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患者さんとの橋渡し【Bridge】
Bridge; Volume 10, No2
09:潜在性甲状腺機能低下症 / C. T. Sawin, M.D.
潜在性甲状腺機能低下症とはどんなものでしょうか?
何か甲状腺に問題のあるほとんどの人―または甲状腺の病気に罹っている他の人を知っている人―は、“甲状腺機能低下症”が甲状腺の機能が落ちていること、あるいは不活発な甲状腺を意味することを知っています。その結果、体の活力が鈍ってきます。これがはっきり現れた時、その人は紛れもない疲労や無力感、筋肉がつる、思考の速度が落ちるなどの症状を訴えるでしょう。発話が遅くなり、声がしゃがれてきたりすることがあり、また思考の速度がのろくなることがあり、顔が多少むくんでくることがあります。しかし、一部の患者では、この甲状腺機能低下症が全然表に出ず、簡単に見逃されてしまいます。これは、特に60歳以上の患者ではほんとうにあることで、そのような人では軽い疲労や便秘、または皮膚の乾燥などが、全部“年のせい”にされてしまうことが非常に多いのです。このような例では、甲状腺機能低下症のための血液検査をしない限り、甲状腺機能低下症を患者も医師も見つけることはできないのが普通です。検査室ではわかるが、医師にはわからない場合、このような甲状腺機能低下症は“潜在性”と呼ばれます。
潜在性甲状腺機能低下症があることが問題になるのですか?
そのとおりです。というのは、治療によって心臓の収縮速度などのある種の体の機能が改善されることがあり、また患者の気分がよくなることもあるのです。治療ですべてよくなるというわけではありませんが、それはやって見なければわかりません。
潜在性甲状腺機能低下症があるかどうかどうやってわかるのですか?
唯一の方法は血液検査です。いちばんよい検査法は、血液中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度を測ることです。甲状腺の機能が落ち始めると、たとえほんのわずかでも、脳下垂体は血液中のTSHを上げることにより反応します。したがって、TSHの値が高いことは甲状腺機能低下症を意味するのです。脳下垂体は甲状腺ホルモンレベルの変化にきわめて敏感であるため、わずかな減少に対しても脳下垂体からより多くのTSHの放出が起こります。潜在性甲状腺機能低下症では、主要な甲状腺ホルモンであるサイロキシンまたはT4の血中レベルがまだ正常範囲内であるため、これは重要なことです。したがって、TSHレベルの上昇がごく軽い甲状腺機能障害の存在を知る唯一の手がかりです。
どのような人が検査を受けなければなりませんか?
時たま疲れを感じる人を皆検査するのは道理に合わないことでしょう(誰でも時々疲れを感じますが、甲状腺機能低下症の人はごくわずかです)。60歳以下の人では、甲状腺の機能不全はそれほど多くありません。甲状腺機能低下症になる素質がある人で、はっきりしない症状を持つ人を検査することの方が理にかなっています。これには、子供を産んだ後の女性や甲状腺疾患の家族歴のある人、あるいは過去に甲状腺の問題を起こしたことがある人(活動し過ぎの甲状腺、甲状腺腫、または甲状腺の炎症など)が含まれます。また、若年性糖尿病や慢性関節リューマチなどのその他の免疫疾患のある人を検査するのもよい考えです。リチウムやアミオダロンなどのある種の投薬を受けている人も検査を受けるべきです。
60歳以上の年配者では、甲状腺機能低下症、特に潜在性甲状腺機能低下症が高齢者ではより多く見られるため、全員を検査するのが合理的でしょう。1回の検査で、約5%の罹患者が見つかり、男性に比べ女性の方が3から4倍多いのです。潜在性甲状腺機能低下症はこの年代ではさらに診断が難しくなります。それは、その 人が持つどの症状も甲状腺に関係があったり、なかったりすることがあるからです。このいわゆる“スクリーニング”または“症例発掘”アプローチには、60歳以上の人全員を検査するのにたくさん費用がかかるということと、すべての人に明確な効果を示すのが簡単でないことから、少々反論がありますが、治療を受けた人の3分の1から半分にしかある程度の改善が見られないとしても、行う価値はあると思われます。さらに、血液中のTSHが正常であれば、その高齢者が今後数年間は甲状腺機能低下症になることはないと思われるため、その間に何かはっきりした症状がでないかぎり、4〜5年は再検査の必要はないのです。
もし、そうと診断されたら、治療はどうするのですか?
血液中のTSHがごくわずか高い場合、詳しい診察で以前気付かなかった症状が見つからなければ、治療は必要ないと思われます。6ヶ月から8ヶ月の内に再検査するだけで十分でしょう。再検査の度に血液中のTSHの値が高くなっているようであれば、それから治療しても遅くないと思われます。その一方で、TSHが同じレベルに止まっているか、正常に戻るような場合、治療の必要はないでしょう。
血液中のTSHが明らかに高い場合、治療は甲状腺機能低下症の人に対するものと同じです。サイロキシン錠<注釈:日本ではチラージンS>の形で、サイロキシンの補充を行います。高齢者では、最初の投与量は少なく、普通25から50マイクログラムです。もっと若い人では、最初の投与量はもっと多く、普通1日あたり50から100マイクログラムです。この最初のレベルの治療を行なってから1ヶ月かそこらで、最初に高すぎた血液中のTSHレベルが正常に下がり始めるはずです。TSHレベルが完全に正常値まで下がれば、その後のサイロキシンの投与量はそのまま変えないようにします。 しかし、最初の投与量では、TSHがまだ正常値より高い場合が多く、TSHレベルが正常になるまで1ヶ月か2ヶ月毎にゆっくりと1日あたりの投与量を増やしていきます。
その時点でのサイロキシンの量が適正なものであり、治療をそのレベルで継続します。
どのブランド名のサイロキシンも、実用的な目的に関しては同じであり、患者は名の通ったブランドのサイロキシンで、いちばん安いものを飲むようにします。
治療を数ヶ月行った後、具合がよくなったかどうかを見るために、ほとんどの患者で再び、診察が行われます。よくなる人もいますし、そうでない人もいます。しかし、はっきりと具合がよくなったと感じない人でも、心機能がよくなったり、血液中の脂質の改善(例えば“善玉コレステロール”)が見られたり、あるいはよりはっきりとものを考えられるようになったりしていることがあります。したがって、治療はやってみるだけのことはあります。そして、そのためにも最初に検査を行うことはよい考えだと思われます。
まとめ
自分自身や誰か知り合いに潜在性甲状腺機能低下症があるかもしれないと思ったら、TSHの検査を受けてください。特にあなたが60歳以上の女性であれば、なおさらです。もしそうしなければ、いつも気にかかることになるでしょう。検査をすれば、自分の甲状腺が正常かどうか確実に知ることができます。もし正常でなかったら、治療は直接的なものであり、簡単で、費用もかかりません。
Dr. Clark T. Sawinはマサチュウセッツ州ボストンのVA医療センター内分泌/糖尿病科の医長です。
潜在性甲状腺機能低下症のスクリニーニングについては、次のページを参考にしてください。
━
臨床ガイドライン(Part-1)甲状腺疾患のスクリーニング
━
臨床ガイドライン(Part-2)甲状腺疾患のスクリーニング:最新情報
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