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患者さんとの橋渡し【Bridge】 Bridge; Volume 14, No4

34:妊娠中の甲状腺機能低下症とそれが赤ちゃんの知的発達に影響する可能性 / David S. Cooper, M.D.

女性は妊娠していることがわかると、夫と共に無事に出産までこぎつけ、できるだけ赤ちゃんが健康であるように願うのが常であります。ほとんどのケースで、よい結果をもたらすことができることはすべて、定期検診や栄養をよくすること、アルコールやタバコ、不必要な薬の服用を避けること、そして糖尿病などの赤ちゃんの健康に悪影響を及ぼすおそれのある病気のスクリーニングを受けることなどを含め、行われているはずです。最近まで、甲状腺に病気があるかをルーチンにチェックすること(スクリーニング)は、典型的な甲状腺機能低下症または機能亢進症の症状がない限り、妊婦では重要なこととは考えられておりませんでした。

医師が妊婦の甲状腺疾患のスクリーニングを行なってこなかったのは、胎児に影響するほどの量の甲状腺ホルモンが胎盤を通過して、母親から胎児に行くことはないと結論づけた古い研究によるものです。その結果、女性の甲状腺が正常に機能していようといまいと赤ちゃんの発育にはほとんど影響はないとも考えられていたのです。1960年代に行われた研究で、甲状腺機能低下症の女性は甲状腺機能が正常な女性に比べ、IQ(知能指数)の低い子供を産む確率が高くなる可能性があるということが示唆されました。しかし、当時は妊婦の甲状腺機能を測るのが難しかったのと甲状腺ホルモンは大して胎盤を通過することはないという考えが一般的であったために、これらの観察は疑う人が大勢いて認められなかったのです。

今では甲状腺ホルモンが胎盤を通過するということがわかっております。さらに、胎盤を通って発育中の胎児に行く母親の甲状腺ホルモンがたとえほんのわずかの量であっても、それはおそらく重大なことと思われます。特に胎児自身の甲状腺が発達する前の妊娠初期の3ヶ月間はそうです。事実、この12週間は赤ちゃんの脳の発達が始まる貴重な期間なのです。

新しい研究、新しい結果
New England Journal of Medicineに最近載った論文は、母親の甲状腺機能と赤ちゃんの長期的な知能発達の間の関係について本当に必要な情報を与えてくれるものです。この研究はDr. James Haddowが指揮を執り、メイン州、ニューハンプシャー州およびマサチューセッツ州で研究者グループが実施したものです。

1987年から1990年の間に妊娠前に採血し、凍結保存しておいた女性の血液を溶かし、その保存血サンプルのTSHレベルを測定して甲状腺機能低下症を分析しました。その後、研究者は9〜11年前の妊娠中に甲状腺検査が甲状腺機能低下症であったことを示している女性62名を突き止めました。ほとんどのケースで、女性はその時点で甲状腺の病気に気付いておりませんでした。一連の最新の検査法を用いて、その子供達(現在平均年齢8歳)の知的発達を、同じ時期に正常な甲状腺機能を持つ母親から生まれた子供124名と比較しました。

甲状腺機能低下症の母親から生まれた子供は、平均して知的機能を見る様々な検査の成績が悪く、コントロールの子供達に比べ平均IQが7点低いことがわかりました。この論文の著者はこう結論しています。「妊娠初期の甲状腺機能低下症の組織的なスクリーングはやるだけの価値があると思われる」

医療関係団体の反応
この研究が発表された後、多くの専門家組織団体がこの結果をどのように解釈すべきかという見解を表明しました。すべての団体で意見が一致したことは、甲状腺機能低下症であることがわかった妊婦はできるだけ早く甲状腺ホルモン剤で治療する必要があるということです。

アメリカ甲状腺学会とアメリカ内分泌学会はどちらも、Dr. Haddow等の観察を確認するためのさらなる研究を呼びかけております。この研究の著者に異議を唱える団体も、すべての妊婦にスクリーニングを行うべきだとする団体もありませんが、妊娠可能年齢にある女性で、妊娠の予定があり、また甲状腺疾患の病歴または家族歴がある女性は、甲状腺の病気になるリスクが高いためスクリーニングを受けるべきと提唱しております。どちらの専門家団体も、甲状腺疾患の集団スクリーニングは賢いやり方ではないと思っております。まず、この研究は非常に興味をそそられるものですが、まだ確かめられておりません。そして、2番目にすべての女性をスクリーニングするのにかかる費用がわかっておりません。おそらく相当なものになるでしょう。

アメリカ甲状腺協会のDr. Lawrence C. Woodは、リスクの高い女性が妊娠する前に検査を受けることに賛成し、また勧めてもおりますが、皆一様にスクリーニングを行うことは勧めておりません。

ヨード欠乏症?
Dr. Robert UtigerはDr. Haddow等の論文が掲載されたNEJMの社説で、同様の見解を表明しております。彼は妊娠中に起こる甲状腺機能低下症の一部はヨード欠乏症によるものかもしれないという意見も出しております。アメリカは世界のヨード欠乏地域ではないと考えられておりますが、最近行われた栄養調査では、妊娠可能年齢の女性の15%がヨード欠乏であることが示されました。Dr. Utigerはすべての人、特に若い女性が適切なヨード摂取を確実にできるような手段を講じるよう勧告しております。その方法の一つは、ヨードを含んでいるビタミン剤、特に妊婦用ビタミン剤を飲むようにすることです。

あなたができること
妊娠しているか、妊娠を考えているのであれば、医師と今後、甲状腺検査を受ける可能性があるかということについて話し合うべきです。甲状腺疾患の家族歴があるか、若白髪や白斑症(皮膚に出る白い斑)、“若年型”糖尿病のような甲状腺疾患と関連のあることが分かっている他の病気の病歴や家族歴がある場合、すぐに検査を受けるべきです。同様に、疲労や暑さまたは寒さに耐えられないとか、体重の増減、月経不順というような症状があったり、エネルギーや睡眠に問題がある、あるいはそれ以外の甲状腺に関連した症状がある場合、甲状腺疾患の検査を受けるようにしてください。

総合ビタミン剤や妊婦用ビタミン剤を飲んでいる場合、1カプセルあたり150マイクログラムのヨードが含まれているかも確かめようにしなくてはなりません。これが1日のヨード必要量です。ただし、飲み過ぎないようにしてください。多すぎるのは少なすぎるのと同じくらい悪影響を及ぼすことがあるからです。

あなたのお子さんをはじめ、今後生まれてくるすべての子供達が成長し、その知的可能性をフルに発揮してもらいたいと願っております。甲状腺の病気がどのように妊娠に影響するかということがもっとよくわかれば、この目標の達成もしやすくなるでしょう。

Dr. David S. Cooperはジョーンズホプキンス大学医学部教授であり、バルチモアのサイナイ病院内分泌病と代謝疾患科の医長です。

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