なってよい。

フォローアップ中に、血清サイログロブリン濃度の増加やそれ以外の再発を証拠立てる所見がない場合は、それ以上放射性ヨードスキャンは必要ない。放射性ヨードスキャンは、患者の血清TSH濃度が高い場合にのみ使えるという制限があることである。このため、甲状腺組織による放射性ヨード取り込みを刺激する必要がある。これは手術の後実施される最初のスキャンではそのとおりであるし、放射性ヨード治療後に実施されるそれ以降のどのスキャンにはなおさら必要なことである。今まで、甲状腺ホルモン治療を中止しなければ、血清TSH濃度を上げることができなかった。これは患者が数週間甲状腺機能低下症になるということである。

遺伝子組み換えヒトTSHが利用できるようになったことで、以前甲状腺癌に罹った患者の放射性ヨードスキャンのために甲状腺ホルモン剤を中止しなくてすむ方法が使えるようになった。患者は甲状腺ホルモン剤を飲み、甲状腺正常状態を保ったままで、血清TSH濃度を必要なだけ、また必要な期間だけ上げることができるのである。

甲状腺の残存組織、あるいは甲状腺癌は、数日間の外性TSH投与による刺激後に行なった放射性ヨードスキャンで、甲状腺ホルモン剤を中止した後の内性TSHによる刺激後に実施したものと同じ程度に検知できるのであろうか。このジャーナルの本号に載っているLadenson et al.(9)の試験では、大抵の場合同じであるが、2つの方法の結果が異なる場合は、甲状腺ホルモン剤中止後に撮ったスキャンの方に放射性ヨード集積部位が見つかる可能性が高いことが示唆されている。甲状腺癌に罹っていた127名の患者のうち、彼等の多くはすでに放射性ヨード治療を受けていたが、65名はどちらのスキャンでも取り込みが見つからず(陰性の結果)、41名はどちらのスキャンにも取り込みが見つかった(陽性の結果)。これらの患者のケアがスキャンを行なった方法に影響されることはなかった。残り21名の患者のうち、18名は甲状腺ホルモン剤中止後に撮ったスキャンでは陽性であったが、TSH投与後に撮ったものでは陰性であった。また3名ではその反対であった。これらの患者のケアはこの結果に影響を受けた。なぜなら、もっと高い線量で放射能取り込み部位を破壊するため、放射性ヨード取り込み部位を確認するスキャンが行なわれたからである。

甲状腺ホルモン剤中止後のスキャンで陽性が出やすい理由はいくつかある。放射性ヨード投与時の血清TSH濃度(平均値、1リットルあたり132と101mU)が同じくらいであったとしても、TSHの刺激期間が長いこと;放射性ヨードの腎クリアランスが低いこと;無機ヨードの血清濃度が低いこと(脱ヨード化される甲状腺ホルモンがないため。ほとんどの甲状腺ホルモンは脱ヨード化される);食餌からのヨード摂取量が低いことなどである。

まず、患者に明らかな放射性ヨードスキャンの適応症があるという前提があれば、−甲状腺残存組織の検知または患者の血清サイログロブリン濃度が高い場合(あるいは他に癌の再発を示す証拠がある場合)−甲状腺ホルモン剤中止後に放射性ヨードスキャンを実施すべきである。甲状腺ホルモン剤による治療の中止を拒む患者では、代わりにTSH投与後にスキャンを実施することが理にかなっている。TSHの投与方法を変えることで、この2タイプのスキャンの結果の差を小さくすることができるのではないかと思われる。

甲状腺癌患者の進行に影響するファクターのうち、甲状腺ホルモン療法がもっとも明確にされている。甲状腺癌にはTSHレセプターがあり、これらのレセプターを活性化すると細胞の増殖が促がされる。したがって、血清TSH濃度が高い患者の予後は不良である。もちろん、患者には甲状腺機能低下症の治療も必要である。はっきりしないのは、TSHを正常値以下のどの程度まで抑制するべきかということであるが、抑制すればするほどよいということを示す証拠もある(10)。この代償は甲状腺機能亢進症である。実際的な解決法は、リスクの低い腫瘍のある患者に対しては正常範囲をわずかに下回る程度の血清TSH濃度になるような量の甲状腺ホルモン剤を投与することであるが、もっとリスクの高い腫瘍のある患者にはより高い用量を投与することとなる。

甲状腺癌患者のケアは昔に比べ、今ではより効果的で簡単なものとなった。患者がほぼ完全な甲状腺切除、甲状腺残存組織の放射性ヨードによる破壊、および甲状腺ホルモン剤による治療を受ければ、再発率は低い(3,4)。血清サイログロブリンの測定は、腫瘍の再発の検出や治療効果の評価には感度の高い、特異的な検査である。したがって、頻繁にスキャンを繰り返す必要はないはずである。もし必要ならば、古い方法−甲状腺ホルモン剤中止後のスキャン−がまだよいように思われる。

参考文献]・[もどる