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[046]2003年1月28日
[046]
単発性甲状腺結節に対するサイロキシンによるTSH抑制療法
田尻クリニック / 田尻淳一
良性甲状腺結節に対するサイロキシン(甲状腺ホルモン剤:チラーヂンS)によるTSH抑制療法の有効性については、賛否両論ある。無効であるという意見が優性のように感じる。最近の米国内分泌学会誌(JCEM 87: 4928-4934, 2002)に、フランスで行われた多施設による無作為、二重盲検、偽薬コントロール研究の結果が発表された。無作為、二重盲検、偽薬コントロール研究は、一番信頼性の高い研究方法と考えられています。結論は、「サイロキシンによるTSH抑制療法は単発性甲状腺結節を有意に縮小させる」というものです。

触診で触れる良性甲状腺結節123人に対して、TSHを0.3mU/L以下に抑制する量のサイロキシン(チラーヂンS)を投与する群と偽薬(コントロール群)を投与する群を無作為に振り分け、18ヶ月間投与した。超音波で腫瘍サイズを測定した。

サイロキシンを投与した群(T群)では、コントロール群(C群)に比べて有意に腫瘍の直径(T群: -3.5±7mm, C群: +0.5±6mm, p=0.006)と体積(T群: -0.36±1.71ml, C群: +0.62±3.67ml, p=0.01)が減少した。医学的に有効と判断される体積が50%以下になった症例は、サイロキシンを投与した群(T群)で有意に多かった(T群: 26.6%, C群: 16.9%, p=0.04)。

現在までに、単発性甲状腺結節に対するサイロキシンによるTSH抑制療法に関する無作為、二重盲検、偽薬コントロール研究は、今回の研究をいれて5つある。効果ありとするもの2つ、無効とするもの3つである。何故、このような相反する結果が出るのか分からない。有効と結論付けている論文で、共通しているのは医学的に有効と判断される体積が50%以下になる症例は、約30%前後であることである。わたしの経験でも同じような結果である。触診で触れる良性甲状腺結節に対しては、まずサイロキシンによるTSH抑制療法を1年〜1.5年行ってみるのがいいと思われる。治療中に腫瘍サイズが大きくなってくる場合には手術も考慮する必要がある。
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