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ボックス3

ボックス3:バセドウ病眼症の予防

第一の予防は、バセドウ病眼症を引き起こす危険因子を排除することに向けられる。喫煙はそのような危険因子の一つである。眼症状のないバセドウ病における喫煙のオッズ比<注釈:オッズ比が大きいほど関連があることを示しています。統計学的な手法です>は1.9(95%信頼域、1.1〜2.7)であるが、バセドウ病眼症における喫煙のオッズ比は高い(オッズ比7.7;95%信頼域、4.3〜13.7)である(a)。喫煙とバセドウ病眼症の間には、タバコの本数が関連している:喫煙者では、タバコを一日1〜10本吸っている場合、複視の相対的危険度は1.8(95%信頼域、0.8〜4.3)、タバコを一日11〜20本吸っている場合、複視の相対的危険度は3.8(95%信頼域、1.9〜7.7)、タバコを一日20本以上吸っている場合、複視の相対的危険度は7.0(95%信頼域、3.0〜16.5)である(b)。以前、一日20本以上タバコを吸っていた場合には、複視の相対的危険度は1.9(95%信頼域、0.5 〜7.7)である。ヘビースモーカーが禁煙したら、複視の相対的危険度が減るという事実は、バセドウ病眼症は禁煙によって予防できることの証明になる。

2番目の予防は、無症状のバセドウ病眼症の早期発見に向けられる。早期診断ができれば、治療を行うことによりバセドウ病眼症の進行を防ぐことができる。しかし、無症状のバセドウ病眼症を診断できる血液検査は今のところ見つかっていない。我々は、明らかな眼症状のみられないバセドウ病眼症患者でも、すでに外眼筋の肥厚がみられていることやバセドウ病眼症患者の41%は甲状腺機能亢進症が発症した後に眼症状が出現することを知っている。このような患者は、甲状腺機能亢進症の治療をすることで、眼症に対しては改善をもたらす。事実、抗甲状腺剤で甲状腺機能を正常にすると眼症状が良くなることはよく経験される(c)。抗甲状腺剤や手術はバセドウ病眼症の自然経過に影響は与えない。しかし、放射性ヨード治療はバセドウ病眼症の悪化や発症にわずかであるが影響を与えるが、幸いにもほとんどの場合は、それは一過性である(d,e)。この放射性ヨード治療の悪影響は、喫煙者である場合、治療前のT3値が5nmol/L以上の場合、血清TSHレセプター抗体高値例の場合、すでに眼症状の存在している場合に起こりやすい(f)。そのような患者では、副腎皮質ホルモン剤を併用することで、バセドウ病眼症の悪化や発症を予防できる。禁煙をすることで、バセドウ病の再発の危険性を減らす。禁煙により、バセドウ病眼症になる危険性も減らす。

3番目の予防は、眼症状が出現した後、それ以上悪化しないための処置に向けられる。睡眠時に眼を保護するガーゼ、人工涙液などの処置をすることで、角膜炎の危険性を減らす。副腎皮質ホルモン剤と球後照射の併用療法の有効率は、喫煙者では68%であるが、非喫煙者では92%である(h)。バセドウ病眼症の症状がある場合でも、禁煙をすることで症状の改善がみられる。
参考文献
(a) Prummel M.F. and Wiersinga W.M. (1993) Smoking and risk of Graves' disease. JAMA, 269: 479-482.
(b) Pfeilschifter J. and Ziegler R. (1996) Smoking and endocrine ophthalmopathy: impact of smoking severity and current vs lifetime cigarette consumption. Clin. Endocrinol., 45: 477-481.
(c) Prummel M.F. et al. (1989) Amelioration of eye changes of Graves' ophthalmopathy by achieving euthyroidism. Acta Endocrinol, 121:Suppl. 2: 185-189.
(d) Marcocci C. et al. (1999) The course of Graves' ophthalmopathy is not influenced by near-total thyroidectomy: a case-control study. Clin. Endocrinol. (Oxf.), 51: 503-508.
(e) Bartalena L. et al. (1998) Relation between therapy for hyperthyroidism and the course of Graves' ophthalmopathy. N. Engl. J. Med., 338: 73-78.
(f) Wiersinga W.M. (1998) Preventing Graves' ophthalmopathy. N. Engl. J. Med., 338:121-122.
(g) Glinoer D. et al. (2001) Effects of l-thyroxine administration, TSH-receptor antibodies and smoking on the risk of recurrence in Graves' hyperthyroidism treated with antithyroid drugs. Eur. J. Endocrinol., 144: 475-483.
(h) Bartalena L. et al. (1998) Cigarette smoking and treatment outcomes in Graves' ophthalmopathy. Ann. Intern. Med., 129: 632-635.

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