女性は妊娠していることがわかると、夫と共に無事に出産までこぎつけ、できるだけ赤ちゃんが健康であるように願うのが常であります。ほとんどのケースで、よい結果をもたらすことができることはすべて、定期検診や栄養をよくすること、アルコールやタバコ、不必要な薬の服用を避けること、そして糖尿病などの赤ちゃんの健康に悪影響を及ぼすおそれのある病気のスクリーニングを受けることなどを含め、行われているはずです。最近まで、甲状腺に病気があるかをルーチンにチェックすること(スクリーニング)は、典型的な甲状腺機能低下症または機能亢進症の症状がない限り、妊婦では重要なこととは考えられておりませんでした。
医師が妊婦の甲状腺疾患のスクリーニングを行なってこなかったのは、胎児に影響するほどの量の甲状腺ホルモンが胎盤を通過して、母親から胎児に行くことはないと結論づけた古い研究によるものです。その結果、女性の甲状腺が正常に機能していようといまいと赤ちゃんの発育にはほとんど影響はないとも考えられていたのです。1960年代に行われた研究で、甲状腺機能低下症の女性は甲状腺機能が正常な女性に比べ、IQ(知能指数)の低い子供を産む確率が高くなる可能性があるということが示唆されました。しかし、当時は妊婦の甲状腺機能を測るのが難しかったのと甲状腺ホルモンは大して胎盤を通過することはないという考えが一般的であったために、これらの観察は疑う人が大勢いて認められなかったのです。
今では甲状腺ホルモンが胎盤を通過するということがわかっております。さらに、胎盤を通って発育中の胎児に行く母親の甲状腺ホルモンがたとえほんのわずかの量であっても、それはおそらく重大なことと思われます。特に胎児自身の甲状腺が発達する前の妊娠初期の3ヶ月間はそうです。事実、この12週間は赤ちゃんの脳の発達が始まる貴重な期間なのです。 |
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