別府・野口病院のグループは、Thyroid(Kashima K et al., 8; 197-202, 1998)に「慢性甲状腺炎は乳頭癌の予後を良くする因子である」という研究報告をしました。
彼らは、慢性甲状腺炎がある乳頭癌281例と慢性甲状腺炎がない乳頭癌1252例を、手術後の再発率、生存率で比較しました。ふたつのグループで年令に差はありませんでした。慢性甲状腺炎がない乳頭癌1252例のうち62例(5.0%)は、遠隔転移のために死亡しました。このグループの転移のない人の10年生存率は85%でした。一方、慢性甲状腺炎がある乳頭癌281例のうちたった2例(<1.0%)が遠隔転移のために死亡したのみでした。このグループの転移のない人の10年生存率は95%でした。
慢性甲状腺炎と乳頭癌の生存率についての研究が今までに5つ報告されています。そのうちの4つの研究では、慢性甲状腺炎がある場合に生存率が高くなるという結果が出ています。何故、慢性甲状腺炎があると乳頭癌の予後が良くなるのか理由は分かっていません。慢性甲状腺炎のときみられるリンパ球が乳頭癌に対して保護的な働きをしているのかもしれません。今後の研究に期待しましょう。どちらにしろ、慢性甲状腺炎の人が乳頭癌になった場合には、予後が大変良いという事実はありそうです。 |