昨年、全身放射性ヨードスキャンの準備中に甲状腺癌患者の具合がどうかということを調べることにいたしました<注釈:全身放射性ヨードスキャンについては『甲状腺の悩みに答える本』20章に詳しく書いています。後半の部分です。参考にしてください>。これらの患者は自分自身の甲状腺組織の量がほとんどないので、治療を中止してしまうと甲状腺機能低下症の症状が出るのは避けられません。そして、その症状が重篤な場合もあります。医師は、スキャンが行えるように作用時間の長い甲状腺ホルモン剤(サイロキシンまたはT4)を中止するために、次の3つの方法のいずれかを伝統的に選んできました。 |
- T4を一度に中止し、6週間後にスキャンを行う。
- T4を2〜4週間50%の量に減らし、その後治療を中止して、2〜4週間経ってからスキャンを行う。
- 作用時間の長いサイロキシン(T4)を作用時間の短いT3に4週間変え、その後T3を中止して2週間経ってからスキャンを行う。
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これらの方法のいずれも、甲状腺ホルモンを中止して患者を甲状腺機能低下症にさせるものですが、患者の脳下垂体がTSHの産生を増やすことで、患者の体内にいくらかでも甲状腺組織(癌組織を含む)が存在していれば、放射性ヨードを蓄積しやすくなるため甲状腺スキャンで検知されるのです。この調査の目的は、これら3つの方法で準備を行った患者の症状を比較することと、どの方法が症状が少なく、好ましいものであるかをはっきりさせることでした。
また、現在、全身スキャンの準備に第4の選択肢を使い始めている患者や医師にこれらの症状を示す必要もありました。サイロジェンはヒトのTSHとまったく同じ組成の新製品です。サイロジェンでスキャンの準備を行う患者は、いつも使っている作用時間の長い甲状腺ホルモン剤(T4)治療を続け、スキャンの2〜3日前から毎日サイロジェンTSHの注射を受けます。患者は決して甲状腺機能低下症になることはなく、サイロジェンが原因で出る副作用としては時たま頭痛や吐き気が起こるだけです。
157名の患者より回答が寄せられ、我々の調査に十分な情報が得られました。約80%の人が乳頭状癌で、15%が濾胞性癌、そして5%が髄様癌でした。60%の患者が内分泌病専門医より治療の指示を受けており、その一方で外科医(4%)や内科医(9%)、一般医(2%)、腫瘍専門医(2%)、および2名以上の専門医(10%)から治療の指示を受けていると答えた人もおりました。
87名の患者が全身放射性ヨードスキャンを受け、その検査のための準備中に具合がどうだったかということを回答してくれました<注釈:それぞれの回答結果は最後にまとめています>。 |
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20名の患者が甲状腺ホルモン剤を一度に中止し、スキャンまで6週間待つ方法で準備を受けました。この期間中に全員が甲状腺機能低下症の症状を覚え、90%以上の人が疲労を、そしてその73%は症状がひどいものであったと回答していました。74%にうつ病があり、その内48%は重度のものでした。74%に体重増加が見られ、その内39%はひどいものでした。約半数の患者は便秘や食思不振、筋肉の痙縮を経験し、その内半分はあまりにも具合が悪く、仕事を止めなければなりませんでした。 |
T4の用量を減らし、その後T4を2〜4週間中止する方法(B) |
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20名の患者がサイロキシン(T4)を3〜4週間減らし、その後T4を2-4週間中止する方法でスキャンの準備を受けました。サイロキシンの用量を減らした場合、ほぼすべての患者が著しい疲労を覚えており、その内25%は重度のものであったことに驚きました。中等度のうつ病が75%にあり、62%に筋肉の痙縮、そして半数に食思不振がありました。甲状腺ホルモン剤を中止した際に、60%が仕事を止めなければならず、その内半数の患者ではうつ病がひどくなり、その3分の1でひどい筋肉の痙縮や食思不振、便秘が起こり、75%は疲労がひどくなりました。 |
T4からT3へ4週間切り替え、その後T3を2週間中止する方法(C) |
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43名の患者が作用時間の長いT4から作用時間の短いT3に切り替え、4週間してからT3を中止し、2週間後にスキャンを受けるという方法で準備を行いました。患者がT3を飲んでいる間に症状が出ましたが、一般的に他の方法よりひどくはありませんでした。それでも、80%に疲労があり(その内5%はひどい)、59%に中等度の頭痛が、そして45%に中等度のうつ病(その内12%は重度のもの)がありました。仕事を止めた人は一人もおりませんでした。しかし、T3を中止した時に疲労(88%)や頭痛(37%)、筋肉の痙縮(35%)、およびうつ病(59%)の症状がひどくなりました。40%の人が仕事を止めなければなりませんでした。 |
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